北朝鮮:サイバー攻撃で核ミサイル開発の資金調達

 テレビのニュース番組で仕事をしている友人が石垣島に急遽出張になった。

 台風とミサイル警戒の取材だという。「ミサイル」とは、北朝鮮が31日以降に「人工衛星」として通告した弾道ミサイルの発射計画だ。軍事偵察衛星が搭載され、北朝鮮北西部の平安北道・東倉里(トンチャンリ)の西海(ソへ)衛星発射場から発射されるとみられる。

 北朝鮮はこれまでも「人工衛星の打ち上げ」の名目で、2012年4月、同年12月、16年2月に長距離弾道ミサイルを発射した。いま国際社会は北朝鮮の核ミサイル開発を抑える手段も意欲もなくしている。状況を変えるには、まず世界の分断を止めなければ。

 一方、北朝鮮が日朝首脳に「前向き」な姿勢を見せたことが報じられた。

 朝鮮中央通信は29日、岸田文雄首相が日朝首脳会談の実現に意欲を示したことをめぐり、「日本が新しい決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由はない」と主張する外務次官の談話を報じた。

 その2日前の27日、岸田首相は北朝鮮による拉致被害者全員の即時帰国を求める「国民大集会」に出席し、首脳会談の早期実現に向けて「私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」と話していた。談話はこれに呼応したかのようだ。

 もっとも、朝鮮中央通信によると、《談話は拉致問題について、「すでに全て解決した」と従来の主張を繰り返した。日本側が拉致問題の解決を関係改善の前提条件にしていると批判し、「実現不可能な欲望を解決しようと試みるなら、時間の浪費になるだけだ」と強調。一方で、日本の「過去にとらわれない新たな決断」があれば会談の実現も可能だとして、日本の対応次第だと主張した。》(朝日新聞デジタル

 これだけでは、今後の展開については未知数だが、もし交渉再開となれば、まずは政府が見捨ててきた2人の拉致被害者の安否確認からはじめてもらいたい。

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 北朝鮮関連のニュースでは、23日、財務省が、核ミサイル開発の資金源となるサイバー活動に携わったなどとして、北朝鮮の4団体と1個人に制裁を科したと発表した。

 制裁対象は、北朝鮮教育機関や情報機関傘下のサイバー部隊、IT企業など。IT労働者の訓練をしたり、暗号資産を盗むサイバー攻撃に関与したとされる。今回の制裁は韓国と連携したもので、韓国も3団体と7個人に制裁を科した。ただ、制裁といっても、米国や韓国にある資産が凍結されるだけで、効果のほどは不明だ。

 私はかつて北朝鮮の偽ドル札を取材していた。

 初めて北朝鮮の偽札を取り上げた番組を制作したのが1996年。すでに超精巧な出来だったが、どんどん進化を遂げ、米国当局にも見破るのが困難なレベルに達してきた。2014年の取材でミャンマーを訪れ、当時世界でまだ数枚しか発見されていなかった最新のバージョンの偽ドル札を入手した。それが私にとってはテレビ番組で偽札を扱った最後になったが、北朝鮮の偽札への国際的な警戒は今も続いている。

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 その一方、次第に現金での決済の機会が少なくなってきて、北朝鮮があらたにターゲットにしたのが暗号資産だ世界で盗まれた暗号資産38億ドルのうち、北朝鮮ハッカーによるものが16億5,050万ドルに上るとされている。(暗号資産の分析会社チェイナリシス2月調べ)

NHK「国際報道」4月26日より

 特に狙われているのはDeFi(分散型金融)という新技術で、新しいがゆえにもつ脆弱性北朝鮮はいくつも発見して利用したのだという。

北朝鮮のハッキング能力は超一流だと警戒されている(国際報道より)

 北朝鮮は19年には欧米の専門家を密かに北朝鮮に招き、暗号資産の会議(勉強会)を開いたとされ米国の司法省は、その会議に参加した3人(米国人、英国人、スペイン人)を検挙した。

 また、北朝鮮は自国のIT労働者を、出身を偽り、国外の暗号資産関連企業に勤務させ、外貨と技術取得を目指してきた。財務省は4月24日、北朝鮮のIT労働者をアメリカ企業にリモート勤務させ、暗号資産の現金化に関与したとして北朝鮮の銀行幹部と中国人の男ら3人を制裁リストに加えていた。北朝鮮当局参加には「ラザルス」などのハッカー集団がいて、その技術は非常に高いという。

 北朝鮮は盗んだ暗号資産を資金洗浄し、政権維持のほか核ミサイル開発に充てているとみられていて、米国などは北朝鮮の資金調達の主要な手段として警戒を強めている。

 北朝鮮指導者の、自国民が飢えても核ミサイル開発を進める、そのためにはどんな手段を使うことも躊躇しないという体質は全く変わっていない。学生用の教科書に使う上質な紙もまともに作れないのに精巧な偽ドルを製造する、国民の多くがパソコンを持っていないのに超一流のハッカー集団を養成する。文字通りの「ならずもの」国家である。