「理解に苦しむ」北朝鮮のミサイル連射

takase222014-07-10

北朝鮮が30人の「生存者リスト」を日本側に提示していた!
こんな仰天記事を日経が載せた。

《生存者リストに複数の拉致被害者 北朝鮮、約30人提示》
 北朝鮮が日本側に提示した北朝鮮国内に生存しているとみられる日本人の生存者リストに、政府が認定している複数の拉致被害者が含まれていることが9日、明らかになった。北朝鮮側は同リストを今年初めに作成したと説明。今後の拉致被害者らの再調査は同リスト以外の人物も対象になる見通しだ。政府はリストに掲載されている約30人の安否の詳しい説明などを北朝鮮側に強く求めていく方針だ。

 生存者リストは北京で1日に開いた日本と北朝鮮の外務省局長級協議にあわせ、北朝鮮側が提示したもの。関係者によると、約30人にのぼる日本人の名前のほか、それぞれの生年月日や職業、家族構成などが記載。政府は9日までに、同リストと政府が把握する拉致被害者や拉致の疑いが濃厚な行方不明者の情報との照合作業を終え、約3分の2が日本側の記録と一致した。
 リストには政府が認定している17人の拉致被害者(このうち5人が帰国済み)のうち、複数の名前があるほか、拉致の疑いがある行方不明者や、それ以外の日本人名もあった。
 北朝鮮側は同リストは今年初めの時点で作成したと説明しており、北朝鮮側は今回の一連の協議が本格化する前から、北朝鮮国内にいる日本人の所在などを把握していたとみられる。調査結果の第1弾は8月下旬から9月初旬にかけて北朝鮮側が日本政府に報告する。》

日経は先週、《北朝鮮、生存者リスト提示 拉致被害者ら「2桁」》という記事を出していて、その続報になる。
しかし、こんなリストをこの段階で北朝鮮が提示するなど、きわめて考えにくい。
田中均『外交の力』には、田中氏が、アジア大洋州局長としてほぼ1年、20数回におよぶ水面下交渉の結果、2002年9月の首脳会談につなげた経緯が書かれているが、日本側に拉致被害者の安否情報がもたらされたのは小泉総理が平壌に着いてからだったのである。

この記事に対して、すぐに外務省、拉致問題対策本部警察庁が、連名で、事実に反すると抗議している。
誤報とすれば、記事にかなりの具体性があるところから、「情報が歪められた」というのではなく、はじめから捏造された話なのだろう。
参議院議員有田芳生さんも、ツイッタ−で「ありえない」と完全否定。
北朝鮮の外交手法(戦略戦術)からいってもこの段階でのリスト提出などありえません。問題は情報を撹乱する「政府関係者」の意図です。2人の可能性があります。》と、意図をもった情報操作の可能性を指摘する。

それにしても、北朝鮮をめぐる情報は錯綜し、混乱している。
立て続けのミサイル発射もそうだ。
北朝鮮は9日に弾道ミサイルを発射し、政府は相次ぐ挑発が米国、韓国との連携に支障を来しかねないとして警戒を強めている。(略)
 北朝鮮は1日の日朝協議を挟み、この2週間で計4回、弾道ミサイルなどを撃った。9日の2発は短距離弾道ミサイルスカッド」の一種とみられ、2009年に採択された国連安全保障理事会の決議違反にあたる。「北朝鮮との対話の窓口が開きつつある中でのこのような行動で、全く理解に苦しむ」。米国訪問中の小野寺五典防衛相は記者団にこう語った。》(日経)

北朝鮮は、自分に利益にならないはずの行動をどうしてとるのか。小野寺防衛相の「全く理解に苦しむ」には、多くの人が共感するだろうが、こうして北朝鮮は、こちらの裏を読んでいるのでは・・・と、どんどん得体のしれない怪物のようにイメージされていく。

ミサイル発射が、日本と米韓との離間をはかるため、韓国との関係改善を狙った、米中戦略・経済対話に合わせて牽制しようとしたなど、いろんな解説があるが、どれもよくわからない。
写真は、「戦術ロケット発射訓練を視察する金正恩第1書記」で、中央通信は、ミサイルの発射は金正恩が直接に指令するのだと伝えている。

これは政治戦術的な狙いだけでは説明できない。ミサイルは花火ではない。景気づけにあと2,3発打ってみようかといったシロモノではない。
燃料不足で空軍のパイロットがまともに戦闘機の飛行訓練もできない北朝鮮が、なぜ、1発何億円もする貴重なミサイルを次から次へと発射しているのか。
北朝鮮にとって、核兵器は、アメリカとの取引の手段などではなく、現実的に使用する可能性のある兵器であり、発射テストによってさらに性能を改善しているのだ。
現に何度かの失敗の末、一昨年暮れ、北朝鮮はついに人工衛星を軌道に乗せることに成功し、自力打上げができる10番目の国になった。
(兵器改良の副産物として、ミサイルは北朝鮮の「輸出品」として外貨を稼ぐことにもなっているが。)
核も実験を3回繰り返すことで、より性能の高い原爆に仕上げてきたと推測されている。
北朝鮮は本気で核・ミサイル開発に取り組んでいる。そして、その開発のスピードを上げてきていると考えるべきではないか。

ミサイル発射のたびに、日本側は中国の大使館を通して抗議をする。
実際は、北京の日本大使館から北朝鮮大使館にファックスを1本うつだけ。
官房長官は会見で、「やめてくれと言っているのだが、困ったものだ」という感じのコメントをしている。
今進行中の日朝のやり取りは、北朝鮮よりも日本側が「前のめり」なのではないかとの印象を受ける。
これについては、また書こう。