なぜ?「左翼のダブルスタンダード」④

 猛暑がつづく。

 節季は小暑。七夕も過ぎて今日までが初候「温風至(あつかぜいたる)」、明日から16日ごろまでが次候「蓮始開(はすはじめてひらく)」、その後末候「鷹乃学習(たかすなわちわざをなす)」となる。

ハスの花咲く修景池(昨年)

 府中市「郷土の森公園」には2千年以上前の古代蓮が咲く修景池があって、去年訪れて蓮の花の魅力にひたった。今年も行ってみよう。
・・・・・・ 

 国連安全保障理事会は9日、ロシアによるウクライナ首都キーウ(キエフ)の小児病院などへのミサイル攻撃を協議する緊急会合を開いた。国連のグテレス事務総長は8日、報道官を通じて「民間人や民間施設への攻撃は国際人道法違反で、容認できない」と強く非難する声明を発表した。こうした批判にもプーチンはカエルの面になんとかで、全く動じない。

 ロシアは5月には戦術核を使った軍事先週を行い、プーチンはこう言い放った。

NATO諸国、特にヨーロッパの小国の代表は、自分たちが何をもてあそんでいるのか認識しなければならない。こうした国々は国土が狭く、人口密度が高い。」(5月)

NHKより

 ほとんど暴力団の恫喝、恐いな。
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 パリ五輪に出場するウクライナの選手たちは、戦時下で十分な練習ができないながら、士気は高い。多くのアスリートが戦闘や空襲で命を落としており、日本風にいえば「弔い合戦」のモードになっているようだ。

 ウクライナの双子の姉妹、ウラディスラワとマリナ・アレクシーワ選手東京五輪のアーティスティック・スイミングで銅メダルを獲得。22年はチームとデュエット合わせて、金メダルを世界選手権で2つ、欧州選手権で6つ獲得するなど実績を挙げている。

 彼女らの五輪を前にしたインタビューでは―

「オリンピックの主な目的は、ウクライナの自由のために侵略国と戦っていることを、皆さんに思い出してもらうことです」と語っている。

NHKより

 日本では「戦う」こと自体、絶対ダメと考える人が多いから、このコメントにギョッとした人もいるだろう。オリンピックは「平和の祭典」なのに・・と。でも、ウクライナを取材した私は、これが侵略者に必死で抵抗しているウクライナ人のリアルな感情だと理解できる。

 かつてはウクライナ人が「勝利をのぞむ」と答えたコメントを「平和をのぞむ」とテロップで替えてしまったNHKだが、この姉妹の言葉は放送しても大丈夫だったらしい。

takase.hatenablog.jp

 
 敵(アメリカ、岸田政権など)のやっていることに、即座に反対!すべてNO!と条件反射のように対応すると、敵のダブルスタンダードの裏返しが自分の身に降りかかってくる。これが「左翼のダブルスタンダード」のからくりなのだが、「左翼のダブルスタンダード」に陥っている論者(以降DS論者と呼ぶ)は誤った事実関係から議論をはじめている。

 そこで、読者には歯がゆいかもしれないが、その事実関係からじっくり点検していきたい。

 なお以下では、加藤直樹ウクライナ侵略を考える』(あけび書房)の記述を参考にし引用させてもらった。(加藤直樹氏はかつて「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク」(RENK)の活動家で、関東大震災後の朝鮮人虐殺に関する調査で知られたライター。この本で氏は「侵攻を相対化する議論を批判」しており、その論旨には全面的に賛成する)

 2022年2月のロシアによる全面侵攻はあまりにもあからさまな侵略であり、ブチャはじめロシア軍占領地で繰り広げられた蛮行は弁護しようがない。そこでDS論者はウクライナ戦争の「歴史的経緯」を見なければならないとして2014年の出来事を取り上げる。

 2014年はウクライナ現代史の画期となる年だった。今年の2月を私たち日本人は戦争が始まって2年と数えるが、ウクライナの人々は「いや、戦争は2014年から10年続いている」と言う。

 2014年2月、ユーロ・マイダン広場に集まった数十万の群衆と治安部隊が衝突。100名を超える犠牲者を出しながら人々は抗議をやめず、当時のヤヌコヴィチ大統領はロシアに亡命。これがユーロ・マイダン革命である。

 直後、クリミアがロシアに「併合」される。歴史的な経緯もありロシアへの帰属意識を持つ住民が多いこの地で、3月にロシア軍の制圧下で住民投票なるものが行われ、その結果を受けてロシアへの併合が発表された。

 さらに東部ドンバス地方で、ロシアから越境してきた民兵やロシア軍の支援を受けて、5月にはドネツク民共和国」「ルハンスク人民共和国」が独立を宣言したここからウクライナ政府軍との戦闘が行われている。この時点からロシアとは事実上、戦争状態が続いてきたのである。

 この一連の出来事はロシアによるウクライナ全面侵攻に直接かかわっている。

 前にDS論者として紹介した西谷修は、マイダン革命とウクライナ戦争の関わりをこう述べる。

「『マイダン革命』にはユダヤウクライナ人のヴィクトリア・ヌーランド米国務次官補(当時。現国務次官)と米中央情報局(CIA)が絡んでいます。特にヌーランド氏はバイデン副大統領(当時)の下、米大使館でマイダン革命の陣頭指揮を執っていました。今のウクライナ戦争は2014年のそのあたりから見ないと話になりません。」(前掲書P144)

 前号に取り上げた水島朝穂もまた、「マイダン革命」は、米国が行なった「レジーム・チェンジ」だという。

 要はアメリカが「マイダン革命」を引き起こしたというのである。決定的に重要な論点であり、これがロシア擁護論の中核となる「事実」なので、しっかり検討してみよう。

 ロシア擁護論でよく登場するのが西谷氏が挙げるヌーランド氏である。彼女はキーウの独立広場で抗議運動が行われていた2013年12月に講演で「ウクライナが1991年に独立して以来、アメリカは50億ドル以上を援助してきた」と述べている。援助内容は民主制度の構築や市民参加の促進などだという。https://2009-2017.state.gov/p/eur/rls/rm/2013/dec/218804.htm

 これはアメリカがマイダン革命を引き起こしたという証拠になるのか。

 50億ドルは巨額に見えるが、1991年からの総額であるから1年あたり約2億ドル。2011年のアメリカのODA対象国上位10位では1位のアフガニスタンが年間23億ドル、10位の南アフリカが6億ドル。年2億ドルは、アメリカが「革命」を起そうと力を入れる国に対する金額として十分だろうか。

 アメリカは官民とも世界各国の様々な団体、組織に「民主主義」支援として資金援助を行っている。例えば「全米民主主義基金(NED)」は「ウクライナNGO、市民団体、腐敗防止の運動、調査報道をする自由なメディアなど」に支援してきたと公表している。

 こうした活動を「介入」ともし呼ぶとしても、それで「アメリカがマイダン革命を引き起こした」ということにはならないのは当然だ。

 大国がそれぞれの戦略、国益に基づいて他国を支援することは常に行われている。戦後の日本で自民党アメリカから、社会党共産党ソ連や中国から資金援助を受けていたが、だからといって60年安保闘争を「ソ連がやらせた」とまでは言えない。

ヌーランド国務次官(wikiより)

 ヴィクトリア・ヌーランドWikipediaでみると、以下の記述が出てくる。これがまたヌーランド「指揮官」説でよく取り上げられる彼女の行動である。

《2014年2月4日、ヌーランドとジェフリー・パイアット駐ウクライナ米国大使の間で2014年1月28日に交わされた電話の録音がYouTubeで公開された。ヌーランドとパイアットは、次のウクライナ政府に誰が入るべきか、あるいは入るべきでないと考えるか、また、さまざまなウクライナの政治家について意見を交わした。ヌーランドはパイアットに、アルセニー・ヤツェニュクウクライナの次期首相になる最有力候補だろうと語った。

 「次のウクライナ政府」の人事をしかも次期首相をあれこれ語っているとは、アメリカの露骨な政治介入ではないか?

 実はそう解釈するのはまったくの誤解だった。
(つづく)

なぜ?「左翼のダブルスタンダード」③

 東京都知事選挙蓮舫の得票が石丸伸二氏に及ばないという意外な結果だった。石丸支持が若者層に広がっているとの記事は見聞きしていたが、票差も予想外で残念な結果だった。

 一人スタンディングなど、これまでになかった運動が広がったことが、今後どんなものをもたらすか、期待しよう。

 新宿ベルク店長、井野朋也氏のXに共感する。

「本気で勝てるつもりでいたの?」と笑う奴もいるよ。笑わせておけ。そういう人間にだけはならないようにしよう」

《ファイト!闘う君の唄を闘わない奴等が笑うだろう》という中島みゆき「ファイト」の歌詞を思い起こす。

井野氏のXより

 驚いたのはもう一つ、各局の選挙特番での石丸氏のスタジオとの受け答え。質問と答えが全くかみ合わない。ほんとに質問が理解できていないのか、それともコミュニケーション自体を拒否しているのか。ざらざらした不快感が残った。

www.youtube.com

 石丸氏のインタビューについて、スタジオの能條桃子氏「最初からキレるというか抑圧する態度というのは、怖さを感じてしまいましたね」と言ったが見ていた人のほとんどが同じ感想だったろう。石丸氏、これからどうしようというのか。

 投票日直前、石丸氏は立て続けに裁判で負けた

安芸高田市・石丸伸二前市長の「どう喝」訴訟 二審も市議への名誉棄損認める 安芸高田市に損害賠償支払い命じた一審判決を支持 広島高裁》https://www3.nhk.or.jp/lnews/hiroshima/20240703/4000026298.html

《石丸伸二氏の敗訴確定 選挙ポスター代金の未払い訴訟 最高裁、上告受理せず》https://www.sankei.com/article/20240708-DEY54JQNTBKXHETWVCYJHZWTG4/

 こちらは5日付の決定なのだが、報じられたのは選挙後。なぜだろう?

 また、安芸高田市長に新人藤本氏 広島、石丸氏の手法批判」のニュース。石丸氏の市長辞任にともなう7日投票の市長選で、反石丸の候補が勝ったという。

 今ごろボロが出たが、遅かった。
・・・・・・・

 ロシアがまた病院をミサイル攻撃した。

 ウクライナ各地で8日午前、計40発以上のロシア軍によるミサイル攻撃があった。首都キーウなどで少なくとも31人が死亡し、110人以上が負傷した。キーウでは、中心部にあるオフマディト小児病院(720床)も被害を受けた。同病院はロシアの全面侵攻開始前の時点で年間1万件の手術を行い、2万人の子どもの治療を担っていた

市民が小児病院のがれきの撤去を手伝っている

 ゼレンスキー大統領は「ロシアは完全な責任を負わなければならない。世界が沈黙しないことが重要だ」とSNSで訴えた。ウメロウ国防相は「空と民間人を守るため、支援国がさらに兵器を供与する素早い決断が必要だ」と呼びかけた

 医療施設や教育施設などの純然たる民間施設、しかも人道という観点からはもっとも守られなくてはならない場所を意図的に狙って攻撃するのはロシアもイスラエルも同じだ。

 ウィンブルドン選手権に出場しているウクライナの女子テニス選手、エリナ・スビトリナは8日、小児病院が空襲されたことを知り、主催者の許可を得て、白のトップスに黒いリボンを付けてプレー。準々決勝進出を決めたが、試合後のコートインタビューで「ウクライナの人々にとってつらい日」と泣き崩れた。

 「きょうの私の勝利は、ウクライナの人々に幸せなひと時をもたらした小さな光」と話した。

黒いリボンをつけてプレーしたスビトリナ選手

 ウクライナでは、スポーツ選手はそれぞれの種目で自分の勝利が兵士や市民を励ますことを願って闘っている。テニスコートはスビトリナ選手にとっての「前線」なのだ
・・・・・・・・

 「左翼のダブルスタンダードに陥っている人は、上のスビトリナ選手をどう思うのだろうか。ゼレンスキーに騙されて戦争に動員されているかわいそうな、あるいはバカな一国民と見るのだろうか。

 本ブログの読者は、私がウクライナ取材を経て、この戦争はウクライナ国民あげてのレジスタンスだと結論づけたことをご存知だろう。

takase.hatenablog.jp


 ウクライナでは、まだ汚職体質の抜けない頼りない政府などあてにせずに、国民一人ひとりが自発的に前線の兵士とともに戦っているウクライナ人が「国を守る」というとき、その「国」とはゼレンスキー政権ではない。ここがウクライナ戦争を理解する上で、大事なポイントだ。

 さて、「左翼のダブルスタンダード」はなぜ生じるのか。

 その一つの要因は、左翼の機械的な反米反応だと思う。5日付の本ブログに紹介した西谷修の主張を再度見てみよう。

ウクライナの現政権は(略)、西側諸国に支えられていて、イスラエルに似ており・・」

アメリカがウクライナイスラエルへの支援をやめないと何も変わりません」

 アメリカと西側が支援するから」という理由で、イスラエルウクライナが同列にされ「悪玉」にされている。アメリカがやることはみな反対、条件反射的にNO!とやると、アメリカのダブルスタンダードくるりとひっくり返って、アメリカが支持するイスラエルは悪、アメリカが支持するウクライナも悪、とまるで影絵のような「裏ダブルスタンダードができ上ってしまう。

 これは楽である。自分の頭で考えなくても、機械的に反米を当てはめれば自分の主張が決まるのだから。

 左翼のダブルスタンダードのバリエーションに、「代理戦争」論がある。

 「Ceasefire Now! 今こそ停戦を」「No War in Our Region! 私たちの地域の平和を」の発起人の一人で、憲法9条問題の権威、水島朝穂早稲田大学名誉教授)は『週刊金曜日』への寄稿「武器供与ではなく、即時停戦求める声を!」でこう主張している。

 「戦争には周期がある?アフガニスタンイラクリビア、シリア、ウクライナ・・・。兵器というのは、戦争や武力紛争がなく、『使用期限』が過ぎて使えなくなれば巨大な鉄くずと化す」。

 水島氏はアメリカの兵器更新衝動が現代史の最大の動因と見ているようだ。

 アメリカは「最新兵器を大量に使用・消費できる格好の機会」を湾岸戦争、ついで911同時多発テロとアフガン戦争に求めたが、戦争が膠着し「『対テロ戦争』は、軍需の大規模拡大のためにはネタ切れとなった。そこで用意された論理が『体制転換』(レジーム・チェンジ)である。

 兵器更新のための戦略が「対テロ戦争」から「レジーム・チェンジ」に替わったという。91年の湾岸戦争、2001年のアフガン戦争と10年周期で戦争が起きて―

 「『9.11』から10年が経過した2011年、チュニジアから始まった米国の『レジーム・チェンジ』戦略は、北アフリカから中東各地に広がられていく」。「そして、米国の『レジーム・チェンジ』戦略のターゲットは、ロシア正面のウクライナにまで及ぶ。14年2月の『マイダン革命』がそれである」

 正気ですか?

 あのアラブの春もみな、そしてウクライナの「マイダン革命」までもがアメリカの仕業による「レジームチェンジ」だったというのだ。

 2013年11月下旬から翌14年2月24日まで連日、厳寒のなか数十万の民衆がキーウの独立広場に集まり、治安部隊の弾圧で百名近い犠牲者を出しながら闘った巨大な民衆運動を、いかにして「アメリカが起こした」と説明できるのか。マイダン革命を冒涜する妄論だが、この先が大事なので進もう。

プーチンがそれを真似して行ったウクライナの『レジーム・チェンジ』は、驕りと誤算も重なって失敗しつつある。

 米英による周到なるウクライナ軍強化の事前準備を過小評価していた節もある。まさに『飛んで火にいる冬のプーチン』状態になっている。ロシアの国際法違反の侵略行為がきっかけだが、米国とNATOによる武器供与とハイテク支援による実質的な代理戦争となっていることは間違いないだろう」

 水島氏によれば、ウクライナ侵略はアメリカの「マイダン革命」=レジーム・チェンジへの対抗として「それを真似して行った」レジーム・チェンジなのである。だとすると、「どっちもどっち」になる。だから「ロシアの国際法違反の侵略行為がきっかけだが」とさらっと一文あるだけで、侵略への批判はない。侵略はあくまで「きっかけ」なのである。そして全体としてロシアは「驕りと誤算」で失敗し、「飛んで火にいる」、つまり、してやられた被害者として描かれることになる。

 この代理戦争論については次回詳しく批判するが、この論が跋扈する背景に、日本の知識人の思想的弱点が見えてくる。
(つづく)

 実は水島氏は大学時代からの友人である。

 日本がベトナムで使用される米軍の戦車はじめ兵器・装備の修理やメンテナンスの基地となっていたころ、私たちはともに修理を行う相模原補給廠へ続く道路や、搬出港の横浜ノースピアで「戦車を通すな!」の掛け声のもと、デモや座り込みを行った。

 当時、北ベトナムソ連、中国が支援し、ベトナム戦争は「代理戦争」とかまびすしく言われた。どの戦争、どこの紛争でも他国からの支援が行われる。しかしあくまで当事者はベトナムアメリカだった。

 大国の侵略とそれに対する小国の民衆の抵抗を「代理戦争」とする見方に惑わされなかった彼が、いま代理戦争論を説くとは驚きである。

なぜ?「左翼のダブルスタンダード」②

 映画「ガザからの報告」上映とトークのイベントに参加してきた。

 パレスチナを30年以上取材してきたジャーナリストの土井敏邦さんが取材した2本の映画上映のあと錦田愛子氏(慶応大教授)、ハディ・ハーニ氏(明治大講師)、手島正之氏パレスチナ子どものキャンペーン)を交えてトークと質疑応答があった。猛暑のなか、午前10時から夕方5時までという長時間にもかかわらず、東京・日比谷図書文化館の定員200人のホールが満席になり、関心の高さを見せていた。

朝からうだるような暑さ(日比谷図書文化館)

ホールは満席だった

 土井さんが90年代前半から撮りためたガザの貴重な映像から、つい先月に撮影された現在の惨状までが上映され、そこに土井さんたちの解説が加わってガザに関する知見が深められた。

 土井さんのマスとしての「パレスチナ人」なんていない、いるのは我々と同じ個々の人間だという視点からの取材には大いに共感を覚えた。また、ガザ現地で奮闘するボランティアが我々に向けて発した「こんな地獄のような状況がいつまでもつづくのは、世界がこれをホラー映画の中の出来事のように見ているからでしょうね」という言葉は、我々への痛烈な批判であり、胸を突かれた。会場からも私たちは何ができるのか、という問いが発せられた。

 とても有意義なイベントだったが、土井さんとは意見を異にする点が一つあった。

 土井さんは、ハマスがあんな攻撃をやったからこの惨劇が起きた、「なんてことしてくれたんだ」とハマスを恨むガザ住民が多い、1日にユダヤ人を1200人も殺害したら、報復で破滅的なことになるのは目に見えていたはずだとハマスを批判した。

 私は、民間人殺害などは戦争犯罪として非難されるべきだが、越境攻撃自体はイスラエルによる封鎖と暴力支配に対する正当な抵抗権の行使で責められるべきではないと思っている。帰り際、土井さんには私の意見を伝えた。こういうイベントは生で議論ができることも魅力である。
・・・・・・

 ダブルスタンダード二重基準は「対象によって異なった価値判断の基準を使い分けること」(Goo辞書)。

 アメリカが国際法のルールや人権の名のもとに、ロシアの侵略に対するウクライナの抵抗を支援する一方で、ガザでは第二次大戦後類をみないジェノサイドを続けるイスラエルを全面的に支えることがひどい二重基準であることは明白だ。だからこそ、アメリカでは若いユダヤ人たちまでが立ち上がってバイデン政権にNOを突きつけているのである。

 一方、ガザの惨状に涙を流さんばかりに同情し、拳を振り上げてイスラエルを糾弾して軍の撤収を求めるのに、ことウクライナ戦争になると、ロシアに侵略をやめて軍を引けと要求するのではなく、逆にゼレンスキー大統領にはやく戦闘をやめよと譲歩を勧めたりする人たちがいる。

 その一人が加藤登紀子だ。

takase.hatenablog.jp

 明らかにダブルスタンダードなのだが、こういう人が「平和」「人権」を唱える左翼、リベラルなのだからたちが悪い。

 この「左翼のダブルスタンダードにはいろいろなバリエーションがある。

 アメリカのNATO東進策で圧力をかけられロシアはウクライナ侵攻を余儀なくされた、つまりアメリカがロシアを戦争に追い込んだなどという、ロシアを被害者扱いする、謀略論と見まがう言説までみられる。

 これは私にデジャヴを誘う。「先の大戦」は、ABCD包囲網で追い詰められた日本がやむをえず自存、自衛のために強いられた戦争である(日本はいじめられた被害者だ)という理屈があったな。(笑)

 「左翼のダブルスタンダード」のバリエーションについてはおいおい具体的に批判するとして、まず今回は、私がまっとうだと思う見方を提示しておこう。

 「左翼のダブルスタンダード」をまっこうから批判するのは、ベトナム戦争と米軍が使用した枯葉剤の影響について取材を続けている報道写真家の中村梧郎さんだ

 実は中村さん、5日の本ブログで紹介した「Ceasefire Now! 今こそ停戦を」「No War in Our Region! 私たちの地域の平和を」の意見広告にカンパをしたという。だがその広告を読むと「代理戦争論」になっており、ロシア軍の占領地からの撤退は一言も言わず、ウクライナに譲歩せよと求めていることに疑問を呈し、以下のように論じている。

 《長期化するウクライナ侵攻について、「ゼレンスキーが武器を要求するから犠牲者が増えるのだ。ウクライナは戦争をやめるべき」と主張する見解も拡がった。それは、とりもなおさずロシアを擁護し、彼らの侵略を免罪する役割を果たした。これは、侵略戦争とそれに対する抵抗戦争を同列に扱って、「どちらにも反対」という考え方に立っている。だが侵略を行なう側は、自らの軍事的優位を背景に「俺の言うことを聞け」とばかりに軍隊を侵入させる。そして領土の割譲も迫る。防衛する側は必死で国と国民を守るしかない。ここで糾弾されるべきは侵略戦争であり、それへの抵抗はあくまで正義の防衛戦争であるということだ。侵略とそれに対する抵抗を同列のものと見てはならない。対等な戦争ではないのだ。

 ウクライナ政府は、家族と国土を守り抜くための兵器が欲しいのだ、と一貫して求めてきた。敵国を侵略して占領するための兵器はいらないとも言っている。防衛・抵抗戦争を続ける側のまともな要求である。》(『記者狙撃~ベトナム戦争ウクライナ』、P223-224)

 ロシアとウクライナが対等でないのは、国力特に通常戦力が桁違いなのに加え、ウクライナ核兵器を放棄してロシアに移管したため、ロシアだけが核戦力を(しかも世界一)もつことではっきりしている。さらに言わずもがなだが、ロシアは国連の常任理事国として国際的な政治、外交力がウクライナとは段違いである。この戦争は、一方的な侵略戦争である。

 《抵抗するウクライナは首都キーウがミサイルやロケットで攻撃され続けても、モスクワをミサイルで本格的に攻撃しようとはしていない。(略)これは両者の対等な戦争ではない。圧倒的な軍事力を持つ侵略軍に対して、侵略された側の人々が国を守ろうと必死に抵抗している(レジスタンス)の戦いなのである。》(同P225)

 《「戦争反対」「平和を守れ」という言葉のスローガンは、しばしば戦争をしているどちらも怪しからんという理解に陥りがちだ。だがこうしたケンカ両成敗論は、必死で抵抗戦争を続ける側にあきらめを強い、侵略した側が“やり得”となることにつながってしまうアメリカやNATOが背後でうごめいているにせよ、侵略戦争」には断固反対、「抵抗戦争」は断固支持、の原則に立ち帰って考えなければならないのではないか。攻撃され犠牲となり続けているウクライナの民衆がかわいそうだ、だからすぐに停戦せよ、という善意の運動も起きている。だが同じ要求を掲げているのがロシアなのである。(略)「いますぐ戦争をやめよ」は、和平を求めているようで実はロシアの手の内なのである。》(同P225-226

『記者狙撃~ベトナム戦争ウクライナ』花伝社2023年

 中村梧郎さんは、ベトナム戦争で解放区に潜入して「戦場の村」を長期連載し、ベトナムへの偏見とたたかった朝日新聞本多勝一記者「強盗の側(中村注・侵略)が一方的に悪い、強盗に入られた(侵略された)側の抵抗は100パーセント正しい」という言葉も挙げているが、ベトナム戦争当時、この戦争を終わらせために、侵略者アメリカを撤退させることをめざすアメリカはベトナムから手を引け!」はほぼすべてのリベラルに共有されたスローガンだった。あれから半世紀、侵略とそれへの抵抗の区別もつかない「リベラル」が登場している。

 中村さんが指摘するように、ウクライナ戦争が長引くにつれ、この「左翼のダブルスタンダード」は見過ごせない広がりを見せている。

 先日、伊勢崎賢治(例の「声明」の発起人)はXでこう発信した。

ぬちどぅたから(命こそ宝)
侵略者に抵抗するためでも
国家の正義に
市民を動員させてはなりません
たとえ一部の市民がそれを望んでも、です

伊勢崎氏のXより


 「ぬちどぅたから」をこのような主張の決め台詞に使うことは、この言葉への冒涜だと私は思う。

 なぜこんな妄論がまかり通るのか。そこには日本の左翼がもつ構造的な弱点が与っていた。

(つづく)

13坪の本屋の挑戦

 隆祥館書店の店主、二村知子さんから中村哲という希望』が今年前半期(1月~6月)のノンフィクション大賞(10冊)に入賞したと連絡を受けたことは先日書いた。

 ここはユニークな「13坪の本屋」として知られる。二村知子さんが本屋哲学を語るポリタスTVの番組が7日まで観られるので紹介したい。

二村知子さんが気骨ある本屋の経営を語る(ポリタスTV)


 『中村哲という希望』も18分すぎに登場する。

www.youtube.com

 

ポリタスTV 18分過ぎから

 隆祥館は本の流通の構造的問題で、日販、東販などの取次とも果敢に闘ってきた

 たとえば、かつては取次に本の返品をすると、大手ナショナルチェーンの小売書店には月末にすぐに電子決済されるのに、中小書店は20日から月末に返品した場合、決済は翌月になるという差別があった。隆祥館のような小規模店でもその額は140万円くらいになっていた。当時は日本全国に2万3千軒くらい本屋があって、取次が止めるお金の額は100億円という巨額になっていた。

 先代の店主である、知子さんの父親がこれはおかしいと闘いを挑んだ。圧倒的な力をもつ取次相手に勝てるわけないと多くの書店が諦める中、「優先的地位の濫用」だと闘い続け、公正取引委員会にも持ち込んで、ついに6年後、この慣行を改めさせた

 「やっぱりおかしいことはおかしいと、声を出して言うべきだと父に学んだ」という知子さん自身、理不尽なことにはきちんと抗議して書店を運営している。本屋はマスコミが伝えない情報を送る「メディア」であり、人々が集う「コモン」であるとの信念からだ。

 注文しないのに取次が小売書店に卸してくる「見計(みはか)らい本」というのがある。書店の売り上げ実績、店の規模などに応じて取次が勝手に送ってくるのだが、あるとき百田尚樹『日本国紀』を出版する飛鳥新社の「花田コレクション」が15冊も送られてきた。

 知子さんは、これを日本全国でやられたら本屋の風景が変わってしまうと危惧し、取次に断りの連絡をした。するとその「花田コレクション」の本は「トータルサポート」ですよと言われたという。

 「トータルサポート」とは、通常、本を売ると本屋の利益は22%なのだが、特別にそれにインセンティブとして金額を上乗せすることをいう。これでは普通の本屋はありがたく本を置くだろう。また、育鵬社の『新しい日本の教科書』もまた「見計らい本」で送られてきたという。知子さんは「おかしい」と抗議しているというが、最近の本屋に右翼本が多く並べてある理由の一つがわかった。

 本をクレジットカードで買うと、手数料がかかって本屋の経営上は望ましくないなど、町の本屋を応援するやり方も学べておもしろい番組だった。

 なお、二村知子さんは若い頃アーテクスティックスイミングの日本代表として活躍したという本人の経歴もユニークな方で、「note」でも発信している。

note.com

 いま全国で本屋がどんどん廃業して本屋が一軒もない町も出てきている。隆祥館書店の運営方針には学ぶべき点がたくさんあると思う。魅力ある本屋を応援して増やしたい。

なぜ?「左翼のダブルスタンダード」

 きょう驚いたことがあった。

 有田芳生さん(ジャーナリスト、前参議院議員)と夜会う約束があって、夕方5時すぎ中央線に乗ろうと西国分寺駅に向かった。すると駅前で女性が一人スタンディングしていた。プラカードは「変える 東京のために」。夕方でも30度をゆうに超える暑さ。ごくろうさまです。

西国分寺駅前、18時ごろ(筆者撮影)

 電車で中野駅に着き、待ち合わせの飲み屋の近くに行くと、また一人スタンディング。こちらは神宮外苑の緑を守ろうという主張。有田さんに教えると、飲み屋から出てきて激励。「こんなのこれまでの選挙で見たことないですよ」と有田さんは言う。

有田さん、励ましている

 

 飲み終えて夜9時過ぎ有田さんと中野駅前に差し掛かると女性が2人でスタンディングしている。聞くと、2人は知らない同士で、たまたまここで会ったのだという。プラカードもたしかに違う。

撮影筆者。夜9時すぎの中野駅

 うち一人の女性は、これまで政治には全く関心がなく、こんなことを自分がするのは初めてという。有田芳生さんのことも全く知らなかった。彼女たちと話していたら、通りかかった一人の女性が、「私もやりたい」と寄ってきた。そこで急遽3人でスタンディング。

女性が飛び入りで「私もやりたい」と(右の人)

で、

プラカード貸してもらって3人でスタンディング。

ひとり街宣マップ。すごい数の人がやってるんだな

 私も長く選挙を見てきたし、自分でも選挙活動をしてきたが、今回の都議選、あきらかに雰囲気がこれまでと違う。これがどういう結果になるのだろうか。

・・・・・

 

 ロシアのウクライナ侵略を非難し、ウクライナからのロシア軍の撤退、ロシア軍の攻撃の停止を求める一方で、イスラエルのガザ侵攻と虐殺についてはイスラエルを支援する。これがアメリカのダブルスタンダード二重基準だ。

 イスラエルの一方的な攻撃は「虐殺」と表現して間違いではないと思う。人権、人道、国際法どれをとってもイスラエルは無視している。即時停戦とガザからの軍の撤退、そして本来は損害補償をイスラエルに求めるべきである。

 日本政府はイスラエルの立場を理解したうえでガザ地区の人道状況を懸念するというヌエ的な対応だが、基本はイスラエル支持であり、その意味でやはり米国追随のダブルスタンダードに陥っていると言わざるを得ない。

 その一方で、左翼・リベラル派とされる人々のダブルスタンダードも見逃せないところにきている。

 『即時停戦:砲弾が私たちを焼き尽くす前』という本、今年はじめ社会評論社から出ている。


 昨年4月、G7広島サミットを前に、ウクライナの停戦を訴えアジアで戦争の火種を広げないことを求める声明「Ceasefire Now! 今こそ停戦を」「No War in Our Region! 私たちの地域の平和を」(発起人32名)を出した、和田春樹・東大名誉教授を中心とする人々が寄稿している。

声明発表の会見(長周新聞より)

 4月の声明文発起人には、和田氏のほか、伊勢崎賢治上野千鶴子内田樹内海愛子岡本厚加藤登紀子金平茂紀姜尚中酒井啓子高村薫田中優子田原総一朗暉峻淑子、西谷修水島朝穂、吉岡忍など、いわゆるリベラル派、左翼あるいは平和主義者とされる錚々たる顔ぶれが並ぶ。その中には私の尊敬する方もいて複雑な気持ちになるが、遠慮せずに批判させていただく。

 まず4月の声明文はこう始まる。

 「ウクライナ戦争はすでに1年つづいています。この戦争はロシアのウクライナへの侵攻によってはじまりました。ウクライナは国民をあげて抵抗戦を戦ってきましたが、いまやNATO諸国が供与した兵器が戦場の趨勢を左右するに至り、戦争は代理戦争の様相を呈しています」。

 はじめから「代理戦争」論である。ロシアについては「この戦争はロシアのウクライナへの侵攻によってはじまりました」と、まるでたまたま先に手を出したのがロシアだったと言わんばかりの記述の他、「ロシア軍の兵士もますます多く死んでいるのです」、「ロシアを排除することによって、北極圏の国際権益を調整する機関は機能を停止し、北極の氷は解け、全世界の気候変動の引き金となる可能性がうまれています」などの(私にはピント外れにしか思えない)指摘があるだけで、肝心のロシアの侵略行為への批判はない。逆に、ウクライナへの武器支援こそが戦争を長引かせているのだから、これを止め、ゼレンスキーに抵抗をやめさせよ(そうすれば戦争は終る)という含意がみえる。トランプ待望論にも親和性がありそうな議論になっているではないか。

 このグループが出した『即時停戦』という本所収の西谷修アメリカが変わらなければ世界は混乱に向かう」はウクライナ戦争についてこう論じている。

 「実は、(ウクライナ東部の―筆者註)ドンバス地方はパレスチナと同じなんです。ウクライナの現政権はもともと西ウクライナ系で、西側諸国に支えられていて、イスラエルに似ており、ドンバスを支援していたロシアはアラブ諸国に当たると考えればいいでしょう。」(P143)

「現在、ゼレンスキー大統領が『ロシアを追い出すまで戦い続ける』と言っているのは、そうしないと自分が不要になるからです。」(P144)

「世界は混乱だらけです。ウクライナもガザも収まりそうにありません。アメリカがウクライナイスラエルへの支援をやめないと何も変わりません。」(P145)

 えっ、どういうこと?頭がクラクラしてきた。

 つまり、ウクライナイスラエルもともに、アメリカの支援を受けている邪悪な権力に操られ、「ロシアはアラブ諸国」でパレスチナ民衆と同じく被害者の側にあるといっている。平たく言えば、悪いのはウクライナイスラエルで、同情すべきはロシアとパレスチナと。

 ウクライナの現状認識はむちゃくちゃだが、それは置いとくとしても、露骨なダブルスタンダード二重基準)!

 とりあえず、これを「左翼のダブルスタンダードと呼んでおこう。

 アメリカもダブルスタンダード、左翼もダブルスタンダード。こんな珍妙なことがなぜ起きるのか。

(つづく)

 

お勧めする3冊のノンフィクション本


 東京都知事選は最終盤を迎えた。尊敬する岡村隆さん(探検家)のFBより。

選挙では「よりまし」を選び、「最悪」を防ぐ

 だって、「もうひとりの自分」 (自分の分身) が立候補しているわけじゃないんだから、「100%理想の候補者」なんか、いるわけがない。

 だから選挙では、「よりましな」候補者を選ぶしかないのだが、それには「最悪な候補者の当選を防ぐ」という大事な意味もある。

 そう考えると、「よりまし」で「最悪の候補者に勝つ可能性のある、ちゃんとした候補者」に一票、というのが結論になる。

 最悪なのは、もちろん小池現都知事。「よりまし」で「勝つ可能性がある」のは蓮舫

 小池の暗黒都政は、疑惑の神宮外苑開発、五輪選手村跡の実態、負の歴史の黙殺、都庁舎のプロジェクションマッピング48億円無駄遣い……と挙げていけばきりがない。。

 投票日まであと4日。現在、ややリードの小池に、蓮舫はもう少しで追いつきそうだという。逆転させられるのは私たちの一票だ。ネット上にはネガティブキャンペーンも多く見られるが、実際の一票にはかなわない。

 その「大きな一票」で悪政を終わらせよう。投票に行こう。》

 同意!

・・・・・・・

 27日、NHK MUSIC SPECIAL 中島みゆきがアンコール放送された。

 私は中島みゆきのファンで、カラオケでは主に彼女の歌を歌う。映像で見ると、いっそう魅力的で存在感はもう女王様。もうこんな歌手は出ないだろうな。なるべく長く歌い続けてほしい。

・・・・・・

 きょう、大阪の隆祥館書店という本屋さんから連絡をいただき、本を3冊推薦してほしいと要請された。そのわけは・・

 2018年以来5年間、続いてきた『本屋大賞 ノンフィクション本大賞』が中止されたが、読者の要望で隆祥館独自のノンフィクション大賞を発表しているという。ここはメディアでは報道されないことを書いたジャ-ナリストや、細かい分野の専門知を持つ人を招いてトークイベント(作家と読者の集い)をやったりと熱心にノンフィクションを応援している。

 で、今年前半のノンフィクション大賞(売上上位十作品)に『中村哲という希望』が入賞したという。入選作の作家には「お勧めの本」を3冊紹介してもらい、店内でフェアをするそうなのだ。

 ノンフィクション大賞に入賞したとは光栄でありがたい。

 お勧めの3冊は以下を上げた。ご関心あればお読み下さい。

①    乗京真知『中村哲さん殺害事件 実行犯の「遺書」』(朝日新聞出版)
②    アンドレイ・クルコフ『侵略日記』(集英社
③    上杉一紀『ソ連秘密警察リュシコフ大将の日本亡命』(彩図社

 ①    の乗京真知『中村哲さん殺害事件 実行犯の「遺書」』は、すでに本ブログで書評を書いている。中村哲医師の暗殺事件の国際謀略ともいえる驚くべき構図を突き止めた世界的スクープの書だ。

takase.hatenablog.jp

②    アンドレイ・クルコフ『侵略日記』

左が2014年の「マイダン革命」後の日々をつづった『ウクライナ日記』、右が『侵略日記』


 アンドレイ・クルコフは、ウクライナが独立して間もない頃のキーウを舞台にした『ペンギンの憂鬱』(新潮社)で国際的な名声を得た作家だ。本書は、2022年までウクライナ・ペン会長を務めたクルコフが、ロシアの全面侵攻以降の日々を書いた日記である。

 1961年にソ連レニングラードで生まれ、3歳のときに両親とともにキーウに移住した彼は「私は民族的にはロシア人で、ずっとキーウで暮らしてきた。私は自分の世界観に、行動や人生に対する態度に、16世紀、まだウクライナロシア帝国の一部になっていなかった時代の、ウクライナのコサックの世界観と行動の影響を感じる。当時、ウクライナの人にとって自由は金(きん)より大切だった。あの時代が戻って来て、ウクライナ人にとって自由はまたも金(きん)より大事なものになっている」という。

 ウクライナのロシア人やロシア語話者は迫害されていて親ロシアの心情をもつと思っている人がいるかもしれないが、クルコフのようにウクライナ側に立ってロシアの侵略に抵抗している人が圧倒的多数である。民族的にはロシア人でも、ウクライナ人のアイデンティティを強く持っているのだ。

 この日記は、「ロシアがウクライナを侵略した記録であるだけでなく、ロシアから押しつけられたこの戦争」「がいかにウクライナのナショナル・アイデンティティ強化に寄与したかという記録でもある」と記すクルトフ。

 この日記は、ウクライナがなぜ屈しないのかを知るよすがとなるだろう。

 

③   上杉一紀『ソ連秘密警察リュシコフ大将の日本亡命』は先月下旬に出たばかりの本。

彩図社刊、1800円

 日中戦争が二年目に突入していた1938年。ソ連満州の国境を越えて日本に単身亡命を求めてきたソ連の高官がいた。ソ連最高会議代議員にして政治警察、秘密警察を統括する内務人民委員部(NKVD=KGBの上部機関)のエリート、三等大将ゲンリフ・リュシコフ。

 ソ連では1934年のキーロフ暗殺を利用した赤色テロルが荒れ狂い、スターリンによる粛清が最盛期を迎えていた。トロツキー以外の主要幹部は全員抹殺されたが、リュシコフはその粛清を先頭にたって遂行する立場で、彼自身がジノヴィエフカーメネフらの大幹部を尋問し処刑場に送っていた。

 スターリンがリュシコフを極東に派遣したのは、極東に住む20万人の朝鮮人全員を追放するためだった。いざというとき日本側に寝返ることを警戒しての措置で、16万人が中央アジアへの移住を強制され、抵抗した2500人は逮捕、数百人が抹殺された。

 スターリンに忠実に従っていた、体制の最奥部を熟知する高官だったリュシコフだが、自身も粛清対象になる可能性を察知して敵である日本に寝返ったのだった。当時日本が欲しがっていたソ連体制の内部情報を彼は提供し、それは日本軍の対ソ戦略に利用された。しかし、日本にはすでにソ連赤軍のスパイ、ゾルがいた。リュシコフが提供した赤軍の配置、装備、暗号、兵力の分布などの貴重な情報をゾルゲは入手し、モスクワに筒抜けになった。このリュシコフ情報の盗み出しがゾルゲが日本で果たした8年間の活動の中でも、最大の功績の一つとも言われている。

 リュシコフは、トロツキーと同じくウクライナ出身のユダヤウクライナの地ではポグロムユダヤ人迫害)が頻発し、多くの革命家とシオニストを生み出した。本書からは現在のウクライナイスラエルの抱える問題にまでつながる歴史の底流も垣間見える。

 敗戦直後、リュシコフの存在は消し去るべしと軍部は殺害指令を出す。1945年8月20日、その指令を実行し、ピストルで彼を撃ったのは陸軍中野学校出身の大連機関長、竹岡豊

 日本に生還した竹岡はフジテレビに入社。同社は、日本共産党の大物転向者第一号の水野成夫鹿内信隆と組んで設立した企業で、財界の利害を代表する反共メディアだった。水野の没後、鹿内が、フジテレビ、文化放送ニッポン放送産経新聞を軸とするフジサンケイグループ全体の初代議長に就くが、その鹿内の秘書として長く仕えたのが竹岡だった。

 ソ連崩壊後に初めて公開された資料を土台に描く日本と極東の知られざる裏面史は寒気がするほどすさまじい。

沖縄米兵の性犯罪隠蔽事件から

 沖縄での性犯罪隠ぺいが発覚。それも1件、2件ではなかった。

 以下、私が属している日本ジャーナリスト会議」(JCJ)沖縄の抗議声明から一部引用する。

 「昨年12月24日、沖縄本島中部の公園で16歳未満の少女が米兵に誘拐され、性的暴行を受けた。少女の帰宅後に、110番通報により沖縄県警が米兵を在宅のまま捜査し、今年3月11日、わいせつ誘拐・不同意性交容疑で書類送検された。同27日に同罪で起訴され、日本側が勾留した。その後、保釈金が支払われて保釈が認められ、米兵は米軍の管理下に置かれている。米軍関係者以外ではこのような対応はあり得ず、米軍特権が際立っている」。

朝日新聞6月26日付

 この事件自体が許されない凶悪事件だが、これを6月下旬まで県当局や国民に隠蔽していたことが重大だ。

 「起訴の時点(3月)で外務省はエマニュエル駐日米大使に抗議した。しかし、沖縄県には連絡しなかった。県警も県と情報共有をしなかった。今回のような事案があれば、学校も地域社会も、警戒を呼びかけ対策を講じなければならない。結果として、行政も、メディアも、果たすべき役割を果たし得なかった」。

 明らかに政治的意図をもった隠蔽だ。

 「外務省が米大使に抗議した後、日米首脳会談、エマニュエル駐日大使の石垣・与那国訪問があり、沖縄県議会議員選挙があり、首相や米軍関係者も参列する沖縄戦慰霊の日の追悼式があった。これらに影響を与えないようにするという意図を当局は否定するが、信じることができない。被害者のプライバシー保護のためとするが、他事例と比較すれば説得力はない。」

 また、被害者は「16歳未満の少女」としか記されていないが、ほんとうは何歳なのか。非常に幼い可能性があるのではないか。はっきりさせるべきだ。


 JCJ沖縄は「米軍の特権を支えるために県民を犠牲にする日本政府や当局に断固抗議する」との声明を6月27日付けで出している。

 ところがその後、米海兵隊員が5月、不同意性交致傷容疑で逮捕され、同罪で起訴されたことも明らかになった。


 えっ、もう1件も隠していたのか、と憤激していたら、きょう、さらに3件隠蔽していたとの報。いい加減にしろ!

 「林芳正官房長官は3日の記者会見で、捜査当局が報道発表していない沖縄での米兵による性的暴行事件が2023年以降で新たに3件あると明らかにした。既に明らかになっている23年12月と24年5月に発生した事件と合わせると計5件となる

 林氏によると、新たに判明した3件は23年2月、同8月、24年1月にそれぞれ発生し、いずれも不起訴となった。事件の詳しい内容については説明を避けた。」(毎日新聞

「極めて遺憾であります」?・・詳しい内容の説明は避けたと(NHKニュース)

 こうなるともう日本は植民地そのもの。

 先日、ウクライナ戦争について「犠牲者を増やさないためには、はやくウクライナが降参して戦争が終ればよい」と考える日本人が少なくないことを指摘し、その一因は、日本人が世界でも稀な降伏・被占領に対して「良い」イメージをもっている国民であることだと記した。

takase.hatenablog.jp

 しかし、実際の戦後のGHQによる日本占領は、それほど甘いものではなかった。当時は「日本全体が沖縄」であり、米兵による強盗、殺人や性犯罪は、質量とも現在の沖縄の比ではなかった。ところが、それらは厳重な報道管制とメディアの自主規制で国民には知らされなかったのである

 GHQはさらに謀略によって、日本の進路をコントロールすることまで行っていた。

 3月末に放送されたNHKスペシャル未解明事件 下山事件では、制作チームは、他殺説に立って最後まで捜査を続けた布施博検事が保管していた膨大な捜査資料や、東京神奈川CIC(米陸軍対敵諜報部隊)の日系2世工作員アーサー・フジナミが最晩年に娘に口述した、下山総裁暗殺に触れる記録を入手した。そこから、アメリカが要求する国鉄の10万人解雇に抵抗姿勢を見せた下山をアメリカが殺害した構図、そして日米支配層が反共で連携するという今日まで続く両国関係の源流が浮かび上がる。この番組は4年がかりの調査・解析で、制作者自らが「シリーズ史上最も真相に肉薄した」と自負し、第61回ギャラクシー賞の力作となった。

 日本人がもつ連合軍による日本占領のイメージは、実際よりもはるかに肯定的につくられ我々を「洗脳」してきたことを忘れてはならない。