北海道新聞の今井裕紀記者の逮捕に対し、海外からも抗議の声明が相次いでいる。

10月16日、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)は、Yuki Imai記者の逮捕を非難し、即時解放を求める声明を発表した。
The International Federation of Journalists (IFJ) joins its affiliate the Japan Federation of Newspaper Workers' Unions (Shimbunroren) in condemning the arrest and call for Imai’s immediate release.https://www.ifj.org/media-centre/reports/detail/japan-russia-reporter-arrested-by-russian-security-services-for-alleged-espionage/category/press-releases

これに先立ち、IFJの加盟団体である日本の「新聞労連」(日本新聞労働組合連合)は逮捕翌日の10月14日に声明を表明。https://shimbunroren.or.jp/statement-20261014/
「報道の自由は民主主義の根幹であり、最大限に尊重されなければなりません。いかなる国・地域であっても、記者の取材活動と安全は必ず保障されるべきです。
今後、記者の拘束が長期化することは絶対にあってはいけません。日本政府に対して、記者の安全確保を最優先に、記者ができる限り早期に自由の身になるよう全力を挙げることを求めます」。
私が会員であるJCJ(日本ジャーナリスト会議)も10月21日、「北海道新聞記者の早期解放を求め、報道の自由を訴える」とする声明を出し、安全確保と一日も早い解放を訴えた。https://jcj.gr.jp/recentactivity/21555/
ここである違和感が生じる。
海外メディアや国際団体が今井さんの実名を挙げて抗議しているのに対し、日本のメディアや国内の抗議声明は「北海道新聞記者」と匿名扱いを続けている点だ。所属先の北海道新聞の匿名方針にならっているのだろうが、このまま匿名扱いでよいのだろうか。
これは単なる表記の問題ではない。拘束されたジャーナリストを守るために報道機関は何をなすべきかという、ジャーナリズムの根幹に関わる問題だと思う。
私が「実名報道が妥当」と考える理由は主に以下の点にある。
1)風化を防ぎ、世論を喚起する
実名で伝えることで事件への関心が維持され、解放を求める世論が形成される。「顔の見えない」匿名記事は、瞬く間に社会から忘れ去られやすい。
記憶に新しい例がある。2026年1月20日、イランでNHKテヘラン支局長が当局(革命防衛隊等)に拘束された。きわめて重大な事件であったにもかかわらず、匿名報道が続いたことで関心はすぐに薄れ、今やその支局長がどのような状況にあるか知る人はほとんどいない(4月6日に保釈されたものの、現在も国外に出ることは禁じられたままである)。
私自身、長年北朝鮮による拉致問題に関わってきたが、拉致が大きな社会問題として動き出した決定的な転換点は、横田めぐみさんの父・滋さんが「匿名のままでは何も動かない」と意を決して実名・顔写真の公表に踏み切ったことだった。
2)メディア自身のダブルスタンダードを正す
日本のメディアは平素、検証可能性や公共性の観点から「事件事故は実名報道が原則」と主張してきたはずだ。にもかかわらず、自社や同業者が当事者になった途端に説明もなく「匿名一辺倒」に終始するのは、「ダブルスタンダード」と言われても仕方ないだろう。
本人の氏名や経歴、これまでの取材実績、人となりが伝わってこそ、読者は事件をリアルに理解できる。また、ロシア側が主張する「スパイ容疑」が本当かどうかを具体的に検証するための情報も得やすくなる。
3)外交的交渉力を高める
国内外で実名による関心が高まれば、身柄を拘束し続けるロシア側に対して「不当逮捕を続ける外交的コスト」を直接認識させる圧力となる。強い世論のバックアップがあってこそ、外交交渉も有利に進められるのではないか。
「北海道新聞」をはじめとする国内メディアは、匿名にとどめる合理的な理由を説明していない。
推測しうる理由は二つある。
一つは「本人の安全確保(非公開によるリスク回避)」だが、ロシア当局側は当初から実名を公表しており、国際的にも実名が流布している現状において、日本国内だけ名前を隠すことで安全が確保されるとは考えにくい。
もう一つは「家族のプライバシーや二次被害の防止」だろう。過熱取材やネット上の誹謗中傷といった弊害は確かに懸念されるが、これは事件報道全般で常に直面する課題であり、今回に限った特殊なリスクではない。
報道機関である以上、仮に匿名を選択するのであれば「どのようなリスクを想定し、なぜ実名公表を避けるのか」を可能な限り読者に説明すべきである。その説明すらない現状において、私は今回の匿名維持には実益が乏しく、実名を公表するほうが本人の安全と早期解放に資すると考えている。
こうした中、ついに日本国内でも今井裕紀さんの実名を掲げた早期解放を求める署名運動が始まった。
一人でも多くの方の賛同と署名を呼びかけたい。

(つづく)




















