不条理な世界を生きる心構え

 ガザではイスラエルがラファへの攻撃を拡大し、人道支援がストップして飢餓が拡がる最悪の事態に陥っている。

ラファが攻撃対象になり、国連含め人道支援機関が活動を打ち切った(NHKより)

ヨルダン川西岸地区でも10月以降400人が殺害され入植地拡大がドサクサにまぎれて激化している。抗議する住民(NHK

一緒にデモに来たお孫さん。こうして戦いは世代を超えて引き継がれていく。

 その一方で、イスラエルとこれを擁護するアメリカへの抗議が拡がり、国際刑事裁判所イスラエルのネタニヤフ首相らへの逮捕状を請求、パレスチナを国家として承認する動きも出ている

ハーバード大学で卒業式を数百人がボイコット。他大学へも波及している。

アイルランド、スペイン、ノルウェーパレスチナを国家承認。アメリカの孤立が進む

 破局は水面下で何らかのブレイクスルーを求め、うごめいている。すぐに目には見えないが、何かが確実に動いていることを感じる。
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 昨日、朝日新聞の人生相談欄での野沢直子の回答と新聞社内のリアクションを批判した。

 では、私ならどう回答するのかと考えた。

 相談者は、ガザの虐殺はじめ世界で起きる不条理や不幸を知ると、夜も寝られなくなるほど心配でたまらなくなり、どうしたらよいのか悩んでいる。
 以下、私の回答。

 

 ガザからは連日、悲惨なニュースが伝えられています。一方的な暴力で殺され、家族を奪われ、家を失い、飢餓に苦しむ人々の姿に心を痛めるあなたは、とてもまじめで他者への思いやりにあふれた人なのでしょう。

 健全な社会に求められるのは、あなたのように、他者の不幸を「自分事」としてとらえる豊かな共感性をもつ市民です。自分さえ良ければかまわないという風潮が広がるなか、もっと多くの人たちが同じ地球に生きる人々に同胞(はらから)という意識をもってほしいところです。

 ただ、気をつけなくてはならないのは、まじめな人ほど、「他人の不幸には共感すべきであり、共感して心が乱れるべきである」という思い込みをしがちになります。他者の不幸に同情しすぎて、あるいは世の中の理不尽への不満をためすぎて、心身の調子を崩し、「うつ」になる人は少なくありません。でも、自分まで不幸になってしまっては、世界に不幸な人を一人増やすだけで、不幸を減らすことにはなりません。では、どうすればよいのでしょうか。

 あなたがすべきことは、人間として適度な共感の範囲にとどまりながら、世の不幸、理不尽を少しでも減らす具体的な行動をすることではないでしょうか。デモや集会に参加して「ガザに停戦を」と声を上げることもできます。いや、そこまでの勇気はないって?でも、よく探せばいろいろなアクションが見つかるはずです。

 たとえば、地球温暖化は、ある意味、人類にとって戦争よりも大きな危機ですが、国連広報センターは、気候危機に立ち向かうための「個人でできる10の行動」を提唱しています。
① 家庭で節電する、②徒歩や自転車で移動する、または公共交通機関を利用する、③野菜をもっと多く食べる、④長距離の移動手段を考える、⑤廃棄食品を減らす、⑥リデュース、リユース、リペア、リサイクル、⑦家庭のエネルギー源をかえる、⑧電気自動車にのりかえる、⑨環境に配慮した製品を選ぶ、⑩声を上げる。
 どうでしょう。これなら誰でも一つくらいは実行できるのではないでしょうか。

 もし、どうしても具体的な行動をとることができない事情―たとえば身心の状態など―がある場合は、あなたを悩ませている心配事は忘れて、くれぐれも、自分が不幸になるのを避けるように暮らしてください。ただでさえ不幸があふれている世界に、もう一人不幸な人を増やさないために。

朝日新聞の良識を疑う

 ウクライナでは北東部ハルキウ、東部ドンバスへのロシア軍の激しい攻撃が続き、都市住民や民間インフラへの空襲で被害が拡大している。

 ついにゼレンスキー大統領はロシア領内への攻撃を認めるよう訴えたハルキウ州への攻撃について「欧米側は供与した兵器をロシア国内への攻撃に使用することを認めていない」と言及したうえで、「国境地帯の防衛にはロシア国内の軍事目標を兵器で攻撃することが不可欠だ」と訴えた。

 ミサイルが飛んでくる基地を叩かないと被害は増えるばかりだ。

NHK国際報道より)


 意外に知られていないが、ウクライナは欧米からロシア領内への攻撃を禁じられ、手足をしばられたまま防戦一方の戦いを強いられている。国産のドローンなら文句をいわれる筋合いはないと、たまにロシア領内の石油施設などをゲリラ的に攻撃しているが。

 この要請に対してイギリスやデンマークは、ここまできたらロシア領内攻撃を認めようと言い始めたが、アメリカはまだ「ダメ!」という態度。

アメリカは相変わらずウクライナの領内だけで戦えと。(NHK国際報道)

 ロシアは戦術核兵器の演習をやって欧米を脅す。「おれたちを『刺激』すると核兵器使っちゃうぞ。それがいやなら、ウクライナをしっかり押さえろ」と。第二段階の演習にはベラルーシも参加するという。アメリカはこれでさらに腰が引けるのか。

戦術核兵器演習。イスカンデルミサイルは通常弾頭で毎日ウクライナを空襲している。これは迎撃が非常に難しいという。(NHK国際報道より)

 先日紹介した『マリウポリ20日間』のマリウポリ陥落から2年経つ。あの包囲戦でロシア軍が無差別攻撃をしたため市民2万人以上が命を落としたとされている。また多くの兵士や市民がロシア軍の捕虜となった。8千人以上が捕虜生活を強いられていると推定される。その家族たちが身内の釈放を訴える集会があった。

マリウポリで捕虜になった人たちのデモ(NHK国際報道より)

 ある兵士は妻と二人の幼い息子を残して捕虜になったが、今どこにいるか無事かどうかも分からない。妻は、夫が捕虜になったあと乳がんが見つかり、いま体中の骨に転移して病床にある。親族は、妻が生きているうちに兵士に帰還してほしいと心から願っている。一人ひとりの事情を知ると、戦争の残酷さがよくわかる。

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 朝日新聞の土曜に配達される「Be」。「悩みのるつぼ」という人生相談コーナーがある。私は人生相談を読むのが好きで、以前、経済学者の金子勝が名回答者としてこのコーナーにいて、読むのが楽しみだった。金子さんの回答集は本になって出版されている。

 最近、タレントの野沢直子が回答者として登場している。18日が彼女の担当だった。

5月18日(土)Beの「悩みのるつぼ」

 質問は―
 「50代の会社員です。不正義や理不尽な行動を伝える新聞報道を見るたび、怒りに燃えて困っています。
 ロシアの軍事侵攻、イスラエルのガザへの攻撃―最近では、アメリカ大統領選の報道。(略)絶望的な気分になり、夜も眠れません。

 憂えたところで何をするという手立てもなく、だったら新聞報道など見なければよいのですが、社会問題から目を背けるようで気が引けます。(略)海の向こうのことなど気にせず、このまま自分の生活を平穏に送ることだけ考えればよいのでしょうが、汚い人間の醜い行為がどうにも許せない性格が災いして割り切れません。(略)どのように気持ちを保っていけばよいか、アドバイスいただけると助かります。」

 50代で真剣にウクライナやガザのことを心配している。とてもまじめな人なのだろう。

 野沢直子はこの問いにどう答えたか。

 「このお悩みを読んで、まず最初に思ったことは、そんなに心配なさっているのなら実際に戦場に出向いて最前線で戦ってくればいいのにな、ということです。

 まあ仮に戦場に行くのは無理でも、実際あなたが心配している国に出向いて、あなたがニュースで観ていることはどこまでが真実なのか確かめてくるというのはいかがでしょうか。(略)

 あなたがそこまで心配しているなら、その地に行って自分の目で確かめてくるべきだと思います。(略)人間とはないものねだりな生き物で、あまり幸せだと『心配の種』が欲しくなってくるのだと思います。失礼ですが、それなのではないでしょうか。

 世の中が醜くなるかどうかは誰にもわかりません。そんなことを嘆く前に、今自分が幸せなことに感謝して自分の周りにいる人たちを大切にしましょう。(略)」

 この回答に愕然とした。

 戦争や民主主義の破壊など世界の不条理が心配でたまらないという悩みへの回答者に野沢直子をあてる人選のミスマッチもさることながら、「そんなに心配なら、自分で戦場に行って最前線で戦ってくれば」という野沢の答えに、憤りと情けなさがこみ上げた。

 さらに驚いたのが、神田大介という朝日新聞社朝日新聞ポッドキャストチーフパーソナリティ)が「すごい!」、野沢の「才能を見抜き、依頼した記者もすごい」と大はしゃぎしていることだ。

 さらに、もっと衝撃的だったのは、朝日新聞編集委員の藤田直央氏が、野沢の回答ぶりに出したコメント。

 「野沢さんの回答、ぶっ飛んでいうようで重いです。そこまでしなくても、沖縄に行かれて、本土ではまれな米軍基地と隣り合わせの生活をご覧になればどうでしょう。相談者の方がそこで「不正義や理不尽」を感じたなら、同じ日本人として声を上げるという「手立て」があります。
 あ、この相談者の方はそうした境遇の方なのかもしれませんね。そうでしたら誠に失礼しました。」

 野沢の回答、どこが「重い」のか? ガザやウクライナまで行かなくても沖縄に行ったら珍しい米軍基地と一緒の暮らしも見れるよ。あ、相談者はひょっとして沖縄の人?これまた失礼、、と相談者をバカにし、沖縄を見下げたコメントに呆れた。編集委員ですよ、この方。

 これがSNSでワッと広がり、前川喜平さんが「朝日新聞読むのもうやめようかな」と反応した。以下ARCTVのIn Focus(尾形×望月)【前川喜平/「朝日新聞を読むの、もう止めようかな」/朝日新聞編集委員や記者、愛読者を中傷】⚪︎5/21 The News⚫︎スピンオフより。

www.youtube.com


 前川さん、よほど腹に据えかねたようで、なんでこんな人が編集委員になったのか、前から朝日がおかしいと思っていたが、ほんとにおかしくなっているのが分かる、と厳しく非難した。以下、前川さんのコメントの一部を引用する。

 「人間は自分のために生きてるって考え方ですよね。他者のことをそんなに考えるなんて、お前らおかしいでしょって。他の人のことをそんなに心配する必要ないよ君、っていう。野沢さんの回答はまさにそういう回答で。もうそんな他人のことなんか考えないで、自分のまわりのことだけ考えてなさいっていうアドバイスですよね。

 でも、人間というのは、あのガザの悲劇見て、たまらないわけですよね。子どもたちが次々と殺されていくっていう。それに対して世界中の人が、おかしい、やめろ、って声出してるときに、そんなこと言ったって変わらないんだから、言ったって無駄だという話でしょ。」

 「この相談者の気持ち、よーくわかりますよ。

 私だったら、学生と一緒にデモしましょうよとかね、この気持ちをぶつける場所をさがせばいくらもあるよ、とかね。こんどは五月二十何日かに、ガザの虐殺反対という高齢者のデモがある。

 こういうアドバイスならあるんだけど。我々は微力であるけれど無力じゃないと。声を上げることで政治を変えられるし国際関係だって変えられるんだと。」

 「ガザの子どもたちに対して、ほんとに人間としてどうかと思うよ、このコメントは。この感覚はどこかで感じた感覚だなと思ったら、杉田水脈だね、近いね。」

 前川さんの意見に同感する

 本ブログで何度も書いてきたが、今の日本人はきわめて利己主義的になっていて、自分の損得しか考えない。他の人の不幸など自分とは関係ないし、国が困っている人を助ける必要もないと考える人が多い。

takase.hatenablog.jp

 他者に共感したり連帯したりできなければ、みんなで良い世の中を作っていこうという気持ちにならないし、当然投票なんかに行かない、デモにも参加しない、となる

 殺伐たる社会になっている。たぶん野沢直子の回答に共感する人はたくさんいるのだろう。朝日の記者や論説委員までが「すごい」というのだから。この「すごい」という意味は、日ごろ僕たち朝日の社員が考えていて立場上言えないことを野沢さんがストレートに言ってくれて「すごい」ということではないか。とすれば、ほんとに朝日新聞ヤバいよ。

 最後に、ジャーナリスト、記者の役割は、普通の人がなかなか行けないところに、いわば読者の代わりに行って、取材した情報を届けることだ。その情報を読んで読者はいろいろ考えたり心配したりする。ウクライナやガザに心を痛めるこの相談者は、新聞にとって、とてもありがたい最良の読者ではないか。それなのに読者に対して「あんた、自分で行けばいいだろ」と言うのでは、新聞記者はいらなくなる。つまり、新聞が自らの存在意義を否定しているわけである。

テレビから消されたコメディアン

 ドキュメンタリー映画『アイアム・ア・コメディアン テレビから、消えた男』の試写会に行った。とても良かった。7月6日から「ユーロスペース」他で全国順次公開される。この映画、お勧めです。

 公式サイトの紹介―
「テレビに居場所を失った村本大輔は劇場、ライブに活路を見出し、自分の笑い《スタンダップコメディ》を追求する。

 本場アメリカへの武者修行、韓国での出会い、パンデミックの苦悩、知られざる家族との関係。世間から忘れ去られた芸人の真実に『東京クルドの新鋭ドキュメンタリスト日向史有が迫った3年間の記録」
https://www.iamacomedian.jp/

 数々の賞を総なめにし、実力も人気もあったお笑いコンビウーマンラッシュアワー。テレビにも引っ張りだこになり、年間200~250本の番組に出ていたのが、ある時から一気に激減する。安倍政権時代でメディアへの締め付けが進んだと想像するが、ネットでもしばしば炎上。2019年には出演番組わずか1本、完全に干された

 村本大輔はライブに居場所を見出すが、そこにコロナ禍がやってきて、公演が軒並み中止に。次々に襲いかかる試練に「暗い夜こそ星が見える」と立ち向かう姿は感動的で心から共感した。

 特に印象に残ったのは、「世界のコメディアンになる」と日本を飛び出してアメリカでスンダップコメディに挑戦する姿。勉強はまったくできず高校中退の彼が、英語の語りで笑いをとろうというのだ。ダメ出しにも腐らず、必死にくらいついてストーリーを組み立てる。赤ペンで添削を繰り返したカンペには胸が詰まった。

アメリカのスタンダップ劇場に出演。堂々とやり切って笑いをとっていた

添削を繰り返したカンペ

 お笑いで世の中を変えるとの志を持ち続け、父親の死までを笑いのネタにし、ステージが終ると一人涙を流す姿に、彼は日本の誇るべきコメディアンだと確信した。声を出して笑い、泣かされた。すごいやつだなと心底感心しながら見終わると、彼のヒューマンストーリーのうらに、通奏低音のようにわが祖国日本はこれでいいのかとの問いが流れていたことに気づかされる。

苦しんでいる人たちを笑いで一瞬でも幸せにしたい。3.11の被災地を訪れる村本には哲学がある。

 先日、このブログでミャンマー軍に指名手配された売れっ子の映画監督が、潜伏しながら作った映画『夜明けへの道』を紹介したが、彼とともに有名な俳優や歌手なども民主派勢力に合流してジャングルで戦っている。

 日本以外の国では、社会的に影響力のある人は、むしろ積極的に社会問題について発言することが期待されているという。日本では芸能人もスポーツ選手も社会的、政治的発言を控えるが、これは他者への連帯感の欠如でもある。結局は自分の損得だけ考えて生きろというのがこの日本の社会の風潮であり、権力は人びとにそうしむけている。

 私の大好な松元ヒロ「テレビで会えない芸人」だが、こういう人はちゃんとした哲学を持っている。どの文化でも、政治風刺は本来笑いのイロハだし、ここを忘れると芸能自体がやせ細っていくはずなんだが。最近のテレビは薄っぺらで・・。村本大輔もテレビに出てるのは、オレのようなお笑い(本物のコメディアン)はいないと言ってたな。

 監督の日向史有さんは、もともとはテレビのディレクターで、番組を膨らませて『東京クルドという名作ドキュメンタリー映画を作っている。

takase.hatenablog.jp

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  今回の映画は2019年から取材を始めたものの、テレビ番組への企画売込みが厳しく、発表の場をyoutubeからはじめてここまでに至ったという。粘り勝ちである。日本の排除、忖度体質を映し出す村本大輔という素材に目をつけたのもいいし、テレビから干されて韓国、アメリカに出て行き、コロナでライブ公演を閉ざされて、父親が死んで・・・と節目節目をしっかりドキュメントしながら彼の内面、哲学に迫っていく取材がすばらしい。ぜひ多くの人に見て欲しい映画だ。

中村哲医師とティリチ・ミール登山

 最近よく、新聞の一面に驚かされる。

朝日新聞』19日朝刊一面

 今朝の『朝日新聞』はトップが「核搭載艦 日本寄港容認の文書 60年安保改定/米『事前協議なしに』/米公文書 専門家が精査」。これは後の沖縄密約事件につながる日米の密約体質を報じるスクープだ。 

 2年前の3月参院でこんなやりとりがあった。

 《岸田文雄首相は7日の参院予算委員会で、非核三原則の「持ち込ませず」を巡り、有事に際して例外的な対応を取る可能性があるという認識を示した核兵器を搭載した米艦の一時寄港を認めなければ日本の安全が守れない場合、「その時の政権が命運をかけて決断し、国民に説明する」とした2010年の民主党政権時代の政府見解を「岸田内閣も引き継いでいる」と述べた。立憲民主党小西洋之氏の質問に答えた。

 一方で、首相は、米軍の核兵器の共同使用を前提に平時から日本国内に配備する「核共有」について「『持ち込ませず』とは相いれない」と指摘。「持たず」「つくらず」を含めた非核三原則を「国是として堅持している」と語った。》(東京新聞https://www.tokyo-np.co.jp/article/164239

 「事前協議なしに」寄港できる密約があったなら、民主党政権時代をふくめ前提がひっくり返る。日本政府はこの資料を突きつけられても資料がないとして認めない。真相を明らかにすべし。

 一面の隣には日本人が「難民」に認定されたという記事。

 「日本人カップル、カナダで難民認定/『日本で差別逃れられない』指摘」。日本では、同性愛者や女性であることで受ける差別から逃れられないとして難民申請をした女性同士のカップルを、カナダ政府の移民難民委員会が「日本での迫害に対して(当事者が)十分根拠がある恐怖を抱いている」と認めたのだ。

 国連難民高等弁務官事務所によると、他国で難民認定される日本人は毎年数十人いるそうだ。

 日本から海外に売春出稼ぎに行くニュースを見たが、いよいよ日本は「遅れた国」に沈下していく。

 

 きょうの朝日歌壇に上田結香さんの歌が出ていた。私はこの人のファンで、いつも楽しみにしている。

夜はとても絶望的に長かった勤務後の酒席が義務だったころ 

 昔話にしているが、今はどうなんだろう。上田さん、1月21日の歌壇に以下の歌を詠んでいる。

理由なく辞めたわけじゃないあの時代パワハラという語がなかっただけだ 

 いいですね、上田結香ワールド。

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 中村哲医師が、パキスタンアフガニスタンの奥地で医療支援をすることになったのは、登山隊のお付きの医師としてティリチ・ミールへの遠征隊に加わったことがきっかけだ。山が好きで珍しい蝶が見たいためだったが、遠征隊が登っていく道すがら、医者がいると分かった村人たちが押し寄せてきた。

 「我々が進むほど患者の群れは増え、とてもまともな診療ができるものではなかった。有効は薬品は隊員達のためにとっておかねばならぬ。処方箋をわたしたとてそれがバザールでまともに手に入るとは思われない。結局、子供だましのような仁丹やビタミン剤を与えて住民の協力を得る他はなかった。」

 「みちすがら、失明しかけたトラコーマの老婆や一目でらいと分かる村人に、『待ってください』と追いすがられながらも見捨てざるを得なかった。」

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  中村さんは、ペシャワールに赴任を決めたことを不条理への復讐だったという

 「当地への赴任は最初にヒンドゥクッシュ山脈を訪れたときの一つの衝撃の帰結であった。同時に、余りの不平等という不条理に対する復讐であった」(『ペシャワールにて』P10-11)

 この一連のエピソードは中村さんの生き方を知るうえで大事だと思い、私と佐高さんの共著『中村哲という希望』の冒頭に書いた。これに関して、最後の「怪物登山家」と称される和田城志さんが『地平線通信』に興味深い一文を寄せている。この78年のティリチ・ミール登山の前後に中村さんと会っていたというのだ。

 和田さんは、「グレートジャーニー」の関野吉晴、『コンティキ号探検記』のヘイエルダールを「越境者」として讃えた後、こう綴る。

もう一人、とてつもない越境者がいる。中村哲である。1978年、パキスタン、ラワルピンディのミセス・デイヴィス・プライベートホテルで出会った。彼は、福岡登高会のティリチ・ミール(7708m)登山隊に医師として参加していた。私は、東部カラコルムのゲントII(7343m)初登頂をねらっていた。

登山を終えて、また同じホテルで再会した。意気投合した。彼は、登山より現地住民の医療環境の劣悪さに心を痛めた。私は初登頂の自慢話を喋り、彼は世の中の理不尽を語った。年齢は3つしか違わないのに、ガキと大人の会話だった。高校時代は学生運動に励んだらしい。医療支援のために、またパキスタンに戻ると言った。生涯の目標を見つけたような口ぶりだった。隊で余った医薬品を寄付してほしいと言われた。その数年後に、国境の町ペシャワールに拠点を築き、アフガニスタンでの活動を始めた。それからの活躍は周知のとおりだ。

彼は、あらゆる境界に対して異議申し立てをしつづけた。国家間の経済格差と侵略、宗教の壁(カトリックの彼がイスラム教のモスクを建設した)、政府と反政府の権力闘争、医療教育と灌漑土木の重要性、常に境界の最前線に身をおいて活動した。思想に普遍性があり明瞭だ。眼光鋭い面立ちには、怒りと慈愛が混在していた。

戦争と飢餓の克服、和平への道筋を世界に示した。あらゆる戦争の当事者たちは中村に学ぶべきだ。自己主張と破壊だけでは何も解決しない。混迷を深くするだけだ。中村哲は、弱きを助け強きをくじく、義理と人情の任侠渡世の人だ。ノーベル平和賞の没後受賞のさきがけになればと願う。

境界を越える人にあこがれる。肉体で語る人にあこがれる。そのようにして磨かれた知性にあこがれる。優勝劣敗弱肉強食だけが、自然淘汰の駆動力ではない。分け隔てなく降り注ぐ宇宙線の御業、繰り返す生と死の突然変異、境界を越えてめぐる輪廻転生、あえぐ宇宙船地球号を導く越境者たちにあこがれる。(和田城志「波間から」その8)
https://www.chiheisen.net/_tsushin/_tsus2024/tsus2405.html

 中村哲さんは登山の直後すでに「医療支援のために、またパキスタンに戻る」と決意していたというのだ。中村さんのすごさにうなった。

 同時に、これを克明に覚えていて中村さんが只者でないことを見抜いた和田さんの眼力にも感嘆する。

 貴重な証言なので、ここに紹介した。なお、補足すると、中村さんはカトリックではなくバプテスト。また、学生運動をやっていたのは大学時代で、警官隊に逮捕された中村さんは最後までカンモク(完全黙秘)を貫き、仲間でもっとも長く留置場に入っていたという。

 ドクダミが白い花を可憐に咲かせている。

 

ミャンマーで攻勢に出る民主派勢力

 最近の海外ニュースから

 北朝鮮の制裁やブリなどを監視してきた国連安保理専門家パネルは、ロシアの拒否権行使により、今月末で活動を停止するが、10日、たぶん最後となる調査結果を制裁委員会に報告した

 これによれば、北朝鮮は97件約36億ドル(約5600億円)相当の暗号資産を奪ったサイバー攻撃に関与した疑いがある。また、パネルのメンバーは約230億円については3月に暗号資産の匿名性を高めるミキシングという方法を使って資金洗浄した疑いがあると語る。そしてサイバー攻撃で得た資金が核・ミサイル開発に充てられているとみられる。3月の報告より金額が増えている。

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 専門家パネルの活動停止で、今後、北朝鮮の不法かつ危険な活動に国連の監視が緩むのではないかと懸念されている。

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 ロシア軍がウクライナ各地で攻撃を強めているハルキウへの空襲も激化。

 ゼレンスキー大統領は、パトリオット地対空ミサイルが2基あればと訴える。日本から米国にパトリオットが輸出されたことを先月のブログに書いたが、米国は他国から調達した武器弾薬を備蓄に回して、余裕のできた分をウクライナに渡すというカラクリだ。この2基もひょっとして日本からの2基の「玉突き」提供?・・・。

欧米からの武器支援の遅さにいら立つゼレンスキー大統領(NHKより)

 日本はすでにウクライナへの軍事支援に関わっていることを自覚しよう。

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 アメリカからの軍事支援物資が前線に届くまで、ウクライナ軍が敵を食い止められるかどうか。

 ウクライナ軍は兵員不足に動員強化で臨むが、これに否定的な反応が多いという。一方で、無期限に軍務についている兵士の家族らは不満を募らせている。自分たちの夫や息子はいつ死ぬか分からぬ危険な任務についているのに、動員逃れも多いとは不公平だというのだ。負担は平等にしてほしいと。

 また、動員強化で働き盛りの男性を軍に取られれば、産業界にとっては大きな痛手になる。経済を回せなければ長期戦は戦えない。政府は難しいかじ取りを迫られている。

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 ミャンマーで民主派勢力と少数民族グループが軍事的に国軍に対して攻勢に出ている。どうやら形勢の逆転はほんもののようだ。

 去年10月末に少数民族武装勢力が民主派の国民統一政府(National Unity Government of Myanmar、NUG)の軍事部門PDF(国民防衛隊)とともに一斉に国軍を攻撃、国軍が総崩れになった。その後、民主派側の勢いは止まらず、全国55の行政区を解放したという。国軍からは1万3千人が離脱・脱走し、全体で2万人の兵力を失ったという。圧倒的な武力の差を士気の高さでひっくり返しているという。

徴兵を嫌って多くの若者が新たにPDFに加わってきたという(15日のクロ現より)

武装闘争を余儀なくされていると語る学生(クロ現より)

PDFの士気は高いという(報道特集18日より)

 国軍は兵員の不足を補おうと徴兵制を敷いたところが国軍に入るよりはPDFに加わって戦いたいと多くの新人が入隊、軍事的に強化されているという。

 先日『夜明けへの道』を新宿K‘sシネマで観てきた。ジャングルで潜伏しながら制作したセルフドキュメンタリー。人気絶頂の著名な映画監督、コ・パウ氏が小さな息子2人と妻をヤンゴンに残して武装闘争に飛び込んだ決死の思いと赤裸々に苦悩を告白する姿に心を揺さぶられた。

コ・パウ監督は軍に反対すると指名手配されジャングルに潜った。CDMは市民的不服従運動。(映画より)

解放区のコ・パウ監督(映画より)

 実はコ・パウ監督が解放区で作った映画が上映されるのはこれが2本目。1本目は『歩まなかった道』で、これは日本在住ミャンマー人コミュニティが支援して日本で上映。そこから世界に広がり、今では62都市で上映されている。映画上映の売り上げも日本が断トツで、ここ日本は民主派支援の重要な拠点だという。

映画上映後のトークでは上映を支援しているジャーナリストの北角祐樹さんが登場。北角さんはミャンマーで1ヵ月拘束された(筆者撮影)

上映後、映画館のロビーで解放区にいるコ・パウ監督にご挨拶した。こんなことができる時代になったのか。

 コ・パウ監督からのメッセージ「この映画の制作の動機は、私たちアーティストも独裁者の革命の中で、自らの人生、成功、家族全員の生活を代償に払ってきたことを知っていただきたいのです。この革命は大きな成果を上げています。最後まで進むべきだと感じています。もう後戻りはできないということを理解していただきたい」

 ミャンマー情勢はメディアで取り上げられることが少なくなったが、しっかり支援しなければと改めて思う。

来日した国民統一政府の教育・保健大臣ゾー・ウェー・ソー氏(クロ現より)

来日したカレン民族同盟議長、パドー・ソー・クウェ・トゥー・ウィン氏

 先日、民主派の幹部が来日したが、日本政府は何のアクションもとっていない。在日ミャンマー人たちは、日本政府がはっきりと国軍を批判することと民主派の国民統一政府を承認して協議することを望んでいる。

若者を政治から遠ざけた「内ゲバ」

 ロシアのプーチン大統領は5月9日、旧ソ連ナチス・ドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」の式典で、核兵器使用をちらつかせてふたたび世界を恫喝した。

核使用で脅迫するプーチン(TBSサンデーモーニングより)

 ロシア軍はウクライナ第二の都市、ハルキウのあるハルキウ州の国境を越えて激しい攻撃を加えてきた。東部、南部でも攻勢を強めている。

 プーチンはこの侵略を「自衛戦争」と呼ぶ。戦争目的は領土を奪うことではなく、傀儡政権をつくってウクライナをロシアにとって「安全な国」にすることなのだ。だからプーチンは9日の演説でもウクライナを「ネオナチ」と呼び、その転覆をはかる。つまり、それまでは戦争をやめないということである。戦争が長期化するのは明白だ。

 毎週日曜の午後、新宿南口でStand with Ukraine Japanウクライナ支援を訴える活動をしている。募金する人は意外に多く、ウクライナを支援しようという雰囲気はそれなりに広がっているようだ。

子どもが募金していた。12日新宿南口にて(筆者撮影)

 それにしても日本では、ガザのジェノサイドへの批判や自民党の裏金問題をふくめ街頭での運動が非常に弱い。情報が浸透していないこともあるが、知ったとしても行動しない。労働運動の低迷もすでに長い。組合の組織率は低下し、争議もストもなく、政府が経済団体に要請して賃上げが実現するなどという異様な事態になっている。去年夏、西部池袋本店が1日ストライキしただけで「迷惑」の声が上がったのは記憶に新しい。

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 日本の政治・社会運動の不活発さは、欧米とだけでなくアジア諸国と比べても著しい。近年をみても香港、台湾、韓国などでは街頭行動が政権を揺るがす規模で行われてきた。街頭行動に限らなくとも、選挙の投票率の低さを見れば日本人のアパシーのひどさがわかる

 先日書いたように、60年安保から60年代を通して、一般の市民や若者がアクティブに行動する時期があった。それが、いまこれほど人々が「冷えて」しまったのはなぜか。
 いろんな角度から見ることができるだろうが、一つの要因として、60年代末からのいわゆる内ゲバ」が政治活動、社会運動に関わることへの激しい忌避感を社会に醸成したことがあるだろう。

 先日、『ゲバルトの森―彼は早稲田で死んだ』の先行上映会とシンポジウムが早稲田奉仕園で行われた。映画のほとんどは1972年に早大キャンパスで起きた革マル派による川口大三郎虐殺事件を扱っている。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%9D%E5%8F%A3%E5%A4%A7%E4%B8%89%E9%83%8E%E4%BA%8B%E4%BB%B6

シンポ登壇者は左から代島監督、本の著者の樋田毅さん、脚本の鴻上尚史さん(筆者撮影)

映画は25日から全国順次上映

奉仕園スコットホールは満席で現役の早大生の参加も多かった

 この事件自体は、早稲田大学の当局と革マルの癒着による暴力支配の構造が問題であって、内ゲバ事件ではないから、映画のタイトルには疑問を持った。ただ、監督の代島治彦氏の問題意識は、なぜ左翼党派が内ゲバで殺しあったのかにあり、その問題は重要だと思った。

 革マルと中核、社青同解放派など各派のいわゆる内ゲバ」で100人の死者が出ている。また1972年に発覚した連合赤軍同志間の大量殺人は常軌を逸していた。この陰惨極まりない政治運動の顛末は、若者を政治から遠ざけるのに十分すぎる効果を持った。

(つづく)

私がここにいるわけ その2⑤

 アサツキを鉢植えにしていたら、きょう花をつけた

アサツキ

 淡い紫の花が意外にきれいで見とれた。

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 連載にしながら、途中で別のテーマを書き出して、すっかり忘れてしまうことがよくある。3月の「私がここにいるわけ」の続きはどうしたんだ、とお叱りを受けて気がついた。失礼しました。

 いくつか注釈。

 連載の③で、テレビのスタジオに招かれた高校生が、「なぜ人を殺してはいけないのか分からない」と発言したがそこにいた著名な識者たちが誰も答えられなかった「事件」について。

 これは1997年夏のTBS「筑紫哲也ニュース23終戦記念特集「ぼくたちの戦争」でのエピソードで、スタジオには、筑紫哲也灰谷健次郎柳美里などの錚々たる顔ぶれがいた。社会に衝撃を与えた「酒鬼薔薇聖斗」が小学生の生首を校門に晒した「神戸連続児童殺傷事件」が起きたのは同じ年の春だった。

 また同じく③で、2000年代には「人を殺してみたかった」、「人を解剖してみたかった」と実験でもするかのような感覚で殺人をする若者が出てきたことについて。次のような事件が続いた。

▪️高3の男子高生が主婦を殺した「豊川主婦刺殺事件」(2000年)

▪️高1の女子高生が同級生を殺した「佐世保高1女子同級生殺害事件」(2014年)

▪️19歳の女子大生が77歳の女性を殺した「名古屋大学女子学生殺人事件」(2014年)

▪️北海道で19歳の男性が同じアパートの住人を殺害した事件(2015年)

 いずれも「人を殺してみたかった」「人を殺す体験をしたかった」と供述している。「佐世保事件」の女子高生は「人を解剖してみたかった」とも語ったという。

 

 では、以下、連載のつづき。これで終わりです。

《新しいコスモロジーとは》

 実はね、伝統的・宗教的コスモロジーが崩れつつあるのは日本だけじゃなくて世界のどこもなんだ。今や近代化の波は地球のすみずみまで覆って宗教を掘り崩している。そして鎖国したとしても近代化の流れは遅かれ早かれ進んでいく。ただ、他の国の崩壊は日本よりゆっくりでなだらかに進行しているのに対して、日本の崩壊スピードが突出して激しいようだ。

 少子高齢化が世界的に進んでいて、そのいちばん先頭に日本がいるよね。伝統的コスモロジーの崩壊も日本が最先端で突っ走っているみたいだ。
 
 じゃあどうしようかってことになるね。

 一つは伝統的・宗教的コスモロジ―に戻ろうという考え方がある。昔に戻ろうの動きは世界の各地で起きている。イスラム社会ではとくに激しくて、イランやアフガニスタンはじめムハンマドの時代に帰ろうという復古主義が興っている。アメリカでは宗教右派が家族の価値を守り、同性愛や堕胎に反対するなどの主張で、トランプ大統領登場を後押しした。日本では自民党右派、日本会議など保守勢力が、かつての「美しい日本」を取り戻そうと、家父長制や絶対天皇制的な価値観を復活させようとしている。でも、近代化は否応なく進むから、昔に戻ることは無理なんだ。世界各地の、昔に戻ろう運動は、長い目で見れば最後のあがきだと思う。
 
 そこで必要になっているのが、新しいコスモロジーだと思うんだ。

 この新しいコスモロジーは、宗教じゃなくて、現代科学をベースにしている。つまり、科学的コスモロジー。だから検証可能だし、新しい発見があれば、それを取り入れればいい。違った宗教ではコスモロジーが異なるけど、新しいコスモロジーは世界中の人が合意できる。宗教戦争みたいないがみあいは起こらないさ。

 ぼくたちはみな、宇宙の一部で宇宙とつながっている。このことを心の底から納得することで、ぼくたちの人生には無条件で意味があること、苦しくとも生きていく使命があることを自覚できる。そして人と人、人と自然が和していくべきだという倫理も明らかになっていく。なにより、宙くん自身が元気になるはずだよ。
 
 とここまで話して時間が来ちゃった。新しいコスモロジーの“すごさ”は次回もお話しするね。

 じゃあ宙くん、今年も元気で過ごそうね。