『道新』今井裕紀記者逮捕の衝撃3

 北海道新聞の今井裕紀記者の逮捕に対し、海外からも抗議の声明が相次いでいる。

拘束された今井裕紀さん(ロシアの報道より)

 10月16日、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)は、Yuki Imai記者の逮捕を非難し、即時解放を求める声明を発表した。

The International Federation of Journalists (IFJ) joins its affiliate the Japan Federation of Newspaper Workers' Unions (Shimbunroren) in condemning the arrest and call for Imai’s immediate release.https://www.ifj.org/media-centre/reports/detail/japan-russia-reporter-arrested-by-russian-security-services-for-alleged-espionage/category/press-releases

IFJウェブサイト


 これに先立ち、IFJの加盟団体である日本の「新聞労連」(日本新聞労働組合連合)は逮捕翌日の10月14日に声明を表明。https://shimbunroren.or.jp/statement-20261014/

 「報道の自由は民主主義の根幹であり、最大限に尊重されなければなりません。いかなる国・地域であっても、記者の取材活動と安全は必ず保障されるべきです。

 今後、記者の拘束が長期化することは絶対にあってはいけません。日本政府に対して、記者の安全確保を最優先に、記者ができる限り早期に自由の身になるよう全力を挙げることを求めます」。

 私が会員であるJCJ(日本ジャーナリスト会議)も10月21日、「北海道新聞記者の早期解放を求め、報道の自由を訴える」とする声明を出し、安全確保と一日も早い解放を訴えた。https://jcj.gr.jp/recentactivity/21555/

 ここである違和感が生じる。

 海外メディアや国際団体が今井さんの実名を挙げて抗議しているのに対し、日本のメディアや国内の抗議声明は「北海道新聞記者」と匿名扱いを続けている点だ。所属先の北海道新聞の匿名方針にならっているのだろうが、このまま匿名扱いでよいのだろうか。

 これは単なる表記の問題ではない。拘束されたジャーナリストを守るために報道機関は何をなすべきかという、ジャーナリズムの根幹に関わる問題だと思う。

 私が「実名報道が妥当」と考える理由は主に以下の点にある。

1)風化を防ぎ、世論を喚起する

 実名で伝えることで事件への関心が維持され、解放を求める世論が形成される。「顔の見えない」匿名記事は、瞬く間に社会から忘れ去られやすい。

 記憶に新しい例がある。2026年1月20日、イランでNHKテヘラン支局長が当局(革命防衛隊等)に拘束された。きわめて重大な事件であったにもかかわらず、匿名報道が続いたことで関心はすぐに薄れ、今やその支局長がどのような状況にあるか知る人はほとんどいない(4月6日に保釈されたものの、現在も国外に出ることは禁じられたままである)。

 私自身、長年北朝鮮による拉致問題に関わってきたが、拉致が大きな社会問題として動き出した決定的な転換点は、横田めぐみさんの父・滋さんが「匿名のままでは何も動かない」と意を決して実名・顔写真の公表に踏み切ったことだった。

2)メディア自身のダブルスタンダードを正す

 日本のメディアは平素、検証可能性や公共性の観点から「事件事故は実名報道が原則」と主張してきたはずだ。にもかかわらず、自社や同業者が当事者になった途端に説明もなく「匿名一辺倒」に終始するのは、「ダブルスタンダード」と言われても仕方ないだろう。

 本人の氏名や経歴、これまでの取材実績、人となりが伝わってこそ、読者は事件をリアルに理解できる。また、ロシア側が主張する「スパイ容疑」が本当かどうかを具体的に検証するための情報も得やすくなる。

3)外交的交渉力を高める

 国内外で実名による関心が高まれば、身柄を拘束し続けるロシア側に対して「不当逮捕を続ける外交的コスト」を直接認識させる圧力となる。強い世論のバックアップがあってこそ、外交交渉も有利に進められるのではないか。

 「北海道新聞」をはじめとする国内メディアは、匿名にとどめる合理的な理由を説明していない。

 推測しうる理由は二つある。

 一つは「本人の安全確保(非公開によるリスク回避)」だが、ロシア当局側は当初から実名を公表しており、国際的にも実名が流布している現状において、日本国内だけ名前を隠すことで安全が確保されるとは考えにくい。

 もう一つは「家族のプライバシーや二次被害の防止」だろう。過熱取材やネット上の誹謗中傷といった弊害は確かに懸念されるが、これは事件報道全般で常に直面する課題であり、今回に限った特殊なリスクではない。

 報道機関である以上、仮に匿名を選択するのであれば「どのようなリスクを想定し、なぜ実名公表を避けるのか」を可能な限り読者に説明すべきである。その説明すらない現状において、私は今回の匿名維持には実益が乏しく、実名を公表するほうが本人の安全と早期解放に資すると考えている。

 こうした中、ついに日本国内でも今井裕紀さんの実名を掲げた早期解放を求める署名運動が始まった。

 一人でも多くの方の賛同と署名を呼びかけたい。

www.change.org

(つづく)

『道新』今井裕紀記者逮捕の衝撃2

 ロシアは、ロシア連邦保安局(FSB)が北海道新聞の今井裕紀記者を逮捕しモスクワに移送した映像を公開。ロシアのテレビニュースでも流して広く国民に周知させようとしている。

 映像は、FSB捜査官がホテルの今井さんの部屋に突入していくシーンから始まるが、一見して異様である。

無抵抗の今井さんに馬乗りになって制圧する必要があるのか?

今井さんにPCを操作させるFSB捜査員

鉄格子の隔離ブースと思われるところに入れられる今井さん

 秘密警察=諜報機関の捜査官(スペシャルエージェント)がFSB(ФСБエフ・エス・ベ)と大きなロゴのついたジャケットを着て逮捕現場に向かうだろうか。

 また、相手は非武装の日本人記者なのに、まるで戦闘における急襲作戦のように部屋に突っ込んでいき、今井さんを床に押し倒して馬乗りになって制圧している。

 明らかにロシア国民に見せる“演出”であり、これが刑事事件ではなく、きわめて政治的な意図のもとで行われた“作戦”であることを示している。

 ロシア外務省は、今井記者の逮捕に関して出した声明のなかで、「日本政府に対し、ロシアに対する敵対政策を直ちに停止するよう強く要求する」としており、政治的な圧力の一環と見てよいと思う。

 今後“からめ手”も使って日本に政策変更などのいわゆる“ディール”を迫ってくる可能性もあるだろう。

 そもそもFSBはプーチンの政敵暗殺までも遂行するむき出しの暴力装置だ。

takase.hatenablog.jp

 今井さんが勾留されているのはFSBが管理・運営するレフォルトボ拘置所だが、ここはスターリン時代に秘密警察(KGB)の刑務所および尋問施設として知られた。政治犯が収容され残酷な拷問や処刑が行われた悪名高い施設である。

 現在も被疑者への扱いは非人道的とされ、今井さんも苛烈な尋問で強制的な“自白”を迫られている可能性がある。

 そして、外国人が刑法第276条(スパイ罪)を適用された場合、10年以上20年以下の自由剥奪(懲役刑)という極めて重い刑罰が科される。現在のプーチン政権のもと「スパイ」の定義は当局の恣意的な判断にゆだねられている。今井さんの置かれた状況はきわめてあやうい。

 今井さんと同様、「スパイ」容疑で逮捕され、レフォルトボに入れられたのが、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」のエバン・ゲルシコビッチ記者だ。

 米国籍のゲルシコビッチ氏はモスクワ特派員だった2023年3月、身に覚えのないスパイ容疑でFSBに拘束され、禁錮16年の判決を受けた。米ロやドイツを巻き込んだ交渉により、24年8月、ドイツで反ロ活動家の亡命者を暗殺して殺人罪で終身刑を受けたロシアの諜報機関員らの身柄と引き換えに米国に戻ることができた。

テレ朝「報道ステーション」より

ゲルシコビッチ記者

 ゲルシコビッチ記者は産経新聞のオンライン取材に応じ、今井記者が「通常の取材をしていたのは明らかだ」として解放を訴えた。また日本政府がロシアに記者の解放を要求するとともに、世論が声を上げることも重要だと語っている。

《ゲルシコビッチ氏は、道新記者がウクライナに派兵される兵士の情報を日本の情報機関のために集めていたとするFSBの主張については、「記者として当然の取材活動をしただけだ」としてスパイ疑惑を否定し、記者を解放するよう求めた。

 その上で、ロシアが他国に拘束されたロシア人の身柄をロシアに戻させたり、その他の要求を日本にのませたりするための交換要員として、道新記者が拘束された可能性があると指摘した。

 記者の帰還に向けては日本政府が他国とも連携してロシアに解放を求めるだけでなく、政府が動きをやめないように「世論がプレッシャーを与え続けること」が求められるとした。

 ゲルシコビッチ氏によれば、FSBの拘束施設はロシア語の手紙なら差し入れできる。「道新記者が一人ではない」と伝えるため、励ましの手紙を家族、友人、支援者から募って届けることも大切だと語った。》
https://www.sankei.com/article/20261020-OWUDJIT5K5J43LE2NJZ5HTFX2Y/

 彼は、共同通信の取材に、今井記者の拘束は「ロシアの人質外交であることが明白だ」と述べロシアを批判。記者解放にはロシア側が求める何らかの条件交渉が必要で、日本政府には同盟国などとの協力が欠かせないとの認識を示したという。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/523684

 今井記者の逮捕は、政治・外交上の重大問題であるとともに、報道の自由からもきわめて深刻な事件である。

 アメリカを拠点に報道の自由を擁護する団体「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)は14日、「外国人ジャーナリストがロシアで逮捕され、スパイ容疑で摘発される可能性があるという報道は非常に恐ろしいものだ」として、ロシアの対応に強い懸念を示した。

 そのうえで、「ジャーナリストを、より広範な地政学的紛争における交渉材料として利用してはならない」と述べ、男性記者を直ちに解放するよう訴えている。

 CPJによると、ロシアで現在、取材活動に関連して拘束されている記者は少なくとも30人に上るという。

CPJが公開している拘束されているジャーナリストのリストにはYuki Imaiの名が

 海外から今井裕紀記者への支援の声が上がる一方で、日本では事の重大さに比べて関心が高まっていない。

 それはこの事件が「北海道新聞記者」と匿名での報道に留まっていることが関係しているように思われる。
(つづく)

『道新』今井裕紀記者逮捕の衝撃

 「北海道新聞」の今井裕紀記者がロシアの秘密警察に逮捕された。

 

 ロシア連邦保安局(FSB)は10月13日、北海道新聞ユジノサハリンスク支局の記者をスパイ容疑で拘束したと発表した。

 この記者は今井裕紀さんで、支局任期を終え、ロシア出国を予定していた日の前日にサハリン州のホテルで拘束され、その後モスクワに移送された。

ホテルの廊下を今井記者の部屋に向かうFSBスタッフ。

逮捕された今井記者

 FSBは記者が日本の情報機関の指示でクリール諸島(「北方領土」と千島列島)からウクライナへの特別軍事作戦に動員された兵士や志願兵の人数に関する情報を収集・保管していたと主張しているという。

 記者はモスクワのレフォルトボ拘置所に勾留されており、裁判所は12月12日までの勾留を認めている。

 日本政府はスパイ行為を否定。高市早苗首相は15日、日本がロシアでスパイ活動を行っているとのロシア当局の主張について記者団に「そのような事実はない」と語った。

 北海道新聞社は16日の朝刊で、山本武史編集局長名で以下の見解を示した。

《北方領土を事実上管轄する極東サハリン州の州都ユジノサハリンスクに、記者を常駐させたのは1992年からです。ロシアのウクライナ侵攻後、日ロ政府間の関係は悪化しましたが、こうした時だからこそ、ロシアに向き合い続けてきた新聞社が、極東地域の状況や変化を伝える必要があると判断し、拠点を維持してきました。

 今回、ロシア連邦保安局(FSB)がユジノサハリンスクに駐在していた北海道新聞の男性記者をスパイ容疑で拘束したと発表しました。発表文では、日本の諜報機関の指示に基づいて、ロシアの安全保障を脅かす目的で情報を収集していたなどとしています。

 北海道新聞は、政府から独立した報道機関です。政府の指示に基づいて取材や情報収集を行うことはありません。

 記者はロシアの記者査証(ビザ)を取得して活動しており、報道の自由と取材活動は尊重されるべきです。具体的な拘束理由などが説明されないまま、記者を拘束した際の映像が広く公開されたことも、認めることはできません。

 私たちは今、記者の安全確保を最優先に考え、対応しています。外交ルートを通じて事実関係の確認と情報収集を急いでおり、早期の解放に向けて、万全を期して取り組んでいきます。》

www.hokkaido-np.co.jp

 ロシアは当初、領事面会を拒否していたが逮捕から2週間近くたった26日にやっと認め初めて面会が実現した。

《外務省によると、記者の健康状態に問題はないという。日本政府は引き続き、記者の即時解放と人道的配慮や公正・公平な取り扱いを強く求めていく方針。

 記者が勾留されているモスクワ東部のレフォルトボ拘置所で面会した。

 FSBは13日、記者をロシア極東サハリン州ユジノサハリンスクでスパイ容疑で拘束し、モスクワに移送したと発表。15日に拘束の事実を相手国に知らせる「領事通報」を行ったが、面会は実現していなかった。日ロ両国間の条約は拘束から4日以内に領事面会を行う権利を定めており、日本政府が早期面会を求めていた。》https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1396842/

 18日の『サンデーモーニング』が今井記者の逮捕を報じた。膳場キャスターがスタジオで「非常にショックだったんですけども、浜田さん、この問題どうお考えになっていらっしゃいますか?」と浜田敬子さんに振った。

 以下、浜田さんのコメント。

浜田敬子さん(ジャーナリスト、元AERA編集長)

 「はい。私も非常にショックを受けています。

 新聞・テレビの報道に携わっているものとして、行政機関の権力の監視をする役割をしていて、政府のスパイをするなんて、考えられないわけです。

 ロシア政府はスパイ容疑だと言うのであれば、その記者、新聞社と日本政府の関係を本当に明らかに、きちんと構成すべきだと思います。

 もちろん記者だけじゃなくて、民間企業の人でも、政府間の交渉事に人質に取られるというのは本当にあってはならないですけれども、私は今回の狙い、もう一つあると思っていて、ロシア内部で取材をしている報道機関への萎縮を狙ったんじゃないかと思っています。

 と言われるのも、今回の記者が取材していたと言われる、ロシアの極東とか辺境から、相当、ウクライナの戦争に動員されてるという風に言われていて、これはロシア政府にとって非常に不都合な事実なわけですよね。

 そのことを取材していたとすれば、非常にそれがやっぱりロシア政府にとって都合の悪いことだったんじゃないかなとも思います。

 じゃあ、私たちに何ができるかっていうと、新聞協会とか、組合なんかも、今声明を出して、団結をして、支えようということを言っていますけれども、ぜひ、日本政府にも働きかけて、日本政府は例えば、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルの記者が拘束されたときに、どういう交渉をしたのか、アメリカから情報をもらうとか、そういう表の交渉と裏の情報収集みたいなことも含めて、ぜひ、努力をしていただきたいと思います。」

 浜田さんが言及した「ウォール・ストリート・ジャーナル」の記者はエバン・ゲルシコビッチ氏で、2023年にスパイ罪でロシアで逮捕され1年半拘束されて解放された。

 ゲルシコビッチ記者は今井記者の逮捕をどう見ているのか。

(つづく)

 

久々に見た「野党の質問力」

 前回の衆院選では、立憲民主党の有力議員が相次いで落選し、共産党も議席を減らした。国会から迫力ある質問がめっきり減った印象がある。

 山積する問題に対して、野党の追及は甘く、国会審議も精彩を欠いていた。そんななか、久々に高市内閣に鋭く切り込む質疑があった。

 10月16日の参院予算委員会。立憲民主党の辻元清美参院議員会長代行が、質問のトップバッターとして登場した。

問題の文書を入手したと小泉大臣に迫る辻元議員(本ブログに紹介した動画より)

 簗(やな)和生前農水相の任命責任、消費税減税が地方や現場に及ぼす影響、米国産ジャガイモの輸入問題、自衛隊の個人情報管理、憲法と歴史認識、G7首脳会議の欠席――。幅広いテーマを取り上げ、高市早苗首相や茂木外相、小泉防衛相らに鋭く迫った。

 高市首相はいつものように正面から答えず、かわす場面が目立った。しかし、辻元氏が一つひとつ論点を積み上げて追及すると、かつて「この不見識な見解を放置できない」と批判した村山談話についても、歴代内閣の立場を引き継ぐと答えざるを得なかった。

 この質疑が、立憲民主党の支持率上昇につながったのではないか。そんな見方も出ている。

 以下、SmartFLASHの記事「立憲民主党の支持率が急上昇、野党トップの事態にネット騒然…背景に指摘される辻元清美氏の “アッパレ” 質疑」から抜粋する。

《現在、国政で立憲民主党の政党支持率が急上昇し、ネット上が騒然としている。

 10月19日、選挙ドットコムとJX通信社が17、18日に実施した世論調査の結果が発表された。電話調査での立憲民主党の支持率は8.2%。自民党の24.6%に次ぐ2位となり、野党トップに躍り出た。

 前回の9月12、13日の調査から3.7ポイントの上昇だ。前回、野党トップだった国民民主党の4.5%を大きく上回った。(略)

 政治担当記者が言う。

「同じ日に実施された共同通信の世論調査では、立憲の政党支持率は0.7ポイント増の4.2%と、野党では国民民主党8.4%、参政党6.1%、チームみらい5.2%、公明党4.6%に次ぐ5番手でしたから、たしかに謎といえば謎ですね」

 自民党ベテラン秘書は「辻元清美さんの、10月16日の国会質疑が評価されたのではないか」と推察する。(略)

 簗和生前農水相の辞任をめぐっては、高市首相の決断の遅さや危機管理能力の欠如を追及。憲法と歴史認識については、高市首相の過去の発言「反省なんかしておりません」を取り上げた。

 そして、戦後50年の1995年8月15日に村山富市首相が閣議決定を経て発表した「村山談話」を含め、歴代内閣の立場を引き継ぐという答弁を引き出した。(略)

「また、G7首脳オンライン会議を高市さんが欠席したことについて、理路整然と追及するなど、質問内容が明瞭で鋭く、見ていてとてもわかりやすかったという印象を受けました。

 また、高市さんをただ批判するだけでなく、語りかけるような場面もあり、有権者から好感を持たれたのでしょう。この質疑が支持率急上昇につながったかどうかは不明ですが、敵ながらアッパレという感じでした」(前出・ベテラン秘書)

 辻元氏は1960年4月生まれ、高市首相は1961年3月生まれ。同じ学年で、政治信条は対照的だ。

 前出の政治担当記者が言う。

「高市氏と辻元氏は、20代のころから深夜の討論番組『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)で論争をしてきた関係にあり、お互いに知った仲です。

 16日の質疑では、辻元氏が簗前農水相更迭の決断が遅れたことについて『総理になっても自然体でいってください。内閣も行政もきちんと管理ができなかった、自分の決断も遅かったと認めたほうがいい』などと促す場面もありました。

 また、高市氏の首相就任後は『鎧を着ているような気がするのね。鎧を着て、嫌な話は聞きたくないという感じに見える。肩に力が入りすぎている』と語りかけるなど、追及しつつも相手を気遣う姿勢を見せていました。こうした辻元氏の国会でのやり取りが評価された部分は、たしかにあるかもしれません」

 自民党1強といわれる政治状況に、立憲民主党は変化をもたらせるだろうか。》

いつものように「逃げ」の一手だが、追い詰められてタジタジとなっていた

 辻元議員の質疑、一見の価値があるのでここに動画を紹介する。

 今回の質疑は、論点の幅広さだけでなく、追及の組み立て方にも見どころがある。

www.bing.com

 7分20秒ごろ~簗前農水相の辞任と首相の責任。
 高市首相の決断の遅さを問い、「危機管理がなっていない」と追及する。

 15分ごろ~ 「自然体でいってくださいよ」。首相に助言するように語りかける。18分ごろには「鎧を着ているような……」「肩に力が入りすぎでは……」と、批判を受け入れようとしない姿勢をただす。

 34分ごろ~ 自衛隊の個人情報管理問題 
 小泉防衛相はかたくなに「答えられない」と繰り返す。
 これに対し、辻元氏は問題に関する文書を入手していることを明かし、「お昼休みに渡しますから読んでください」と迫る。「大臣辞任になりかねない」と、責任の重大さを突きつける場面も。

 40分ごろ~ 憲法改正と立憲主義 
 立憲主義とは何かとい大きな原則から順を追って問い、首相の憲法観に迫る。

 51分20秒ごろ~ 村山談話と歴史認識 
 高市首相の過去の発言を踏まえ、歴代内閣の歴史認識を引き継ぐのかをただす。

 55分30秒ごろ~ G7オンライン会議の欠席 
 高市首相がG7首脳オンライン会議を欠席した問題を追及。過去の首相の対応(欠席した首相はこれまでいなかった)も踏まえ、危機管理上の問題を指摘する。

 質疑の最後は、「危機意識いっぱいで質問を終わります!」と締めくくった。

 みごと!

 

ウクライナを追い詰めるトランプ

 トランプ政権がウクライナを追い詰めている。

 ロシアによる侵略を受けるウクライナに対し、トランプ大統領はロシアへの制裁を緩和する一方、ウクライナにはロシアの製油所への攻撃をやめるよう圧力をかけている。

 ロシアがウクライナのエネルギー施設を攻撃し続けるなか、ウクライナにだけ攻撃停止を求めるというあまりに一方的な対応。

ロシアは市民生活の破壊を目的に、エネルギーインフラへの攻撃を強め、ウクライナは効果的な迎撃ができなくなっている(フジテレビ14日)。これから冬を迎えるにあたり、市民の不安は募る。

 トランプ氏は、ロシア産エネルギーの供給を増やして燃料価格を引き下げることを優先し、ロシアのエネルギー輸出に対する制裁の適用を猶予した。11月の米中間選挙を前に、国内の燃料価格を抑えたいという思惑があるとみられる。

 しかし、ロシアの石油収入を確保することは、戦争を続けるプーチン政権を経済的に支えることにつながる。

 そもそも現在の燃料価格の高騰は、トランプ大統領の軽率かつ違法なイラン攻撃によるホルムズ海峡の封鎖で起きたことで、いまやイエメン・フーシ派の軍事攻勢はじめ中東情勢の流動化を招き、化石燃料の供給は今後が見通せなくなっている。それをあたかもウクライナの責任に帰すかのような理不尽な対応である。

 ゼレンスキー大統領は、トランプ政権の対応が事実上、ウクライナに降伏を迫るものになっていると批判する。一方、トランプ氏はゼレンスキー氏への非難を強め、彼に代わって「合意を結べる新しい指導者を選ぶべきだ」(10日)とまで言った。プーチンに擦り寄るトランプ氏の本性がむき出しになった物言いである。

 ロシアはウクライナのエネルギー施設への攻撃を続け、発電所などを破壊している。ウクライナが攻撃を控えても、ロシアが攻撃をやめる保証はない。それにもかかわらず、トランプ政権はウクライナにロシアの製油所への攻撃停止を迫っている。

 深刻なのは、米国による軍事支援の制限だ。

 ロシアの弾道ミサイルを迎撃するうえで重要な米国製パトリオットの迎撃ミサイルはほぼ底をついたとみられ、ウクライナの防空能力は大きく低下している。ゼレンスキー氏が追加支援を求めても、トランプ政権は対応を進めず、他国からのミサイル移転の承認も遅らせている。(そもそもパトリオットは供与ではなくウクライナが対価を払って入手している)

 さらに、米国の軍事情報の提供が一時滞った。ウクライナへの圧力の一環だろう。これに加え、米スペースXの衛星通信システム「スターリンク」の軍事利用に制限がかるという重大な問題が生じた。スターリンクは、ウクライナ軍が前線でドローンを運用するための重要な通信基盤だ。

私が取材したドローン部隊でもスターリンクを使って作戦を行っていた(2023年10月高世撮影)

takase.hatenablog.jp

 こうした情報提供や通信に支障が生じれば、戦場で兵士の命が危険にさらされるだけでなく、ロシア軍からの民間施設への攻撃を阻止できず、市民の犠牲が増えることにつながる。米国側は情報提供の停止や通信制限への関与について一部を否定しているが、ウクライナが軍事面でこれまでになく追い詰められていることは確かだ。

 つまりトランプ政権は、侵略を受けているウクライナには攻撃の自制を求めながら、ロシアへの制裁を緩和し、ウクライナの防衛に不可欠な兵器や情報の提供にも制約を加えている。ウクライナに抵抗する力を弱めたうえで、ロシアに有利な条件で和平を受け入れさせようとしているのである。

 ゼレンスキー大統領は、米国がロシア側に立つ可能性について「両国が手を組めば、われわれは勝利することも、持ちこたえることもできなくなる」と悲痛な警告を発している。

 そもそも、ウクライナ戦争は、ロシアが隣国ウクライナに一方的に侵攻したことから始まった。主権国家への武力侵略は国連憲章に反する明白な違法行為であり、その責任は侵略を決断したロシアにある。

 ところが、戦争が始まった当初から、これをロシアと米国の「代理戦争」と位置づけ、「どっちもどっち」と論じる人々がいた。米国の対ロシア政策やNATOの東方拡大を批判することと、ロシアによる侵略の責任を問うことは、本来、別の問題である。両者を混同すれば、侵略した側と侵略された側の違いがぼやけ、ロシアの責任を軽く見せることになる。

 いま、トランプ政権がウクライナに譲歩を迫り、ロシアへの制裁を緩めようとしている現実を前に改めて問いたい。あの戦争を「代理戦争」とみなすことで、侵略されたウクライナの人々の独立を守ろうとする主体的な立場を見失ってはいなかったか。ロシアの侵略責任を曖昧にする議論をしてきた人々には、その言説が何をもたらしたのか、いま一度、真剣に振り返ってほしい。

マスキズムー富豪が支配する民主主義

 9月下旬から10月初旬まで欧州(リトアニア、ポーランド)を旅していてブログ更新が遅れました。すみません。旅の記録はこれから書いていきます。

 久しぶりに見たきのう(18日)の『サンデーモーニング』で気になったニュース。

 世界一の富豪イーロン・マスク氏が米中間選挙に史上最大級の資金を投入して共和党を支援しているという。

 マスク氏は、11月3日の米中間選挙を前に、共和党を支援する団体へ7月以降だけで2億7600万ドル(約440億円)を献金した。ニューヨーク・タイムズが12日に報じた。献金額は、今回の選挙サイクル全体では3億6600万ドル(約580億円)にのぼる。

 最大の献金先は、共和党の上院多数派維持をめざすスーパーPAC「Senate Leadership Fund」(1億5800万ドル)。ほかに、自らが設立した「America PAC」に7600万ドル、下院共和党を支援する団体に2000万ドル、テキサス州の上院候補を支援する団体に1000万ドルなどを投じたという。共同通信によれば、同時期に民主党系団体が集めた献金の総額を上回る規模で、「米史上最大級の政治献金」とされる。

 背景には、共和党に吹く逆風がある。対イラン作戦の長期化や物価高でトランプ政権の支持率は32%と過去最低水準に落ち込み、民主党が上院を制する確率が高まっている。マスク氏の巨額献金は、共和党に資金面の優位をもたらしている。

 マスク氏は2024年の大統領選では約2億9000万ドルを投じてトランプ氏再選を支援し、政府効率化省(DOGE)を率いた。だがその後は公然と対立して政権を去った。いまは和解し、先週にはトランプ氏が国家科学賞を授与している。

トランプ大統領から国家科学賞を授与されるイーロン・マスク氏(2026年10月8日)

 個人が候補者に直接献金できるのは1人3300ドルまでと厳しく制限されているが、PACへの資金提供には事実上上限がない。この「抜け穴」を使えば、一人の富豪が選挙の行方に大きな影響を及ぼすことができる。マスク氏は事業拠点のあるテキサス州の接戦の上院選にも資金を投じており、政界への影響力確保が狙いとみられる。

 民主主義と金の問題を、あらためて考えさせられるニュースだ。

 これについて、スタジオで浜田敬子さん(『AERA』編集長や『Business Insider Japan』統括編集長などを歴任したジャーナリスト)はこうコメントした。

浜田敬子さん(18日のサンデーモーニングより)

《「マスキズム」という、言葉が言われ出してるんですね。私、「マスキズム」というのは、第2次トランプ政権をすごく象徴する言葉だと思っています。

 それは、巨大企業の、CEO、経営者が、民主主義も資本主義も支配して、国家の基盤に対して甚大な支配力を持つということだと思います。

 こうやって選挙で、トランプ政権に恩を売って、国家的事業とか公益的な事業を独占的に請け負うと。スペースXという宇宙産業、企業を持ってますけども、イーロン・マスクは。それが象徴していて、国防総省もNASAなんかも非常にスペースXに頼っている。  

 もっと言えば、スターリンクという通信の衛星もイーロン・マスクは持っているわけですけども、ウクライナとのロシアとの戦争で、今回スターリンクの通信速度を遅くすることによって、非常にウクライナが不利になるように。つまり、戦争の帰趨まで一企業のCEOが力を持ってしまっている。

 今回、中間選挙で、例えば、DSAと言われるような民主社会主義者の団体はですね「オリガルキー政治と戦う」、オリガルキーって寡頭制というんですけども、つまり、こういった一部の、権力者、企業経営者が支配する政治と闘うと。これがキーワードになっていて、まさに中間選挙の争点の1つにもなると思っています。》

 これに膳場キャスターが「なんか本当にどんどん民主主義から遠ざかっているなというのを、実感する感じがします」とフォローしていた。

 マスキズム。これまでに見られなかった、民主主義社会における新たな危機だと思う。   
 そして浜田さんが指摘したように、彼の通信衛星がウクライナの戦況を左右する深刻な事態が数日前から起きている。
(つづく)

北朝鮮は今 石丸次郎氏の分析3

 BSフジ「プライムニュース」(9月2日OA)でのジャーナリスト、石丸次郎さんの分析の続き。

 石丸さんたちは、北朝鮮国内のパートナーから現地の物価情報を得た。それは驚くべきものだった。

キャスター

Q:食用大豆油。1キロで8万ウォン(197円)、醤油1瓶9000ウォン(22円)など、国営商店の食料品も収入に対してかなり割高な販売価格となっています。

 そして、日用品についてもなんですが、こちら。

 ズラッと表がありますが、靴下1600ウォン(4円)、運動靴2万2000ウォン(54円)と、こちらも激安なんですけれども、収入が低いため厳しい暮らしを余儀なくされている、ということのようなんですね。

 

石丸

《比較として知っておいていただきたいのは、労働者のざっと一ヶ月の賃金がですね、月給が5万ウォンくらい。5万ウォンで、これがどれだけ買えるか、っていうことを一つの物差しとして考えていただければいいと思います。

 

キャスター

Q:ちょうどここにあるこのズボン2本分くらいだってことですね。

 

石丸

《そういうことですね。それくらい購買力落ちちゃった、と。3年間のあいだに。》

 

キャスター

Q:これはその、お値段というのはもちろんその、固定されている、ということでしょうか?

 

石丸

《これ国営商店で、価格を誰が決めているか、市場が活発だった時っていうのは、一人ひとりの商人が自分たちで決めてたんですよね。自分の裁量で仕入れてきて、自分で値付けをしてたんだけど、この国営商店っていうのは、中央政府の役所の中に価格局というところがあって、価格局が決めます。

 ところが、原材料の多くを外国から、特に中国から入れてるので、食べ物はちょっと違いますけれど、この衣料品なんかはですね、原材料を中国から入れてますから、当然その外貨レートの変動の影響を受ける。それから油代ですね。運ぶための車の輸送のお金も油代が影響してきますので、国営商店の値段を全国一律で唯一価格制にしたかった。それ一時期実施したんですけど、それがもうできなくなっちゃってる、と。もう毎日のように、毎日とは言わない、数日に一回、価格が変わるようになってます。》

 

キャスター

Q:そうすると、なかなかこの月給で、こういったものを買って生活を営むってなかなか難しいだろうということは火を見るより明らかなわけですけれど、そういった中でも地方からは不満の声ですとか、そういったものっていうのは上がったりしないんですか?

 

石丸

《いや、皆さん不満なんですよ。不満持ってるんだけど、集団で何か訴えたりなんてことはとてもじゃないけど、それはもうできないことですけれど。

ただ、例えば老人がですね、「こんだけ高かったらどうやって食べていくの?」と言って、役所に行って「ちょっとお米ください」という風にワーッと集まったりはするらしい、することもあるっていう風に言いますけれど、何か抗議行動とか、何かデモをやるとかっていうことは、北朝鮮にはあり得ないことですね。私も聞いたことありません。》

 

キャスター

Q:そうした中で、こういった変化も近年表れているということで、韓国統一省が発表している「韓国に入国した脱北者数の推移」なんですが、見ていきますと、2009年は3000人近くの脱北者が韓国に入国していましたが、徐々に減少し、去年は200人台となりました。

石丸

《北朝鮮から離脱して間もなく韓国に入った数字じゃないんですよ。もう何年も中国なり、あるいは第三国にいて、韓国に入った人がほとんどなんですね。

 だから、船とか、それから中国経由でもいいんですけれど、近々に離脱して入った人は、もうこの数年は一桁台です。10人いかないんですね。

 ものすごく減って、国境警備が厳しくなってるっていう。今、豆満江、鴨緑江のあの、川の水も触ることができないくらい、近づくことが難しいっていう状況がありますね。

 それから軍人、軍事境界線、韓国との軍事境界線もガチガチになってますから、軍人が逃げてくるっていうことも、本当に困難、難しくなっている。ほぼ不可能になったと見ていいと思いますね。

 統制が強いので、もう抗議すら、集団的な抗議なんて想像もできない世界なんだという風に思いますよ。》

 

最後に、石丸さんは、今やるべきこととして「外交をやろう」と提起した。

石丸

《お二人(磯崎氏、峯村氏)の話とも重なる部分もあるんですけれども、外交をやろうと。願望では動かないし、それから米国頼み、トランプさんに何かやってもらうということでも、逆にですね、状況悪くなるかもしれないわけですよね。

 拉致問題、それから国交の正常化、隣国ですからね、ちゃんとした関係にならなきゃいけない。そのためにはお書きになった自立的に考えなきゃいけない、戦略的に考えなきゃいけない。つまり、外交をやるっていうのが基本なんだっていうところに立ち返るのが重要じゃないかなと思います。》