参院選ではもっと産業政策の議論を

 きのう、6月で40度超を群馬・伊勢崎市で記録した。観測史上初だという。

 きょうも猛暑。近く客が来るので、この機会にと障子の張り替えをする。つれあいに「こんなに暑いのにバカ」となじられながら、汗だくで4枚張り替えた。一人でやるのはけっこう大変だった。
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 24日の金曜は、タイから一時帰国した作家の笹倉明さんを囲んで飲み会。

笹倉明さん。今秋、還俗するという


 笹倉明さんは1989年、ジャパゆきさんの殺人事件をテーマにした『遠い国からの殺人者』で直木賞を受賞した。私はその前に笹倉さんと知り合い、彼がフィリピンに取材に来たときに案内したりとお付き合いがあった。

 酒の席での私の話を笹倉さんがおもしろがり、小説にした。フィリピンで起きた実際の事件が基になっていて、主人公のジャーナリストのモデルは私。『報復コネクション』(集英社 1989)という小説だ。

takase.hatenablog.jp


 笹倉さんは2015年からタイで仏僧となってチェンマイの僧院に入っていたが、この秋に還俗(げんぞく)するとのこと。また物書きになるという。

笹倉さんと

 7年近い修行は何をもたらしたか。今後どんな作品を書くのか。
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 この間のニュースから。

 ロシアのウクライナ侵攻からはや4カ月がたった。

 激しい包囲戦が続いていたウクライナ東部の要衝セベロドネツクが25日、事実上ロシア軍に陥落したようだ。これでロシア軍はルガンスク州のほぼ全部を支配したことになる。マリウポリのように大量の兵士が捕虜になることはなかったようだが、ウクライナ側は守勢に立たされている。

 軍事的な意味より政治的な意味あいが大きいとされロシア側の士気にもプラスに働くだろう。

 ウクライナ政府によれば東部ドンバス地方での火力はロシアがウクライナの10倍以上で、西側からのさらなる武器支援を求めている。

 いまさかんに「正義派」(ウクライナが勝つまで戦争を続ける)か「和平派」(とにかく一刻も早く和平を)かという議論の構図が提示されることが多いが、篠田英朗先生によるとそれは「親露派の偽りの問い」だという。

 ウクライナに「正義」を放棄させる「和平」はありえないと。

篠田vs東郷

 篠田氏の論戦は続く。

篠田vs東大作

 私は以前からロシアのウクライナ侵攻は、米国がベトナムから撤退するパターンで考えていた。世界はロシアを撤退させなければならない、と。

 米国が武器援助を続ければ戦争を長引かせるだけだという主張があるが、いまのウクライナはレイプしようとするロシアに必死に抵抗しているようなもので、その抵抗は支援されなければならない。

 一方、ウクライナ軍からの逃亡が増えているとのリポートがある。

英国国防省「ここ数週間、ウクライナ軍からの兵士の逃亡が起きているようだ。もっともロシア軍の士気の低下は酷いままで、兵士が命令を拒否したり将校とにらみ合うなどの事態も起き続けている。」(19日)


 圧倒的な火力で劣勢に置かれた兵士が戦線を離脱したくなるのは人情。ロシアへの制裁とウクライナへの軍事を含む支援は継続されなくてはならない。
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 参院選が始まった。

 どの党も「給付金」「補助金」「減税」などバラマキの横並びに見える。

 安倍元首相が去年、アベノミクスを擁護してトンデモ発言を繰り返したのをこの時期思い出してほしい。
「子どもたちの世代にツケを回すなという批判がずっと安倍政権にあったが、その批判は正しくないんです。なぜかというとコロナ対策においては政府・日本銀行連合軍でやっていますが、政府が発行する国債は日銀がほぼ全部買い取ってくれています」
「みなさん、どうやって日銀は政府が出す巨大な国債を買うと思います?どこかのお金を借りてくると思ってますか。それは違います。紙とインクでお札を刷るんです。20円で1万円札が出来るんです」(!!)

 まるで飲み屋で与太話している感覚だが、膨大な国債発行と異次元の金融緩和が常態化して、政治家もみな日本の危機的な財政に麻痺してしまったのか。

www.asahi.com

 私は個人的には「分配」よりも、将来への経済プラン、とくにどんな産業を伸ばしていくのか、どういう産業で日本が食べていくのかで争ってほしい。

 一例を挙げれば、日本経済の最後の牙城とされる自動車産業がいよいよ危ない。EV(電気自動車)化で差をつけられつつある。日本はEVの性能、価格、充電設備どれを取ってもヤバい。

www3.nhk.or.jp

先進国で充電スタンドの数が減っているなんて、日本以外ありませんよ!EVの数が少なすぎて採算が合わないという理由もあるという

www.nikkei.com

EVの畜電池生産でもずるずると後退している。CATL(中国)の伸びがすごい。今月、航続距離が1000km超で10分で8割充電という世界最高の電池パックを発表したという。

www.asahi.com

 電気機器、半導体、携帯電話、太陽光パネルなど、日本が先頭を走っていた産業で次々と競争力を失うパターンがいよいよ自動車に及んできた気配がする。

 これは政府の産業政策の誤りによるもので、いまだに脱炭素化への大胆な踏切をためらっている。このままだと、自動車産業を失うばかりか、次世代の産業開拓でも出遅れてしまうだろう。

 さかんにSDGsがどうのと一応口では言ってみても、政策で裏打ちしなければ、スーパーにはマイバッグを持っていきましょうレベルの話で終わっちゃうよ。

 「骨太」の産業政策の議論を望む。

横田夫妻とウンギョンさんの写真公開の真実2

 21日の『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』の出版記者会見の動画がアップされたのでご案内しよう。

www.youtube.com


 「拉致問題がどうなっているのかが見えず悶々としていたが、今回の出版でよくわかった」との声がたくさん寄せられている。

 メディアが伝えるのは、「全ての拉致被害者の即時一括帰国」を求める拉致家族の声と首相や閣僚の「最重要課題として」努力するとの決意表明、それにもかかわらず何年も進展が見られない現実だけだ。これでは何がどうなっているのか分からないのは当たり前。

 「救う会」、「家族会」、内閣の三位一体のもたれあいが政府に不作為=外交努力をサボらせることを招いている構造に切り込まないメディアの責任は大きい。
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 さてきのう、西岡力救う会」会長による有田芳生北朝鮮拉致問題~極秘文書から見える真実』(集英社新書)への批判を紹介したが、きょうは、これがいかに事実を誤認しているかを指摘したい。

 まず、「看過できない」という三つのポイントのうち、①極秘文書を公開していいのか、②拉致被害者5人に了解を取っていない、については本書を読めばすむのでパス。

 付け足すと、2002年の帰国直後に行われた聞き取りの際は、まだ家族が「人質」になっており、「聞き取り」が漏れると北朝鮮に遺してきた家族の奪還に影響が出る可能性があるので、内容を公開しないよう強く要求していた。
 拉致被害者の家族のうち最後まで北朝鮮に残っていた曽我ひとみさんの夫ジェンキンスさんと二人の娘が来日したのは04年7月。そしてそもそも拉致被害者から「聞き取り」が行われたのは、拉致問題を進展させる交渉に使うためだった。そこから18年間も経ったがいまだに「外交」が不在のまま、「極秘文書」は宝の持ち腐れになっている。そこで有田さんは、機密文書を公に分析する方が公共の利益になるという判断にいたったわけだ。

 西岡氏がもっとも強調していたのは、横田滋さん、早紀江さんが2014年3月にモンゴルで孫娘のウンギョンさんと会ったときの写真を有田さんが公開したことの不当性だった。

 まず、根本的に間違っているのは、モンゴルの面会時の写真が2種類あると西岡氏が認識していることだ。つまり横田夫妻が撮影した写真のセットと有田さんが持っている写真のセットがあると。

 この認識を前提に、「横田さんたちが(有田さんが持っている)その写真を見たら、滋さんが撮った写真ではなくて、北朝鮮側が撮った写真だったんです。アングルが違う。有田先生は横田家からもらわないで、(北朝鮮から)もらった写真だということが明らかになったんです」と言っている。前提から間違っている。

 まず横田滋さんはモンゴルで写真を撮っていない。つまり、「滋さんが撮った写真」などないのだ。横田夫妻が持っている一連の写真は、有田さんが持っている写真と全く同一のコピーである。

 だから、横田夫妻が持っている写真が有田さんの写真と「アングルが違う」(!)わけがない。だいたい西岡氏は、「(写真を)私も見てないです」と言っていたではないか。見ていないのに「アングル」が違うと断定できるとは・・。
 こういうのを「見てきたようなウソ」という。

 有田さんの持っている写真と横田夫妻の持っている写真が同一のものである(つまり同一のモンゴルの写真が2セットある)ことは、私もかつて当ブログで何度も指摘してきた。

 イロハのイの事実であって、ここを誤認しているから立論全部が間違いとなる。

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 次に、西岡氏は横田夫妻がモンゴルの写真を絶対に公開しないと言っていると主張するが、以前当ブログで紹介したように、いま新潟市川崎市のバスが、堂々とモンゴルでの写真を展示しながら走っている。これは早紀江さんがどうぞ使ってくださいと許可したからだ。早紀江さんは、モンゴルで幸せな時間を過ごしたことを多くの人に知ってほしいのである。

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 「虎ノ門ニュース」で読み上げられた2016年6月8日の横田夫妻のコメントは、写真を公開したことを糾弾され、強い圧力によって追い詰められて出させられたものだ。横田夫妻は、写真を公開したのは自分たちの意志ではなく、有田さんが勝手にやったことで、今後は有田さんと縁を切りますと言わざるをえなくなったのだ。

 それは1回目、2回目(6月8日付)、3回目のコメント(6月10日付)とより強く「救う会」の意に沿った内容になっていることで一目瞭然である。

横田夫妻の最初の声明。有田さんへの言及はない。「とても嬉しい時間」、「その時の喜こびをご支援して下さった方々にも知って頂きたい」、「面会の喜びの写真」などの表現がある。さらに、孫が写真公開に同意してくれたとも記している。

6月8日付の2回目の夫妻の声明。全文言い訳になっている。

2日後の6月10日付の夫妻の3回目の声明(救う会ニュースより)。おそらく誰かの作文だろう。夫妻の心中を思うとかわいそうでならない。

 西岡氏の発言を追っていくと、モンゴルでの横田夫妻の孫娘一家との面会を喜んでいない本音が露骨に現れている。

 「北朝鮮側はこの写真を有田先生に渡して、何らかの意図があるわけですね。それを公開してもらう。横田家は満足してると、こんなにニコニコしてると、良かったねと。(百田氏の「プロパガンダに使われたんやね」との発言を受けて)という風に思われるんじゃないか」。

 ウンギョンさんやひ孫と会って「ニコニコ」したら「(北朝鮮の)プロパガンダ」になる(!)というのだ。どうやら西岡氏らからすれば、横田夫妻は孫娘一家と初めて面会しても喜んではいけないらしい。

 しかし、多くの人々は反対に、モンゴルでの面会から帰国しての会見で横田夫妻の見せた笑顔に感動し、辛いばかりの二人の人生にキラ星のように輝く時間が持てたことを祝福した。むしろ求められているのは、限られた時間を生きる家族たちに、できるかぎりの人道的な配慮をすることではないだろうか。

 モンゴルでの面会が2か月後の14年5月の「ストックホルム合意」への伏線となり、拉致問題をむしろ進展させる結果になったこともあらためて付け加えたい。

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 さらに、西岡氏の「この写真を(有田氏が)持ってることは横田さんたちと近いとされる恐れがある」とのコメントには、横田家をふくむ被害者家族を自らの「なわばり」と見なす心象が露呈しているように思われる。「家族会」は「救う会」が囲い込み、有田さんなど「よそ者」には近づかせてはならない、と。
 本来、「家族会」は「救う会」のあやつり人形になってはならないのだが。

 

 「救う会」はじめ拉致問題にかかわる人々には、今回のことで早紀江さんにまた残酷な圧力をかけて苦しめることのないよう望みたい。モンゴルでの時間を早紀江さんの心の中に美しい思い出のまま留まるようにしてほしい。

この週刊文春の記事に強烈なバッシングが。

こんなに幸せそうな表情を喜ばない人たちがいた

ひ孫のチウンちゃんと横田夫妻。「別のアングルの写真」などない

一人のお祖母ちゃん(ほんとはひいおばあちゃん)になって無心に遊ぶ早紀江さん

滋さんが生きている間にウンギョンさん一家との面会がかなってほんとうによかったと早紀江さんは思っている

滋さんのご冥福を改めてお祈りします

滋さんにとっても至福のときだったようだ


 横田夫妻とウンギョンさん一家との写真の問題については6年前の「週刊文春」事件のときに私も当ブログで連載したが、今回、あらためて有田さんがFBとツイッターで当時を振り返っているので、以下引用する。

横田夫妻とウンギョンさんの写真公開の真実】
 2016年6月9日。モンゴルでの写真と私の原稿を掲載した「週刊文春」が出る前日。見本誌が出回り報道各社から問い合わせが殺到した。写真を欲しいというのが目的だが、週刊誌が発売になれば渡すと回答。横田夫妻にコメントを出してもらう。早紀江さんから電話があり、発表コメントを確認された。一か所だけ削除してもらった。写真の管理は有田に任せているという部分だ。私と横田夫妻の距離を明らかにすれば、お互いが攻撃対象になると判断したからだ。

 私は間違っていた。「週刊文春」発売前夜、横田早紀江さんに異常な電話が殺到する。私を攻撃することが目的だ。面々は「救う会」幹部、拉致対策本部の幹部、女性評論家、女性国会議員(当時)、「政府の偉い人」である。評論家は2度も電話をしている。「早紀江さん、あんな写真を公開したら、めぐみさんも他の被害者も殺されてしまいますよ!」。女性評論家の声はいつもの柔和な声でなく、まったく別人のようにきつい言い方だったという。のちに横田早紀江さんはある知人にそのときの声色を真似ている。

 しかし、そのときすでに滋さんと早紀江さんのコメントは公表されていた。そこにはウンギョンさんから写真公開の承諾があったと書かれている。写真を公開したい。横田夫妻が逡巡したのは、ウンギョンさんとモンゴルで次のような会話があったからだ。日本に戻って写真を公開していいかと聞くと、「出さないでほしい」。それから2年。横田夫妻は兄や知人にも見せなかった「うれしい時間の写真」を多くの人に知ってもらいたいと思い続けた。しかも拉致問題は動かないままだ。

 私はつてを辿ってウンギョンさんに横田夫妻の意思を届けた。そして2016年4月に本人直筆の公開を了承する手紙が届く。夫妻は喜び、私が持参した写真から選んだ6枚を「週刊文春」掲載した。これが経過のあらましだ。そして圧力が早紀江さんに殺到した。早紀江さんは強い要求に屈し、私が勝手に写真を公開したかのような事実でないコメントを出した。参議院選挙の前だったが、当時の私は耐えるしかなかった。不条理だとは思ったが早紀江さんではなく、圧力を加える者たちに非があったからだ。

 早紀江さんのコメントには、写真は横田家から一枚も出していないとある。それはそうだ。私が持参したものを夫妻と相談して6枚出そうとなったのだ。さらに「救う会」ニュースが早紀江さんコメントを恣意的に利用して私を批判した。そこでは早紀江さんの言葉として「有田先生」という表現があるが、横田夫妻はこの20年間、1回も私を「先生」と呼んだことはない。「救う会」による作文だ。

 早紀江さんの2回目のコメントには写真を「今後も出しません」とある。だが日本テレビは横田家にある写真を複写した。川崎市のバス(22年6月まで)、新潟市のバス(同10月)にはモンゴルでの写真が掲示されている。いずれも横田早紀江さんが提供した。5月の国民集会で早紀江さんはモンゴルでのウンギョンさんとの出会いを「物語のような時間」で「幸せ」だったと語っている。ある知人には「あのモンゴルがなかったら、滋さんにはいいことが何もなかった」と饒舌に語った。だが再会を阻んだ勢力がいる。

 『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』(集英社新書)の「おわりに」で事情の一端書いた。モンゴルでの写真問題について最小限のことを書いたのは、関係者による6年前の圧力で、横田滋さん、早紀江さんがあまりにもお気の毒だったからだ。「救う会」も「家族会」も、そして周辺の政治家たちも、横田夫妻の心の奥にある本音を知ろうとしない。私は人道問題から日朝交渉をこじ開けることができると思っている。それを閉ざしている者たちとはこれからも闘っていく。(2022/6/22 参議院選挙の公示日に)

横田夫妻とウンギョンさんの写真公開の真実

 6月23日は沖縄線の戦没者を悼む「慰霊の日」。

 今年は「平和の礎(いしじ)」に刻まれた犠牲者すべての名前を読み上げる取り組みが行われた。礎に刻まれた戦没者は、今年追加された55人を含め24万1686人で読み上げが終わったのは23日午前。1500人が参加して250時間かかったという。

 あらかじめ戦没者名簿と配信時間を各参加者に割り当て、12日から毎日午前5時~翌午前4時半、それぞれが自宅やカフェ、学校などからオンラインで、一人当たり10~500人を順番に読み上げた。参加者は保育園児から80代以上の践祚体験者におよび、米国、アイルランド、コロンビアなど海外から参加した人もいたという。
 22日からは平和の礎がある県平和祈念公園で夜通し読み続けられた。

 今年1月末に平和の礎を訪れたときを思い出す。

平和の礎。日本全国だけでなく米国、英国、朝鮮半島、台湾などさまざまな出身地の戦没者の名前が記されている。今年1月高世撮影

個人名が分からない犠牲者もいる

 誰それの妻、長男などと記された人々がいる。

 犠牲者の個人名を特定できないということは、その家族の成員の名前を知っている人たちがみな死亡したか行方不明になったこと意味する。いかにすさまじい惨状であったかを思って慄然とする。

23日夕刊の朝日新聞一面。左の写真は、22日平和の礎の前で名前を読み上げる高校生

 

朝鮮半島出身者のコーナー。新たな名前が追加されていく

 

 この読み上げを聞いて、ウクライナで毎日多くの人々が亡くなり負傷していることを思い浮かべた人も多いだろう。

 犠牲者が「何人」と数字で報じられるが、えてしてそこには一人ひとりの生があったことに思い至らないだけに、全ての犠牲者の名前を読み上げる試みはとても意味があると思う。
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 有田芳生北朝鮮 拉致問題~極秘文書から見える真実』(集英社新書について、「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)の西岡力会長が論評したので、紹介したい。

 ネットニュースの「虎ノ門ニュース」6月7日放送で、西岡氏が百田尚樹、居鳥一平の両氏とともに座談。

www.bing.com


 番組開始から1時間40分ごろ、拉致問題の進展を妨げる国会議員がいる」有田芳生さんを取り上げ、「西岡さんによれば、拉致被害者家族の立場からするととても看過できない活動があるそうです」(居鳥)との紹介で本が登場する。

虎ノ門ニュース6月7日。西岡氏(左)と百田氏。番組提供はあのDHC

 この本に「見逃せない点があるそうです」(居鳥)とふられた西岡氏。「まだ中身を見ていないが」と断ったうえで問題点を三つあげた。

1.    非公開の政府調査の聞き取り内容を暴露した(西岡氏「ジャーナリストならスクープしてよいが・・」とも)
2.    聞き取られた5人の拉致被害者の了解をとっていない。
3.    「有田氏が横田家以外から入手してあたかも横田夫妻の依頼で自分が公開したかのようにみせかけた写真」(モンゴルでのウンギョンさん一家との面会時)を使っている。

  西岡氏はとくに3点目の写真の問題を強調した。

(西岡氏)「この写真は実は横田家は公開していないんです。(居鳥氏「えーッ!」) 

 なぜなら横田さんも帰ってきたとき公開したいと思ったけれども、孫が絶対に出さないでくださいと言ったと。だから自分達だけで眺めていたと。私も見てないです。

 ところがちょうど6年前、当時も改選だったんですが、『週刊文春』にこの写真を有田先生が出して、横田家から依頼されて出しますと、安倍政権がちゃんと取り組んでくれないんで世論を喚起するために出しますというト書きがついてたんです。

 だけど横田さんたちは『自分たちは孫との約束があるから、出したいんだけど出さない』と。『有田先生は別のところから入手して、孫が出していいと言ったんですね、それは私たちは関知しません』と言ったんです。ところが横田さんたちに頼まれて出したというのはおかしいんじゃないかということなんですよね。」

(百田氏)「クズやね!」

(西岡氏)「だから2016年当時、横田さんたち手記をだしてるんです。」

 居鳥氏が6月9日の全国協議会ニュースで公開された横田夫妻の「手記」(コメント)全文を読み上げる

横田夫妻の手記(虎ノ門ニュース6月7日より)

(西岡氏)「横田さんたちがその写真を見たら、滋さんが撮った写真ではなくて、北朝鮮側が撮った写真だったんです。アングルが違う。有田先生は横田家からもらわないで、(北朝鮮から)もらった写真だということが明らかになったんです。それをここ(本)にも載せてる。

 つまり北朝鮮側はこの写真を有田先生に渡して、何らかの意図があるわけですね。それを公開してもらう。横田家は満足してると、こんなにニコニコしてると、良かったねと。(百田氏のプロパガンダに使われたんやね」との発言を受けて)という風に思われるんじゃないか。まあ、横田さんたちが写真を出していないのは事実なんです。」

(百田氏)「しかし、北朝鮮からもらった写真を流用したにもかかわらず、これを横田家からもらったと嘘をついたと」

(西岡氏)「まあ、そのように読めるようにね、横田さんに依頼されたというようなことが書いてあって。だから私どもは依頼してませんと。いうことになったわけです」

(百田氏)「これ、完全に北朝鮮のスパイですね」

(西岡氏)「横田さんご両親にも肖像権というものがあるわけですし。それはよしとしても、この写真を(有田氏が)持ってることは横田さんたちと近いとされる恐れがあるので、この写真を見る方は先ほどの横田さんたちの声明、お手紙も一緒に見て、有田先生の行動を評価してほしいと私は思います。」

そのあと、百田氏が獅子身中の虫やね」とコメント。

 百田氏のいくつかの短い「合いの手」が、この座談の結論を端的に言い表している。

 百田氏の「完全に北朝鮮のスパイ」のコメントなど、明らかに名誉棄損で訴えうるレベルの悪罵だが、その前提の西岡氏のコメント自体が事実を完全に誤認したものだった。
(つづく)

『北朝鮮 拉致問題』出版記念会見

 もう夏至か。

 一年で最も日が長いということは、太陽エネルギー(水素の核融合エネルギー)が一番強烈に照射してくるということだ。

 初侯「乃東枯(なつくさ、かるる)」が21日から、次候「菖蒲華(あやめ、はなさく)」が26日から、末候「半夏生(はんげ、しょうず)」が7月1日から。恵の雨が降り注ぎ、いよいよ夏に向かって暑さが増していく。
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 きょうは午後3時から永田町で『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』の出版記者会見。

 著者の有田芳生さん、「救う会」から除名された「救う会徳島」の陶久敏郎さん、同じく除名され「救う会神奈川」の川添友幸さんと私の4人が、拉致問題がなぜ進展しないのかを語った。マスコミだけでなく研究者や人権活動家も来て用意した30席は埋まった。

左から有田、高世、陶久、川添

田中実さんの拉致について書かれた張龍雲『朝鮮総連工作員』を手に拉致の手口を説明

 私は、田中実さんと金田龍光さんの2人の拉致被害者が8年もの長きにわたって政府に見捨てられている問題を指摘した。

 なお、本書には大きな反響があり、閣僚経験者の自民党国会議員などからも賛同の声が寄せられている。

 本書について、特定失踪者問題調査会の荒木和博代表がブログでこう述べている。

araki.way-nifty.com


《2022年6月20日
田中実さんと金田竜光さん【調査会NEWS3621】(R4.6.20)

 既に何度か指摘してきましたが、政府認定拉致被害者田中実さんと特定失踪者金田竜光さんについて、北朝鮮側からリストが提示されたにもかかわらず日本政府は黙殺してきました。

 有田芳生参議院議員立憲民主党)の著書『北朝鮮拉致問題 極秘文書から見える真実』(集英社新書)にもこのことが書かれています。私自身は有田さんとは思想的にはかなり違いがありますし、本書にも意見の異なる部分がいくつもあるのですが、田中さんと金田さんのことについてはその通りだと思います。特に気になったのは情報を隠蔽するときに安倍総理が認め、菅官房長官(当時)が猛反対したというくだりです。本件と直接関係のない情報ですが、これを裏付けるような話は私も聞いたことがあります。

 8年前のストックホルム合意のとき、様々な情報が流れました。30人くらいのリストがあるとの話もありましたし、実際に何人か名前を伝えてきたマスコミ関係者もいました。少なくともこの時点で田中さんと金田竜光さんの名前が出ていたこと、そして政府がそれを黙殺したことは間違いありません。おそらくは他の特定失踪者の名前も出ていたのでしょうし、2人についてももっと前から名前は出ていたと思います。

 前にも書きましたが田原総一郎さんは有本恵子さんのご両親に訴えられた裁判で提出した陳述書の中で次のように言っています。

「私(田原氏)は、(北朝鮮から)帰国後の平成19年11月8日、外務省にて、外務省幹部4人と拉致問題について話し合いました。(中略)私が、ソン・イルホ大使が『8人以外に複数の日本人が生存している』と話したことを伝えたところ、外務省幹部は『同じ話を聞いているが、8人以外の複数の日本人が帰国しても、北朝鮮に対する世論が好転することはないと判断したため、その話はなかったことにした。』などと話しました」

 平成19年、つまり2007年ですからストックホルム合意よりさらに7年前です。私はこの頃から田中さんと金田さんの名前は出ていた、あるいは名前は出なくても北朝鮮が明らかにする可能性はあったと思っています。二人の場合は北朝鮮からすれば自分の意志で行ったという言い逃れがしやすいからです。私自身田中実さんの友人という人物と外国で会ったこともあります(事実確認はできず、その後連絡もできなくなってしまいましたが)。

 「全拉致被害者の即自一括帰国」というのが逆に政府の隠蔽・責任放棄の口実になっているのではないか、正直なところ懸念を払拭することができません。

 おそらく党派を問わず、田中実さん、金田龍光さんの2人を救出する手立てを政府はすぐに取るべきだという点で一致できると思う。

 田中実さん、金田龍光さんの2人の「生存情報」を北朝鮮が非公式に日本政府に伝えた際、政府高官が「(2人の情報だけでは内容が少なく)国民の理解を得るのは難しい」として非公表にすると決めていたと共同通信が報じている。

takase.hatenablog.jp

 横田めぐみさん、有本恵子さん、田口八重子さんら、名前が知られ、拉致問題のシンボルになっている拉致被害者とそれ以外の「小物」で、政府は明らかに扱いを違えている。2人の情報だけでは「国民の理解を得られない」というのだから。

 田中さん、金田さんは児童養護施設で育って身寄りがないから、家族会には誰も加わっていない。田中さんは政府認定の拉致被害者なのだが、あまり知られていない。
 北朝鮮からもたらされた情報がこの2人だけで、2002年の「8人死亡」がひっくり返っていなければ、北朝鮮側の調査「報告書」など受け取るべきではないと判断したのだ。

 これは政府が同じ拉致被害者の間に優先順位をつけていることを意味する。露骨な差別である。

 もっとも、「全拉致被害者の即自一括帰国」を徹底させると、北朝鮮がかりに「8人死亡」とされたうちの一人(例えば有本恵子さん)が生存していると(田中実さんのケースのように)日本側に伝えてきたとしても、「全員即時一括帰国」でないと突っ返すべきだということになるはずだ。

 こうなると、拉致問題は1ミリも動かないことになる。

 「全拉致被害者の即自一括帰国」の呪縛から一刻も早く脱するべきだ。

 

うちのアサガオ。毎日元気に咲いている

 

問題作『北朝鮮 拉致問題』がきょう発売に

 きょうが有田芳生著『北朝鮮 拉致問題~機密文書から見える真実』(集英社新書)の発売日で、朝日新聞毎日新聞の朝刊に広告が出ている。

 予約販売だけでかなり売れているらしく、14日現在で「朝鮮半島のエリアスタディ部門」の売れ筋ランキング1位だそうだ。

 書評も出始めた。以下は水道橋博士によるもの。

seidoku.shueisha.co.jp

 本書はさまざまな方面に波紋を投げかける「問題作」となるだろう。すでに一部で「騒ぎ」が起きている。

 そこで有田さんは21日(火)に記者会見を予定している。有田さんの他、救う会中央から排除された救う会徳島」の陶久敏郎さんと「救う会神奈川」の川添友幸さん、そして本の「解説」を書いた私も出る。テーマは、本書出版の意義にからめて、なぜ拉致問題が進展しないのかだ。

 本書出版を機に、流れが変わってくれるとよいのだが。
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 紛争や内戦、迫害などで住む場所を追われた難民や国内避難民が世界で1億人を超えたという。

 16日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が発表した。昨年末時点では8930万人で、これ自体史上最多だったが、ロシアの軍事侵攻で1千万人超のウクライナ人が国内外に逃れることを余儀なくされ、1億人の大台をあっさり超えた。

 いま世界人口は80億人近くだから、80人に1人は住む場所を追われた人ということになる。人類にとって恥ずかしい話である。

 日本にもウクライナから避難民がぞくぞくやってくる。日本の空港について喜ぶ姿がニュースに流れると、これで「よかったな」と思ってしまうが、実は日本の避難民受け入れの実態は課題が山積だ。きのうのNHK「国際報道」から。
https://www.nhk.jp/p/kokusaihoudou/ts/8M689W8RVX/episode/te/P3R7K628LW/

この差は人種差別と言われても反論できない(NHK国際報道16日)

 ウクライナからの避難民には、生活費の支給や住居の手配、日本語教育など手厚い支援が行われている。一方、去年タリバンの政権掌握で避難してきたアフガン人にはこれらの公的な支援が一切ない。クルド人ミャンマー人なども同様で、これは差別以外のなにものでもない。アフガニスタンからの難民のケースが取材されていた。

 4月下旬、アフガニスタン人、アミールさん一家7人が熊本の空港におりたった。出迎えたのは身元保証人の獣医の小澄正敬さんで、一家に住居、車、家電など無償で提供している。小澄さんはアミールさんとは面識がなかったが、同じ獣医ということでなんとか力になりたいと思ったのだった。

アミールさん一家

 アミールさんはかつてアフガニスタンの大学で学部長を務めたこともあり、JICA(国際協力機構)の事業の一環で日本に留学したことがある。西側の影響を受けた教育者としてタリバンに殺害予告を受けたアミールさんが、半年前、日本のNPOに日本語で助けを求めてきたことがはじまりだった。

アミールさんは大学の学部長で日本留学の経験もある

 まずビザ取得が難関だ。NPO「REALs」の瀬谷ルミ子さんによれば、これまでアフガニスタン人で人道目的でビザが出たケースはほとんどないという。そこで就労目的のビザを申請するため3ヶ月間ツテをさがし、小澄さんに出会った。

 しかし、さらなる壁が。入国の直前ビザ発給が保留されたのだ。雇用契約書に書かれた小澄さんの動物病院での補助業務の給料では一家7人を養うには不十分ではないかとなった。就労目的の避難民であっても、一般の移住者と同じ基準での審査が行われるのだ。小澄さんたちは入管に窮状を訴えるとともに、生活に困ることがあれば自分たちが面倒をみることを約束して、ようやくビザは発給された。

アミールさん一家を受け入れた小澄さん


 ウクライナ以外からの避難民の場合、受け入れる個人、団体が渡航費はじめ日本での衣食住、日本語教育や就職の世話まで大きな負担を覚悟せざるを得ない。

 負担が大きすぎて、普通の人には無理である。

 政府にはぜひウクライナからの避難民に対する待遇をスタンダードにして、国籍、民族に関わらず公平に扱ってほしい。

なぜ政府は2人の拉致被害者を見捨てるのか?(12・結)

 お知らせです。

 高世仁のニュース・パンフォーカス】NO.27「なぜ拉致問題は進展しないのか?」を公開しました。このブログで連載してきた内容をまとめたものです。

www.tsunagi-media.jp

 きょうで連載に一区切りつけるにあたり、横田滋さんと早紀江さんの、拉致問題に進展をもたらすことができないでいる日本政府と政治家への厳しい注文を紹介したい。お二人は「お願いする立場」だからと、政府や政治家への批判は表向き控えていたが、腹の中は煮えくり返っていたはずだ。

この言葉を行動で示してほしい(「国民集会」にて)BSテレ東

 2012年に出版された『めぐみへの遺言』(幻冬舎)より

横田早紀江さん
 国民のみなさんに、拉致についてここまで知っていただいたことは良かったけれど。同時に、これだけ家族やいろいろな支援団体が救出を訴えても、日本政府が本気で動かないということが日本の国民の方も分かってきた。皆さん、私たちに何ができるのか、どうしたら動くのかと言われるばかりで、その先が見えない。国家が動かない、国民の命を何とも思っていない。そこが今、日本の国の一番大きな問題なんです!

 政治家の中には、本気でやれば解決できるという人も何人かはいらっしゃるけれど、やらない方がいいという人の方が多いと思う。今までいろんな所で訴えたりいろんな方々とお話させていただいたから分かるんですけど、できるだけ波風立てないで時間が過ぎれば、いずれ関係者は死んでしまって皆忘れるからという人もたくさんいるのではと思う。そういう国なんです、今の日本が。政治のやり方全般を見ていても解るでしょ、ほんとにひどいことになっているから。危機感もないしスピード感もないし、無責任だし!それが、今はっきり表れてきたんです。横田滋横田早紀江『めぐみへの遺言』P16~17)

横田滋さん
 去年、金正日が亡くなると、日本政府は弔意を表す考えはないと表明した。また、ある番組を指して、あんな悪いヤツが死んでなんで黒い服を着て弔意を表して報道するのか、と批判する人がけっこういた。しかし、これから交渉しようとするのであれば弔意を表すべきだという報道があって、私はその通りだと思いました。

 例えば、小泉さんのような人が弔問に北朝鮮に行った方がこれからの交渉のためには、良かったのかもしれない。

早紀江さん
 交渉再開の足がかりにするためにプラスになるなら、制裁だけでなく、良い知恵を駆使して別の方法も具体的に考えていかなければ、今後どうにも動かないと思います
(P197-198)

滋さん
 安倍さんの時に拉致問題対策本部ができて、中山恭子さんが拉致問題担当補佐官になりました。塩崎恭久官房長官が兼務で拉致担当大臣になられた。で、いろいろな情報収集の機能を対策本部の中に作ったと聞かされましたが、結果が出る前に安倍さんは辞めてしまった。

早紀江さん
 それ以前は、拉致のことは外務省がいろいろやっていて、日朝協議があればその度に内容を教えてもらったり、突然情報が入ったら家族会が呼ばれて話を聴いたりしていました。けれど、拉致対策本部ができてからは外務省の方もその場に来られたりしていたから、ちゃんと一緒にやって機能していると思っていました。
 ところが、ある時、外務省の方から、「僕たちには何も情報がこないんです」「今、拉致のことで日朝がどうなっているのか分からないんです」と言われてびっくりしました。その人は、「何か一つの情報でも言ってくれればそれをきっかけにして外交手法で道が開ける場合もあるのに、それができない」と。思わず「そんなに疎遠なんですか?」と訊くと「そうなんです」と答えるから、「全部が一つにならなければ、一丸とならなければ、めぐみらを助けられないですね」と申し上げたのです。

滋さん
 拉致対策本部は安倍さんの時には、2年に一回くらいしか会合をやってなかったらしい。所帯が大きいうえメンバーには大臣たちも入っていたので、なかなか会議がひらけなくて。(P202∼203)

滋さん
 日本は日本で死亡確認書がデタラメだったとか、めぐみの遺骨がニセモノだとか騙されたと思っている。向こうは拉致を認め、新しいものを出せば出すほど日本が遠くへ行くと考えている。そういう金縛り状態になって、それがずっと続いているのです。

 そこを突破するには、制裁一辺倒ではなく話し合いに向けて動くしかない
(P204~205)

早紀江さん
 政府の人自身が、わが子が北朝鮮へ連れていかれたらこんなことでは済まないのではないですか。

 もうずっと、他人事としてやっているような気がしています。なぜそうなったのか・・・。日本の国、こんなことでいいのかと思うところまで来てしまった。(P207)

 

 小泉純一郎総理の第一回訪朝から19年目になる去年9月12日の『新潟日報』で早紀江さんはこう語っている

「これまでに、何人もの首相や拉致担当相とお会いしました。失礼を承知でちょっと厳しいことを言わせていただければ、今も昔も、与野党問わず多くの政治家は、拉致問題について頭の中では大事だとお考えくださっているのかもしれませんが、命懸けと言いますか、本気の行動というものが見えてこないのです。

日本の気概とでもいったらいいのでしょうか、『何が何でも』という姿勢を見たいのです。」

 この悲痛な叫びに、岸田文雄総理以下閣僚と政治家たちは応える責任がある。

 何よりもまず動くべきは、8年前に北朝鮮があらたに拉致を認めた田中実さんと金田龍光さんの救出だ。たとえ万が一日本への永住帰国の意思がないとしても、最低限一時帰国は実現しなければならない。

 有田芳生さん(参議院議員)によれば、田中実さんの結婚相手が日本人で長男の名前が「一男」だという情報もあるという。結婚相手が誰なのかを知ることも急務だ。

 田中実さんは児童養護施設で育ち、「家族会」(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)に入っている身寄りはいない。しかし、田中実さんの生存情報が報じられたとき、田中さんの高校時代の同級生たちは、もし一時帰国することになれば、空港まで迎えに行こうと話し合ったそうだ。

 有田さんは大阪にいる同級生の一人、坂田洋介さんに会って話を訊いてきた。そのとき坂田さんはこう語ったという。

「もし一時帰国だったとしても、大変だったなとねぎらたいんです。担任教師も亡くなる前に、田中のことをよろしく頼むと言っていました」
有田芳生北朝鮮 拉致問題~極秘文書から見える真実』集英社新書P132)

 岸田総理はまさに「何が何でも」の姿勢で、これまで政府が見捨ててきた2人の拉致被害者に向き合ってほしい。

なぜ政府は2人の拉致被害者を見捨てるのか?(11)

 はじめにお知らせです。

 ジャーナリストで参議院議員有田芳生さんによる『北朝鮮 拉致問題~極秘文書から見える真実』(集英社新書)が今週発売になります。

 2002年に帰国した5人の拉致被害者から政府が聞き取りを行った記録がある。これは「極秘文書」としてその存在を秘匿されてきた。今回、この文書をはじめて分析しつつ、なぜ20年も拉致問題が進展しないのかを解き明かしている。

 私は本書の「解説」を担当している。「極秘文書」には、私も初めて知る北朝鮮のリアルな実態が記され、非常に興味深かった。また、今後の北朝鮮との交渉に利用できる材料もたくさんある。

 ご関心ある方はぜひお読みください。
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 2週間ほど前のEテレハートネットTV」で「戦禍のウクライナ ろう者たちのいま」を観た。

www.nhk.jp

 今まで私もウクライナの障害者のことは視野になく、まさに「盲点」だったなと気づかされた。

ハートネットTV」より

 ろう者は空襲警報の音は聞こえず、屋内だと窓や壁の振動で、屋外では人が走ったり鳥が飛び始めたりすることで爆発を知るという。また夜は光で爆撃を感じていたそうだ。避難先でも十分な支援が受けられず、健常者の何倍も苦労しているようだ。

ロシアの侵攻で、仕事も故郷も仲間も一気に失い絶望していたと語るウクライナのろう者

 彼らの困難を理解する日本のろう者たちが、以前知り合ったウクライナのろう者2人を受け入れた。

来日した2人のウクライナ人ろう者

来日して空港で固く抱き合う両国のろう者

2人を受け入れた「ウクライナろう者避難民支援チーム」

 ウクライナろう者避難民支援チーム」の吹野昌幸さん(ご自身もろう者)はウクライナのろう者とは国際手話でコミュニケーションをとる。国によって手話が全く異なるからだ。(国際手話が使えない場合は、両国の手話を理解できる人が「通訳」する)

(吹野さん―群馬県みどり市在住)

「深く話してみると、まだ傷も残っていて簡単なことではないと思いました。ただ、日本に来た以上、時間をかけてケアしていきたいと思っています。幸い、ウクライナのろう者の皆さんは日本が大好きで、日本の文化を採り込んでいるところです。そういう姿を見てほっとしています。心も体も少しずつ戻ってくるのではと期待しています。まずは地域の社会になじんで交流してもらうのが先決かなと思います。そのときのために日本手話を教えておきたいです。また、それが落ち着いたら日本のいろいろなところに連れていって、それでどこに行っても自立して行動できるように支援をして、全て落ち着いたら仕事探しかなと思っています。」(吹野さん)

 当面の心の癒しから将来の日本での仕事さがしまでしっかりした展望をもってウクライナのろう者を受け入れていることに感銘を受けた。すばらしい。
 こういう人たちを知ると、日本もまだ捨てたものではないと思える。
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 8日の参議院の「北朝鮮による拉致問題に関する特別委員会」には、拉致被害者家族会の飯塚耕一郎事務局長と特定失踪者家族会の竹下珠路事務局長が参考人に招かれた。

 飯塚さんはかたくなに、被害者全員の即時一括帰国以外の解決は認められないと語った。「我々には時間がないのです。一部の被害者だけ返してもらい、段階的にやる方が現実的ではないかというコメントもありますが、そのような考えには賛同致しかねます。」と。

 有田芳生委員は、竹下さんが所属している「特定失踪者調査会」の荒木和博代表が「何年も前から、『一人からでも取り戻すべきだ』という立場」であることを指摘したうえで、竹下さんの考えを問うた。

【竹下珠路参考人
「特定失踪者家族会の事務局長という立場ではなく、古川典子の姉という個人の立場で申し上げさせていただきますと、もうほんとにみなさん、命に時間がないんです。だから、わかるところから、871人を全部というのは正直物理的に大丈夫なのだろうかという心配がありますから、見つかったところからでもこじ開けていく必要があるのではないかと竹下個人としては思っております。」

竹下参考人

 飯塚さんは「時間がないから」全員即時一括帰国をと言い、竹下さんは同じく「時間がないから」一人からでも「こじ開けていく」とはっきり異なる立場を述べている。

 有田さんは、竹下さんの答えを受けてこう述べた。

「今から20年前の2002年の小泉訪朝で、10月15日に5人の生存者がお帰りになりました。で、日本政府の聞き取りがありましたけれども、私それを見ているとやはり私たちがそれまで知らなかったいろんな北朝鮮側の機微、情報というのが伝わってくるんですよね。それが日本の外交でどこまでうまく使われたんだろうかと疑問を持っているんですけれども。

 先ほど具体的に言いましたけれども、田中実さんという方が本当に生存されているならば、日本政府がその方にお話を聞いて、日本に帰ってこないって言ってでもですよ、そこからいろんな情報が入って、いろんなつながりが出てくる可能性があると思うんです

 これは横田滋さんがいつもおっしゃっていたんだけれども、「とにかく動くことだ」と、とにかく動けばそこから何かがひらけていくと、私はそういう考えだから、田中実さんの生存あるいは特定失踪者の金田龍光さんも、日本政府に生存していると北朝鮮側は伝達してきたわけですから、そこから次の穴をあけていくのは大事だと思うんです。

有田芳生委員

 横田滋さんは、「救う会」に表立って逆らうことはなかったけれども、本心は全員の即時一括帰国よりむしろ「一人づつでもこじ開ける」ことを政府に望んでいた。

 横田早紀江さんは、被害者家族に従いますと忠義だてする政治家たちに辟易してこう言っていたものだ。

「『拉致問題で何をしたらいいか、おっしゃってください。その通りに一生懸命やりますから』と言われるのですが、何をしたらいいかを考えるのが政治家じゃないですか。それに必ず『がんばってください』と激励されますが、私たちの方が政治家の先生にがんばってと言いたいです」。

 「救う会」の作った路線を「家族会」の名で出し、それを政治家が「鵜呑み」にする。そして何も進めないという現状。この中でもっとも罪深いのは政治家である。

 「家族会」という利害関係者の名で出された要請であっても、場合によってはそれに反する方針を立てて実現していかなくてはならない。

 この20年成果がないことの責任は総理大臣に帰されるべきで、歴代総理が「拉致問題を最重要課題とする」との決まり文句を繰り返すのはもう聞きたくない。行動で示してほしい。

 竹下さんは、ある委員の「今何が必要とお考えか」との質問に「一言でいわせていただければ、総理の本気度、行動力以外にはないのではないかと思っております」ときっぱり言い切った。同感だ。

 とりあえず、北朝鮮で生存しているという拉致被害者、田中実さんと金田龍光さんへの救出の手を差し伸べることが急務である。

 総理の本気度を注目している。

(つづく)