送還の恐怖に怯えるクルド人―入管法改正をめぐって

 先週末、友人の写真スタジオでモンゴルの馬頭琴の奏者、ボルドエルデネさんの演奏を聴いた。

馬頭琴とホーミーの夕べ

馬頭琴を弾くボルドエルデネさん

 すぐ近くで奏でられる馬頭琴の音の振動が肌から染み込んでいくようで圧倒された。彼はホーミーでも全国大会で優勝した名手。日本の童謡「ふるさと」をホーミーで歌ってくれた。ホーミーにはヒトだけでなく家畜への癒し効果があるそうで、出産ストレスで子どもに授乳しなくなったラクダにホーミーを聴かせると、リラックスして授乳をはじめるという。モンゴルの草原を思いながら聞きほれた。

 日本には在留外国人がおよそ300万人いる。

 昨年6月末現在で「中長期在留者」が266万9,267人、「特別永住者」が29万2,702人で、これらを合わせた在留外国人数は296万1,969人となった在留カード及び特別永住者証明書上に表記された国籍・地域の数は194というから、ほぼ世界の国・地域すべての出身者がいることになる。なお、「中長期在留者」には在留資格を失った人は含まないから、在留外国人の実数は300万人を超えるだろう。ちなみに10万人超の在留者のいる国は多い方から、中国、ベトナム、韓国、フィリピン、ブラジル、ネパール。

 先日、私の知るクルド人が国会に参考人として出た。

 日向史有監督のドキュメンタリー映画『東京クルド』の主人公、ラマザンさんだ。

takase.hatenablog.jp

参院法務委員会に参考人で出たラマザンさん(TBSサンデーモーニングより)

時おり涙を見せながら話すラマザンさん(TBSより)

 以下は東京新聞の望月衣塑子記者の記事より。

入管難民法の改正を巡って、参議院法務委員会で25日、9歳で両親とともに来日、23歳で弟と在留特別許可を受けたクルド人ラマザンさん(25)が参考人として出席した。

「かつての私と同じ立場で、今も苦しむ多くの子どもや若者のために勇気を出して来た。日本で守られるべき人たちが保護されていない。(3回目以降の難民申請を認めない)法案が通ったら多くのクルド人や他の外国人が、送還の恐怖におびえていることを知ってほしい」と、時折、涙を拭いながら法案の廃案を訴えた。(略)

 ラマザンさんの父親は、来日後すぐに入管施設に収容された。1年後、父親と会うと「やせて目のまわりが黒くなりまるで別人のようだった」と振り返った。

 来日後1年で在留許可は打ち切られた。日本の小学校に通い友達もでき、日本の生活にも慣れたが、再び父親は収容された。

 ラマザンさんは「『難民や仮放免者は犯罪者と同じなの?』と周りに聞いても誰も答えられなかった。ストレスで意識がもうろうとし、弟はぜんそくが悪化した。面会すると父は『トルコに帰っても生きる道はない、私なら大丈夫』といわれ、私が家族を支えて行かなきゃいけないと思った」と、父親の収容時を思い出したのか、時折、涙を拭って声を詰まらせた。

 ラマザンさんは「あなた方にとって当たり前のものが私たちにはない。小さい弟に『なんで捕まってるの』って聞かれどう説明するのか。保険証も住民票も身分証もなく、働く資格もないのに生きていけますか。働きたくても働けない。私たちは『食べるな、飢えればいい』ということか」と訴えた。

 ラマザンさんは専門学校を卒業したが、その後の就職は困難を極めた。両親と妹は既に4、5回の難民申請をしており、法案が通れば、強制送還の対象になりうる。

 ラマザンさんは「一度自分たちの立場に置き換え考えてみてほしい。父を含め、いろんな人が何度も何度も収容され、それでも帰れず、働くこともできない。家族と一緒に日本で平和に暮らし、日本で生きていきたい」と話した。

 斎藤健法相が18歳未満の子どもに在留資格を付与するのを検討している点には「遅かったのではないか。自分は大人になってしまった。子どもだけに資格を与えたら親はどうなるのか。子供たちは親がそばにいないと生きていけない。帰れない理由のある人たちのことを真剣に考えてほしい」と力を込めた。」https://www.tokyo-np.co.jp/article/252418

 

 クルド人がトルコで激しい差別と抑圧の対象にされていることは周知の事実で、UNHCRの統計では21年のトルコ出身者の難民認定率はカナダでは95%。つまりトルコのクルド人だと言えばほぼ自動的に難民認定されている。ドイツでも35%と高い。

 一方、日本にはトルコ国籍のクルド人が約2千人いて、その多くが難民申請しているが、認定されたのは、裁判で争い昨年7月に認定された1人だけという「惨状」だ。

 難民認定の問題については本ブログで何度か書いたが、繰り返すと―

 迫害されている人が着の身着のままに国を脱出することもあるのに、日本では申請者に高い立証責任を負わせているとされる。また、「迫害」を狭くとらえすぎるとも言われている。申請をはじくために非常に厳しい審査になっているわけだ。

 移民であれば、どの範囲でどういう移民を認めるかはその国の方針によるが、難民は移民と異なり、保護することが、日本も81年に加入した難民条約にもとづく責務となっている。強制退去に応じない送還忌避者は3,234人(21年末)だが、その半数は難民申請者だ。今回の入管法改正案では、難民申請が2回不認定となれば3回目以降は送還できることになる。条約が課している、迫害のおそれのある国へ移送してはならないという「ノン・フールマンの原則」に背を向ける措置だ。

 そもそも難民認定を、不法入国を取り締まるのが仕事の入管が行っているのが問題で、立憲、共産などの野党が三者機関の設置を盛り込んだ対案を出した。他の多くの国のように行政から独立した機関や裁判所が判断する制度にすべきだ。

 どこから見ても今回の入管法改正案は国の進路を誤らせるとしか思えない。