11日(金)の深夜25時53分、NHKBS1で、「『BS1スペシャル』報道に関する調査報告について」が放送された。
例の河瀨五輪番組(河瀨直美が見つめた東京五輪)捏造事件、つまり金をもらって五輪反対デモに出たとする男性が登場するが、それが事実かどうかは確認されなかった事件についての放送だ。
どんな事柄かの説明もいっさいなく、3分間、ただ字幕を読み上げるだけだった。しかもその内容は、単なるケアレスミスだとし、上司のチェックが不十分なまま字幕をつけてしまいましたと事実経過を述べるだけで、問題の背景、動機、関係者の動きなどに触れないひどい作文だ。BSだけで、それも深夜のとんでもない時間帯に放送するというのも問題だ。
いまのNHK上層部の体質を象徴するかのような放送に愕然とした。
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今年に入って、北朝鮮がミサイル発射実験を加速させている。
米国シンクタンクのCSISは、北朝鮮北部、慈江道(チャガンド)の中国国境から25キロの地点に、未公表の地下ミサイル基地を特定したと発表した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)のための格納施設とみられるという。
サイバー攻撃によって調達する資金も核ミサイル開発につぎ込まれているとされる。
一昨年から去年半ばまでに複数の暗号資産の交換所から少なくとも5千万ドル(58億円)の外貨を盗んだと、国連の専門家パネルは報告している。
これまで多くの識者と政治家が、ミサイル発射実験は「アメリカに振り向いてほしい」北朝鮮の「外交」の手段だとし、テレビでは「なぜ今なのか?」と北朝鮮の政治的「思惑」があれこれ論じられてきた。
このブログでは、これは、北朝鮮の核ミサイル開発の軍事的脅威を軽んじる誤った見方だと何度も指摘してきたが、今では、日本の迎撃システムではとても太刀打ちできないレベルまでミサイル技術が向上したのは明らかだ。
さすがに軍事筋はじめ警鐘を鳴らす論調になってきたが、もう遅すぎる。当面、北朝鮮を止めるすべは見当たらず、北朝鮮は、実戦配備のため、さらなるミサイルシステムの改良にまい進している。
国連は欧米と中露の対立構図が定着して、北朝鮮の動きに対応できないままだ。
論者のなかでは、軍事評論家の黒井文太郎さんの分析がもっとも合点がいく。
黒井さんは「よく誤解されているのですが、北朝鮮にとっては、米国に振り向いてほしいのではなく、米国を怒らせたくないので、なるべく米国に振り向いてほしくないわけです」と述べている。
ちょっと長いが、黒井さんがツイッターで出しているQ&Aの一部を引用させてもらおう。これで「思惑」話はおしまいにしたい。
北朝鮮はなぜ今、こんなにミサイルを発射しているのか?(2022年1月の事情:リアル編)(黒井文太郎) - 個人 - Yahoo!ニュース
Q:北朝鮮が1月に7回ものミサイルを発射していますが、なぜこれほどまでにまとめての発射が行われていると思いますか?
A:北朝鮮自身が、戦力の強化のためと言っています。現実にも、北朝鮮はまだ米軍に敵わないので、北朝鮮側の安全保障として米軍の核攻撃を抑止するために対米核戦力が必要です。
なぜ今かといえば、2017年に核ミサイル戦力強化のための核・ミサイル実験を繰り返し、米国を射程に収めるICBM「火星15」を作った後、これでとりあえず対米核戦力ができたということで、米国との軍事的衝突を回避し(戦争になれば確実に敗北するので)、あわよくば制裁解除までできるかと期待し、平昌五輪をチャンスとして緊張緩和に転じました。
米国の圧力を抑えるためにしばらくミサイル実験・核実験も凍結していましたが、その間も開発は進めていました。あれから4年以上経過し、その間、絶え間なく継続していた開発が進み、そろそろ実証実験をする頃合いということです。
4年以上あれば、かなりの新技術が開発されているはずで、やりたい実証実験はいくつもあるはずです。また、実戦配備された兵器については作動確認、あるいは実戦的な訓練も必要です。金正恩のデスクの上には、軍の計画書がいくつも届けられているはずで、あとは金正恩がいつ、どれから命令するかというだけの問題です。
昨年1月の党大会での金正恩報告で、さまざまな5カ年計画について言及があったのですが、軍事についても具体的な目標が掲げられ、今後も戦力強化に邁進することが宣言されています。金正恩の言葉ですから、まったく実体のない話ということはありません。具体的な計画の目途がついているということです。
また、この4年間、政治的には経済制裁は継続のままではあるものの、米国の軍事的圧力の回避には成功し、核ミサイル保有の既成事実化に成功しました。その後、交渉は決裂しましたが、もはやミサイル発射実験くらいで米国が軍事攻撃してくる状況ではなくなっています。後ろ盾であるロシアや中国も米国と対立を深めており、完全に北朝鮮を国連安保理で守る立場になっています。
したがって、北朝鮮とすれば、もはや米国を恐れることなく、やりたい戦力強化を進めることが可能になっています。昨年1月に始動したバイデン政権のスタンスも、たいして恐れるものではないとわかってきています。
北朝鮮は昨年3月と9月にもまとめてミサイルを発射していますが、その時期の選定にとくに政治的な意味はありません。この1月に関しても、とくに政治的に重要な意味はありません。米国から非難はされますので、バラバラの時期に実験をしてその都度何度も非難されるよりは、一時期にまとめて発射実験して非難の回数を減らしたほうが、総体的に圧力を減らせる効果は期待できますが、それもたいした違いがあるわけでもないので、それが狙いか否かは不明です。
なぜ今か?という問いに答えるなら、「政治的にやれる状況で、技術的にやりたいことがあったから」に尽きます。
Q:発射の時期について、北京五輪や、最高人民会議、金正日生誕80年、韓国大統領選、ロシア・ウクライナ情勢などと、関係しているのでしょうか?
A:時期について政治的な動機の推測は多いのですが、実際にはほぼ根拠がありません。
根拠として使える情報は2つあって、1つは客観的な状況。北朝鮮がその日程を選ぶことで利益・不利益があるか。あるいは、それを期待できる効果があるか否かです。
もう1つは、北朝鮮自身の主張です。主張が現実と矛盾していなければ、それを疑う理由はありません。
その2点から考えると、まず北京五輪の関係でいえば、中国政府にとって五輪期間中はあまり歓迎はできませんが、戦争を起こすということではなく、いまやほとんど日常的になっているミサイル発射実験程度では、五輪への影響はきわめて限定的なので、それほど大きなことではありません。また、北朝鮮から関連の声明は皆無なので、北京五輪への気配りといった憶測に根拠は存在しません。
北京五輪中はミサイル発射を控えるはずとか、五輪開催前に急いで発射したとの推測を散見しますが、あくまで憶測であり、そうとまでは言えないのです。
最高人民会議などの北朝鮮国内の政治日程については、そうした機会にしばしば金正恩政権は国家プロジェクトの成果の報告を行います。なので、そうした政治イベントの前に成功事例があれば政権にとっては好都合ですが、かといってその日程に合わせるために発射実験をしているかというと、直接の関係は不明です。どちらも日程を承認するのは金正恩なので、本人に聞いてみないとわかりませんが、北朝鮮サイドの公式の声明には言及がありません。
生誕80年だからやるとか、韓国大統領選を意識してやっているとかは、さらに根拠のない憶測になります。とくに韓国大統領選に関しては、ミサイル発射すればむしろ反北朝鮮側を利するので、論理的にもまったく関係ありません。
他方、ウクライナ危機は、北朝鮮がミサイル発射しやすい状況を明らかに作っています。北朝鮮はべつにウクライナ危機がなくても発射実験はやったと思いますが、ウクライナ危機によって、さらにやりやすい国際環境になったということです。
というのも、米露が緊迫化すれば、「①米国政府が北朝鮮どころではなくなる」「②ロシアが反米のために北朝鮮を擁護」になるので、北朝鮮は米国の反発を恐れずにさまざまなことがやりやすくなります。
これはよく誤解されているのですが、北朝鮮にとっては、米国に振り向いてほしいのではなく、米国を怒らせたくないので、なるべく米国に振り向いてほしくないわけです。
以下略