「銅鑼湾書店事件」を巡って中国とスウェーデンが対立

 『「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄』(文春新書)をとてもおもしろく読んだ。
 顔伯鈞(がんはくきん)氏の手記をジャーナリストの安田峰俊さんの編訳で出版した本で、中国共産党中央党校(習近平は元校長)の修士課程修了という党官僚のエリートが民主化運動に関わったことから「お尋ね者」となり、家族と別れて国外へと逃亡する過程が描かれている。

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(顔氏 写真は以下より

https://twitter.com/hashtag/%E9%A1%94%E4%BC%AF%E9%88%9E

 アメリカも恐れるほどの先進科学技術を身につけた中国の強大化が、人権を無視する専制体制に裏付けられていることは承知していたが、民主化運動の当事者による運動とそれへの弾圧の実態は初めて知った。
 著者の顔氏は2015年2月にタイ、バンコクへと逃げてきた。いまもタイに留まっていると見られるが、「私の身はいまだ危険のなかにある」(P252)と言う。というのは、彼の知り合いでミャンマーに逃げたところを中国当局に逮捕されており、海外に出ただけでは安全ではないからだ。中国はいまや多海外にいる「お尋ね者」を拘束する、あるいはその国に拘束させることすらできるのだ。
《近年、中国は国外への逃亡者すらも逮捕や拉致の対象に含めている。2015年7月8日、タイ当局は同国内の亡命ウイグル族109人を中国に強制送還し、人道問題として全世界からの非難を浴びた。また、同年10月17日には香港で中国批判書籍の出版事業に従事してきたスウェーデン国籍の華人・桂民海氏が、やはりタイ国内で中国当局に拉致された。
 さらに同年10月28日、中国共産党の意図を受けたタイ警察当局は、すでに同年4月に国連難民高等弁務官事務所による難民認定を受けていた、亡命中国人の(顔氏の同志である)姜野飛氏と菫広平氏の2人を逮捕した。やがて、タイ当局は国際社会の関心と譴責を無視して、私の友人たち2人の身柄を中国に強制送還した。
 こうした事件の頻発は、中国共産党の金銭外交がタイをはじめとした東南アジア各国にどれほど巨大な影響力を行使しているかの疑い得ぬ証左であろう。この私自身を含め、タイに亡命して政治難民を申請しようと考える中国公民たちの身分は、極めて大きな危険にさらされている。共産党当局によるこうした工作は、おそらく時間とともに激しさを増している》(P248)
 おそるべき話である。

 ここに言及された桂民海氏とは、先月24日のこのブログ「香港「銅鑼湾書店事件」の真相2」と25日の同「3」に登場する「事件」の当事者で今なお中国に拘束されているとみられる。https://takase.hatenablog.jp/entry/20191024
https://takase.hatenablog.jp/entry/20191025
 銅鑼湾書店の株主で出版は彼が担当していたという。桂民海氏は中国生まれで北京大学を卒業。留学先のスウェーデンで国籍を取得して中国籍を放棄、香港で事業を興し、2014年に銅鑼湾書店を買収している。「失踪」するまで200冊ほどの本を出版したという。
 2015年10月、タイのリゾート地、パタヤで休暇を楽しんでいたところ突然「失踪」。

     家族や友人が探し回っていた翌2016年1月17日、桂民海氏が「2003年に飲酒運転で女子学生を死なせた交通事故の「法的責任を取る」ため中国に自発的に帰国した」と泣きながら自白する衝撃的な映像が国営・中国中央テレビ局(CCTV)で放送され、中国で拘束されていたことが判明した。
 それと前後して娘に「静かにしているように」というメッセージが届く。タイを出国した記録は残っておらず、国内法、国際法を無視した暴挙で、「自白」は強要だと娘は訴えている。
 この事件に詳しいジャーナリスト福島香織氏によれば;

《桂民海はパタヤの別荘マンションにいるところを連れ去られた模様で、マンションのカメラに不審な中国人が映っていたほか、中国人男性グループに車に無理やり乗せられていたといった目撃談まで飛び出した。さらに、知り合いを名乗る四人がマンションの管理部門の許可を得て、桂民海の部屋に入ってパソコンをいじっていたという》

 これはタイの主権を侵害する、中国当局者による拉致事件である。 
 中国に拉致された書店関係者5人のうち、いまも中国に留め置かれているのは桂民海さん一人だ。桂さんは15年に中国当局に拘束されたあと17年に一時釈放されたが、再び中国に行った際に拘束されそのまま今も拘束されていると見られる。

 その桂さんをめぐって中国がスウェーデンを恫喝しているとのニュースが入ってきた。
 《中国共産党に批判的な本を扱っていた香港の書店経営者で、中国当局に拘束されている作家の桂民海氏(55)に、スウェーデンの文化団体が言論の自由をたたえる賞を贈り、中国が猛反発している。中国側は授賞の撤回を求め、14日には「二国間関係に深刻な悪影響がある」と警告。スウェーデンのロベーン首相は「脅しには屈しない」としており、両国関係は険悪化しそうだ
 賞を贈ったのは、言論の自由の擁護を掲げる団体「スウェーデン・ペンクラブ」。公権力から脅迫や迫害を受けている作家や編集者に授与する今年の「トゥホルスキー賞」を、桂民海氏に授与すると4日に発表した。
 桂氏は中国共産党の批判本を扱っていた香港の銅鑼湾書店の株主で、1980年代に学んだスウェーデンの国籍も持つ。2015年にタイで失踪。その後、中国での拘束が判明し、一度釈放されたが、再び拘束されていた。
 在スウェーデン中国大使館の報道官は7日、「犯罪者への授賞は完全な茶番」とする声明を発表。授賞撤回を求めた上で「桂民海はウソつきだ。茶番を生んだ者は、希望的観測に基づき、独善的で傲慢(ごうまん)な行いをした。報いを受けるだろう」と主張した。》(朝日新聞11月16日)

 近年は、中国との経済関係を慮って、EU諸国でも中国への強い批判を控えがちになっているなか、「脅しには屈しない」とのスウェーデンの姿勢は立派である。
 桂氏の解放への声が大きくなることを期待する。 
 桂氏の解放を訴えるFBhttps://www.facebook.com/freeguiminhai/

 桂氏のアンジェラさんのインタビュー

edition.cnn.com