香港「銅鑼湾書店事件」の真相3

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 近所の栗の木。イガが割れてクリの実が顔を出しはじめた。栗ご飯、きのこご飯が食べたくなる。
 節気は寒露(かんろ)から霜降(そうこう)に移った。露から霜へ。昔は霜は雪のように天から降ってくると思われていたので霜を「降る」と表現するのだという。異様に暖かい今年の秋だが、さすがに朝晩は冷えてきた。
 初候「霜始降」(しも、はじめてふる)が24日から。次候「霎時施」(こさめ、ときどきふる)が29日から。末候「楓蔦黄」(もみじ、つた、きばむ)が11月3日から。
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 銅鑼湾書店の元店長、林栄基(ラム・ウィンゲイ)氏のインタビュー続き。
Q:具体的にはどんなことを尋問されたのか?
「尋問内容は変っていった。例えば2か月目からは本の内容。うちは2003年から出版しているから全部で400冊くらいあるが、その中の11冊の本の内容を知ってるかと。」


Q:銅鑼湾書店は出版もしていた?
「出版は主に桂民海と呂波がやっていた。この二人は株主。私は本の販売だけ担当するという関係だった。」
「3か月目になったら本の作者のリストを私に見せた。A4サイズの紙1枚に200人くらいの作者の名があって彼らを知ってるかと聞かれた。知っているなら言わないといけない。 なんで知ってるのか、どんな関係なのか、詳しく知っているかとか。あとは本の内容に関する資料はどこから得たとかも聞かれた。」


Q:彼らは最終的に何が知りたいのか?
「一番大事なのは、その本の中に公開できない資料があるから、その資料をどうやって入手したのかを知りたいのだろう。」


Q:誰が本を買ったかも聞かれたか?
「彼らは顧客リストはすでに持っていた。後で知ったのだが、オーナーの一人、呂波は2015年10月30日に行方不明になったが、彼は銅鑼湾書店と出版部門をある人物に11月中頃に売り渡していた。買った人物の苗字は李で、彼のバックグラウンドはたぶんギャングだ。
私が監禁されたのが10月24日で、3週間後に顧客リストを見せられた。」
「その時は書店が売られたのを知らなかったから、なんで顧客リストがあるのかと驚いた。会社にスパイがいるのか、書店に潜入して盗んだのか。まさか書店を買ったなんて思わなかった。で、そのリストの中に知ってる人はいるかなどと聞かれた。」


Q:中国政府は作者だけでなく、読者まで規制しようというのか?
「顧客の人たちの背景を知りたいのだろう。私に聞いても、お客さんの背景など知らないから意味ないのだが。大事なのは作者のリストだが、出版は桂民海がやっていて私は売るだけだから作者の身分は知らない。作者の名前はペンネームだし。」
「あとは通信販売の大陸の顧客が700人くらいいる。彼らは顧客リストのコピーをもっていた。そして私に香港からパソコンを持ってこいと言った。コピーをすでに持っているのになぜパソコンが欲しいのかと聞いたら、パソコンに入っている顧客を起訴できるという。 コピーだけなら書き直すことができるからなら証拠にならない。パソコンならシステムに記録があるので有力な証拠になる。」

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林栄基氏 9月5日台北にて

Q:毎日何を考えていたか?
「いつまで監禁されるのか、終わりが見えないから、頭がおかしくなる。孤独ななか、自分の将来を心配する以外のことは考えられない。例えば一生監禁するぞと脅されると、そのことをずっと考える。自殺してこの状態を終わらせたくなる。最後は自殺しか考えられなくなった。」
「しかし、もっとつらいのは、自殺さえできなかったことだ。やつらは徹底して自殺を防ぐ工夫をしていた。これまで多くの人が自ら命を断とうとしたのだろう。」


Q:自殺の自由もない?
「例えば夜寝るとき、手は見えるように布団の上に出していなければならない。手が布団の中にあると自殺する可能性があるから。眼鏡はガラスがあるから取り上げられた。」
「食事にはスプーンだけで箸は出てこない。危ないから。歯ブラシや爪切りにはヒモがついていて私が使うとき監視員がヒモの端を持っている。飲み込んだりしないように。」
「壁や机の角に頭を打ちつけて死ぬこともできない。壁も家具もみな音遮断壁のような柔らかいクッションで覆われていた。床には絨毯が敷いてあった。天井は高くて紐で首をくくることもできない。」


Q:信じがたい体験だがいま振り返ってどう思うか?
「こんなことは中国大陸でしか起こらない事だ。正常な国ではこんな事が起こるはずがない。」

 

 インタビューの最後に、私は林氏に、いま香港で闘っている若者たちをどう見ているか尋ねてみた。
 「逃亡犯条例改正を撤回しても、我々が求めている問題は解決されていない。中国は香港の声を聞かないだろう。私は若者たちが傷つき死んでいくのを見たくない。もし闘うなら、まずは自分と周りの人を守りなさい。そして香港から自由が奪われ、安全でなくなったら香港を離れることだ」。
 権力の恐ろしさを身をもって知った林氏の答えは、驚くほど悲観的なものだった。

 ちょうどインタビューの日、林氏が台湾で書店を再開したいとクラウドファンディングを開始した。多くの賛同が寄せられているという。

 《(台北 6日 中央社中国共産党政権に批判的な「禁書」を扱い、閉店に追い込まれた香港の「銅鑼湾書店」の台湾での営業再開を目指して資金を募るクラウドファンディング(CF)が5日夜、始動し、6日午後3時半までに開業資金に充てる目標額の280万台湾元(約960万円)を達成した。CFサイトのプロジェクト説明文によれば、順調に進めば、来年半ばまでに店をオープンさせたいとしている。

 資金を募っているのは、同書店の元店長、林栄基氏。林氏を含む同書店関係者は2015年10月以降、中国当局に逮捕され、身柄を拘束された。林氏は今年4月下旬から台湾に滞在している。

 集まった金額は6日午後7時10分の時点で310万元(約1060万円)を突破。支援者は1600人を超えている。

 林氏によれば、出店地域は台北市の繁華街、西門町一帯を候補にしており、半年以内に場所を確定させる予定。説明文によると、店では香港、台湾、中国の歴史や社会、政治、経済、芸術、文学関連の書籍を中心に扱うほか、香港や台湾情勢について考える交流の場としての役割なども担いたいとしている。

 資金は11月4日まで受け付ける。目標額を超えた分は、交流イベント実施などの運営資金として活用するという。(繆宗翰/編集:名切千絵)》

 http://mjapan.cna.com.tw/news/asoc/201909060006.aspx