稀代の悪法!「香港国家安全法」

 「香港国家安全維持法」は、事前の予想を越える悪法であることが分かった。

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香港警察の公式ツイッターより

 香港警察のツイッターで、この法律での逮捕第一号を写真で紹介している。
 「香港独立の旗を所持し、国家安全維持法に違反した男が逮捕された。これが法律施行後の最初の逮捕である」とある。
 しかも、彼は旗を広げたのではなく、荷物検査で旗を持っていただけで逮捕された。

 彼が来ているTシャツの見慣れた「光復香港 時代革命」(香港を取り戻せ 我らの時代の革命だ)のスローガン、これも法律違反と解釈されうるという。

 《2日付の香港紙・明報は警察関係者の話として、このスローガンを警察が違法と判断したと伝えている。スローガンを2016年に発案したのが、中国からの独立を主張する過激な反中国グループ「本土派」のリーダーだったことが問題視されたという》(朝日新聞3日)

 法律を読んでいくと、気になる条文が次々に出てくる。そのいくつかを挙げると―

 第9条 香港特別行政区は、国家安全を維持し、テロ活動を防止するための努力を強化しなければならない。 学校、社会団体、メディア、インターネット等の国家安全に関する事項について、香港特別行政区政府は必要な措置を講じ、広報、指導、監督、管理を強化しなければならない。
 メディア規制を格段に強化し、盗聴なども大っぴらにやるつもりだろう。

 第20条以下の「国家分裂罪」では香港特別行政区又は中華人民共和国その他の部分と書いてあるので、香港だけではなく台湾、チベットウイグルなどの問題を話題にすること自体、はばかられるだろう
 第一、中国共産党への批判ができなくなるだろうから、多くの香港人が嘆くとおり「言論の自由は死んだ」。

 第33条 次のような事情がある場合には、被疑者又は被告人は、減軽を受けることができる。 より軽い罰則は免除される場合がある。
 (3)他人の犯罪行為を告発して証言した場合、又は他の事件を発見するための重要な手がかりを提供した場合。

 これは密告の奨励で、これまでの中国共産党のやり口からは、相当汚い手を使うことが予想される。

 驚いたのは、香港の外、つまり外国での言動も対象になること。
 第37条 香港特別行政区の永住者、又は香港特別行政区に設立された企業や団体などの法人、又は非法人組織が香港特別行政区外で本法に規定する罪を犯した場合、本法が適用される。

 さらには、 香港特別行政区の永住権を有しない者、つまり香港人ではない私のような外国人にも適用するという。
 第38条 香港特別行政区の永住権を有しない者が、香港特別行政区の外で香港特別行政区が実施する本法に規定する罪を犯した場合、本法が適用される。
 ええっ、香港特別行政区の外」とはここ日本も含む全世界ということだ。では、中国の人権弾圧などを批判する私のこのブログも引っかかるのか。こんなむちゃくちゃな規定、ありえないだろ!?
 もし、私が知らないうちに中国当局にマークされていれば(まあ、私のような小者はお呼びでないとは思うが)中国や香港に行ったとたんに逮捕されるかもしれない。
 日本のウエブサイトを検索してブラックリストを作ることなど、中国のAIの技術ならすぐできるはずだ。なんとも怖い話だ。

 《中国問題に焦点を当てたブログ「チャイナ・コレクション」に投稿しているドナルド・クラーク氏は、チベット独立を提唱する米紙コラムニストが新法違反になる可能性もあるとしている。
「もしあなたが中華人民共和国あるいは香港当局の機嫌を損ねるような発言をしたことがあるなら、香港には近づかないように」と、クラーク氏はつづった。》(BBCより)
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53259691

 何が違反行為か不明な、あいまいな表現も多く、解釈権は本土(中国共産党)にあるから、何でもひっかけられる。
 この法律が香港の法律と矛盾する場合には、中国側の法律が優先される。
 当局は好みの裁判官を選任できるうえ、裁判が中国で行われる可能性もある。
 まさに中国共産党のやりたい放題、何から何まで香港の自由をがんじがらめにする規定ばかりだ。

 (ジャーナリスト福島香織氏の解説も参照されたい。 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61142

 身の危険を感じて、海外に脱出する活動家も現れた。昨年のノーベル平和賞候補にも名前があがったネイサン・ロー氏も今後は海外で活動するという。

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左からネイサン・ロー氏、ジョシュア・ウォン氏、アグネス・チョウ(周庭)氏。3人とも6月30日、政治団体「デモシスト」(香港衆志)からの脱退を表明した。

この法律の施行を受けて、香港の代表的な民主活動家である羅冠聡(ネイサン・ロー)氏(26)が2日深夜、自身のフェイスブックで香港を離れたことを明らかにした。直前にテレビ会議システムを通して米下院の公聴会で証言。香港の人権状況の悪化について説明するなど支援を呼びかけたことで「予測できない危険な状況に陥った」と説明した。》(朝日新聞3日)

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米上院公聴会で証言するネイサン・ロー氏

 事態がここまで来ると、日本にいる我々が香港の人々に対して、簡単に「がんばって!」などと言えなくなる。彼らは終身刑まで科せられる弾圧システムに直面しており、場合によっては命の危険さえある。

 香港情勢に詳しい倉田徹立教大教授は、国際社会が一致した形で中国に強く抗議していくことが必要だという。
 これからは、香港の外にいる我々が彼らの分も声を大にして訴えていかなくてはならないのだろう。