「警察に逮捕されました」
香港の知り合いのジャーナリストから連絡が入った。彼はネットニュース記者で、何冊も本を書いている、香港では名の知れたジャーナリストである。
警察が包囲する理工大学の近くに待機していたところ、理由もなくいきなり警察に拘束され、警察署に30時間ほど拘置されたという。彼とともに多くの取材者や医学部の学生などで構成される救急スタッフ、弁護士など暴力とは関係のない人々も一緒に逮捕されたとのことだ。
「大陸」からの指示で香港警察は強硬な取り締まりを強めているが、これまでとは違ったレベルにエスカレートしているようだ。
THINGS ARE NOT ALWAWS WHAT THEY SEEM
直訳すると、物事はそう見えるものだとは限らない。目の前に現れていることが本質ではないときがある、ということか。
下の英文は;
THE BEARS AREN’T CROSSING THE ROAD
THE ROAD IS CROSSING THE FOREST
クマが道路を横切っているのではない
道路が森を横切っているのだ
なるほど。
テレビの映像だけからは、香港では学生たちが火炎瓶を投げたり暴力をふるうから警察が規制に乗り出すのだというふうにも見える。しかし、それが事態の本質ではない。
暴力についてはまた書くが、今日は明日に投票が迫った香港の区議会議員選挙について。
《デモ隊と警察との衝突で揺れる香港で24日、区議会(地方議会)選挙が行われる。住民にとっては、政治を巡る不満を表明する機会となりそうだ。
区議会選挙は香港で最も民主的な選挙とされ、今回有権者の数は400万人を超える。これまでで初めて、区議会の452議席全てが改選される。
立候補者の多くは政界に初めて進出する若者で、政府や中国に近い現職議員らと対決することになる。》(The Wall Street Journal)
区議会議員は条例や制度を決めるなどの権限を持たないが、今回は政府への信任投票としての意味をもっている。争点は何といっても6月からの抗議活動への評価だ。民主派が勝てば、抗議行動が支持されたとして勢いづくだろうし、親中派が勝てば今の強硬な弾圧方針をいっそう進めることになろう。またアメリカの香港人権法案の扱いなど国際的な動きへの影響も見逃せない。
任期は4年。18歳以上の永住者が選挙権を21歳以上が被選挙権を持つ。⽴法権はなく政権運営には関与しないが、⾏政⻑官選挙の投票権を持つ選挙委員1200⼈のうち、117⼈は区議から選ばれるなど⼀定の影響⼒を持つ。現在、親中派勢⼒が過去3連勝しており、現在324議席を占める。
区議選をめぐってはすでに多くの「事件」が起きている。
①11月2日、民主派の区議選候補者の集会を警官隊が解散させ、候補3人が逮捕される。
②11月3日、民主派の集会参加者に刃物で切り付けた男が、民主派の区議会議員の耳を噛み千切る。
③11月6日、立法会(議会)議員であり区議会議員候補者でもある親中派議員(香港では立法会と区議会の議員の兼職が可能)が刃物を持った男に刺され負傷。
④11月9日、立法会(議会)の民主派議員7人が、「逃亡犯条例」改正案審議中の5月11日に議事の進行を妨げたとして逮捕される。7人のうち4人が区議選立候補者。
6月以降の政治情勢で親中派が急激に支持を減らしていると見られ、香港政府=親中派は危機感を持つ。社会の混乱を理由に政府は選挙を取りやめるのではないかとの憶測もとぶが、民主派は社会混乱の口実を政府に与えぬよう市民に平穏を呼びかけている。
きょうのTBS「報道特集」で香港を理工大学での警察の強引な取り締まり(TBSの取材班を含む取材者たちを狙って催涙弾が撃たれていた)から区議選の選挙戦までしっかりリポートしていて見ごたえがあった。私もこの時期に取材に行きたくてテレビ局に提案したのだが、受注できなかった。残念。テレビ局はすでにそれぞれ支局や外信部から取材班を香港に入れているので、私たち外部のものが仕事を受注するのはけっこうハードルが高いのだ。
「報道特集」に二人の民主派の区議選候補が登場したがいずれも6月からの抗議活動に参加し政治意識を高めた若者だった。民主派は、若い候補が多い。香港中文大学4年生の陳易舜(Eason Chan,23)、香港大学の梁晃維(Fergus Leung,22)、香港理工大学の陸梓峂(21)など学生候補もいる。
小選挙区制なので、勢力図が一変する可能性もある。ここ半年の反政府運動の高まりで、民主派が有利といわれるが、区議選は一つの団地が一選挙区と言う場所もあるほど地域密着の選挙だ。信号の設置など住民への身近なサービスで競うとなると地域の顔役が有利になる。親中派が452議席中324議席を占める一つの要因は、資金力を背景に老人会など「ドブ板」活動で浸透していることにあるという。これを若者主体の民主派が崩すのは簡単ではないように思えるが、どうだろうか。
今月はじめ、おもしろい民主派候補の一人に会ってきた。
キャシー・ヤウ(邱)さん(36)は元警察官だ。08年から警察官として刑事課や機動隊で働き、デモが本格化した今年6月、雑踏警備を命じられデモ隊と最前線で向き合った。デモ隊を排除するため、6月12日に警察隊は催涙弾を撃ち始めた。警察を市民との亀裂が広がり、限界を感じて8月に辞職したという。
ヤウさんは雑踏警備などでなじみのある湾仔地区で地域ボランティアのグループに入った。同地区の大通りはデモのコースになることが多く、穴だらけの歩道や壊された歩道の柵など、衝突の跡があちこちに残る。柵や歩道の修理を地元政府に呼びかける取り組みを通して議員という仕事を意識するようになり、「もう一度、地域のために働きたい」と立候補を決めた。(朝日新聞記事参照https://www.asahi.com/articles/photo/AS20191009003328.html)
ヤウさんが議席を争うのは3期連続当選の現職、ヨランダ・ウン(伍婉婷)氏。前々回は75%の得票で民主派候補に圧勝。前回は無投票当選だった。強敵である。
さあ、結果はどうなるか。