アメリカに「ジャーナリスト保護委員会」CPJ-Committee to Protect Journalists という団体があり世界でのジャーナリストへの迫害、弾圧状況を調査し救援している。
CPJによれば、2020年、投獄されたジャーナリストが274人で、これまでで最多になったという。以下、ウェブサイトに掲載された記事から。
「2020年は、世界で取材活動に関係して投獄されたジャーナリストの数が記録を更新した。これは政府が新型コロナウイルスの取材や政情不安に関する取材を弾圧したことによるものだ。(略)
独裁政権では、パンデミックのなか、裁判を遅らせ、面会者を制限し、獄中の健康リスクの増大を無視してきた。少なくとも2名のジャーナリストが獄中でコロナ感染により死亡した。」
収監されたジャーナリストの人数が多いのは
中国47人、トルコ37人、エジプト27人、エリトリア16人、イラン15人、ベトナム15人、ロシア10人、ベラルーシ10人など。
中国に見られるように、コロナ取材で当局の意に沿わない報道をしたことで拘束・収監される例も出ており、パンデミックが投獄者の数を押し上げているという。
アメリカはゼロだが、人種差別や景観の過剰な暴力に対する抗議デモの取材したジャーナリスト110人が拘束または訴追された。
今年のリポートでは、以下の指摘に注目したい。
「民主的価値に関する世界的なリーダーシップの欠如―とくに米国のトランプ大統領がさんざんプレスを誹謗中傷し、エジプトのシシ大統領のような独裁者を持ち上げるなどしたことが危機を永続させている。独裁政権はトランプの《フェイクニュース》のレトリックを活用して彼らの行為を正当化した。とくにエジプトでは、《嘘の報道》の容疑で投獄されたジャーナリストの数がどんどん増えた。」
ところで、このリポートには出てこないが、東南アジア諸国で活動家の失踪が起きている。
先日、タイの反政府行動にかかわる失踪がニュースになっていた。
2014年、タイで軍事クーデターが起きると、民主化運動の活動家だったワンチャルムさんは拘束を恐れ隣国カンボジアに逃れて軍事政権批判を続けていた。
2018年6月、コンピューター犯罪法違反の容疑で逮捕状が出されたが、ワンチャルムさんは国外にいたので逮捕されることはなかった。2年後の去年6月4日「いつになったらプラユット(現首相)は内閣を解散し辞任するのか」とフェイスブックに投稿している。
その後、タイにいる姉のシタナンさんがワンチャルンさんから身の危険を訴える異様な電話を受け、ワンチャルンさんは消息を絶った。
タイ捜査当局が取り合ってくれないため、シタナンさんはカンボジアにも行き、当局に協力を訴えたが何の進展もなないという。
政治的理由による誘拐または殺害の可能性を疑わせる事例だ。
ASEAN人権議員連盟のテディー・バギーラ氏は、ワンチャルンさんのようなケースでは、政府機関同士の協力も疑われるという。
「政治的な背景で国を逃れてきた人たちにとって、もはや安全な場所はない」とバギーラさんは危機感を訴える。
観光などで日本人が親しんできたタイ、ベトナム、フィリピンなどでこうした非道がまかり通っていることに注意したい。
実は、先にあげたCPJにはご縁がある。
20年以上昔のこと、タイに駐在していた私は、東北地方で軍の利権を暴く取材をして拘束されたことがある。数時間後に解放されて自宅に戻ると、どこで調べたのか、すぐにアメリカのCPJから電話が入り、要望があれば申し出るようにと言ってくれた。翌日、英字新聞の1面に、私の名前入りで「軍による記者へのハラスメント」との見出しの大きな記事が出たが、あれもCPJが出させたのかもしれない。
私が軍に拘束されたさい、軍の担当者に強く抗議してくれた地方新聞の若い男性記者がいた。彼は軍批判を続けていた記者だったそうだが、その後しばらくして何者かに銃撃されて殺された。
「微笑みの国」タイでは、軍と王室の利権に触れることは命の危険を意味した。
タイでは、2013年から2018年までで王室批判をして99人もが逮捕されている。
いまタイは、民主化運動が王室批判に踏み込んでいる。今後、注視が必要だ。