坂本龍一の「ダウンタウン理論」によせて(2)

 ガザでは砲爆撃で死傷する人の他、食糧不足で体力が衰え、病気になったり亡くなる人たちのことも心配だ。能登半島地震で避難した人が「関連死」で亡くなっているが、それがガザの逃げ惑う人々に起きている。

攻撃前のハンユニス(NHKが紹介したBBCニュース)

攻撃後。これが「テロリストだけを狙った」攻撃なのか!?

外からの支援がとても間に合わず、ガザの人々は自力で食べものをはじめすべての必需品を購入しなければならない。供給不足で物価は高騰している。(NHK国際報道より)

モノがなく物価が高くてまともに食べられないという。(国際報道より)

  パレスチナ自治区ガザで人道支援を続ける国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA)は2月1日、イスラエルへの奇襲に職員が関与した疑いが浮上して以降、各国がUNRWAへの資金拠出を停止した影響で、「このままであれば、2月末までに活動を停止せざるを得ない可能性が高い」との見方を示した。ロイター通信が1日、広報担当者に確認したと報じた。【朝日新聞記事より)

 1日の時点で、最大の支援国である米国や、英国、日本など16カ国が資金の拠出を停止しているという。

 そもそも何万人もいるなかのわずかな数の職員の行為で組織全体を罰することは許されないし、米国にすぐに右ならえして供出を止めた日本政府が情けない。

 これに対して、現地の支援をしている日本国際ボランティアセンターJVCなどの日本のNGOや研究者らが「日本政府によるUNRWAへの資金拠出一時停止の撤回を求める」との要請文を上川外相に提出した。

《(前略)UNRWAパレスチナ難民支援の中核を担ってきた組織ですが、今回の空爆により、少なくとも152人の職員が亡くなり、145のUNRWAが運営する避難所が攻撃されました。そして現在も155の避難所を運営し、生きるために必要な支援を人々に届けています。UNRWAは、ガザの人々にとって最後の命の砦であり、資金提供を停止することは、すでに危機的状況に置かれたガザの人々の命を奪うことに等しい行為です。

 攻撃への関与に関する調査の実施については支持する一方、3万人の職員のうち一部の個人の関与を理由に、ガザの人々全体に対する人道支援継続を危機に陥れることは、国際法違反の集団的懲罰に該当する可能性があります。

 私たちは、ガザの一般市民がこれ以上犠牲にならないよう、恒久的な停戦を訴え続けてきました。しかし、4ヶ月が経つ現在も毎日数百人が命を奪われ、そして生存している人々にとっても環境は日に日に過酷になっています。これ以上ガザ地区の一般市民が追い詰められることがあってはなりません。一刻も早くUNRWAへの拠出金の一時停止を撤回してください。

2024年1月31日(以下略)》

UNRWAの活動が止まったら、すでに地獄のような状況は破滅的になるとNGOは訴える。(NHK国際報道より)


 すぐに撤回を!

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 もう2週間も前に紹介した、坂本龍一の「ダウンタウン理論」についてのつづき。

 なお、これは松本人志の性加害問題と直接の関係はない。

takase.hatenablog.jp

坂本:多少なりとも規範があった時代には、ダウンタウンの芸も新鮮だし、面白かった。子どもがいきなり人を刺したら、異常な事件だと思える社会では、いきなり人をどつくダウンタウンは面白かった。

 でも、いまはダウンタウンのやってることが、社会のスタンダードになっちゃった。初対面の人をどつくとか、いじめてなにが悪いって開き直るのが、当たり前になった。

 結局、子どもたちはみんなダウンタウンをやっている。だって、いまのいじめとか少年犯罪のパターンって、ほんとダウンタウンそのままじゃない?松本人志はあのすごい才能で、そういう社会を啓示したんだよ。
(略)

坂本:「いじめてなにがが悪い」から「人を殺してなにが悪い」に行き着くのは早い。そういう社会になったら、もうダウンタウンの存在意義はないわけだけど。

 でも、さっき言ったように、権威に反発して、ルールがないことはいいことだと戦後最初に言ってたのは、僕らの世代なんだよね。いわゆる全共闘世代。いま僕らの世代が親になり、教師になって、そういう子どもを育ててしまってる。

天童:ダウンタウン的なものって、かつては社会のメインストリートにはなり得なかったですよね。でも、それがいまの子どもたちには流行になり、目標でさえあるのかもしれない。この先を考えると、ダウンタウンよりもうひとつ外れていた、言わば外れの外れにあった人たち—明るく「アホなこと言うな」とすら言えないような人たちが、メインストリートに出てくることもあるかもしれない。それが僕が希望を持てるような、自分や他者の痛みを、おだやかに受け入れていくアンチダウンタウンなのか、あるいは、いまはまだ異常だと思われている「人を殺してなにが悪い」っていう人たちなのかはわからない。

坂本:それについては、僕は、ダウンタウンダウンタウン後というのと同時に、オウム前オウム後の変容もすごく感じるの。オウム真理教はああなってしまったから、もうオウムに入ることはできない。けれど、オウム的な感性をもってる層は非常に厚くて、インターネットの世界を中心に増殖し続けている。

天童:ああ、その層は多いと思いますね。

坂本:そういう子どもは単に神秘的なものに関心があるとかいうことじゃなくて、日常的に突出したことをするわけでもない。バスジャックもしないし、松本のように人をどつきもしないし、オウムにも入らない。でも、現実に適応できなくて、自分を見つめることもできなくて、なにかに導かれたがっているような分厚い層の広がりがあるような気がする。

・・・・・・・

 これは坂本龍一の「世代論」でもあるが、「権威に反発して、ルールがないことはいいことだと戦後最初に言ってたのは、僕らの世代なんだよね。いわゆる全共闘世代。いま僕らの世代が親になり、教師になって、そういう子どもを育ててしまっている」と語っていることから、自分たちの世代が、社会を、権威をぶち壊していいんだという風潮で染め上げてしまったことを自覚している。

 以前、本ブログで、日本人の「権威嫌い」が世界で突出していることを紹介した。

 再録すると、「世界価値観調査」(WVS)という、世界人口の90%の国々・地域を網羅した価値観に関する国際調査で、近い将来、あなたの社会で「権威や権力がより尊重される(Greater respect for authority)」ようになるとすると、それをどう思うかを質問した。これに「良いこと」「気にしない」「悪いこと」「わからない」の選択肢から選ぶのだ。

日本が一番下。

 日本は「良い」が1.8%しかなく、「悪い」が80.6%と、調査対象国・地域79のなかで権威に対してとびぬけた拒否反応を見せている。

takase.hatenablog.jp

 つまり日本人にとっては、権威や権力というものは、それがどんなものであれすべて「悪」なのだ。もっと言うと、上下関係はダメ、フラットな関係のなかで、自分のことだけを考え、「人生の目的は私が幸せになること、以上、終わり!」で生きている。

 これは私がしつこく言っている、日本人のコスモロジー崩壊の一側面である。

takase.hatenablog.jp

 折に触れて書いていきたい。

大阪のメディアに活を入れる橋下徹氏敗訴判決

 橋下徹氏と維新の会の「メディア支配」に打撃を与える判決が下された。

自ら「勝訴」の紙を掲げる弘中惇一郎弁護士とモニターで会見に臨む大石あきこ議員。

弘中惇一郎弁護士

 「れいわ新選組の大石晃子衆院議員へのインタビュー記事で名誉を傷つけられたとして、大阪府知事橋下徹が、大石氏と配信元の「日刊現代」に慰謝料300万円の損害賠償を求める訴訟を起こし、大阪地裁で31日、判決があった。小川嘉基裁判長は「発言の重要な部分は真実。論評の範囲を逸脱しておらず、不法行為には当たらない」と述べ、橋下氏側の請求を棄却した。

「カミソリ」などと呼ばれる弘中弁護士(東スポ


 判決によると、記事は2021年12月、日刊現代のニュースサイトで配信された。府職員出身の大石氏は記事の中で、知事当時の橋下氏について「気に入らない記者は袋だたき」「飴(あめ)と鞭(むち)でマスコミをDV(ドメスティックバイオレンス)して服従させた」などと語った。

 橋下氏は「メディアを萎縮させたことはなく、発言によって社会的評価を低下させられた」と主張したが、判決は、橋下氏が府知事や大阪市長当時、意に沿わない報道をしたメディアを批判し、取材を受けない可能性を示唆するなどしたと指摘。大石氏の発言を「橋下氏の姿勢は許されないという意見を示したもの」などと認定し、不法行為には当たらないと結論づけた。」(朝日新聞

 橋下氏は自分を批判する記者を恫喝し、言うことをきく記者を優遇するなど、アメとムチでメディアを手なずけてきた。例えば、気にいらない記者には取材に応じないなど排除する、するとその所属メディアの上層部が腰砕けになって担当記者を取り替えたり、気にいられるように報道して橋下氏に迎合する。その関係が後の維新府政にも引き継がれ、メディアが維新を持ち上げる原因になってきた。「維新の会はメディアを利用して大きくなってきた」(大石氏)のである。

 大石氏は、勝訴を受けて、大阪のメディアが維新府政に迎合したり忖度したりせずに、ちゃんと報道してほしい、とくに万博とカジノを、と語った。この判決は大阪のメディアへの「活」でもある。

 今回の判決は、大石氏側の全面勝訴。大石氏の代理人は、あの無罪請負人、弘中惇一郎弁護士だ。さすがだな。かつて情熱大陸で取材させてもらった、すごい弁護士である。

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 もう一つ、メディアに関する問題。

 能登地震発生から一ヶ月がたった。1月31日時点で1万4643人が避難生活を送り、うち9557人(65%)が今も体育館や集会所といった1次避難所305カ所に身を寄せる。

もう一ヶ月経つのか・・(共同通信より)

 家族が家の下敷きになり「助けて」と叫び続けたのに救援が来ずに亡くなったという切ない話や地震から3週間以上たってもまともに水や食事がとれないでいる実態がニュースで流れるたび、今回の地震への対応は遅れているなと感じていたが、その理由については、「半島の特殊性でアクセスが悪い」などごく一般的な説明ですまされ、なにかもやもやした感じだったが、これを指摘した論説能登地震NHKを紹介したい。能登地震にかんするNHK報道に違和感を感じたとして、それは放送の量ではなく質、中身だったという。(17日朝刊「多事争論田玉恵美論説委員


《逃げ遅れの通報が多く対応が追いつかない。道路の寸断で救援が難航している―。現地からは一刻を争う状況が伝わってくる。一方で、政府や行政が事態をどう打開しようとしているのか、その実相に迫ろうとする情報はほとんどない。

 たとえば、首相が「自衛隊を4600人に増強する」と語るのは紹介するが、その数が妥当なのか、どう評価すべきなのかについての解説はない。肝心の道路を通すため、誰がどう動いているのか。課題は何か。空路はどの程度使えているのか。こうした疑問も掘り下げないまま、キャスターが「一刻も早い支援が求められています」などと当り前のことを言うので、もどかしさばかりが募る。

 現地の人たちの窮状を伝えるのはもちろん不可欠で、大事なことだ。だが、それに偏重した報道を見ていると、本当に被災地のためになっているのだろうかと考え込んでしまった。

 建物の下で助けを待つ数日の間に体が冷えて亡くなったとみられる人たちがいると証言する医師がいた。5日後に救出された人もいる。まだできることがあったのではないかと思わずにはいられない。

 被害の全体像がなかなか見えず、初動も問われた今回はとりわけ、政治家や省庁などの動きに同時並行で目を光らせ、場合によっては警鐘を鳴らすような放送も必要だったのではないか。新聞も当然力量を試されるが、受信料を預かり災害報道を最大の使命の一つとするNHKは真価が問われたはずだ。
(略)
 NHK放送ガイドラインをみると、「災害の報道にあたっても、自主・自律を貫く」と書かれていた。ならばなおのこと、緊急時の政治や行政の動向に目を凝らし、時機を逃すことなく報じてほしい。》

 正論です。

 

ウクライナ選手にとってはスポーツが「戦場」

 ガザのニュースは毎日見るのがつらい。

 ガザ地区南部のハンユニスへイスラエルが攻撃を強めるなか、24日、国連避難施設が戦車による攻撃を受けて炎上、9人が死亡し、75人がけがをしたUNRWA国連パレスチナ難民救済事業機関)ガザ事務所の代表が明らかにした。

 国連は24日、これまでにガザ地区で国連の施設に住民120万人が避難し、少なくとも340人が死亡し、1100人以上がけがをしたと発表した。

 住民が逃げるところを探してさまようなか、国連施設なら大丈夫と思って避難してもイスラエルは容赦なく攻撃するのだ。この無差別の住民攻撃で犠牲者の7割が女性と子どもだ。どこが「自衛のための戦い」なのか?

 パレスチナ自治区ガザ地区の保健当局は、24日、人道支援物資の到着を待つパレスチナ人の列に発砲があり、少なくとも20人が死亡したと発表した。

少女は「起きていることが信じられません」と泣き崩れた。これらの子どもたちが生き残っても、心の傷はずっと残るだろう。(サンモニ28日)

私たちはこの嘆きに何も答えられない(サンモニ)

ガザの主要な病院の一つの最近の映像にはイスラエル軍の攻撃で内部まで破壊された様子が映っている。

立派な設備の病院だったと、ここで働いていた川瀬佐知子医師は言う(サンモニ)

 医療は崩壊状態で、連日多くの重症、重病の人々が出るのに全く対応できないという。「麻酔なしで足の切断手術」「消毒液の代わりに塩を塗る」といった医療現場の惨状になっていると報じられている。(アナドル通信社)

 ユニセフが17日発表したところによるろ、21万5千人以上が呼吸器疾患を、15万2千人以上が下痢を患っているという。

 国際司法裁判所(ICJ)は26日、イスラエルに対し、暫定措置としてジェノサイド(集団殺害)行為を防ぐ「全ての手段」を講じることなどを命じた。攻撃がジェノサイドにあたるとして、南アフリカが提訴し、軍事作戦停止を含む暫定措置を求めていた。

 今回ICJが命じたのは、ジェノサイドの防止と関連の証拠の保全で、それにはジェノサイドの扇動を防止する手段を講じることや、ガザの人々への人道支援を供給するために有効な方策の即時実施も含まれている。ただし、作戦停止の命令には踏み込まなかった。

国際司法裁判所(サンモニ)

イスラエルは大量虐殺にあたるすべての行為を防止するために、あらゆる措置を講じなければならない」と

 ICJの暫定措置命令は、ジェノサイドの認定は伴わず、緊急的に人々を保護するための仮処分だ。命令には法的拘束力があるが、ICJには強制的な執行手段がないのでこの有効性は疑問だが、世界の声を突きつけることにはなる。

 南アフリカアパルトヘイトの暗い歴史を背負っている。提訴したのはその自覚をもってのことだろう。唯一の被爆国、日本が核廃絶へのイニシアチブをとらないばかりか後ろ向きの対応に終始しているのが恥ずかしい。
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 一昨日終わったテニスの「全豪オープン。数日前の新聞のスポーツ欄でウクライナ選手が活躍しているという記事が目に入った。21日時点で女子シングルス勝ち残り12人のうち3人がウクライナ勢だったという。(残念ながら決勝には進めなかった)

朝日新聞より

 世界ランキング37位のコスチュクという選手は、家族が首都キーウで暮らす。会見でも戦争について語っている。

ウクライナが3日で占領されなかったのは奇跡だった。その奇跡が終り、多くの人の関心が薄れていると感じる」と会見で危機感、憤りを訴えた。ウクライナを、その原状をアピールしなければという使命感が、勝利への執念につながっているという。

 ウクライナでもっとも人気のあるスポーツはサッカーだそうだが、その中の強豪チーム、シャフタール・ドネツクが去年12月、来日してアビスパ福岡と1万8千の観客の前でチャリティマッチを行い、試合の収益はウクライナの復興支援に回された

チャリティマッチは2対2だった(NHK国際報道より)

在日ウクライナ人も多数応援にかけつけた(国際報道)

サッカーは我々の「戦場」だと語る選手たち【国際報道より)

 シャフタールは本拠地ドネツク市が2014年以来親ロ勢力の「ドネツク民共和国」の支配下に、現在はロシア軍の占領下にある。そのため、ポーランド疎開生活を余儀なくされているが、たくさんの苦労を乗り越え、欧州チャンピオンズリーグでも健闘している。この試合のあとの記者会見でも、選手たちは祖国の兵士との連帯を語った。

「戦争中のウクライナでは毎日人が死んでいます。きのうもチームのスタッフが前線で亡くなりました。とても苦しい。」

「よいプレーを見せ、兵士にモチベーションを与えていきたい。難しい状況の中、前向きな気持ちを維持することは難しいが、そうするしかありません。」

「(日本の)支援をありがとう。私たちとともにあってくれてありがとう。ぜひこれからもそうしてほしい。サッカーを続け、試合を通してウクライナを支えていきたい。」

 彼らにとってスポーツを続けること自体が「戦闘」なのだ

 銃を持って前線に行くだけが戦いではない。ウクライナでは、各自がそれぞれの持ち場で自分なりのやり方で祖国に貢献している。

去年7月、フェンシングの試合で、勝ったウクライナ選手オリガ・ハルランが対戦相手のロシア人選手との握手を拒否。剣を突き付けたまま睨みつけた。ハルラン選手は失格処分になった。ロシア、ベラルーシ選手との握手拒否は他の競技でも起きている。

 

安田純平さんの旅券拒否は「違法」

 25日、ジャーナリスト安田純平さんが国を訴えた裁判の判決が東京地裁で言い渡された。以下、朝日新聞編集委員北野隆一さんのFB投稿がまとまっているので引用させていただく。

判決の後、記者に答える安田純平さん(筆者撮影)

「パスポート(旅券)の発給拒否処分は憲法違反だとして、ジャーナリストの安田純平さんが国を提訴した訴訟。東京地裁は判決で、発給拒否について「外務大臣裁量権を逸脱し違法」と認定し、処分を取り消しました。

 旅券法の規定が争点になった裁判で東京地裁は、安田純平さんを入国禁止にしたトルコや近隣国への渡航制限は合理的と判断した一方、全ての国への渡航を制限する旅券の発給拒否は「違法で取り消されるべきだ」と判示しました。

 東京地裁は1月19日の判決で、パスポート発給を外務省に拒否されたジャーナリストの常岡浩介さんの訴訟に対する請求を棄却しています。その前にもフリーのカメラマン杉本祐一さんがシリアへの取材計画を理由にパスポートを強制返納させられた問題についての訴訟もありました。紛争地に向かうジャーナリストの自由を奪う判断が続いてきたなかで、安田さんの訴訟でジャーナリストの旅券の発給拒否を取り消すとした今回の判決は異例なのだそうです。

 ただし今回の判決では、外務省の旅券発給拒否処分が取り消された一方で、安田さんがあわせて求めていた「旅券発給義務づけ」の請求については棄却されました。このため安田さんがパスポートの再申請をしても、外務省が何か別の理由をつけて発給を拒否できる余地は残されたままです。

 安田さんの代理人の岩井信弁護士は判決について、「処分が取り消されたのは大きな意味を持つ」と評価しつつ、今回の勝訴判決によってもなおパスポートが得られない状況であることを踏まえ、「旅券がないと別の国に行けない。絶対的な権利制約なのに、憲法違反などの論点が認められず納得できない」と語り、控訴する意向を示しました。

 安田純平さんは「無差別爆撃など凄惨な紛争地の現状を伝えよう」とフリージャーナリストになったそうですが、パスポート発給拒否で現在も海外取材ができないままです。記者会見では「移動の自由は国家によって制限されるべきではない」と語りました。」https://www.facebook.com/ryuichi.kitano.7

司法記者クラブでの記者会見(筆者撮影)

 常岡浩介さんの裁判については、本ブログでも何度か触れた。

takase.hatenablog.jp

 

 私も東京地裁に傍聴に行ったが、裁判長が外務大臣が令和元年7月10日付けで原告に対してした一般旅券発給拒否処分を取り消す」と読み上げたときは、思わず「おお」と小さな声をもらしてしまった。勝った。政府の処分が不法であるとして取り消されたのだ。

 ただ、次に「原告のその余の請求をいずれも棄却する」さらに「訴訟費用は、これを2分し、それぞれを各自の負担とする」と続き、あとで判決文を読むと、「勝訴」といっても最低限のものだと知る。

 トルコが入国禁止にした(安田さんはこの事実はなかったと主張しているが)からという理由で旅券の発給を拒否して、その他すべての国にも行けなくするのは理不尽きわまりない。

 ある国から入国禁止になるということはしばしば起こりうる。例えば、ロシア外務省はウクライナ侵攻後、岸田文雄首相ら日本の閣僚や政治家、学者、メディア関係者など計63人について、ロシアへの入国を無期限で禁止すると発表している。だからといって、岸田首相ふくめたこれらの人たちが安田さんのように、一般旅券の発給拒否処分を受けるわけではない。

 画期的な判決だといっても、当たり前で最低限の判断をしただけ。外務大臣にきわめて大きな裁量権を認めながら、原告の「発給義務づけ」請求を棄却したということは、安田さんがこれから旅券申請をしたら必ず発給されるとは限らないことを意味する。2019年の申請時はトルコの入国禁止措置を理由に旅券発給を拒否したが、こんどは別な理由で拒否することも可能だからだ。

 安田純平さんは2018年10月に解放されて帰国し、翌2019年1月に旅券を申請したのだが、実はそのとき私は安田さんがシリアで拘束された事件を検証する番組企画を立ち上げていて、安田さんとともに中東へ取材しに行く計画だったのだ。旅券が発給されるのを前提に航空便の手配も始めていた。そこに「旅券がすぐには出そうもない」との安田さんからの連絡が入り、残念ながら彼なしで取材を行った経緯がある。本来は、安田さん自身が、拘束される前までの足跡をたどっていくはずだったので、とても残念だった。

 安田純平さんや常岡浩介さんへの旅券発給拒否は、明らかに、紛争地取材をする目障りな、そして立場の弱いフリーランスを狙い撃ちしたいやがらせだ。これは報道の自由への重大な制限でもあるのだから、ほんとうは企業メディアも重大な関心をもって彼らを守る闘いをすべきなのだ。だが、「ウクライナは危険地だから取材目的でも行かないように」との政府の言いつけを素直に守るのが日本のマスコミなのだ。

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 先日、地震に襲われた能登の将来を、日本海の交流から歴史の長い軸で考えたいとの主張を新聞で見た。なるほどと思わせる内容だった。

 古代では北陸は「越」と呼ばれ出雲との関わりがあり、また律令国家が成立する以前から、日本海側では大陸との交流があった。7世紀末には、対岸に、今の北朝鮮・中国・ロシアにまたがる国家渤海が興る。その後、約200年の間に、一説には34回も日本に使節を送ったろいうが、能登との関りも深く、8世紀に日本側から渤海に送った使節遣渤海使」の船には「能登」と名づけられていたそうだ。

 律令国家にとっても能登は重要な地域であったと考えられている。能登国一宮(いちのみや)気多大社が、常陸の鹿島、下総の香取、越前の気比と並び称される、格の高い社格を認められていたことからもそれがうかがえるという。

 江戸時代後半から明治時代にかけて、日本海航路で活躍した北前船は、船主は能登を含む北陸地方の人が多かった。とくに能登蝦夷島(えぞがしま)=北海道とのつながりは深かったという。船主の一つ、奥能登の時国(ときくに)家などは北海道の魚肥や昆布を大坂で売り大いに栄えた。

 この記事を書いた神里達博千葉大学大学院教授は、日本海世界における人々のネットワークの、重要なハブとしての能登」の姿を踏まえた上で、能登の将来を考えていくべきではないかと提言し、以下のように結んでいる。

「とにかく日本列島は自然災害が多い。正直、絶望的な気持ちになることもある。だが私たちの多くは、そのような厳しい苦難にも諦めることなく生き抜いた人々の、末裔であるはずだ。知恵と勇気を出し合って、なんとか前に進んでいきたい」。

 私たちは、すばらしいご先祖をもっているのだから、きっとやれるよという勇気づけがすばらしい。

蓮池薫さんが語る北朝鮮の嘘③

 12日から全国公開の映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』。すばらしい映画でお勧めです。

www.transformer.co.jp


 北朝鮮から韓国への亡命を企てる一家、北朝鮮に残してきた息子との再会を切望する韓国に先に亡命した母親、彼らの脱北を命がけで支援する韓国の牧師に密着したドキュメンタリー。

 中国、ベトナムラオス、タイと移動距離1万2千キロの脱北の旅は4つの国境を越え、山や谷を徒歩で踏破する過酷なもので、途中で当局に見つかれば強制送還され命の保障はない。この決死の行程をスマホで撮影した生々しい映像に圧倒される。

20日読売テレビ「ウエークアップ+」で映画が紹介された。主人公のキム・ソンウン牧師。

脱北試みた息子は捉えられ収容所に入れられたと知った、先に韓国に亡命した母親

 登場する人物たちの言動を通して、命をかけて脱出しなければならない北朝鮮という体制の本質が、恐怖と共に浮かび上がってくる。

 2005年に私たちが入手して世界配信した北朝鮮公開処刑映像も使用されていて、なつかしく観た。

私たちが入手した北朝鮮公開処刑映像の一部が映画で使われている。住民は処刑を見るために動員される。

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 蓮池薫さん証言のつづき。なぜ8人が「死亡」とされたのか。

 蓮池さんによれば、横田めぐみさんは拉致された時に持っていたバドミントンのラケットを大事に持っていたという。めぐみさんは、バドミントン部の部活が終っての帰路、拉致されたのだった。

蓮池薫さん「やっぱりふるさとへの思い、やっぱり切れないというか、なかなか断ち切れない。当然だと思うんですけれどもね、幼くして来られて。そういったところからすごく思い悩むような時もありました」

「家に帰りたいという思いでフラフラっと出たことは(何度か)あるんですよ。出て途中で検問所かなんかで呼び止められて連れ戻されたことはあります」

 13歳で親兄弟、友だち、自分の暮らしのすべてから、突然切り離された少女が、どんなに苦しんだかは想像にあまりある。

「もう日本に帰りたいという思いは強かったし、それを北の幹部にね、伝える、はっきりと。これは北朝鮮側とすると、自分たちの思う通りにはならないんじゃないかというふうに考えたと思うんですね。そういう中で(生存)5人、(死亡)8人というふうに分けた」

 蓮池さんは、北朝鮮が従順だとみた5人だけが日本に帰され、思い通りにならず、不都合なことをしゃべるかもしれない8人が「死亡」とされた可能性があるとみている。

蓮池薫さん「日本に行って帰って来なかったら困るし、いろいろしゃべっても困る。とすると、限られてきたんじゃないかなと思うんです」


「(私は)正直結婚してからは、子どもが産まれてからは下手なことは言わなかったです。『もう帰してくれ』とか、言っても無駄だって分かってましたし。そういうのもあって(5人は)言うとおりにするだろうなと。特に子どももいるわけだから、子どもを人質に利用できる」

 蓮池さんら5人の帰国は、当初、2週間ほどで北朝鮮に戻ることが前提の“一時帰国”だった。

 (2002年10月、4年ぶりに帰国した蓮池さん)

 

蓮池さん「めぐみさんの場合は、その当時すでに病院に行ったという段階で、ご主人(金英男氏)とも別れている状態ですし。それから13歳のときに拉致されて、辛い思いをされて、帰りたいという思いは我々より何倍も強いというのは北朝鮮自体が知っているわけですよ。(めぐみさんが)じゃあ日本人に会ってですね、『(日本に)帰りたくない』と言ってくれるかというと、これは違う。だから出せない。だから(めぐみさんは)生きているという風に考えられるということなんですよ」

 たしかに帰国した5人は体制への反抗心や不満を見せない、日本に帰りたいとも言わない従順な人たちで、子どもがいて、一時帰国してもまた北朝鮮に戻って来ると思われただろう。それ以外の人は北朝鮮のコントロールがきかない可能性があるから、表に出せないという蓮池さんの説明はもっともだ。ただ、私は別の要素もあると思う。とくに田口八重子さん、横田めぐみさんなどの存在を北朝鮮が隠したがるのは、具体的な破壊工作に関わるか、その周辺にいたことが大きかったのだろう。

takase.hatenablog.jp

 帰国していない拉致被害者の親の世代は、今では95歳の有本明弘さんと87歳の横田早紀江さんの2人だけ。岸田総理は去年5月、日朝首脳会談を実現するため「総理直轄のハイレベル協議を行いたい」と表明しているが…

この間の日本政府の動きについては—

蓮池薫さん「非常に残念、不満に思っていますね。つまり展開が遅すぎる。最後なんですよ、親御さんの世代としては早紀江さんと有本明弘さん、これを今までと同じようにやるのって話ですよ、そうはいかないでしょう」

 蓮池さんは北朝鮮に対して“期限”を示すことが重要だという。

蓮池薫さん「お二人の親御さんが存命されている間の解決。それが終わったら、日本は北朝鮮が思うような外交はしませんよと。時間は日本にもないけど、あなたたちにもないと。いま解決しなかったら、あなたたちが日本に求めているもの(経済協力)は、半永久的に得られないかもしれないよと。これは、北朝鮮には非常に効果があると私は思っています」

 北朝鮮に向けて、拉致された可能性が排除できない特定失踪者や拉致被害者の家族のメッセージを届けている短波ラジオ「しおかぜ」。毎日3時間半、放送している。「これを聞くことによって(拉致被害者に)生きる希望を持ってほしいと」(村尾建兒さん)

 横田滋さんが生前収録した音声が今も放送されている。

横田滋さん(2015年収録)
「めぐみちゃんお父さんです。めぐみちゃんは元気にしてますか?またこちらに来たら、十分昔のままの生活ができると思いますから、早くそういった日が来るのを楽しみに待っております。今年こそこちらの方に帰ってくるきっかけができるんじゃないかと思いますんで本当に楽しみにしておいてください。じゃあ元気で」

横田早紀江さん(2005年収録)
北朝鮮にいる横田めぐみちゃん、元気にしていますか?お母さんですよ。めぐみちゃん、明るいあのめぐみちゃんが、あのままのめぐみちゃんが元気で帰ってくることを毎日毎日たくさんの人と一緒に神様にお祈りしていますよ。必ずそのことが実現することを、もうすぐだとお母さんは確信しています。頑張ってね。元気でいてくださいよ。お願いします」

 いまお二人の娘への「よびかけ」を聞くと、胸がふたがる。

ウクライナ情勢を左右するトランプの動向

 ロシアによるミサイル攻撃が強まっているウクライナでは、23日未明に首都キーウや東部ハルキウなどにロシア軍によるミサイル攻撃があり、7人が死亡し、子どもを含む70人以上がけがをした。

テレ朝ニュースより

 イギリスの研究機関は今月2日、12月末にハルキウに着弾したミサイルの残骸を調べたところ、部品にハングルが記載されていたことなどから「ミサイルは北朝鮮製」との分析結果を公表している。ウクライナ国防省情報総局のブダノフ局長も北朝鮮がロシアの最大の武器供給国との認識を示し、北朝鮮の助けがなければロシア軍の状況は壊滅的になっていただろう」としている。(ANNニュース)

 北朝鮮とロシアの軍事的連携はますます強まり、抜き差しならない関係になりつつある。

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  23日、ニューハンプシャー州の米共和党予備選挙トランプ前大統領(77)が、初戦のアイオワ州に次いで勝利し、共和党の大統領候補となるのが確実となった。今の時点での世論調査ではバイデンとの大統領選になった場合、トランプに投票するという人の方が多いというから、再選の可能性は十分にある。

NTVニュースより

 トランプのむちゃくちゃさ加減は、前回の任期中いやというほど見せられたが、再選すれば「独裁者になる」と本人が言っているとおり、すさまじいだろう。

 トランプは任期中、プーチンとつるんでウクライナへの軍事援助は停止する一方、イスラエルのネタニヤフと親密で米国大使館をテルアビブからエルサレムに移し、さらにパレスチナを置いてきぼりにイスラエルアラブ首長国連邦UAE)、バーレーンと国交を結ぶのを仲介した。トランプが米大統領に再選されれば、ウクライナ支援は打ち切られ、逆にイスラエル支援が一段と強まるだろう。結果、ロシアがウクライナに軍事的に勝利し、イスラエルパレスチナ攻撃と戦闘の周辺諸国への拡大に歯止めがかからなくなる可能性が高い。

 23日の予備戦の結果を受けて、世界各国とくに米国の同盟国は戦々恐々で、トランプ再選を見越した対策に乗り出す国も現れた。隣国カナダでは、トルドー首相が閣僚2人が率いる「対策チーム」を立ち上げ、トランプ大統領になったらどう関与していくか検討すると発表した。

NHK国際報道より

 カナダは前回のトランプ大統領の任期中、カナダ製品に一方的に関税をかけられ、貿易協定の見直しを迫られたり、トルドー首相が「弱腰」「不誠実」などと罵倒されたりした。トルドー首相は会見で「我々は4年間にわたって、トランプ前政権の難題を乗り越えてきた」という表現で、トランプ再選を国家安全保障の観点から見ていることをうかがわせた。

 

 藤原帰一千葉大特任教授)は、トランプ再選の「見込み」だけで情勢が大きく変わると指摘する。

「次期大統領はトランプになるという見込みだけで戦争のゆくえが変わってしまう。プーチン政権はトランプ政権再来まで持ちこたえることができればウクライナでの勝利が期待できるのだから、停戦する必要はない。ネタニヤフ政権はトランプが大統領になれば現在以上の支援を期待できるのだから、バイデン政権の要求、例えばイスラエルパレスチナにおける2国家の相互承認などに耳を貸す必要はない。トランプ再来への期待だけで戦争が長期化するのである。

 民主主義はよい統治を保証しない。プーチンもネタニヤフも選挙によって選ばれながら法の支配を顧みない統治と無法な軍事力行使を続けてきた。それらの武力行使を容認することによって、トランプの再来は法に制御されることのない力の支配をさらに広げてしまうだろう。」

 トランプが巻き起こす嵐は、すでにウクライナにも達している。

蓮池薫さんが語る北朝鮮の嘘②

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 北朝鮮の権力中枢が、過去にない戦略の転換を行い、戦争の危機が現実化している・・

 北朝鮮の政策を研究してきたロスアラモス研究所のヘッカー元所長元米国国務省北朝鮮担当カーリン氏が、強い警告を発している。

金正恩が戦争を準備か?」38North

朝鮮半島情勢は(朝鮮戦争勃発直前の)1950年6月初旬以降のどの時期より危険である。ドラマチック過ぎるように聞こえるかもしれないが、金正恩は1950年の彼の祖父(金日成)のように、戦争へと進む戦略的決断をしたと我々は信じている。いつ、どのように金正恩が引き金を引くかはわからない。だが、危機は、米、韓、日で日常的に警戒されている北朝鮮の「挑発」というレベルをはるかに超えている。》

 私はこの見方に概ね同意する。

これは単なる脅しではないと二人は指摘する(NHK国際報道より)

 南朝鮮=韓国を同じ民族の同じ国の一部とみなすのをやめたのはその一環であり、ロシアと急速に近づいているのも戦争を意識した動きと解釈する。かつての朝鮮戦争前夜の中・ソ・北朝鮮連携がよみがえりつつある。

朝鮮中央テレビの天気予報も、韓国(南朝鮮)を別の国と扱いはじめた。これは過去にないこと(20日ウエークアップより)

 2人は、このさい、「戦争など起したら、米国と韓国が北朝鮮の体制を破壊することを金正恩は分かっているから、そんなことはしないはずだ」という陳腐な議論はやめよと危機感をあらわにして訴えている。

 北朝鮮の動きをよりいっそう注視すべし。この問題については、あらためて論じたい。
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 先日のテレ朝の蓮池薫さんインタビューから。

 蓮池薫さんは、拉致問題の現状に強い危機感を抱いて公の場で発言を始めている

北朝鮮が依然として拉致問題は解決済みだと、そういうふうに言っているわけですね。この辺でしっかりと国民に知っていただくと同時に、北朝鮮にとってもですね、こういうごまかしきれないというところを知らせたい。」と。

 いま日本政府が認定する拉致被害者は17名5名が帰国し、安否不明の拉致被害者12人のうち8人は、ほとんどが若くして交通事故や心臓麻痺、ガス中毒などで「死亡」したと北朝鮮は主張しているが、証拠はいまだに提示されていない。また4人については「未入境」として拉致そのものを認めていない。

テレ朝より

テレ朝より

 ただし、このうち田中実さんについては、北朝鮮が日本側に「生存」を伝えている。これを安倍政権が無視したことから今の拉致問題の停滞を招いていることは、なんども本ブログで指摘してきたとおりだ。

takase.hatenablog.jp

 これら拉致被害者に関する北朝鮮側の説明は「嘘」ばかりだと蓮池さんは指摘する。

 1987年に大韓航空機爆破事件を起こした北朝鮮工作員金賢姫元死刑囚に日本語を教えていた田口八重子さんについては―

 北朝鮮は「1984年に原敕晁さんと結婚。2年後に原さんが病死し精神的な慰労のための旅行中、交通事故で死亡した」と説明していたが・・

蓮池薫さん「結婚していないんですよ、断ったんです。うちらとしては料理師だって覚えてるんですよ。料理師さん。だから間違いなく原さんと思われる人ですけど、その方と北はくっつけようとしたんですよ」

 この蓮池さんの証言は、八重子さんから日本人化教育を受けた金賢姫元死刑囚が言っていることに合致する。金賢姫によれば、リウネ先生(八重子さん)が日本から連れて来られたある男性と結婚させられそうになったが、背が低く、好みでなかったので断ったという。原敕晁さんは大阪市内の中華料理店で働いていたときに拉致された。

(結婚)してないのは事実なんですよ。なぜかって言ったら、86年まで田口八重子さんは、金淑姫(工作員)とめぐみさんと84年から、1年半か2年くらい一緒にいたし。ところが彼らの報告によると2年くらい暮らした後に、原さんが亡くなって、それに思いを病んで、田口さんもその後、亡くなったみたいな。嘘もいいところですよ。作り話で」

 鹿児島県から、増元るみ子さんと共に拉致された市川修一さんについて北朝鮮は、1979年7月に増元さんと結婚。そのわずか2カ月後、海水浴中に溺死したと説明していたが・・

蓮池薫さん「結婚した時期、 それから市川さんが亡くなったという時期。その時期がるみ子さんとうちの家内が一緒に暮らしていた時期なんですよ。(結婚)2カ月後の9月に、市川さんは元山に行って溺れ死んだ。それは嘘。うちの家内は『違いますよ』と。『るみ子さんとはずっと一緒にいましたよ』と。どこに行くにも一緒でしたよ。結婚なんかしてませんし

 

 では、なぜ8人は「死亡」とされたのか?

(つづく)