12日から全国公開の映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』。すばらしい映画でお勧めです。
北朝鮮から韓国への亡命を企てる一家、北朝鮮に残してきた息子との再会を切望する韓国に先に亡命した母親、彼らの脱北を命がけで支援する韓国の牧師に密着したドキュメンタリー。
中国、ベトナム、ラオス、タイと移動距離1万2千キロの脱北の旅は4つの国境を越え、山や谷を徒歩で踏破する過酷なもので、途中で当局に見つかれば強制送還され命の保障はない。この決死の行程をスマホで撮影した生々しい映像に圧倒される。
登場する人物たちの言動を通して、命をかけて脱出しなければならない北朝鮮という体制の本質が、恐怖と共に浮かび上がってくる。
2005年に私たちが入手して世界配信した北朝鮮の公開処刑映像も使用されていて、なつかしく観た。
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蓮池薫さん証言のつづき。なぜ8人が「死亡」とされたのか。
蓮池さんによれば、横田めぐみさんは拉致された時に持っていたバドミントンのラケットを大事に持っていたという。めぐみさんは、バドミントン部の部活が終っての帰路、拉致されたのだった。
蓮池薫さん「やっぱりふるさとへの思い、やっぱり切れないというか、なかなか断ち切れない。当然だと思うんですけれどもね、幼くして来られて。そういったところからすごく思い悩むような時もありました」
「家に帰りたいという思いでフラフラっと出たことは(何度か)あるんですよ。出て途中で検問所かなんかで呼び止められて連れ戻されたことはあります」
13歳で親兄弟、友だち、自分の暮らしのすべてから、突然切り離された少女が、どんなに苦しんだかは想像にあまりある。
「もう日本に帰りたいという思いは強かったし、それを北の幹部にね、伝える、はっきりと。これは北朝鮮側とすると、自分たちの思う通りにはならないんじゃないかというふうに考えたと思うんですね。そういう中で(生存)5人、(死亡)8人というふうに分けた」
蓮池さんは、北朝鮮が従順だとみた5人だけが日本に帰され、思い通りにならず、不都合なことをしゃべるかもしれない8人が「死亡」とされた可能性があるとみている。
蓮池薫さん「日本に行って帰って来なかったら困るし、いろいろしゃべっても困る。とすると、限られてきたんじゃないかなと思うんです」
「(私は)正直結婚してからは、子どもが産まれてからは下手なことは言わなかったです。『もう帰してくれ』とか、言っても無駄だって分かってましたし。そういうのもあって(5人は)言うとおりにするだろうなと。特に子どももいるわけだから、子どもを人質に利用できる」
蓮池さんら5人の帰国は、当初、2週間ほどで北朝鮮に戻ることが前提の“一時帰国”だった。
(2002年10月、4年ぶりに帰国した蓮池さん)
蓮池さん「めぐみさんの場合は、その当時すでに病院に行ったという段階で、ご主人(金英男氏)とも別れている状態ですし。それから13歳のときに拉致されて、辛い思いをされて、帰りたいという思いは我々より何倍も強いというのは北朝鮮自体が知っているわけですよ。(めぐみさんが)じゃあ日本人に会ってですね、『(日本に)帰りたくない』と言ってくれるかというと、これは違う。だから出せない。だから(めぐみさんは)生きているという風に考えられるということなんですよ」
たしかに帰国した5人は体制への反抗心や不満を見せない、日本に帰りたいとも言わない従順な人たちで、子どもがいて、一時帰国してもまた北朝鮮に戻って来ると思われただろう。それ以外の人は北朝鮮のコントロールがきかない可能性があるから、表に出せないという蓮池さんの説明はもっともだ。ただ、私は別の要素もあると思う。とくに田口八重子さん、横田めぐみさんなどの存在を北朝鮮が隠したがるのは、具体的な破壊工作に関わるか、その周辺にいたことが大きかったのだろう。
帰国していない拉致被害者の親の世代は、今では95歳の有本明弘さんと87歳の横田早紀江さんの2人だけ。岸田総理は去年5月、日朝首脳会談を実現するため「総理直轄のハイレベル協議を行いたい」と表明しているが…
この間の日本政府の動きについては—
蓮池薫さん「非常に残念、不満に思っていますね。つまり展開が遅すぎる。最後なんですよ、親御さんの世代としては早紀江さんと有本明弘さん、これを今までと同じようにやるのって話ですよ、そうはいかないでしょう」
蓮池さんは北朝鮮に対して“期限”を示すことが重要だという。
蓮池薫さん「お二人の親御さんが存命されている間の解決。それが終わったら、日本は北朝鮮が思うような外交はしませんよと。時間は日本にもないけど、あなたたちにもないと。いま解決しなかったら、あなたたちが日本に求めているもの(経済協力)は、半永久的に得られないかもしれないよと。これは、北朝鮮には非常に効果があると私は思っています」
北朝鮮に向けて、拉致された可能性が排除できない特定失踪者や拉致被害者の家族のメッセージを届けている短波ラジオ「しおかぜ」。毎日3時間半、放送している。「これを聞くことによって(拉致被害者に)生きる希望を持ってほしいと」(村尾建兒さん)
横田滋さんが生前収録した音声が今も放送されている。
横田滋さん(2015年収録)
「めぐみちゃんお父さんです。めぐみちゃんは元気にしてますか?またこちらに来たら、十分昔のままの生活ができると思いますから、早くそういった日が来るのを楽しみに待っております。今年こそこちらの方に帰ってくるきっかけができるんじゃないかと思いますんで本当に楽しみにしておいてください。じゃあ元気で」
横田早紀江さん(2005年収録)
「北朝鮮にいる横田めぐみちゃん、元気にしていますか?お母さんですよ。めぐみちゃん、明るいあのめぐみちゃんが、あのままのめぐみちゃんが元気で帰ってくることを毎日毎日たくさんの人と一緒に神様にお祈りしていますよ。必ずそのことが実現することを、もうすぐだとお母さんは確信しています。頑張ってね。元気でいてくださいよ。お願いします」
いまお二人の娘への「よびかけ」を聞くと、胸がふたがる。