お知らせです。
【高世仁のニュース・パンフォーカス】NO.27「なぜ拉致問題は進展しないのか?」を公開しました。このブログで連載してきた内容をまとめたものです。
きょうで連載に一区切りつけるにあたり、横田滋さんと早紀江さんの、拉致問題に進展をもたらすことができないでいる日本政府と政治家への厳しい注文を紹介したい。お二人は「お願いする立場」だからと、政府や政治家への批判は表向き控えていたが、腹の中は煮えくり返っていたはずだ。
2012年に出版された『めぐみへの遺言』(幻冬舎)より
横田早紀江さん
国民のみなさんに、拉致についてここまで知っていただいたことは良かったけれど。同時に、これだけ家族やいろいろな支援団体が救出を訴えても、日本政府が本気で動かないということが日本の国民の方も分かってきた。皆さん、私たちに何ができるのか、どうしたら動くのかと言われるばかりで、その先が見えない。国家が動かない、国民の命を何とも思っていない。そこが今、日本の国の一番大きな問題なんです!
政治家の中には、本気でやれば解決できるという人も何人かはいらっしゃるけれど、やらない方がいいという人の方が多いと思う。今までいろんな所で訴えたりいろんな方々とお話させていただいたから分かるんですけど、できるだけ波風立てないで時間が過ぎれば、いずれ関係者は死んでしまって皆忘れるからという人もたくさんいるのではと思う。そういう国なんです、今の日本が。政治のやり方全般を見ていても解るでしょ、ほんとにひどいことになっているから。危機感もないしスピード感もないし、無責任だし!それが、今はっきり表れてきたんです。(横田滋・横田早紀江『めぐみへの遺言』P16~17)
横田滋さん
去年、金正日が亡くなると、日本政府は弔意を表す考えはないと表明した。また、ある番組を指して、あんな悪いヤツが死んでなんで黒い服を着て弔意を表して報道するのか、と批判する人がけっこういた。しかし、これから交渉しようとするのであれば弔意を表すべきだという報道があって、私はその通りだと思いました。
例えば、小泉さんのような人が弔問に北朝鮮に行った方がこれからの交渉のためには、良かったのかもしれない。
早紀江さん
交渉再開の足がかりにするためにプラスになるなら、制裁だけでなく、良い知恵を駆使して別の方法も具体的に考えていかなければ、今後どうにも動かないと思います。
(P197-198)
滋さん
安倍さんの時に拉致問題対策本部ができて、中山恭子さんが拉致問題担当補佐官になりました。塩崎恭久官房長官が兼務で拉致担当大臣になられた。で、いろいろな情報収集の機能を対策本部の中に作ったと聞かされましたが、結果が出る前に安倍さんは辞めてしまった。
早紀江さん
それ以前は、拉致のことは外務省がいろいろやっていて、日朝協議があればその度に内容を教えてもらったり、突然情報が入ったら家族会が呼ばれて話を聴いたりしていました。けれど、拉致対策本部ができてからは外務省の方もその場に来られたりしていたから、ちゃんと一緒にやって機能していると思っていました。
ところが、ある時、外務省の方から、「僕たちには何も情報がこないんです」「今、拉致のことで日朝がどうなっているのか分からないんです」と言われてびっくりしました。その人は、「何か一つの情報でも言ってくれればそれをきっかけにして外交手法で道が開ける場合もあるのに、それができない」と。思わず「そんなに疎遠なんですか?」と訊くと「そうなんです」と答えるから、「全部が一つにならなければ、一丸とならなければ、めぐみらを助けられないですね」と申し上げたのです。
滋さん
拉致対策本部は安倍さんの時には、2年に一回くらいしか会合をやってなかったらしい。所帯が大きいうえメンバーには大臣たちも入っていたので、なかなか会議がひらけなくて。(P202∼203)
滋さん
日本は日本で死亡確認書がデタラメだったとか、めぐみの遺骨がニセモノだとか騙されたと思っている。向こうは拉致を認め、新しいものを出せば出すほど日本が遠くへ行くと考えている。そういう金縛り状態になって、それがずっと続いているのです。
そこを突破するには、制裁一辺倒ではなく話し合いに向けて動くしかない。
(P204~205)
早紀江さん
政府の人自身が、わが子が北朝鮮へ連れていかれたらこんなことでは済まないのではないですか。
もうずっと、他人事としてやっているような気がしています。なぜそうなったのか・・・。日本の国、こんなことでいいのかと思うところまで来てしまった。(P207)
小泉純一郎総理の第一回訪朝から19年目になる去年9月12日の『新潟日報』で早紀江さんはこう語っている。
「これまでに、何人もの首相や拉致担当相とお会いしました。失礼を承知でちょっと厳しいことを言わせていただければ、今も昔も、与野党問わず多くの政治家は、拉致問題について頭の中では大事だとお考えくださっているのかもしれませんが、命懸けと言いますか、本気の行動というものが見えてこないのです。」
「日本の気概とでもいったらいいのでしょうか、『何が何でも』という姿勢を見たいのです。」
この悲痛な叫びに、岸田文雄総理以下閣僚と政治家たちは応える責任がある。
何よりもまず動くべきは、8年前に北朝鮮があらたに拉致を認めた田中実さんと金田龍光さんの救出だ。たとえ万が一日本への永住帰国の意思がないとしても、最低限一時帰国は実現しなければならない。
有田芳生さん(参議院議員)によれば、田中実さんの結婚相手が日本人で長男の名前が「一男」だという情報もあるという。結婚相手が誰なのかを知ることも急務だ。
田中実さんは児童養護施設で育ち、「家族会」(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)に入っている身寄りはいない。しかし、田中実さんの生存情報が報じられたとき、田中さんの高校時代の同級生たちは、もし一時帰国することになれば、空港まで迎えに行こうと話し合ったそうだ。
有田さんは大阪にいる同級生の一人、坂田洋介さんに会って話を訊いてきた。そのとき坂田さんはこう語ったという。
「もし一時帰国だったとしても、大変だったなとねぎらたいんです。担任教師も亡くなる前に、田中のことをよろしく頼むと言っていました」
(有田芳生『北朝鮮 拉致問題~極秘文書から見える真実』集英社新書P132)
岸田総理はまさに「何が何でも」の姿勢で、これまで政府が見捨ててきた2人の拉致被害者に向き合ってほしい。