10月12日、ミャンマーの裁判所は、治安当局に7月30日に拘束されたドキュメンタリー制作者・久保田徹さんに入国管理法違反の罪で禁錮3年を言い渡した。これまでにインターネットなどの電子通信に関する罪と扇動罪でも禁錮7年を言い渡されており、刑期は合わせて10年になる。
日本政府は即時解放に向けて努力しているというが、どこまで真剣にやっているのか。軍事クーデター政権に厳しく対処するなどと言いながら、安倍元首相の国葬に、駐日ミャンマー大使夫妻を招待して現在の軍政にお墨付きを与えた日本政府である。
岸田首相は、統一協会(世界平和統一家庭連合)について、宗教法人法に基づく「質問権」を使った調査の手続きを進めると表明したが、世間の非難をかわすためのパフォーマンスに終わる可能性も高い。
とりあえず形だけをつくり「やってる感」をアピールするだけで実質なにもやらない。これがこの間の自公政権の決まったパターンになっている。
勇ましく聞こえる「全員一括即時帰国」の方針が、逆に実質的な解決を不可能にしていることについてはすでに何度も指摘したので繰り返さない。
https://takase.hatenablog.jp/entry/20220918
15日、5人の拉致被害者の帰国20年にあたり、今のままでは、拉致問題の進展はむりだろうと無念の思いを新たにした。
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日本にかかわる憂鬱な話が多いなか、ここで一つうれしい話題を。
今年のマグサイサイ賞を日本の眼科医で「アジア失明予防の会」代表の服部匡志さんが受賞したニュースは先日紹介した。
https://takase.hatenablog.jp/entry/20220905
先日、NHKニュースで小特集が放送され、服部さんの人となりにあらためて感銘を受けた。
マグサイサイ賞は、アジアのノーベル賞とも言われ、この受賞者には、マザー・テレサ、ダライ・ラマ、ムハマド・ユヌス(グラミン銀行創設者)、日本人では緒方貞子そして中村哲がいる。
服部さんは、日本での学会で出会ったベトナム人医師に「ベトナムでは多くの人が失明している」「是非ともベトナムに来て患者を救って欲しい」と頼まれ現地で3ヶ月治療に当たったが、このまま見捨てておけないと、それ以降ベトナムに通って白内障などの治療を無償で続けてきた。
高額な医療機器も自費で購入し、月の半分は日本国内で医師としてアルバイトをし、半分をベトナムでの治療に携わるという暮らしを20年以上続けている。まさに「ベトナムの赤ひげ」だ。
「視力の回復が貧困からの脱却につながる」と服部さんはいう。おじいちゃん、おばあちゃんが見えるようになれば、孫の世話ができ、お父さん、お母さんが働くことができるからだ。
服部さんは高度な眼科手術の技量で知られ、とくに網膜硝子体手術の分野では日本トップレベルの技術をもつ。その技術を服部さんはベトナムの医師に惜しみなく教え、医師の育成でも貢献している。
服部さんの「患者さんをお父さん、お母さん、あるいは自分の子どもだと思って手術しろ」との教えはベトナム人医師にも響いているという。将来はベトナムに総合研究施設をつくりたいと服部さんはさらなる活動を展望している。すばらしい。
医師を志すようになったのは、父親が胃がんで苦しい闘病生活を送っていたとき、病院の詰め所で医師や看護師が「あのクランケはもうすぐ死ぬのにうるさいやつだ」などと悪口を言っているのを聞いたことがきっかけだったという。父親はまもなく亡くなったが、「患者さんの痛みがわかる医師になる」と高2の服部さんは決意したという。
しかし成績は振るわず、医学部に合格するまで4浪している。入学してもバイトと麻雀、バスケに明け暮れる毎日で決して優等生ではなかった。
私の尊敬する別の医師(例えば、「ザ・ヒューマン」で紹介した手術支援ロボットのエキスパート、竹政伊知朗さん)も、高校時代に家から勘当され、友だちの家に転がり込んで自堕落な暮らしをしていたことがある。
順調な歩みをしてこなかった人が、のちに世のため人のために尽くすことになる。ほほえましく、また励まされるエピソードだ。
4浪を経験した服部さんは、ネバーギブアップが信条とのことだ。
最後に服部さんはやりがいについて、こう語った。
「自分が何かすることによって、自分が幸せということを感じることができれば、これが一番いい」。
服部匡志医師のような日本人の存在を知るとほんとうに勇気づけられる。