安倍政権が拉致被害者の一時帰国を拒否

 大型で非常に強い台風14号が先ほど鹿児島に上陸したとのニュース。

「経験したことのない台風」に注意を呼び掛ける気象庁

 「経験したことのない」というこの頃よく聞く形容が今回も使われていて恐ろしい。

 被害が大きくならぬよう祈ります。
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 小泉訪朝以降、拉致問題は20年にわたって具体的な進展を得られなかった。

 「拉致の安倍」としての「名声」が安倍晋三を首相にまで上り詰めさせたのだが、これが虚像で、実際は進展のチャンスをつぶしてきたことはこのブログで何度も指摘してきた。

takase.hatenablog.jp

 とくに田中実さん、金田龍光さんの生存情報を秘匿し、放置してきたことは、国家としての責任を放棄し、二人の人権を無視するとともに、北朝鮮との絶好の交渉の機会を捨て去る行為だった。

 二人の拉致被害者放置の事実が、このタイミングで社説に取り上げられた。

 朝日新聞17日の社説だ。この20年の間の両国は「隔たりが大きくなっている。その責任は北朝鮮側にある。国際社会の肥を無視し、核・ミサイル開発を続けてきた。拉致という重大犯罪を起こしながら、誠実に対応しない」としつつも、日本政府に以下注文をつける。

 「他方、日本政府の動きについても透明性に問題がある。
 これまで交渉に関係した複数の政府当局者らが、北朝鮮拉致被害者である田中実さんらが同国で生存していることを認めた、と明らかにしている。
 にもかかわらず、その事実の確認や好評すらしないのは理解できない。すべての被害者の帰国に努めるとしてきた基本方針とも矛盾しており、判断の背景を説明する必要がある
 被害者の家族も政府間対話の早期再開を求めている。相互不信を解くのは対話以外にない。平壌宣言をてこに、固く閉ざされた北朝鮮側の扉をなんとかこじ開けてもらいたい。」

 私たちの指摘が次第に広がっているようだ。

 さらに北朝鮮が、田中実さんと金田龍光さんを日本に一時帰国させる提案をしていたという重大な事実が判明した共同通信が伝えた。

信濃毎日新聞が大きく紙面を割いて報じている(17日付)

日本政府が安倍政権当時の2014~15年ごろ、政府認定拉致被害者の田中実さん=失踪当時(28)=と、拉致の可能性を排除できないとしている金田龍光さん=同(26)=の「一時帰国」に関する提案を、北朝鮮から受けていたことが16日、分かった。》

《2人の安否に関して北朝鮮が「入国して妻子と共に暮らしている」と日本側に説明したことは判明しているが、一時帰国まで持ちかけていた実態が明らかになるのは初めて。

 日本政府は一連のやりとりを伏せている。公表すれば、被害者全員の帰国実現に全力を挙げるとした政府方針との整合性が取れなくなると判断したものとみられる。(略)

 関係者によると、北朝鮮が2人の一時帰国を提案したのは、日朝が安否再調査で合意した14年5月から、北朝鮮が再調査に取り組んだとされる翌15年ごろ。日朝接触の際に「日本を訪問させる用意がある」と伝えた。また、田中さんを除く被害者11人の安否に関し「8人死亡、3人未入国」と報告したという。

 一時帰国を拒否した理由を巡り、関係者は ①2人が日本永住を希望するとは考えにくく、帰国しても北朝鮮に戻ってしまうと考えた ②北朝鮮横田めぐみさんらの安否で納得できる説明をしない中、提案に応じれば拉致問題の幕引きに手を貸すことになると判断した―と説明。「受け入れがたい案だと感じた」と述べた。

 安否情報についても日本政府は、信用性に乏しいと判断し、受け入れなかった。当時の安倍晋三首相と菅義偉官房長官が難色を示した。》

 北朝鮮側からの報告を受け取らない方針は、安倍元首相自らが下した判断だったという。

《14年5月に日本人拉致被害者の安否情報再調査を約束した北朝鮮。後日、その報告が外務省経由で首相官邸に届けられた。

「突き返せ」

 当時の安倍晋三首相は官邸幹部らに、こう指示した。緊迫した一幕を、関係者が明かす。

 報告は、田中さんと金田さんの生存を確認する一方、横田めぐみさんを含む政府認定拉致被害者12人のうち8人をやはり「死亡」していたとする内容だった。安倍氏は、ずさんで信用できない従来の調査結果の焼き直しに過ぎないと考え、受け入れなかったとされる。

 北朝鮮が持ちかけた田中さんら2人の一時帰国という提案も「北朝鮮による謀略かもしれない」(関係者)と警戒した。日本にほとんど身寄りのない2人は、一時帰国しても永住を希望せず、北朝鮮に戻ってしまうのではないか。だとすれば拉致問題の幕引きを狙う北朝鮮のわなにはまったとして、国内世論に突き上げられる―読み取れるのはこうした不安だ。》

 

 つまり、北朝鮮の報告が「8人死亡」のままだったから受け取りを拒否し、田中実さんらの生存情報、さらには一時帰国の提案まで拒絶するという対応をしたのだ。

 北朝鮮が「8人死亡」をひっくり返さない限り、田中さんら2人の安否確認にも進めないとして、日本政府は2014年以降8年もの間、彼らを見捨ててきたのである。

 2人は児童養護施設で育ち、日本に身寄りがほとんどいない。家族会に参加している親族もいない。横田めぐみさんや有本恵子さん、田口八重子さんなど他の被害者に比べて注目度は低い。

 だからといって政府が《2人の「価値」を低く見積もり、帰国を後回しにしてもいいと考えるなら、憲法14条の「法の下の平等」に反すると言わざるを得ない。》(記事の「解説」)

 憲法などわざわざ持ち出さなくても、同じ拉致被害者同士、扱いを差別することは許されない。日本政府は、横田めぐみさんらの「正しい」(=死亡はウソだという)安否情報がでないかぎり、他の新たな拉致被害者が見つかっても見殺しにするという姿勢なのだ。そしてそう決めたのは安倍元首相である。これはもう一つの安倍氏の首相在任中の「罪」だと私は思う

 安否情報に「信用性に乏しい」って? 北朝鮮がすんなりと全面的に真実を明かすはずがないではないか。その一方で、被害者本人も日本で待つ親族や友人も有限の時間しか与えられていない。だから一挙に完全解決などという不可能事だけを追わずに、不十分であっても、可能なところから一人でも二人でも被害者の消息をたどり救出していくしかないのだ。

 一連の経過を歴代政権は公表していない。有田芳生さんが安倍首相(当時)をこの件で追及した際も「今後の対応に支障を来す恐れがある」として答えず、岸田文雄首相も昨年12月に参院予算委で有田さんの質問に「具体的に申すことは控える」とかわすだけだった。岸田首相は生存情報が伝えられたときの外相である。

参院予算委での岸田首相とのやり取りはこうだった。

有田芳生 二〇一四年五月、ストックホルム合意、あのとき総理は外務大臣でいらっしゃった。私も質問したことを覚えておりますけれども。あのストックホルム合意の、二〇一四年の秋から翌二〇一五年の初めにかけて北朝鮮側が、政府認定拉致被害者田中実さん、そして北朝鮮に拉致された可能性を排除できない金田龍光さん、生存情報を何度か通達してきていますよね。

国務大臣松野博一君) お答えをいたします。
 北朝鮮による拉致被害者や拉致の可能性を排除できない方については、平素から情報収集等に努めていますけれども、今後の対応に支障を来すおそれがありますので、具体的な内容についてお答えすることは差し控えさせていただきたいと思います

有田芳生 政府認定拉致被害者の田中実さんが生存しているという情報を得ているのに、なぜ今後の対応、支障を来すんですか。もうあれから七年ですよ、七年。田中さんはもう七十ですよ。あの国でどうやっていらっしゃるのか、情報をつかんでいますか。何で聞かないんですか。序列があるんですか、拉致被害者に。

国務大臣松野博一君) 繰り返しになりますけれども、情報収集に努めてはいますけれども、今後の対応に支障を来すおそれがあることから、具体的な内容についてお答えをすることは差し控えさせていただきたいと思います。

有田芳生 情報収集ではありません。政府が、北朝鮮から二〇一四年の秋と翌年に政府認定拉致被害者の田中実さんが生存しているという情報が来たならば、本当かどうか確認すべきじゃないんですか。

国務大臣松野博一君) お答えをいたします。
 情報収集を含め様々な対応について努めているところでございますけれども、それぞれの対応につきましては、今後の方向、進め方に関して支障を来すおそれがあるということでお答えを差し控えさせていただきたいということでございます。

有田芳生 田中さんも金田さんも神戸のラーメン店の同僚でした。
 私は、田中さんの同級生にも会ってきました。もう担任の方はお亡くなりになりましたけれども、田中実さんは生きているということが分かったならば、やはり一時帰国でもしてもらって、私たちは苦労したねと羽田で迎えたいんだという思いが今でもあるんです。

 だけど、北朝鮮から生存しているという通達があっても、何度もあっても、日本政府はそれを、あったかどうかも分からない、今後の対応に支障を来すと言うけれども、もう七年、元気なのかどうかも分からない。人命の問題でしょう、これは。一人からでも取り戻すという、そういう方向が必要なんじゃないですか。総理、いかがですか。

内閣総理大臣岸田文雄君) 御指摘の情報に対してどう対応したか、こういったことについては具体的に申すことは控えますが、御指摘のように、例えば順番があるんではないか、序列があるんではないか、そのように委員おっしゃいましたが、そういったことは決してございません。拉致被害者の方、全ての拉致被害者の方を帰国させる、こうした目的は、目標は、今までもこれからも変わることはないと信じております。

有田芳生 序列がないならば、田中実さん、金田龍光さん、本当に生きていらっしゃるのかというのは北朝鮮側と交渉をしてそれを確認をして、本人たちがどういう意向をお持ちなのか聞くのが日本政府の当然の態度だと思うんです。

 ましてや、田中実さんは北朝鮮で日本人女性と結婚しているという情報はあるんです。その日本人女性というのは誰なのか、拉致被害者なのか、これは重要な問題ですよ。だから、そういうきっかけを有効に使いましょうというのが、ずっと横田滋さんが強調してきたことなんです。動くことでいろんなことが出てくるんだと、そういう立場取っていただけませんか。

国務大臣松野博一君) 総理から答弁をさせていただきましたけれども、拉致被害者としての認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく全力を尽くしております。おりますけれども、それに至る道筋、プロセスについて言及することについては差し控えさせていただきたいと思います。

(以下略)

 いやはや、国会答弁のなんと無意味なことか。こういう何も答えない答えが近年多すぎる。国会をバカにしているんじゃないか。

 政治家の「全力を尽くします」の決意表明は聞き飽きた。

 「全員一括即時帰国」路線から脱却し、首相が腹をくくってまともな外交交渉を取り戻すことを求めたい。