クマが増えてウサギが減ったわけは?

 ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、自分たちにできることは何か。

 これに詩人の谷川俊太郎が答えていわく。

「毎日の生活をちゃんと送ること。コンスタントに生きているということが、アンチテーゼになる」朝日新聞12日夕刊)

 考えさせられる言葉だ。

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 「熊出没注意!」

市街地に近い場所でもこの看板がある

 山形を自転車で旅していて何度も見かけた看板だ。

 テレビニュースでは実際的な注意もふくめ詳しく報じていた。

〇熊と遭遇してケガをしたケースが去年までの10年で24件あり、9-11月の冬眠前が約7割であること。今年は目撃情報がとくに多いこと。

〇山林に近づくときの対策としては、ラジオや熊よけの鈴など音の出るもので人の存在を熊に知らせること。子熊や子連れの熊に近づかないこと。万一熊に遭遇した場合、落ち着いてゆっくりとその場から離れること。

〇熊を人里に近づけない対策としては、餌となるとりのこした果物やハチの巣、放置された生ごみを撤去すること。熊が身を隠すことができる河川敷などの草刈り。

 山形県のホームページでは「クマの目撃マップ」を掲載している。

山形県のHPのクマの目撃マップ

 情報がとても具体的で生々しい。

 岩手県はもっと大変で、去年、市街地へのクマの出没が相次ぎ、今年度、人が襲われてけがをしたケースが2月時点で14件に上っているという。被害が相次いだことから来年度は駆除できるクマの頭数の上限を引き上げ、今年度の546頭から80頭多い、626頭にすることを決めた。(9月29日のNHKニュース)

 626頭。これ、岩手県一県での駆除頭数である。こんなにクマ(ツキノワグマ)がいるのか・・。

 今回の旅では、クマタカで猟をする日本唯一の鷹匠松原英俊さんの家を天童市の郊外に訪ね、お話を聞きながらタカークマタカイヌワシオオタカ、ケアシノスリの4羽―を見せてもらった。

 市街地から10km山あいに入った集落で、上り坂が続き自転車にはつらかった。

松原英俊さん。家の中にちょっとケモノ臭が漂っていた。

クマタカ。毎日生きたニワトリを絞めて餌として与えている。11月からは猟の訓練に入る。

 私は数年前、松原さんの講演を聞いてその哲学と人格に魅せられ、「追っかけ」になった。講演会が東京であると聞くとかけつけていたが、いつか山形の家を訪ねたいと思っていた。それが今回かなったわけだ。

 鷹匠を続けるのはとても大変だ。昔なら獲ったウサギの肉と皮の需要があって売れたが、今はない。現金収入といえばタカでカラスを追い払う「仕事」の手間賃と講演料くらい。

 畑をやっているが、サルの集団が襲ってきてトウモロコシが全滅したりと山奥の暮らしも楽じゃないという。イノシシもたくさん姿を見せるという。よく車にひかれるそうで、今年は道路で死んでる3頭ゲットしたのはうれしかったと松原さん。いつもは生きたニワトリを買ってきて一日1羽半くらいを餌にするというが、タダで手に入ったのだ。小さめのイノシシ1頭で、飼っている鳥4羽の5日分くらいになるという。余った肉は?と聞くと冷凍庫に入れておくとのこと。松原さんの暮らしはタカが中心なので、家に入った瞬間、ケモノの匂いがしたのに合点がいく。

 後継者もいないのでたぶん松原さんでクマタカ猟の技能は絶えてしまうだろう。つまり唯一にして最後の鷹匠である。

 松原さんは、この冬も月山周辺で鷹狩をする予定だが、近年ウサギが激減していて、一日中探しても一匹も狩ることができないこともよくあるという。

 クマやサル、イノシシ、シカなどは非常に増えているようなのに、ウサギが減っているのはなぜか。

 松原さんによると、ウサギやリスなどの小動物が減っている原因はよく分かっていないという。一説には、ウサギの天敵であるキツネやテンが、毛皮の需要がなくなって獲られなくなり数が増えたのでウサギが食べられて減ったとする。別の説は、森の手入れがなされずにどんどん荒れてきて、ウサギが好む柔らかい下草が生えなくなったからだとする。

 生態系のバランスはまだまだ分からないことが多い。