「一発勝負でない国」スウェーデン

 蕗の薹(フキノトウ)が地面から顔を出していた。

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5センチくらいの丸い塊が蕗の薹だった


 玄関先に土がむき出しになっている小さなスペースがあり、そこに、山形から持ってきた蕗を植えた。冬になって枯れてしまい、根付かなかったかと思っていたので、薄緑の小さな塊を発見してうれしかった。

 これを摘んでしまえば、もう蕗は生えてこないのか?と心配になって、採るのをためらっていたが、調べたら、蕗は地下茎から何本も出てくるので大丈夫らしい。

 これからもっと出てくるのか。楽しみだ。
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 2週間近く、土日もなく、編集スタジオに詰めてやっていたプレ編集が、きのう深夜におわった。これを「編アップ」といい、テレビ局の長付きのエライさんの試写を経て、映像が尺(放送時間ぴったり)になった。

 編集は、主にディレクターとエディター(編集マン)がやるので、私は大したことはやっていない。「そこは別の映像に換えたほうが分かりやすいのでは」、「そう言い切れる材料はあるの?」などとちょっとした助言をするだけだ。ただ、ディレクターとエディターの意見がぶつかることがあり、そういう時は3人目の私が「緩衝」役をつとめて、対立を解消することが容易になる。

 今後は映像にモザイクやテロップを入れ、MA(Multi Audio)で整音しナレーション、音楽、効果音を入れ、最後に映像と音を合わせて今月中に納品する。今はこれに向けて事実関係などを確認しナレーション原稿を完成させる作業になる。
テレビ番組の制作は、「ジン・ネット」倒産後はじめてで、一つひとつが新鮮だ。改めて、たくさんの人の多大な労力の上に番組が作られていることを感じる。

 放送が近づいたらお知らせします。
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 前回の「ニュース・パンフォーカス」で、スウェーデン労働市場流動性が高いことを指摘した。これは俯瞰的、概念的な言い方だが、そこに生きる人の目線から見るとどうなるか。

 スウェーデン在住の三瓶恵子さんが、この国を「一発勝負でない国」というおもしろい表現で描いている。とても印象的な一連の文章を紹介したい。

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三瓶恵子さんは岩波ジュニア新書から『人を見捨てない国、スウェーデン』(2013年)と『女も男も生きやすい国、スウェーデン』(2017年)の2冊を出している

 大学へは何度も挑戦できます。点数が足りなければ労働経験を積んでポイントを上乗せすることもできるし、一つ前の学校に戻って足りない分だけを勉強しなおせばよいのです。足す分の勉強は仕事をしながらでも夕方のコースでもできるし、会社にかけあって「教育休暇」をもらって、堂々と昼間、学校に行くこともできます。大人になっても、人生のどの段階でも、学校に戻れることを教育学の専門用語で「リカレント教育」と呼びます。リカレントというのは「戻ってくる」という意味です。スウェーデンは、リカレント教育の国なのです。日本では「生涯教育」と呼ばれることもあります。

 学校にいつでも行ける、ということは、労働市場に出ていくのもいつでもできるということです。日本では大学卒業を前にした学生たちが着慣れない、しかも色やデザインも一様なスーツを着て何カ所も会社めぐりをする「就職活動(シューカツ)」を行うことが、近年、病的な社会現象のように報道されるようになりました。スウェーデンでは「シューカツ」はありません。労働市場では四季にかかわらず一年中いつでも人を求めていますし、人々もキャリアを積むために、何度も仕事を変わります。もちろん、いつでも望んだ職に簡単にすぐつけるわけではなく、そこでは他の求職者との間に激しい競争はあります。会社はもちろん会社の業績アップのために貢献してくれる人を求めるわけですから、求職者が力不足であると判断された場合には、採用することはありません。でも求職者はまた実力をたくわえて、別の職に応募すればよいのです。

 スウェーデンには、「シューカツ」がない上に「コンカツ」(婚活。結婚したい相手を見つけるためにいろいろ努力をすること)もありません。結婚も一発勝負ではなく、人生でいつでも何度もできるからです。結婚や同棲は愛情のみにもとづいていて、愛がなくなればパートナー関係はすぐに解消されます。

 進学や就職や家族をもつことが「一発勝負でない」ということは、自分の好きなタイミングでいろいろなことを決めることができる、ということです。ただ、そのためには自分でよく考えて、自分の人生を歩んでいかねばなりません。それは自立的に生きる、ということです。経済的な自立も、もちろん精神的な自立も大切です。

 スウェーデンでは失業、病気、高齢などによって日常生活を送る機能が低下している人々のためのセーフティー・ネット(サーカスの綱渡りの綱の下に張ってある、落ちたときに怪我をしないように綱渡りをする人を守る網)が社会に用意されています。ただ、それはヘルプなのであって、そのセーフティー・ネットに守られているだけでは、意味ある人生を生きることはできません。ヘルプを受けつつも自立的に生きることが必要です。また、そのようなヘルプを求めるときも自分から働きかけねばなりません。ただ待っているだけでは何も起こらないのです。

 そのような社会のセーフティー・ネットは国民の税金を使って編まれています。スウェーデンは高福祉・高負担の国で、税金は非常に高いです。所得税は28~62%、消費税は6~25%です。けれどもその税金が何に使われているかが目に見えるので、みんな、納得して税金を納めます。税金というのはオカミが自分たちの利益のために徴収して、何か分からない目的のためにどこかに消えるものだから、なるべく払わないで済むようにしたほうが良い、とは誰も考えないのです。福祉の水準を保つために必要なのだったらどうぞ増税してください、とスウェーデン人は考えます。

(三瓶恵子『人を見捨てない国、スウェーデン』岩波ジュニア新書より)

 三瓶さんはこの本を書くために、スウェーデンの子どもたち4人に「今、幸福?将来の不安は無い?」と尋ねたら、全員が「幸福だ。不安は無い」と答えたそうだ。ユニセフの調査でもスウェーデンの子どもたちの「幸福度」は非常に高い。

 この本は2013年出版なので、ひと昔前だが、基本的に今もこのとおりのはずだ。

 入学試験や就職試験に失敗しても、離婚しても、自殺なんかすることないんだよ。

 何度も「やりなおせる」ということが、人生にとっていかに大事かを気づかせてくれる。

 

 というわけで、きょうのグリムスパンキーは「サンライズジャーニー」。

 ♪鞄に荷物詰め込んで 背負ってきたけれど
 軽くしていこうこれからは でこぼこ道だから
 僕らは何度躓いたっていいんだよ・・

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