「鉄より重い元素は超新星爆発でできた」は誤り?

 はじめにお知らせです。
高世仁のニュース・パンフォーカス】No.18 「ミャンマーの人道危機にどう向き合うか」を公開しました。関心のある方はお読み下さい。

www.tsunagi-media.jp


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 タリバンは17日、国内全土に全般的な恩赦を宣言。政府職員に安心して職務を再開するよう呼びかけたほか、自分たちの政府に女性の参加も希望すると述べたと報じられている。実際にどうなるか、注視しなければ。

 アフガンの特に都市部の市民や、これまで女性の権利や報道の自由のために活動してきたNGOなど、タリバン支配から脱したことを「解放」と受け止めてきた人々からは、アメリカは「アフガンを見捨てた」と激しい非難の言葉が発せられている。当然だ。

国陥(お)ちてタラップ蜘蛛の糸となる 新潟県 今井了 (今朝の朝日川柳)

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15日、米陸軍の輸送機に乗った出国希望のアフガン人。この機だけで女性や子どもを含む640人がカブールからすし詰めでカタールに向かった。この日あよそ4000人のアフガン人が米軍機で脱出したという。

 米軍機に着の身着のままで乗り込もうとする市民の姿には、すさまじい恐怖が表れている。何の展望もなく、母国を離れる彼らにどんな将来が待っているのか、心配だ。

 改めて教えられるのは、アメリカは(どの国もだが)結局は自国の利益で行動するという当たり前の道理だ。

 日本では右も左も日米安保条約に頼って、アメリカが最後まで守ってくれると考えている人が多いようなので、反省の機会にしてもらいたい。
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 15日、小泉進次郎環境相萩生田光一文部科学相井上信治科学技術担当相が東京・九段北の靖国神社を参拝。閣僚では13日に西村康稔経済再生相と岸信夫防衛相が参拝している。菅首相玉串料を私費で奉納した。第2次安倍内閣発足以降、「終戦の日」の参拝を見送っていた安倍前首相も参拝した。
 菅首相は15日午前、千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れ、献花を行った。

 毎年、靖国神社の動向ばかりが報じられるが、日本における戦没者の公的な慰霊施設は千鳥ヶ淵戦没者墓苑だ。天皇、皇后の歌碑もある。
 この時期以外はいつも人影が少なく静謐な空間だ。毎年お参りに行くことにしているが、今週中に行こうかな。
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 この世の中を構成している物質がどうやってできたか。

 はるかな昔から人は考え続けてきた。哲学のもっとも根本的な疑問の一つである。
 私がやっているコシモロジーのための宇宙史でも、中心テーマの一つで、はじめて聞く人には強いインパクトを与えるようだ。

 私も、宇宙が極微の一点に恐縮された膨大なエネルギーの急拡大ではじまったこと、そのエネルギーから宇宙のあらゆる物質が創られたことを知ったときには、大きな感動があった。私自身も、宇宙の多くの銀河や無数の星たちと同じく宇宙エネルギーからできていて一体だということになる。

 科学の急速な進歩によって人類がこの事実を知るようになったのは、わずかここ半世紀のことにすぎない。すごいタイミングに人間として生を受けたものだと、そこにも感動してしまう。
 
 物質の創発には大きく3段階ある。

 まず138億年前のビッグバンで、水素(原子番号1)、ヘリウム(2)、リチウム(3)の3種の元素ができた。正確に言うと、宇宙誕生直後に素粒子レプトンクォーク)ができ原子核(陽子、中性子)を構成し、38万年後に原子核が電子をつかまえて元素ができた。ほとんどが水素だ。これがビッグバン元素合成である。

 次に、宇宙空間にただようそれらの物質が重力で引き合い、恒星ができる。星の内部は超高温、超高圧の溶鉱炉のようになって核融合反応が起き、水素からヘリウムが、ヘリウムから炭素が、というように次第に重い元素が創られていく。これを恒星内元素合成という。

 質量が大きな恒星の場合、元素合成が鉄(原子番号26)にまでいたるとその星は寿命を迎え、大爆発(超新星爆発)を起こしてそれまでに形成された諸元素を宇宙空間にまき散らす。

 では、鉄より重い元素、例えば銅(原子番号29)、ヨウ素(53)、金(79)、鉛(82)、ウラン(92)などは、どうやってこの世に現れたのか。
 これまでは、超新星爆発のさいの超高温と超高圧による核融合でこれらが形成されると考えられてきた。手元の本にもそう書いてあるものが多い。

 「・・超新星爆発を起こす。このときの高温・高圧の状態で鉄より重い元素がつくり出され・・」(学研の理科事典)

 「(元素合成の)第三のステージは超新星で起こる。これは非常に大きな星の一生の最期の数秒間と同時に起こる大爆発だ。超新星の高温下では実に多くの中性子が生み出されるので、周期表の残りの全元素は中性子捕獲によってほんの数秒のうちに作られる[超新星元素合成]」(『ビッグヒストリー』)

 私もこれまではこう説明してきた。

takase.hatenablog.jp

 しかし、どうやら今は理論が更新されているようだ。

 鉄より重い元素が作られるプロセスはs-過程(sはslowの意)とr-過程(rはrapid)の二つが想定されている。

 s-過程は、巨星となった星が、その強大な放射の圧力で外層のガスを周囲に放出する際にゆっくりと進行すると考えられる。
 一方、r-過程元素は、連星中性子星の合体がその放出源であることが判明した。これは重力波天文学の誕生により、2017年以降確認されたのだという。
 超新星爆発でも鉄より重い元素が形成される可能性はあるが、まだ確実にはなっていないそうだ。(以上、戸谷友則『爆発する宇宙―138億年の宇宙進化』講談社

 ややこしいが、巨星中性子星も、星の一生でいえば臨終時期なので、ざっくりと、「鉄までの元素は星の輝きの中で創られ、それより重い元素は星が死ぬときに創られる」という表現でいいだろう。

 現代科学の進歩はとても速い。宇宙進化も、生命進化の分野も、最新の知見に追いついていくのが大変だが、私にとっては刺激的な学びになっている。もっと勉強しよう!