アフガニスタンの政権があっけなく崩壊してしまった。
タリバンのまさに「地滑り的」勝利。
すでに10年以上前から、アメリカが支える政権は末期的な症状を見せていた。
アメリカや日本が莫大なカネをつぎ込んでも、政府は汚職まみれで新生国軍の士気は低く、米軍が引いたら政府軍はもたないだろうと言われていたが、実際にこうなってみるとショックである。
20年という米国史上最長の戦争だった。日本はじめ多くの国々がこの戦争に加わった。世界中の官民から莫大な支援が注ぎ込まれた。そして多くのアフガン国民が犠牲になり傷ついてきた。いったいどんな意味があったのか、と呆然としてしまう。
日本は新テロ特措法(補給支援特措法)を制定して海上自衛隊をインド洋に派遣し、米軍とともに戦い、さらに世界でも最大規模の復興支援を行ってきた。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000019265.pdf
日本も他人事ではなく、米国とともに敗北したのである。
米国の戦略、テロリズム、人権と民主主義、地政学、世界の覇権バランス、イスラム教のあり方などなど、この歴史的事件はさまざまな角度から見ることができるが、大テーマはおいおい考えるとして、とりあえず、アフガンとかかわる日本人の情報が気になる。
アフガンの女性や子どもの教育などを支援してきた西垣敬子さん(85)は、現地では「急激に状況が変化してみんな戸惑っている」といい、米国に留学経験のある男性は西垣さんに「米国に留学した人が2人殺された。3人目は自分かもしれない」と不安を明かしたという。また、07年にジャジャララバード(中村哲さんが殺された町)の大学に定員50人ほどの女子寮を作ったが「おそらく今、寮には誰もしないと思うと悲しい。でも落ち着けば、また女子学生たちが戻れるようになると信じている」と西垣さんは話す。
千葉県四街道市にはアフガン人が約730人住むが、母国の家族らが心配でたまらないだろう。(朝日新聞)
日本政府はアフガンからの難民受け入れに最大限尽力してほしい。
中村哲さんのプロジェクトはどうなっているのか。
《アフガニスタンで政権が崩壊したことを受け、現地で人道支援活動を続ける非政府組織(NGO)「ペシャワール会」の村上優会長は16日、西日本新聞の取材に応じ「まずは情勢を見極め、安全確保を第一に事業を継続していきたい」と述べた。会の支援を受けて現地で活動するNGO「PMS」(平和医療団)は15日から用水路建設や医療事業を中断しているという。
(略)会によると、ジャララバードがタリバンの支配下に入った際も、PMSの活動地域では武力衝突は起こらず、アフガン人スタッフが危害を加えられることもなかった。会はPMSと頻繁に連絡を取り合っており、状況を確認した上で事業の再開を検討する。》(西日本新聞)https://www.nishinippon.co.jp/item/n/786077/
無事な様子でまずはよかった。
このプロジェクトの地域がタリバンの支配下にあったこともあり、中村哲さんはタリバンの治世を知っている。その中村さんが、タリバン時代の方が治安はよかったし暮らしやすかったと言ったのに驚いたことがある。
タリバンを擁護するつもりはないが、中村さんの語るリアルな現実の一端を紹介したい。
《地縁血縁を中心とするパシュトゥン人社会で彼らが支持される土壌があった。権力闘争に明け暮れる旧支配勢力への反発も急速に支持をのばす要因だった。支持層の中核は生真面目な農民たちだったという。タリバンについて中村さんはこう書いている。
「タリバーンとアルカイダとの結びつきは、同床異夢であって、もともと両者の体質は異なるものがあった。『国際イスラム主義』の世界制覇を唱えるアルカイダに対して、タリバーンの諸政策は『攘夷』を掲げる『アフガン=パシュトゥン国粋主義』に近いもので、その構成員も雑多であった。わずか二万人足らずの軍勢が、短期間に国土の大半を支配できた秘訣はここにあった。概して彼らの方法は、地域の伝統的な自治組織(ジルガ=長老会)と政治交渉を重ね、地域の治安維持と綱紀粛正を約束し、慣習法による自治を保障、合意が成立すると兵力を進駐させるものであった。」(『医者、用水路を拓く』)
(略)米軍が、タリバンのいる村を空爆したということは、つまり普通の村の農民を殺し、寡婦や孤児を増やし、生活を破壊したということである。中村さんの活動する地域でも反米意識が強まり、治安が著しく悪化したという。
きょうTBSの『報道特集』で、旧知のジャーナリスト、かつての遠藤正雄さんによるアフガン報告を放送していた。日本からの資金が警官の給与になっていて、一人の警官が今のアフガンにはまともな職がなければ『人殺しか、麻薬の売人か、泥棒になるしかない」と言った言葉が印象的だった。麻薬栽培が爆発的に増え、その取り引きがGDPの半分くらいになっていると推定されているという。番組には、麻薬ビジネスが警察の内部まで浸透しているとの告発者も登場していた。タリバンの時代は麻薬を厳しく取り締まっていたのだが、現政権下で軍閥が台頭し、また農村が疲弊したこととあいまって、麻薬ビジネスが完全に復活している。
すでに日本はアフガンに2000億円復興支援しているという。赤ちゃんもいれた日本人一人あたり1700円くらい出していることになる。今の腐った政権をてこ入れしても金が無駄になるのではないか、というより、むしろ事態を悪化させるのではないかと危惧する。
国際社会がアフガンに手を突っ込むとすれば、中村さんたちの手がけているような地道な農村再生を核にし、それを諸政治勢力が超党派で応援せざるを得なくするようなスキームをつくれないものだろうか。》
マララ・ユスフザイさん(24)はツイッターで「タリバンのアフガニスタン掌握を大きな衝撃をもって見つめている。女性や少数派、人権活動家のことが非常に心配だ。国際社会および各国は、ただちに停戦するよう要求し、緊急人道支援を行い、難民と市民を保護しなければならない」と書いた。
マララさんは母国パキスタンでイスラム武装組織TTP(パキスタンのタリバン運動)による女子教育の抑圧や残虐行為を告発し、報復として銃撃され重傷を負った。事件後も女子が教育を受ける権利を訴え続け、14年に史上最年少の17歳でノーベル平和賞を受賞した。
このツイートに対して、すぐにノルウェーのアーナ・ソールバルグ首相が、「マララさん、アフガンの大混乱のなか、婦人や少女を代弁し、市民の保護を主張していただき感謝します。ノルウェーはあなたの呼び掛けを心にとめ、国連安保理で活動します」と応じている。
さすが人権の国、ノルウェー。
日本の政府、市民もこれを見習って迅速に行動したいものだ。