「私がここにいるわけ」高校生に語るコスモロジー②

 きょうは桃の節句で、ちらし寿司に蛤の吸い物をいただく。畑ではホトケノザがいっせいに花をつけ、春の到来をつげている。

ネギの根もとはホトケノザでいっぱい。かわいそうだが、雑草としてすべて抜いた。

 欧州は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、国防意識が高められているという。かつてソ連の衛星国にさせられた東欧諸国はとりわけ危機感が強く、ポーランドでは去年9月、高校・専門学校の1年生(14~15歳)を対象に、銃の扱い方を教えることを義務化した。世論調査では、これに賛成が50%、反対が35%で、賛成が上回ったという。

ポーランドで銃の扱いをならう高校1年生(NHK国際報道より)

 国防費も軒並み増額される。GDPに対する割合で、ドイツは1.5%から2%へ、スペインが1%から2%へ、ポーランドが2.5%から4%へ、スウェーデンが1.3%から2%へという具合だ。どんどん世界がきな臭くなって、偶発的な衝突が大事にならないか、心配になる。
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 コスモロジー・セラピーはさまざまな切り口から入っていくことができるが、今回は、”私“の体を構成している物質が「宇宙製」、メイド・イン・コスモスだという気づきを入り口にしている。その気づきを宗教ではなく、現代科学の最先端の成果を踏まえた宇宙史で支えるというやり方だ。だからここに説くのは宇宙史の「お勉強」ではない。

 知識を得ることが目的なら、宇宙史に詳しい専門家、教えるのが上手な教師のほうが適任だろう。私が目指しているのは、その歴史を〝自分事“だと「気づき」、人生観を形作る溶媒にしていくことだ。

 ということで、つづき。

 

《エネルギーと物質は置き換えられる》

 この宇宙エネルギーは、宇宙空間が広がり、温度が下がるにつれて物質になっていった。

 エネルギーが物質になるなんて、想像しにくいよね。あえてイメージするなら、空から降ってくる小さな水滴が、温度が下がっていくと、液体が固体になって美しい雪の結晶があらわれるという感じかな。

 このエネルギーと物質の関係は、このあとも出てくるので、ちゃんと説明しよう。はじめちょっと難しいけど、だんだんおもしろくなっていくから、気を入れて聞いてね。

 アルベルト・アインシュタインという人、知ってる? 相対性理論で有名なえらい科学者。

 E=mc²

 これは、彼の「質量とエネルギーの等価性」を示す数式。世界でもっとも有名な数式だそうだ。Eはエネルギー、mは質量でcは光速(秒速30万km)を表してる。光速の2乗は決まった値(定数)だから、エネルギーは質量と置き換えられるという意味になる。質量というのは、とりあえず物質の重さと理解しておいてね。

 つまり、エネルギーは物質になることができ、逆に物質がエネルギーに変わることもあるというわけだ。ちょっと不謹慎だけど原子爆弾、原爆を例にして説明するね。

 第二次世界大戦で、広島と長崎に原爆が落とされたのは知ってるね。広島の原爆では60kgのウラニウムウラン235)を使って核分裂を起こし爆発させた。そのときウラニウムの一部の質量が、エネルギーに変わって失われた。失われたウラニウムの質量は理論上0.7グラムだったそうだ。もし、原爆で破裂したウラニウムの破片を拾い集めたら―そんなのもちろん無理だけど、もし全部拾ったとしたら―はじめの重さより0.7グラム減っていたはずなんだ。つまり、0.7グラムの物質があの原爆のおそろしいエネルギーになったというわけ。すごいよね。物質というのは、エネルギーがものすごく凝縮したものなんだ。

 原爆は核分裂反応を一気に起こすけど、核分裂をコントロールしながらゆっくりと進めてエネルギーを取り出すのが原子力発電、原発だよ。原発でもごくわずかづつだけど、ウラニウムが質量を失なってエネルギーに変わっていく。原爆と同じだね。

 これが、物質がエネルギーに変わるということ。そして、その逆、エネルギーが物質に変わるというのがビッグバンのときに起きたことなんだ。膨大なエネルギーのかたまりの超高温の宇宙が、膨張しながら、素粒子という宇宙で一番小さい物質を生み出した。
(注:ビッグバンの前にインフレーションという瞬間的な急膨張の段階があったと考えられている。それを終えた超高温の宇宙は、ゆるやかな膨張に転じる。これが狭義のビッグバンで、膨大なエネルギーからさまざまな素粒子が生み出されたとされている。)

 

《宇宙エネルギーが物質に転化した》

 素粒子というのは、それ以上細かく分けられない、宇宙で一番小さな物質。ぼくたちが子どものころは、一番小さな物質は原子だと教わったけれど、1964年に、原子はもっと小さい素粒子が集まったものだとわかった。

 これまでにクォークレプトンなど物質を構成する物質粒子、力を伝えるグルーオンや光子など17種類の素粒子が確認されている。宇宙の始まりとそこでの素粒子の形成は、最先端の研究分野で、最近のノーベル物理学賞もこれに関係する研究が多い。

 いま全宇宙の物質を構成するすべての素粒子は、宇宙の誕生のときに一気にできたといわれてる。宇宙誕生後1万分の1秒後にはもう、素粒子が集まって陽子や中性子ができた。陽子と中性子、そして素粒子の一つである電子、この三つで原子ができていて、宇宙に存在するさまざまな元素になっている。このあとはもう宇宙で素粒子は創られない。つまり、このとき全宇宙の元素の材料がすべて生み出されたことになる。

 だから、ビッグバンというのは、宇宙のはじまりというだけでなくて、数千億の銀河をもつ全宇宙の物質の素材を一気に生み出した一大イベントでもあったわけだね。

(つづく)