香港の若者は「暴徒」なのか

祝砲を実弾で撃つ国慶 (神奈川県 石井 章)
衰亡は香港島から古希の国 (兵庫県 上村晃一)
                 朝日川柳10月3日より

 

 5日(土)、6日(日)と香港を取材してきた。撮影した素材をホテルからネットで日本に送り、6日夜のフジテレビ「Mr.サンデー」で放送された。私自身まだ観ていないのだが。

 香港はいよいよのっぴきならない状況になってきた。
 国慶節の10月1日、新界地区の荃湾(ツェンワン)でデモ隊が警官隊と衝突。警察は高校生をピストルで至近距離から撃ち、銃弾が左胸に命中して一時重体となった。その高校生は3日、暴動罪と警察官を襲った罪で起訴された。デモで実弾による初めての負傷者が出て、その彼を暴動罪で起訴したことは市民の憤激を煽っている。

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10月1日に高校生が撃たれた荃湾の現場。一命はとりとめたのだが白い花が供えられていた

 当局は6月以降の抗議活動に絡んで2千人以上を逮捕、200人以上を暴動罪で起訴している。いま市民がかかげる5大要求には、デモを暴動と認定した政府見解の撤回があり、ここは市民にとっては絶対に譲れないところだ。
 一方、香港政府はデモ=暴動を徹底的に抑え込む姿勢を明らかにし、デモ自体を禁止し、取り締まりが非常に乱暴になっている。警察当局は9月30日付で内規を改定し、拳銃や催涙弾を含む武器使用のハードルを下げていたと報じられている。
 警察はメディアにも銃を向けるようになっており、9月29日には、インドネシア人の女性記者が、警察が撃ったゴム弾で失明した。
 4日はもう一つの転機を迎えた。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が議会の審議を要しない「緊急法」を発動。翌5日0時からデモにおいてマスク着用を禁じる「覆面禁止法」が施行された。
 周庭さんは「香港に住むのは怖い」とはじめて思ったという。

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 緊急法の発動は、抗議活動に油を注ぐ形になり、若者たちがより激しい抗議活動に出ている。4日夜は各地で中国系とみなされた店舗や鉄道の駅などがデモ隊に破壊され、中国本土に近い新界地区・元朗では、私服警官がデモに加わっていた少年(14歳)をピストルで撃って太ももに重傷を負わせた。実弾による二人目のけが人である。
こうして暴力的な衝突がどんどんエスカレートしている。

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銅鑼湾(Causeway Bay)駅は入り口が焼け焦げシャッターが下りていた。スマホで写真を撮る人多し

 そこで急遽、香港に向かったのだが、5日未明に着くと、昨夜の破壊行為で、鉄道は全線運行中止。多くのショッピングモールも営業を停止する異常事態だった。さて何を取材しようか。

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荃湾の中国銀行は激しく破壊されていた。表に面したガラスは全て割られ消火栓から中に水が注ぎこまれて水浸しになった

 周庭さんが私たちをレノンウォールに案内してくれたとき、日本の皆さんに見せたいスローガンがあると指差したのが「「沒有暴徒 只有暴政」(暴徒はいない暴政あるのみ)だった。https://takase.hatenablog.jp/entry/20190915
 デモ隊は「暴徒」なのか?これは政府と市民側の最大の対立点である。
 デモ参加者には「和理非(和平・理性・非暴力の略)派」と実力行使も辞さない「勇武派」がいるとされる。ニュースで火炎瓶を投げ、地下鉄のインフラを破壊する若者たちを見て、「暴力は決して許されない」と反発を感じる日本人は多いだろう。
 そこで今回は、徹底的に「勇武派」を追いかけて、彼らは「暴徒」なのかというテーマを考えてみることにした。
(つづく)