香港で高校生が警官に撃たれ重体

 10月に入っても暑い。きょうもオフィスではエアコンを付けっぱなしだった。
 暑さのせいか、ヒガンバナの開花が遅いらしい。どこかに咲いていないかなと探しながら歩いていたら、通勤路上のフェンスから真っ赤な花が道路をのぞいている。

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 曼珠沙華とも呼ばれるこの植物、古く、米と一緒に大陸から日本に入ってきたようだ。有毒なので、虫やミミズ、ネズミなどを避けるために田んぼの畔や墓地によく植えられるという。

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 建国70周年の節目とあって、北京では盛大な式典が執り行われたが、香港各地では「嘆きの日」だとして「国慶ではなく国難だ」と叫びながら無許可デモが行われた。

 デモ隊の一部が警官隊と激しくぶつかった。火炎瓶と催涙ガスの応酬はこれまでどおりだが、きょうはデモが始まる前から警官隊が催涙ガス弾を使い、徹底的に蹴散らすつもりだったようだ。これまでは警察の規制に逃げていたデモ隊だが、きょうは警官隊に襲いかかり、押し返すケースもあったという。デモ隊側も覚悟を決めていたようだ。
 その中で、衝撃的な事件が起きた。デモ隊の若者が警官に至近距離からピストルを撃たれ、胸に命中して重体だという。

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 《デモ隊との衝突の中で警察が実弾を発砲し、高校2年の男子生徒(18)が左胸を撃たれて重体となった。逃亡犯条例改正案に端を発し6月から続く抗議活動で、市民が撃たれたのは初めて。デモは一段と先鋭化する可能性がある。》(香港時事)
 複数の動画が公開されているが、警官は威嚇射撃をすることなく、また足などを狙うこともせずに、ためらわずにピストルを胸に向けて至近距離で撃っている。殺してもよいと思っていたのか。
https://www.youtube.com/watch?v=MWmGgwpFLgQ
https://www.youtube.com/watch?v=uTYfWfd7Yqc
 この事件は運動の転換点になるかもしれない。市民は激昂しているから、あす以降の成りゆきがとても心配だ。中国共産党としては、デモ隊側の暴力と警察の武力による弾圧のエスカレートが武力介入の口実となることを承知した上で、手を打ってくるだろう。

 この3カ月超の運動では警官のデモ隊に対する暴行が酷いと問題になっており、これがまた市民の抗議行動を激しくさせている。いま香港の運動が掲げる5大要求には②デモの「暴動」認定の取り消し③警察の暴力に関する独立調査委員会の設置④拘束したデモ参加者の釈放と警察の取り締まりに関する要求が三つも入っている。
 しかし、もともとは香港警察は紳士的なことで知られていたという。今は警官が現われるや、市民から、警察は「黒社会」(暴力団)ださ!と罵声がとぶ。
 香港警察の中に中国本土の武警(人民武装警察部隊)のエージェントが入っていて指揮している、その証拠に北京語で警官隊に指揮するのを見た、という話もよく聞くが、この情報は確認されていない。
 中国の武警は香港に駐留しており、8月に新たな部隊が「交代」と称して香港に入ってきた。しかし、それは「交代」ではなく「増強」で、その数はすで1万人から1万2千人に達しているという。ロイターなどが報じている。香港警察は、犯罪捜査や交通警察を含めて3万5千人だから、中国の武警の存在感は大きい。
 これ以上、物理的な衝突がエスカレートした場合、習近平は武警をデモ規制現場に投入してくる可能性が出てくる。
 一方、その香港は、決して一人で闘っているのではない。国際連帯を強く求めている。私を含む日本人取材者で、デモ隊から感謝の言葉を伝えられなかった人はおそらくいないだろう。日本人と分かると日本語で「アリガトウ」と毎日どこかで声をかけられた。デモ参加者につかまって話し込むことも多く、香港人が闘っていることをぜひ世界に知らせてくれと熱く要望された。強大な中国を相手に闘うには多くの国々の人々とそれぞれの国のリーダーたちを巻き込まねば勝算がない。
 先日、デモ隊が欧米などいわゆる「自由」の国の国旗を掲げて行進した。現地で取材に当たっているライターの安田峰俊さん(https://takase.hatenablog.jp/entry/20181108に登場。私は9月1日に香港中文大学でたまたま会った)がその中に日の丸があるのを見て「国際的連帯と自由を訴える文脈でポジティブに日の丸が使われるの、ちょっと斬新ではある」と書いている。

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 きょう高校生が警官に銃撃されたニュースが入ると、日本共産党志位和夫委員長がすぐにツイッターに「極めて憂慮すべき事態だ。抗議活動に対して実弾を用いて対応することに、強く反対する。」と書きこんだ。日本の共産党でさえ、向こう(中国共産党)ではなく「こちら」側だ。

 いま二つの大きな価値観が香港でぶつかっている。香港が中国に蹂躙されぬよう、我々が何をできるか考えたい。