社会の分断進む香港2―ついにデモ現場で死亡事故が

 11月2日の夕方、香港島銅鑼湾(コーズウェイベイ)で始まったデモ隊と警官隊の衝突は夜になって九龍(カオルーン)半島側に移った。香港を代表する目抜き通り「ネイザンロード」では北へ移動するデモ隊を警官隊が催涙弾を発射しながら追っていく。辺り一面が催涙ガスで白く霞み、市民が目や鼻にハンカチを当てながら裏通りに逃げていく。そこから朝方まで、警官隊が催涙弾を撃っては蹴散らされたデモ隊を追いかけて逮捕する、英字紙が“cat and mouse battles”(追いかけっこ戦闘)と呼ぶゲームのような逮捕劇が展開された。

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路上に落ちていたゴム弾と発射筒。人に向けて発射しないようにと筒に書いてあるが警察は守っていない。左下は催涙弾の薬きょう。

 この夜の大きな事件としては、前回書いたように民主派の区議選候補者3人が逮捕された他、湾仔(ワンチャイ)の中国国営新華社通信香港支社のビルが若者らに襲われ、入り口のガラスが破壊され放火されたことだった。これは中国当局を相当刺激しただろう。

 翌11月3日(日)は、午後1時から7ヵ所で警察の暴力に抗議する集会が予定されたのでうち1カ所に行ってみた。ところが正午には警官隊が周辺をブロックしていてとても集会ができる様子ではない。きょうは何もなしかと思い、香港の知り合いとレストランでご飯を食べていると、店のテレビがガス弾を撃つ警官隊を映し出した。中心部からちょっと離れた太古(タイク)という街でいま衝突しているのだという。香港のテレビはデモや集会、さらには警官隊との衝突をライブで中継するのだ。

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レストランのテレビでのライブ放送。警察は、記者証を見せて抗議するこの男性を逮捕した。最近は取材者に対して警察が敵意をあらわにする場面も多い。

 ショッピングモールで「人間の鎖」を作ろうと集まった市民に男が刃物で切りつけ6人が負傷したという。刃物で襲った男は普通語(北京語)を話していたといい、止めに入った区議会議員の男性が男に耳をかみ切られた。この騒動で警官隊がショッピングモールに突入した。
 また、大埔(タイポ)や沙田(シャティン)などでもショッピングモールの中で若者たちがスローガンを叫び「集会」を行ったため、警官隊が規制に入り衝突した。
 若者たちは、警官隊が警戒態勢をしく公園などではなく、買い物客で賑わう日曜のショッピングモールを抗議活動の場所にしたのだった。

 香港の警察は4日会見し、先週金曜日から3日までの週末に、武器を所持したり、違法な集会に参加したりした疑いなどで325人を逮捕したと発表。6月以降逮捕された人は3000人を超えた。地元紙によれば、このうち専門学校生を含む大学生の逮捕者は702人だという。

 6日には親中派の区議会議員候補者(何君尭―ユニウス・ホウ、ホウ・クワンユウ議員57歳)が刃物を持った男に刺され、負傷した。7月、覆面と白いTシャツの集団が元朗区の地下鉄駅で民主派活動家や通行人を襲撃する事件があり、民主派は何氏が襲撃に関与したと非難していた。
 いま香港では、このように民主派と親中派の双方が刃物などで襲撃される事件が相次いでいる。警察とデモ隊との暴力がエスカレートする一方で、市民間の暴力を伴う対立が頻発しているのだ。


 いつか死者が出るのではと心配していたが、ついに一人の学生が亡くなった。私が香港滞在中にあった抗議活動での事故によるものだという。
 香港科技大学の周梓楽さん(22)は11月4日未明、デモ隊と警察が衝突する現場近くで、駐車場の3階から2階部分へ転落した。頭を強く打って病院に運ばれたが、8日朝に死亡したという。


 すでに8日から周さんが警察に殺されたとして抗議が始まっているが、まだ事実関係がはっきりせず、警官隊の規制が原因だとは決めつけられない。抗議活動に関連する死者だとすると、自殺を除いては初めてだ。

 

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周さん死亡の報は大学の卒業式の日にもたらされた

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周庭さんのツイート

 まずは真相究明を優先し、冷静にと呼びかける現地英字紙を支持したい。
 《先鋭化する事態に、地元英字紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」は社説を発表。香港を「深刻な2極化が進んでいる」とした上で、「周さんの死は、暴力や混沌とともに記憶されるべきではない。真相が究明されるまで、私たちは皆、過激な行動ではなく自制心をもって彼の死に敬意を払うべきだ」と、冷静さを保つよう呼びかけた。》https://www.huffingtonpost.jp/entry/hongkong-protest_jp_5dc61ba1e4b00927b2333d64

 「周さんの死」で市民の警察への反発が一段と強まることが予想される一方で、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は今週、習近平国家主席から抗議活動の取り締まり強化を指示されている。
 きょう9日は抗議活動が始まって5カ月になるが、香港の今後がますます見えなくなってきた。