「暴力」を肯定する香港の若者たち

 きょう近所で鐘太鼓の音がするので通りに出たら、山車が練り歩いていた。近所の神社の秋祭りだった。

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 今年の夏はせわしく花火も祭りも見られなかったなあ。きょうの朝日俳壇を眺めていると、

アテルイも牛若丸も秋祭 (久慈市 和城弘志)
 アテルイとは平安時代初期に、胆沢地方(現在の岩手県水沢市)で大和朝廷の北進に激しく抵抗した蝦夷のリーダー。802年征夷大将軍坂上田村麻呂に降伏し処刑された。大和朝廷から見れば「賊軍」の首領なのだが、数年前、青森のねぶた祭りアテルイのねぶたが出てニュースになった。歴史上の出来事や人物を善悪で色分けすることから少しづつ自由になっているという点では望ましいことだろう。

蟻の列空を見上ぐることありや (多摩市 田中久幸)
 目の前の仕事やトラブルやであたふたと日を過していると地面しか見えなくなる。いつも青い空や月や星空を眺めて爽やかな気持ちを取り戻すことを意識的にしないと、と自戒させられる一句。
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 「逃亡犯条例」改正への反対運動が6月から歴史的な盛り上がりを見せているが、香港政府は4日、条例改正の「撤回」を正式に表明した。これで運動が収まるかと思ったら、そうではなかった。
 周庭さんのツイートは運動参加者の最大公約数だろう。

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9月4日の周庭さんのツイート

 この3カ月で、香港政府とくに警察への不信感が決定的になり、運動の目標が「5つの要求」に拡大した。それは1. 改正案の完全撤回、2.警察と政府の、市民活動を「暴
動」とする見解の撤回、3. デモ参加者の逮捕、起訴の中止、4. 警察の暴力的制圧の責任追及と外部調査実施、5. 林鄭月娥の辞任と民主的選挙の実現だ。もう改正案の完全撤回などそのうちの一つに過ぎないのだ。
 多くのデモ参加者が逮捕されても運動が潰れずに続く要因の一つは、リーダーがおらず、市民一人一人が自主的に参加する運動形態にある。周庭さんも自分は今回はリーダーではなく、ただ市民の一人としてやっていると私に語っている。
 しかし、リーダーがいないと今後、政府と交渉して落としどころ(あまり好きな言葉ではないが)をさぐるといったことができない。5つの要求の中の民主的選挙の実現などとてもすぐに北京指導部が認めるわけがないと思うのだが、中学生までが「五大訴求 缺一不可」(五つの要求は一つも欠けてはならない)のスローガンを掲げるほど浸透しており、運動が収まる兆しはない。

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デモや集会に参加する中学生(6年制)は非常に多い

 気になるのは、警察との衝突を経てデモ隊側が火炎瓶を投げるなど暴力がエスカレートしていることだ。運動側の言い分は、「沒有暴徒 只有暴政」(暴徒はいない暴政あるのみ)、警察の暴力こそが問題だという。
 私はデモ隊への警官隊の規制の実態を見るため、深夜の衝突現場に2晩、未明まで張り付いて取材したが、たしかに警察の取り締まりは横暴だった。

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出動した警察の機動隊。この後、乱暴な逮捕がカメラの前で行なわれた(9月3日未明)

 その一部はフジテレビ「Mr.サンデー」で紹介したが、私たちのカメラの前で、警官隊に向かって「恥を知れ!」と大声で叫んだだけの若者を数人がかりで警官が地面に押し倒して逮捕した。どこか怪我をしたらしくTシャツの首のあたりに血に染まっている。また若い女性が逮捕の際、地面に2回強く頭を叩きつけられ失神、救急車で運ばれた。別の通りがかりと思われる若い女性を警官が何度も突き飛ばす場面は、私自身がカメラを回していた。まわりにいる市民からは警官隊に向けて「警察ヤクザ」との罵声が浴びせられた。
 日本に住む人には意外に思われるだろうが、運動参加者の中では、デモ隊の暴力を肯定する声が非常に多い。市民へのアンケート調査でも、デモや集会が暴力的になっている責任は政府・警察の側にあるとの答えが最も多い。
 ある集会に制服姿で参加した女子中学生(6年制なので4年以上は日本でいう高校生)に、デモ隊の一部が暴力的な行為をすることをどう思うかと聞いたところ、問題は「完全に平和的な方法では解決しないと思う」と答えた。さらに「これは革命なので、流血は避けられないのではと思う。歴史をみてもそうだ」とまで言った。
 暴力の連鎖が続く先にどんな事態が来るのか。澄んだ目で「革命」を語る若者たちの行く末が心配でならない。