デニス・ホー(何韻詩)とジャッキー・チェン(成龍)

 きょう渋谷に行く用事があり、シアター・イメージフォーラムで、映画「デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング」を観てきた。
 すばらしい映画だった。

f:id:takase22:20210701014701j:plain

deniseho-movie2021.com


《2014年に香港で起きた「雨傘運動」。警官隊の催涙弾に対抗して雨傘を持った若者たちが街を占拠したこの運動に、一人のスーパースターの姿があった。彼女の名前はデニス・ホー。同性愛を公表する香港のスター歌手である彼女は、この雨傘運動でキャリアの岐路に立たされていた。彼女は、中心街を占拠した学生たちを支持したことで逮捕され、中国のブラックリストに入ってしまう。次第にスポンサーが離れていき、公演を開催することが出来なくなった彼女は、自らのキャリアを再構築しようと、第二の故郷モントリオールへと向かうのであった。》(映画広報より)

f:id:takase22:20210701014928j:plain

運動の先頭に立って逮捕されるデニス・ホー

f:id:takase22:20210701015118p:plain

一人の人間としても非常に魅力的だ

 恥ずかしながら、香港のシンガーソングライター、デニス・ホー(何韻詩、Denise Ho)をこの映画で初めて知った。超が二つくらいつく香港のアイドル、スーパースターで世界の中国語圏でも高い人気を誇る彼女が、民主化運動に身を投じたことは、香港市民をどれほど勇気づけたか。彼女はまさしく香港革命の英雄の一人だった。

 彼女ははじめ政治に特別な関心を持っていなかったという。転機は大スターになって香港やアジアの音楽賞を総なめにしていた30歳のとき。恋愛や個人的なことだけ歌っていていいのかと悩み、社会問題に目を向け方向転換をはかる。雨傘革命ではデモの最前線に立って警官隊と対峙、ついに逮捕にまでいたる。

f:id:takase22:20210701015231j:plain

大スポンサーから忌避され、手作りの草の根公演をする

 中国本土でも大人気だった彼女は、仕事を干され、収入の9割を失って経済的に追い詰められる。スポンサーや同僚ミュージシャンなど音楽関係者は次々と関係を切ってきて、デニス・ホーは香港でも歌手生命を断たれた。中国共産党に逆らうことは、アーティストとしての「死」を意味するのだ。この現実に恐怖を覚える。去年観た映画『淪落の人』の主演アンソニー・ウォン(黄秋生)も、2014年の「雨傘革命」を支持して中国と香港の映画界からパージされ、今は台湾に暮らすという。

https://takase.hatenablog.jp/entry/20201228

 国連人権理事会やアメリカ議会で、彼女がどうどうと中国の横暴を止めるよう演説しているシーンが流れる。蟷螂(とうろう)の斧という言葉が浮かぶが、その姿は凛として美しい。

 いまは手作りのライブコンサートを少人数のスタッフで行なうが、かつてはバックダンサー、演奏バンドそれぞれ10人以上を引き連れていた彼女が、ステージに上がる前、たった一人鏡に向かって自分でメイクをこなす姿が印象的だ。

 香港返還から「雨傘革命」そして去年の民主化への経緯も描かれていて、香港問題の入門としても「勉強」になる。また民主化運動の最前線など、迫力ある映像が次々に出てきて、この2年を振り返るよすがになった。

 2019年6月16日の200万人デモから2年、「国家安全法」の去年6月30日の施行から1年を迎える今、ぜひ見てほしい映画だ。

 

 一方、7月1日、中国共産党が創立100周年を迎える。

 それに先だって行なわれた祝賀公演には、ジャッキー・チェンがステージ中央で熱演。「権力の犬」ぶりを恥ずかしげもなく披露していた。

f:id:takase22:20210630080034j:plain

7月1日の100周年を前に開かれた公演

f:id:takase22:20210630080146j:plain

偉大な共産党を称える舞台の中央、スポットライトが当たるところに・・

f:id:takase22:20210630080017j:plain

熱演するジャッキー・チェン。彼のアクション映画は好きだったんだが・・

 彼は、一昨年の民主化運動を「混乱」だとして、香港政府・中国政府を支持するキャンペーン「五星紅旗を守る14億人」に参加。「国家安全法」の香港への導入について、2千人を超える香港の芸能関係者と連名で支持を表明した。

 中国共産党が無理強いしているのではない。その強大な経済力と弾圧の恐ろしさを知っている人々は、自ら進んで膝まづくのだ。これが中国共産党のやり方だ。