スウェーデン経済の強みに学ぶ

 きのう髪をカットしにいった。美容師と雑談しているうち、彼がとんでもないことを言い出した。

「知ってます?佐藤栄作からこれまでの歴代首相で、小渕さん以外はみんな『帰化人』だってこと。安倍さんの本名は李ですよ」

「あと、去年のオリンピックに出場した日本代表、ほとんどが在日なんですよ」

 はぁ??

 あまりに確信ありげに断言するので、どう返していいか困った。この美容師には20年前から通ってよく知った間柄なのだが、ここ数年、オカルトっぽい変なことを言うようになっていた。しかし、ここまで言うとは・・

 さらに話を聞くと、どうやら「神真都Q(やまときゅー)」というグループに影響されているらしい。これはアメリカの「Qアノン」の日本支部で、9日、全国で反マスク、反ワクチンのデモをやっている。

「コロナってそもそも陰謀で、あんなのウソなんですよ」という彼。そういえば、私をカットしている間、ずっとマスクをしていない。

 トンデモ陰謀論を本気で信じ切っているのを見て、怖くなった。彼はテレビや新聞は嘘しか言わないので一切見ずに、SNS(それも自分のお気に入りの)だけから情報を得ているという。

 

 それから先日、経済の最先端でバリバリやっている若手経済人と話したときのこと。

アメリカに、打つのも投げるのも一流の日本人の野球選手がいるらしいんですよ。こないだ先輩に教えてもらったんですけど、オオタニっていう人らしいです」と言う。

 えっ?大谷翔平を知らなかったの?・・ほんとに?

 私も野球には全く興味ない人間なのだが、大谷はテレビニュースの冒頭に流れるし、新聞でも一面や社会面に出るので、自然に知識を得る。

 彼の場合は、情報収集はネットからだけだという。経済、政治はじめ広く深い情報を持っていて、判断力も優れた人なので、大谷を知らないという極端なアンバランスに心底驚いた。

 SNSだけに頼ると、自分の好みの情報しか入ってこず、自らを囲い込むようになって、社会全体で共有する情報が非常に細ってくるのではと危惧する。フェイクニュースが広がるのも当然だ。

 子どもたちへの対策も必要だなと思っていたら、フィンランドでは小学生からネットのフェイクニュースなどに関する教育をしているというニュースがあった。偽情報の悪影響に対する抵抗力が最も強いのがフィンランドだそうだ。日本でも参考にしたい。
https://mainichi.jp/articles/20211227/k00/00m/030/325000c

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 きのうの朝刊1面に企業の時価総額ランキングが載っていた。

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11日朝日朝刊1面

 日本のトップのトヨタ自動車は29位。台湾の半導体生産企業TSMCが10位、中国のIT大手テンセントが11位、韓国のサムスン電子が16位など、アジア勢で上位に位置するところもあるなか、トヨタの他に100位内に入る日本企業は92位のソニーグループしかない。苦戦している。

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11日朝日朝刊4面

 バブル経済だった1989年は、世界のトップ10に日本企業がなんと7社もが入っていた。あれはあれで問題だったが、このランキングはその時に勢いのある産業や企業を示すものだ。日本の産業、企業の競争力が大きく減退しているのはたしかだ。

 「多くの企業は給与削減や人減らしなどでコストを抑え、利益を確保してきた。内部留保はふくらんだが成長に向けた投資には及び腰だ」と記事は指摘する。

 さっそく、今朝の「朝日川柳」で取り上げられていた。

ランキングの日本企業に見る「平家」 (埼玉県 小島福節)

 問題は、日本企業トップのトヨタですら、押し寄せる津波のようなEV化の波に乗れるかどうかわからず、自動車産業の「次」の有望な分野が全く見えないことだ。これはもう何年も前から多くの人が懸念している。

 きのう、録画しておいた元日の番組「BS1スペシャル」【欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを超えて】を見て、スウェーデンの社会運営にあらためて感嘆した。

 私は以前からスウェーデンモデルを高く評価していて、去年11月25日の「納税で持続可能な日本。」シンポジウムでは、スウェーデンの税金システムについて、非常に高い税金を国民が進んで払うのは、政府への強い信頼があるという事情を報告したのだった。https://takase.hatenablog.jp/entry/20211123

 スウェーデンは環境問題で世界を引っ張ってきたことで知られるが、経済の競争力も強い。その強さのカギの一つは、企業の淘汰を促していることだ。

 例えば、スウェーデンは個別企業を救済しない。国を代表する自動車メーカーの「サーブ」が米GMに、「ボルボ」が米フォードさらに中国企業の傘下に入るときも介入しなかった。

 この辺の事情を、諸富徹教授(京都大学)が日本と比べてこう語る。

「労働者の流動性が高く、企業が守られないために、新陳代謝が促されていく。すぐれた企業はどんどん前に行ってもらって、敗れた企業は縮小せざるを得ない。日本人的感覚からいうと、なんとかここを救ってあげて、と思うかもしれないが、スウェーデンは救わない。

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化石燃料発電所が、2年前に閉鎖して、いまはバイオマスで地域暖房の熱と電力を生産する。主に林業や製材所からでるおが屑や木の皮、枝などの残留物を使う(NHK

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3年前から莫大な投資をして3年かけてプラントを建設したが、政府からの補助金はないという。また、労働者は都市ガスプラントなど他の職種から移ってきたという。「私たちは物資をリユース、リサイクルしていますが、技術、知識、アイデアも再利用しています」(NHK


 日本は製造業で、20世紀的なものづくりが全盛だった時代の産業としては大成功を収めたし、それで21世紀まで来てしまっているということが逆に問題化している。
 労働資源は、こちらの(20世紀的な)産業から、より伸びていく産業に移っていかなければいけないんです。その仕組みが日本にないんですよ。企業が潰れそうで潰れない―経済学ではゾンビ企業と呼ばれたりしますが。

 今回の雇用調整助成金にしても、個人に払うのではなくて、企業に払うので、自分は企業を通じて支えられるわけですね。政府が支えてくれるので存続するのですね。左前になっても生き残っていける、みたいな産業の姿を、より高度化しながら日本経済が成長していく軌道に乗せていくか。この問題を解かないと難しい。」

 なるほど。

 企業、産業の淘汰を大胆にやれるのは、もちろん、失業しても手当がしっかりしていて、次の就活に向けての職業教育・訓練が保証されるシステムがスウェーデンにあるからで、これをセーフティネットが脆弱な今の日本ですぐにやったら失業があふれて大変なことになる。

 ただ、原理的には、企業を守るのではなく、「人を守る」というスウェーデンのやり方の方がはるかに健全である。
(つづく)