国のかたちは変えられる

takase222016-02-25

 谷保天満宮の梅も満開。
 七十二候でいうと、今は「霞始靆」(かすみはじめてたなびく)。28日からは草木萠動(そうもくめばえいずる)、ここ数日はちょっと寒いが、春が確実に近づいている。
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トマ・ピケティの『21世紀の資本』、買ったはいいが、分厚さにめげてまだつんどくのままだ。
かわりに『朝日新聞』の「ピケティ・コラム」を読んでいる。24日は「サンダース氏は新時代を開くか」
ピケティ氏によれば、サンダース氏は今回は勝てないかもしれないが、近い将来、彼のような候補者が大統領選で勝ち、国の「顔」をすっかり変えてしまう可能性があることが証明されたという。
 「1980年の大統領選でのロナルド・レーガン氏の勝利で始まった政治イデオロギーが、様々な局面で終わりを迎えている。私たちはその終焉に立ち会っているのだ」
 これがピケティ氏の時代認識だ。そして、以下の指摘をする。
 
 1930年代以降、米国は不平等の是正のため、野心的な政策を進め、両世界大戦間に高い累進性をもった所得税相続税を導入した。30~80年までの半世紀に、米国で年収100万ドル超の層に課せられた最高税率は平均82%(!)だった。40~60年代、ルーズベルトからケネディ大統領までの時代は91%(!!)に達し、レーガン氏の大統領選があった80年時点でも70%を維持していたという。
 累進課税は経済活動を阻害するといった反対論があるが、この政策が、米国の経済成長の勢いをそぐことは一切なかった。相続税にも高い累進税率が課され、その税率は何十年もの間、巨額の財産に対しては約70~80%だった。一方、ドイツやフランスで最高税率が30~40%を超えたことはほとんどない。
 また、米国は、欧州各国よりずっと早く、30年代にはすでに最低賃金を定めている。2016年現在のドルに換算すると、60年代に時給10ドルを超え、当時、群を抜いた水準だった。しかも、高い生産性と教育体制のおかげで、失業はほとんど生まれなかった。人種差別をなくす新しい社会政策を打ち出した時期でもあった。
 ここから大きな反動がくる。白人の一部、金融エリートなどからの不満、ベトナム戦争の挫折、ドイツや日本の台頭、石油危機とインフレなどなど、あらゆる不満の波にレーガン氏がのって大きな政策転換を行うのだ。
 クライマックスは86年の税制改革で、最高税率をなんと28%まで引き下げた。格差は爆発的に拡大した。レーガン氏は最低賃金の水準を上げないことも決め、最低賃金はインフレで目減りして、69年に時給11ドル近かったのが2016年は7ドル程度まで落ちている。
 そしてサンダース氏の善戦を見て、「私たちはいま、歴史の終わりにまつわる陰鬱な予言とは、かけ離れたところにいるのだ」と結んでいる。
 これを読んで思ったのは、「国のかたち」は意外に簡単に変わってしまうのだな、ということ。米国はずっと前から新自由主義的な弱者に冷たい社会かと思っていたら、つい半世紀前は、欧州も真似できない平等分配をめざす国だったというのだ。

 2013年、駐日スウェーデン大使(ラーシュ・ヴァリエ前大使)にインタビューしたときのことを思い出した。
https://takase.hatenablog.jp/entry/20130112

 女性の大臣が50%など、男女平等では世界でもっとも進んでいるスウェーデンだが、「私の子どものころは、女は家にいるものだというのが一般的な考え方でした」と大使が言ったのだ。大使はそのとき60歳代なかごろ。「子どものころ」とは50年代のことだという。1960年代に政府が男女平等の促進をうながす強力な政策を施行し、みるみる社会が変わって行ったというのだ。
 
 お先真っ暗なように見える社会でも、舵をきりなおせば、いくらでも国のかたちを帰られる・・・はずである。希望をもとう。