サイエンスより感情の日本 2

 きょうは寒かった。東京の最低気温が2度か3度だったそうだから、三多摩のこっちの方は零度近かったのではないか。

 この写真は、先日の夕暮れ時、汐留のある会社の25階から。ビルとビルの間から富士山が見えた。都会の赤富士。
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 今年の年賀状の写真から、フジTV「Mr.サンデー」で7月にやった「韓国38度線の実態」。恥ずかしながら私がリポーターをした特集で、放送後、久しぶりに元気な顔を見られてよかった、などのお便りを懐かしい人からいただいた。
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 さて、村中璃子さんと子宮頸がんワクチンの話。
 厚労省が指定した子宮頸がんワクチン副反応研究班の主任研究者である池田修一氏が、厚労省の成果発表会で、マウスの脳切片を示しながら「明らかに脳に障害が起きている。子宮頸がんワクチンを打った後、脳障害を訴えている少女たちに共通した客観的所見が提示されている」との衝撃的な実験結果を発表した。
(サンプル数1というのは再現性も統計的な意味もない)
 これはTBSテレビの夜の「ニュース23」で全国に流され、ワクチンに対する恐怖感を決定づけた。村中さんはこれを徹底取材した。
 《数か月にわたる調査の末、私はマウス実験をデザインし、実施した研究者を探しだした。研究者は私に、池田氏が発表した脳切片は、実はワクチンを打っていないマウスの脳切片だと語った。ワクチンを打ったのは、数か月の加齢だけで自己抗体が自然にできる非常に特殊な遺伝子改変マウスだった。このマウスから、自己抗体たっぷりの血清を採り、別の正常マウスの脳切片にふりかけ、写真を撮ったという。
 用いたマウスの数は、各ワクチンについて「マウス1匹」。投与したワクチンはヒトへの投与量の100倍だった。
 私は池田氏が発表したこの実験を「捏造」と書いた。

 池田氏は「他の研究者がつくったスライドセットから1枚のスライドを引用しただけなので、捏造とは名誉棄損である」といって私を訴えてきた。池田氏の弁護士は「争点は、子宮頸がんワクチンの科学の問題ではなく、捏造という表現の問題だ」と主張した。池田氏の弁護士は、日本における主要薬害訴訟で原告側に立ち、中心的な役割を果たしたことで有名な人物である。
 被害者団体の行動は非常にプロフェッショナルだった。抗議の行き先はメディアの編集部ばかりではなかった。時には出版社の株主の社長室であり、時には株主の会社に影響力のある政治家のところだった。元東京都知事の娘で被害者団体と親しいNHKプロデューサーは、私の住所や職場や家族構成を知ろうと熱心だった。私と家族には山のような脅迫のメッセージが届いた。
 メディアは、私を使うのを止めた。連載はすべて打ち切られた。刊行日が公表され、著者近影の撮影も終わり、表紙と帯までできていた書籍の刊行も中止となった。その後、日本を代表する8つの出版社に刊行を打診したが、すべての出版社が同じことを言った。
 「非常によく書けた、読み応えのある作品です。でも、今はわが社からは刊行できません」
 日本では毎年、3000の命と1万の子宮が失われている。

 母校北海道大学で講演をした際、ひとりの若い産婦人科医が私にこう尋ねた。
 ――僕たちだけあとどのくらい子宮を掘り続ければいいんですか。
 子宮を「掘る」、すなわち子宮を摘出するという意味だ。
 日本では国家賠償請求訴訟が終わるまでには10年を要すると言われる。また、訴訟が終わるまで、接種再開を決断できる首相や官僚は出ないだろうとも言われる。よって、もし子宮頸がんワクチン接種再開まであと10年を待つ必要があるとすれば、日本人の産婦人科医は、いったいいくつの子宮を掘りだせばいいのだろうか。
 答えは「10万個」だ。
 掘り出した10万個の子宮を想像してほしい。その持ち主である女性たち、そこから生まれ母を失った子どもたちを。そこから生まれてくるはずだった子どもたちを。
 一方、私の古巣でもある、世界保健機関(WHO)のワクチンの安全性に関する諮問委員会GACVSは、今年7月に出した子宮頸がんワクチンに関する最新の安全性評価をこう結んでいる。
 “科学的分析とは裏腹に、世界では症例観察に基づく誤った報告や根拠のない主張が注目を集めている。合理的根拠に乏しい主張によって接種率の低下する国が増え、実害をもたらしていることに対し、委員会は引き続き懸念を表明する。今後もモニタリングを続け、大規模データの解析を通じてワクチンへの信頼を維持していくことが大切だが、その過程で結論を焦り、文脈を無視した、確たるエビデンスのないアーチファクト(二次的な事象)が観察されることがある。これこそが「挑戦」だ”》
(以上は、ジョン・マドックス受賞スピーチ「10万個の子宮」からhttps://note.mu/rikomuranaka/n/n64eb122ac396

 村中璃子さんの挑戦は続く。
 なぜなら《医師として、守れるはずの命や助かるはずの命をいたずらに奪う言説を見過ごすことができない》からだ。http://toyokeizai.net/articles/-/199503