子宮頸がんワクチンをめぐる理不尽な判決

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 ここを幽霊坂という。オフィスのJR最寄駅、御茶ノ水のすぐそばにある。案内板には英語でHill of Ghostと記されている。おもしろそう。名前のわけは、「このあたりは木々が繁っていて昼間でも薄暗かったことから。幽霊坂の名が付けられています」(案内板より)。
 御茶ノ水駅は文京区と千代田区の境で、近くに坂が多い。東京都で最も坂の地名が多いのは文京区だそうで126もあるとのこと。東京西部から続く武蔵野台地の東縁部に位置しているからだという。風景は一変したはずだが、坂の名前の由来を辿るのは楽しい。
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 26日(火)の午後、私は東京地裁である判決を聞いていた。その判決は私にとっては理不尽きわまるものだった。これでまた日本では、子宮頸がんワクチンの推奨が遅れ、救われたはずの多くの命が失われることになるかと暗澹たる気持ちで地裁を後にした。
 厚労省が指定した子宮頸がんワクチン副反応研究班の主任研究者である池田修一氏が、厚労省の成果発表会で、マウスの脳切片を示しながら「明らかに脳に障害が起きている。子宮頸がんワクチンを打った後、脳障害を訴えている少女たちに共通した客観的所見が提示されている」との衝撃的な実験結果を発表。これはTBSテレビの夜の「ニュース23」で全国に流され、ワクチンに対する恐怖感を決定づけた。https://takase.hatenablog.jp/entry/20171214

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 問題のTBSニュース23のニュース動画はこれだ。https://www.mamoreruinochi.com/wordpress/wp-content/uploads/docs/publication/hei79-1.mp4
 少女たちが検証なしにワクチンの副反応による被害者として登場したあと、池田氏の研究発表が決定的な証明のように紹介される。この報道を見たら、誰でも怖くて子宮頸がんワクチンなど禁止せよと思ってしまう。

 医師・ジャーナリストの村中璃子さんが、この「実験」があまりにもずさんで恣意的であり、科学的には全く意味のないことを指摘、「捏造」と批判したところ、池田氏が雑誌『ウエッジ』と編集者、村中さん相手に名誉棄損の損害賠償訴訟を起こした。
 26日に出た判決は池田氏側の全面勝訴で、被告側に330万円の支払いを命じたほか、『ウェッジ』に対しては、記事の一部削除と謝罪広告の掲載を命じた。
 原告側は、争点を科学の問題から「捏造」という言葉の定義の問題にすりかえることに成功した。https://japan-indepth.jp/?p=44879
 国内のニュースでは、原告勝訴を伝えるだけで、この裁判の意味をまったく報じていない。ワクチンの危険性が認定されたかのような印象になることを危惧する。

    村中さんはFBに、「日本のメディアは1つもわたしに取材してこなかったことに恐ろしいものを感じました。」と書いている。
 一方、海外では、日本の公衆衛生の今後を案じる記事が立てつづけに出ているという。
 《ジョン・マドックス賞主催者の1つSense About Science から声明が出ました
「裁判の恐怖は、村中璃子氏のようにその科学的誤りを指摘できる時でも、ジャーナリストやサイエンティストの科学的エビデンスを語る声を黙らせるだろう。これは公衆衛生に対する大きな脅威だ」》https://twitter.com/rikomrnk/status/1111269355894071296

 このブログで、《ノーベル医学生理学賞本庶佑(京大特別教授)が根本匠厚生労働相に、子宮頸がんの原因ウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」が現在、積極的に勧奨されていないことを指摘、「世界中で使われ、有効性があるという結果が出ている。WHO(世界保健機関)も非常に問題視している」、「ぜひすすめるべきではないか」と訴えた。》というニュースも紹介した。https://takase.hatenablog.jp/entry/20181013本庶佑さんが子宮頸がんワクチンを推奨)
 憂慮する医師、研究者がいくら訴えても行政はなかなか動かない。事態をここまでにしたのはメディアの責任が大きい。エビデンスにもとづく報道を切に望む。