ホームレスではなくアーバンキャンパー

takase222017-01-27

 きのう、面白いトークと映画を楽しんだ。

 モデル兼ファッション・フォトグラファーのマーク・レイに密着したドキュメンタリー映画「ホームレス ニューヨークと寝た男」が明日28日から公開されるのに先立ち、ヒューマントラストシネマ渋谷トークショーがあった。
 マーク・レイは身長188センチ。高級スーツを着こなす一見かっこいいナイスミドルだが、実は住む家を持たずにモデル・フォトグラファー・俳優の仕事をやってきた。彼の暮らしぶりに3年密着したのがこの映画だ。

 朝、マンハッタンのビルの屋上の片隅の寝袋で目をさますと、公衆便所で身なりをととのえてからファッションモデルを撮影に。スポーツジムで汗を流しついでに洗濯し、夜はカフェでPCに向かい、その後ワインを飲みながらきれいな女性をナンパする。深夜、帰ってくるねぐらはまたビルの屋上だ。

 こんな生活を6年間も続けてきたマークは、実に魅力ある人物である。人間にとって必要なものとは、人生の成功とは、そして幸せとは・・と様々なことを考えさせられるとても刺激的な映画だった。


 来日しているマーク・レイと対談したのは、映画コメンテーターのLiLiCo。彼女自身、売れない頃、5年間にわたって車に寝泊まりしていたこともあり、公衆便所での洗濯など共通の体験が披露されたりして盛り上がった。http://eiga.com/news/20170127/16/

 マークはいかにもアメリカンで、快活でジョーク好きな「いいやつ」なのだが、ホームレス暮らしを続ける苦労を聞かれてこう答えていた。 「一つは、(不法滞在なので)他人に見つからないこと、二つ目は、自分自身の内面の葛藤に折り合いをつけること」と。
 モデル・写真・演技のいずれでも成功をおさめないまま、ホームレスであることに自己嫌悪することもよくあるという。それで、自分をホームレスではなく「アーバン・キャンパー」urban camper(都会のキャンプ人)と呼び、「お金がなくても人生を楽しもう」と自分を鼓舞しつつ生きているのだ。
 映画の予告編はここ。1月28日から全国で順次公開。https://www.youtube.com/watch?v=BSU_uwmaWqs

 私は、ホームレス支援の雑誌「ビッグイシュー」(302号)でマーク・レイが日本のホームレスと交流する記事を読んでいて興味を持った。彼は記事でこう語っている。
 「どこで寝るか寝ないかで自分を定義したくない。私は役者や写真に情熱を注ぎ、それで名を成したいと思っている人間であって、人生を楽しみたいと思っているし、ボランティアもすれば、ある人には友人であり、恋人でもある」
http://bigissue-online.jp/archives/1063546261.html

 映画は期待以上におもしろかった。
 彼のライフスタイルと哲学に惹きつけられただけでなく、映像と音楽でニューヨークという都会の魅力をとても上手に見せていることに感心した。クリント・イーストウッドの息子のカイルが音楽をつけているのだが、これが実にいい。町の活気、けだるさ、孤独、それぞれの表情をよく表現していた。
 また、映画が、友人の映像作家トーマスと二人だけで作り上げられたという事実にも驚かされる。トーマスは1分のCM動画しか作ったことがなかったとか。全くの初心者二人が、制作費ゼロ状態で、毎朝一杯のコーヒーを分け合って作っていったそうだ。そうやって実際に映画ができて世界中の人が観てくれることに自分も勇気づけられたし、観る人にも「夢はかなえられる」と思ってもらいたいとマークは語っていた。


 上映の後、出口でマークと握手して、映画の感想を語っていたら、彼が「ぼくの写真集、4000円でちょっと高いけど買ってくれないか。日本に限定20部しか持ってきていないから記念になるよ。代金は100%僕に対するチャリティ」とニコニコしながら薦めるので、思わず買ってしまった。僕の写真の腕は「趣味レベル」と謙遜するマークだが、プロとして十分通用すると思う。
 おもしろいのは、彼は今回、映画のプロモーションをかねて日本で就職活動をするためにクラウドファンディングで来日している。マークのこれからの人生も、これまでのように「風に吹かれて」というふうになりそうだ。それもいいだろう。https://motion-gallery.net/projects/hommeless?utm_source=eiga_com&utm_medium=news&utm_campaign=eiga_com_1390