空襲犠牲者は補償されない日本

takase222015-03-10

あの日から原発止(や)めた首相来る (東京都 三神玲子)

急かされて今の「事態」が呑み込めず(神奈川県 大坪 智)

朝日川柳より。一句目はメルケル首相。2句目は、矢継ぎ早にいろんなものを繰り出してくるわが国の首相。


東京大空襲から70年だ。
1945年3月10日未明、米軍の爆撃機B29約300機が東京・下町に約1700トンの焼夷弾を投下。隅田川両岸一帯が猛火に包まれ、現在の江東、墨田、台東区を中心に約26万戸の家屋が焼失した。死者は約10万人、負傷者約4万人、被災者は100万人を超えるとみられる。
原爆にまさるとも劣らぬすさまじさだ。
墨田区の都慰霊堂での「大法要」には、秋篠宮夫妻が参列されたほか、歴代首相ではじめて安倍首相が参加した。これまで首相が参加していなかったことが不思議である。

東京大空襲の被害者や遺族ら130人余りが「軍人やその遺族などには補償があるのに、空襲の被害者に援助がないのは不当だ」と主張して、国に謝罪と賠償を求めて提訴したことがある。
この東京大空襲訴訟では、最高裁判所は2013年5月9日までに原告の訴えをすべて退ける決定をした。
被告の国は「戦争被害 は国民が等しく受忍(我慢)しなければならない」という受忍論を展開して、1審・2審はこれを追認。さらに東京地裁・高裁は「戦地で実際に戦闘行為を行った軍人らの救済には合理的な根拠があり、民間被災者の差別ではない」「被災者は数多く存在しており、どんな救済措置を講じるかについて国会には広い裁量が認められる」「原告らが旧軍人らとの間の不公平を感じることは心情的には理解できるが、戦争被害者にどのような援助をするかは立法を通じて解決すべきだ」などと指摘し、訴えをすべて退けた。
原爆被爆者もいまだに放射線の被害の治療を受けている原爆症患者への給付制度などはあっても、国家補償の理念に基づく損失補償や損害賠償はなされていない。
http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/20a834edc56c2809022f8677b9dc4b0f
日本では、一般市民の戦争被害は国家補償の対象とならないのである。

いま、ドイツのメルケル首相が来日しているが、ドイツでは、軍人でなくとも、またドイツ国籍でなくても、戦争被害への国家補償が認められているという。
犠牲者をどう扱うかという点にも、「戦争観」が現れている。
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前回、私が、憑かれたように、東南アジアの反政府勢力の取材をしていた話を書いたが、当時のアジアは、政変やクーデターも多かった。
初めてクーデターに出会ったのはタイでだった。
そこで、「不死身」と綽名された歴戦のカメラマンが、ちょっとした油断で死亡した話を以前書いたことがある。
d.hatena.ne.jp

1986年には、フィリピンの独裁者マルコスを追放した「2月革命」が起きた。
私はこの革命を見越して1カ月以上前に拠点をマニラに移していたから、準備は万端、とても満足のいく取材ができた。
その揺り返しのクーデターが何度も試みられ、みな失敗に終わったが、市街戦で死傷者も出た。
あるとき、散発的に発砲音がするので弾を避けようと塀に沿ってそろそろ進んで行ったら、地面に血のりがある。私の少し前で撮影していたカメラマンの頭に流れ弾が当たったのだった。
危ないなあ、と周りを見ると、たくさんのフィリピン人の野次馬がいる。その野次馬をあてこんだ屋台やキャンデーなどの売り子まで。
フィリピンのクーデターは、どう撮影しても、へらへら笑った野次馬が写り込んで、何ともしまらない映像になるのだった。

そんな牧歌的なフィリピンでも、2月革命の直前、空爆されるのを覚悟で夜明かしした怖い経験がある。
(つづく)