引き出しのマスクと共に名は残り (千葉県 姫野泰之)朝日川柳29日
総理辞任で、汚い置き土産がきれいさっぱり洗い流されるものではない。
取り返しのつかないたくさんの失政というより「犯罪」の数々。それらは結果としてある時代精神を形成するほど、罪深いものだった。
辺野古はどうする。
赤木俊夫氏を自死に追い込んだ公文書改ざんは。
そしてヨイショ記者の「レイプ事件」もみ消しは・・・
あなたには「花道」などない。
・・・・・・・・
終戦特集をいくつか観たが、私の問題関心からいうと戦争で被害を受けた民間人をどう扱うかについての作品がとくに興味深かった。
NHKスペシャルで15日「忘れられた戦後補償」を放送したが、日本における国家と個人の関係を考えさせられた。
NHKが「あちこちのすずさん」(『この世界の片隅に』の主人公)を探して番組化しているが、空襲などで死傷するなどした民間の戦争被害者は膨大な数にのぼる。
これを日本は補償してこなかった。理不尽だし人道にもとる。
同じ枢軸側にあったドイツ、イタリアでもちゃんと補償している。
例えばドイツでは1200万人もの引揚者(他国のドイツ人居住区から追い出された人も)がいた。
1950年12月「連邦援護法」が制定され、「戦闘作戦やその準備に関連する行政措置」、「空襲時の消火活動の際に受けた被害」、「戦争中に生命の危険から逃れる中で追った影響」、「引き揚げ中に受けた被害など」、「戦闘作戦と関連する軍事的措置、特に爆発物の使用」、「住宅地や工場への空襲による被害など」がすべて補償対象になっている。
イタリアでは民間人15万人が犠牲になった。戦後、財政不安のなか、「戦争年金」法を制定、「国が当然持つべき感謝の念と連帯の意を表すための補償」を実施してきた。
日本では、軍人、軍属だけはしっかり補償され、これまで60兆円以上が支払われてきた。
民間戦争被害者のごく一部、引揚者や被爆者、シベリア抑留者については、長い要請活動の末、ようやく不十分ながら「救済措置」が採られるようになった。
原爆の被爆者については、1957年(昭和32年)に「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」(原爆医療法)が施行され、ごく部分的に支援がはじまり、「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」(被爆者援護法)が施行されたのは、1995年(平成7年)になってからである。(「黒い雨訴訟」にみられるように、それずら不十分だが)
その一方、東京大空襲はじめ空襲による膨大な被害者については、いっさい補償も救済もない。
この問題については議員連盟もあり、「戦時災害援護法案」が議員立法で何度も国会に提案されている。
「先の大戦の際に(略)空襲その他の政令で定める戦時災害にかかつた者で当該戦時災害にかかつた当時日本の国籍を有していたものの当該戦時災害による負傷、疾病、障害及び死亡に関する援護」(第1条)をめざすものだ。
ところが15年間に14回審議されたにもかかわらず、いずれも廃案に終わっている。
今年こそはと思っていたやさき、国会が閉会になってしまった。
《第二次世界大戦で戦災に遭った人たちが国に補償を求めて活動している「全国空襲被害者連絡協議会」(全国空襲連)が(6月)17日、国会内で記者会見を開いた。体験者の高齢化が進む中、特別給付金支給などを柱とする援護法の早期成立を訴えた。
成立を目指していた通常国会が、この日閉会となったことに合わせての会見で、約39人が参加した。同会共同代表の吉田由美子さん(78)は東京大空襲で両親と妹を失い、孤児になった。「今国会で法案提出されることを強く望んでおりました。私たちが使える時間にゆとりはありません」と速やかな立法を求めた。》(毎日新聞6月18日)
では、あらためて、ドイツなどで民間被害を補償する理由は何か―
「個人の被害に国が向き合うことは民主主義の基礎をなす。国家が引き起こした戦争で被害を受けた個人に補償をすることは、国家と市民の間の約束だ。
第二次大戦は総力戦で、軍人だけでなく多くの民間が戦闘に巻き込まれ亡くなった。軍人と民間人のあいだに差があるとは考えられなかった」(ボーフム大学歴史学部 ゴシュラー教授)
「総力戦」だったから民間人も保障するのが当然だという。
これに対し、日本では「総力戦」だったから、国民すべてが被害を受忍すべきだという論理で民間人への補償を拒否する方向になった。(戦後処理問題懇談会1982~84年)ようするに、みんなで戦ったんだよね、だから死んだりケガしたりしても仕方ないよね、自力でがんばって、と。
事実、東京大空襲訴訟では、国が「戦争被害 は国民が等しく受忍(我慢)しなければならない」と主張。結局、補償要求はすべて退けられた。
ドイツは「総力戦」だから民間も補償する、日本は「総力戦」だから補償しない。国家と国民の関係について、まったく逆の考え方である。
私は毎年夏、「千鳥ヶ淵戦没者墓苑」にお参りに行くが、あそこは靖国神社と違って、軍人だけでなく民間人の犠牲者も含まれる(と私は解釈している)。
というのは、国の施設であるこの墓苑は日本の公式の「無縁戦没者」の墓で、「現在、37万69柱(令和元年5月27日現在)のご遺骨がこの墓苑に奉安されております。(ご遺骨は軍人・軍属・一般邦人を含む)」と墓苑が説明している。
「戦没者」に「一般邦人」つまり民間人を含めている。
だとすれば、当然、民間人被害者も補償、援護されるべきなのだ。
生き残った人々はもう次々に亡くなっている。国会を開いて、補償措置を制定するよう求める。
そういえば、今年はまだ千鳥ヶ淵に行ってないな。来週行こう。