東京―大阪間20分短縮に5兆円?!リニアの闇

takase222014-09-27

リニア中央新幹線の抱える大問題をずばり突いた本が出版された。
樫田秀樹『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社、1600円+税)。
リニア新幹線が、これほどとんでもないプロジェクトだったとは・・・読んでいて、義憤と脱力感が交互におそってくる。

「総事業費9兆円。この史上最大の鉄道事業は、その問題点をほとんど報道されることなく着工目前まで来た。
東京・名古屋間の286キロのうち86%の246キロがトンネルになることで発生する水枯れの可能性、処分方法の決まらない膨大な建設残土、掘り当てるかもしれないウラン鉱床、1日に1700台ものダンプカーが12年も走る村、10年以上も続く騒音と振動と土ぼこり、喘息、生活と交通阻害、生態系の劣悪化、立ち退き等々。
今からでも遅くはない。JR東海は関係者、特に住民を軽視せず、徹底議論を図るべきだ。」(本書より)

東京・名古屋間の286キロのうち86%の246キロがトンネル工事!
ここから、ものすごいトラブルが起きてくることが、現場に足を運ぶ地道な取材で次々に明らかになっていく。

私は、いろんな問題のうち、費用対効果、採算というお金のことに一番関心を持った。

計画では、品川―名古屋間は2027年、名古屋―大阪間は2045年開通予定で、工費は名古屋までが5兆4300億円、名古屋―大阪が3兆6000億円となっている。
その利便性はどうか。樫田さんによると、「速いけど早くない」のだという。
2027年に品川―名古屋が完成しても、2045年までの18年間は、大阪に行くには名古屋で新幹線に乗り換えなければならない。この間、どれくらい早く大阪に着くのか。
品川―名古屋は現在、新幹線「のぞみ」で1時間33分かかるのをリニアでは40分、53分短縮することになる。
ところが、リニアの駅は大深度駅といって、ホームが地下40メートルより深い位置にある。従来の新幹線のホームに行くより最低5分は余計に時間がかかる。そして名古屋での乗り換えにまた長い距離を移動しなければならない。
樫田さんは、普通の歩行スピードで待ち時間の平均をとってシミュレーションした結果、場合によっては、東京駅の改札から、大阪駅の改札までの所要時間はわずか20分しか短くならないことを明らかにした。

わずか20分短縮するのに、5兆4300億円かけるのか・・・
まさに時代錯誤ではないか。

巨額の投資をするには、リニア新幹線が産むとされる大きな利益を融資返済に充てることが前提になっているが、JR東海が見込む利用者数は実現可能とは思えない。
あなたが、重い荷物を持っていたらどうだろう。わざわざ、名古屋で乗り換えてまでたった20分を短縮しようと思うだろうか。もちろんリニアの方が料金は高い。従来の新幹線で乗り換えなしで大阪に行くのを選ぶはずだ。
東京―大阪間の高速バスや格安の航空便という手強い競争者もある。

JALは負債額2兆3000億円で倒産した。
リニアプロジェクトが途中で破綻すれば、JR東海はつぶれ、国民の税金が投入されることになろう。

本のオビには、こんな怖い言葉が・・・
「夢があっていい!」「地域が活性化する!」と思っているあなた。覚悟はできていますか?

きのう26日、著者の樫田さん、旬報社の木内社長とささやかに出版祝いをやった。
実は、樫田さんがこの本を引き受けてくれる出版社が見つからないとあきらめかけていたので、旧知の木内社長を紹介し、出版が実現したのだった。
私が最初の単行本『スーパーKを追え』を出したのが旬報社で、その後『あきらえるのは早すぎる』(共著)まで4冊の出版でお世話になった。
木内社長は、樫田さんの原稿を読んで即出版を決めてくれた。
太っ腹!

JR東海は、テレビ局にとっても新聞社にとっても、大スポンサーであり、このプロジェクトの問題点を報道することは容易ではない。
それもあって、メディアは、リニア新幹線をもっぱら最先端技術による夢の超特急として描き、その実態を伝えてこなかった。この業界にいる者として情けなく思う。
そのなかにあって、樫田さんは、早くも1999年にこの問題の取材を始めている。たった一人で、しかもフリーの身での取材は大変だったようだ。また、掲載先を探すのも苦労したというが、これまで、21本もの雑誌記事にして粘り強く訴えてきた。
まさにリニア問題の第一人者である。
樫田さんが地を這うように取材したこの本を、ぜひ、多くの人に読んでもらいたい。

なお、疑問の声を上げる市民団体はいくつもあるが、以下はその一つ。
リニア・市民ネット
http://www.gsn.jp/linear/linear.html