あるフリージャーナリストの志

 先週木曜の9月2日、東京国立博物館聖徳太子1400年遠忌記念 特別展《聖徳太子法隆寺》」を観に行った。

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 聖徳太子は622年に亡くなっているので、今年は1399年目なのだが、遠忌(おんき)とは追善の年忌で、その数え方で1400年忌になる。、

 6月に奈良国立博物館で観てきたが、展示の数々が貴重なものばかりで、1回ではもったいない気がして、また観ることにしたのだ。

 自分にとっておもしろかったことの一つは、平安時代の保安2年(1121)の聖徳太子の500年遠忌に造立された聖徳太子像への見方が変わったことだ。

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500年遠忌に造立された聖徳太子

 これまでは、お顔の表情が険しくてあまり好きではなかったが、今回は、しっかり予習してから観て、イメージが変わった。

 この像の体内には観音菩薩立像が納められ、その頭の位置がちょうど太子の口元にくるように工夫されていた。また体内には、「法華経」、「維摩経」、「勝鬘経」という特に太子が重視した三つのお経も納められていた。

 太子の口は少し開いている。つまり、聖徳太子観音菩薩の化身として三つのお経を説いていることを示している。
 この事情をを知ってからこの像を観ると、仏法を説く迫真の表情だと見えてきた。売店で、はがき大の写真を買ってきて、いま机のそばの壁に貼ってある。

 

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夾紵棺断片(きょうちょかんだんぺん) 飛鳥時代・7世紀 大阪・安福寺蔵  聖徳太子の棺の一部と推測されている。7世紀、天皇や皇族の棺として、布と漆を貼り重ねて作った夾紵棺が使用されていた。普通にはカラムシという織物を30枚程度漆で重ねて作られているが、この断片は極めて珍しいことに絹を45層も重ねて作られており、密度が非常に高く仕上げられている。この棺に太子が納められたかと思うと感慨深い。

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 きのう安倍・菅政権によるマスコミへの圧力の一端を書いたが、問題はそれに抵抗せずに忖度に走る傾向が強くなっていることだ。
 そこで働く人々に、とても優秀でしっかりした立場のジャーナリストがいることは、これまで業界を見てきて知っている。以前ここで紹介した相澤冬樹さんもその一人だ。

takase.hatenablog.jp

 しかし中には、はじめはまっとうに世の中に向き合おうとしたはずが、次第に企業人(社員、局員)として世慣れし、権力に迎合するようになる人も少なくない。
 
 多くの人が「ジャーナリスト」という言葉でイメージするのは、マスコミの記者ではなくフリーランスだろう。大企業のメディアによる報道に「体制」の影を見てしまう一方で、フリーには「志」を感じさせるからかもしれない。

 30年来の友人のジャーナリスト、樫田秀樹さんのFBを紹介したい。

https://www.facebook.com/hideki.kashida.kulleh


 私は一介のフリージャーナリストにすぎない。記事を書いたって世論形成するほどの影響力をもたない。だけど、原発のように爆発が起きたとか、外環道のように陥没したとか、入管で人が死んだとか、何か事故が起きてから、人が死んでから初めて報道する姿勢だけは有しまいと決めている。そういうことが起きないように警鐘を鳴らすことこそジャーナリズムの役目だからだ。

 今まで、マスコミが報道を展開する前に手掛けてきたのは、ハンセン病、リニア、入管問題など多々あるが、それでも、マスコミこそが警鐘を鳴らす調査報道をすればその力は大きいといつも感じる。

 さて、あれだけ真摯に原発問題の報道を続けている東京新聞も、ことリニアに関してはほとんどまったく報道していなかった。だが、昨日、その記者から、これからは(まずは神奈川県を軸に)チーム取材をすると教えてもらった。ついに、だ。

 きっかけは外環の陥没事故の取材から、同じ「大深度」「シールドマシン」「住民との溝」などの共通点をリニアに見出し、やろうとなったようだ。 

 東京新聞には継続取材を期待したい。


 フリーランスは企業ジャーナリストと違って、とっかかりの取材経費から経費をすべて自分で負担せざるを得ない。しかも、その取材が「売れる」かどうか、保証がない。雑誌がどんどん廃刊になっていく今は、収入になる発表の場も少なくなっている。ただでさえカネがないフリーが、大きなテーマで長期にわたって取材するのは非常に苦しい。

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 そのうえ、樫田さんが取り組むテーマは多くが権力と正面から対峙するものだ。商業ジャーナリズムが取り上げにくいネタである。この挑戦をつづける樫田さんの志を私も陰ながら応援している。

 樫田さんの著書には、ボルネオ島で先住民と一緒に暮らした経験をもとにした『9つの森の教え』というすばらしい本もある。日本人が近代化のなかで失った心豊かな人生を歩むための智慧がいくつものエピソードとともに明かされていく。

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樫田さんは、熱帯林伐採反対運動の活動家とみなされてマレーシア当局に入国を拒否されるまでになっていたので、この本は「峠隆一」の筆名で執筆している。

 こんどこの本の中身を紹介してみたい。