増え続ける震災関連自殺者

takase222014-08-29

太田信吾監督作品『わたしたちに許された特別な時間の終わり』を観た。
太田さんはうちの会社で番組制作を手伝ってもらうなどお付き合いがあり、大阪のあいりん地区を描いた映画『解放区』では新聞ネタにもなって心配したが、何とか解決したようだ。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20140214

で、『わたしたち・・』は、『解放区』より前の、彼の第一作映画。
《2010年12月、かけ出しの映画監督の太田は、ひとりの友人を自殺で亡くした。彼の名は増田壮太。かねてより壮太とバンド仲間の冨永蔵人を撮影していた太田にとって、そのショックは大きかった。10代のバンドコンテストで優勝するほど音楽の才能に恵まれ「ミュージシャンになる」という強い夢を持っていた壮太がなぜ―――。一方、壮太に誘われバンドを組んでいたものの、何がやりたいのか自分でも分かっていなかった蔵人は、徐々に壮太と袂を分かち、就職することで自分の居場所を見つけはじめる…。
本作はそんな3人の若者たちをめぐるドキュメンタリー。監督は岡田利規が主催するチェルフィッチュに俳優として参加するなど、多彩な活動でも知られる新鋭・太田信吾。「映画を完成させてね、できればハッピーエンドで」という壮太の遺言と実直に向き合い、時にはフィクショナルなカットも織り交ぜながら、「表現とは何か、自由とは何か」を模索する長編初監督作として完成させた。》HPよりhttp://watayuru.com/
クラウドファンディングで160万円を集めて配給宣伝費を捻出して上映にこぎつけた。
カメラが回り始めたのが2007年だから完成まで7年かかっている。
過激な映画だった。監督を含む登場人物が本気でぶつかり合う。
死と生、才能と成功、家族とは、また映画の表現方法などいろんなことを「勝手に考えてください」と放り出されたような感じがした。ポレポレ東中野で上映中。
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一人の自殺をめぐる判決が注目を集めた。
26日、原発事故で、福島県川俣町から避難中の女性(58)の自殺につき、福島地裁は事故と自殺との因果関係を認定し、東京電力に多額の賠償を命じる判決を言い渡した。
実にまっとうな判決だと思う。

東京新聞の社説は判決を高く評価している。
《自殺と原発事故の因果関係を認めた福島地裁の判決は、苛烈な避難生活を直視した結果だ。「東京電力はストレスによる自殺も予見できた」と述べた。東電も国も、血の通った対応が迫られよう。
 二〇一一年七月に自宅で焼身自殺した五十八歳の女性がどんなにつらい立場に置かれていたか、判決文からも如実に伝わってくる。
 生まれてからずっと福島県川俣町に住んでいた。夫と子ども三人を育てて、〇〇年には自宅を新築した。そこに東日本大震災福島第一原発事故が襲った。女性の家は計画的避難区域に指定され、福島市内でアパート暮らしをせざるを得なかった。
 農場での仕事を失い、家族や地域の共同体とのつながりも失った。住宅ローンの支払いも残っていた。帰還の見通しが立たないまま、心細い避難生活を続ける−。「ストレスは非常に強いものだった」「耐えがたい精神的負担を強いて女性をうつ状態にした」と判決が述べたとおりだろう。
 とくに東電に対して、「事故が起きれば核燃料物質などが広範囲に飛散し、居住者が避難を余儀なくされ、さまざまなストレスを受けて自死に至る人が出ることも予見できた」と明確に言い切った。自殺と原発事故との因果関係をはっきり認めたことは重い。他の訴訟にも大きな影響を与えよう。
 原発事故の避難中に病気や自殺などで亡くなった「原発関連死」は本紙の独自調査で少なくとも一千人を超す。昨年三月から約二百六十人増えている。
 内閣府が公表している「震災関連自殺者」は福島で五十六人にのぼっている。この自殺者数は一一年に十人、一二年に十三人、一三年に二十三人と、むしろ時がたつほど増えているのが特徴だ。今年も既に十人に達している。
 阪神大震災でも震災後三年から、ストレスによるアルコール依存症などが増えたといわれる。これが意味するのは、当然、避難生活が長期化すればするほど、ストレスはどんどん蓄積され、人間の心や身体を蝕(むしば)んでいくことだ。
 地域防災計画は、まず災害時の避難に重点を置いている。それは当然のことだが、長期にわたる避難生活に伴う心身のケアにももっと目配りするべきだろう。》(28日)

このブログで繰り返し書いているが、原発事故被災者の心と体を蝕んでいるのは、放射能ではなく「暮らし」の根っこを破壊されたことだ。
そして、その悲劇はいまも続き、苦しみはますます強まっている。