拉致犯が起訴されなかった宇出津事件

takase222014-05-02

きょうは八十八夜だ。
立春を一日目として数えて88日目だという。
私の年代だと、反射的に♪夏も近づく八十八夜、トントン・・と手拍子とともに文部省唱歌を口ずさんでしまう。
お茶を摘むのに良い時期だというが、きょうお茶を飲むと長生きできるとされる。ということで、お茶でも飲もう。
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宇出津事件の現場をまだ見たことがなかったので、こないだ北陸にいったさいに立ち寄った。このあたり、リアス式のとても美しい海岸線がつづく。
一つの岬が遠島山公園となっており、そこにはかつて棚木城という要塞があり上杉と前田の激戦が繰り広げられたという。この公園の観光名所は、能登半島唯一と謳う吊り橋「しらさぎ橋」だ。吊り橋があることで分かるように、岬には入り組んだ断崖絶壁がある。
岬の小高い丘にある城跡から海の方に降りていくと、外海から隠れるようにしてひっそりと小さな入り江があった。ここが「舟隠し」だ。名前どおり、ここに船を停泊させれば、外海から見えない。丘の下にあって木々がうっそうと茂っており、昼でも薄暗い。棚木城の水軍基地だったと推定する人もいる。
http://zyousai.sakura.ne.jp/mysite1/noto/tanaki.html
写真は、少し離れた沿岸の道路から遠島山公園を撮ったもの。断崖の岬になっているのが分かると思う。「舟隠し」はこちら側に面している。
遠島山公園の丘の上に、李と久米さんが泊まった「紫雲荘」がある。建物も看板も残っていたが、廃業しているらしく、玄関にはカギがかかり、そばには蜘蛛の巣がはっていた。
宇出津の若い人と話してみると「宇出津事件」も「舟隠し」も知らないという。1977年の事件だから、もう37年も経つ。
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さて、宇出津事件のつづき。
李は久米さんを連れて紫雲荘を出、「舟隠し」まで歩いて行った。
しらさぎ橋を抜けてから断崖を降りていくしかない。私もそのコースを辿ってみたが10分で楽に行けた。しかし、真っ暗な中、急坂を降りるのは怖かっただろう。

海辺で李が小石を三回打ち合わせると、暗闇から三人の男たちが現れた。

「ご苦労さん、連れてきましたか」
「はい、張本さん。連れてきました」
「張本」が合言葉だった。
李は久米さんを三人に引き渡したのち、旅館に戻った。深夜、金沢から到着した県警公安部外事担当の刑事が、李に任意同行を求めた。外国人登録証の提示を拒否したため、午前一時、提示義務違反で逮捕した。
警察で李は自供し、家宅捜索で数多くの証拠品(乱数表などいわゆる「スパイ道具」など)が押収された。警察は、国外への誘拐・拉致の際に適用される「国外移送拐取(かいしゅ)罪」(刑法二二六条)での立件を考えたが、久米さんの「出国時の意思」が確認できないこともあって、李を23日間の勾留ののち釈放した。結局、李は、出入国管理令違反で送致され、起訴猶予となった。》(高世『拉致―北朝鮮の国家犯罪』(講談社文庫))
なんと、この事件の実行犯は起訴されなかったのだ。
(つづく)