「胃ろう」しますか2―医療現場が勧めるわけ

takase222012-04-06

「もちふわ」という食パンが出たらしい。
“もっちり”おいしく”ふんわり”やさしい、のだという。
私はコンビニによく行くが、食べ物にも流行り廃りがあるようだ。ラーメンはここ数年、「濃厚」で「コク」があると謳うものが増えた。「背脂」がどうしたとか、胃もたれしそうなものも。さっき入った店で見たのが「濃厚コク豚」。字を見ただけで「うっ」となる。
お菓子では「モッチドーナツ」(写真)「ふんわりプリン」などというのが次々に出てきて、何も形容詞のないただのアンパンが見つからないこともある。仕方がないので「とろ〜りクリームパン」というのを食べてみたのだが、「〜」とついてるそのままに、クリームがたらたら流れ出てきて困った。もう買わない。
ここまで、「こってり、もっちり、とろ〜り」がもてはやされるのはなぜ?
食の洋風化という一般的な説明でいいのか。疲れた人が増えて油分や糖分を求めるから?ひょっとして、噛む力が弱くなったから?あるいは咀嚼が「めんどう」だから?幼児化して乳首願望に向かっている?まさか
でも、何らかの社会心理的背景がありそうな気がする。ここ十年くらい一気に「こってり」の氾濫だから。次にくる世の中の前兆の一つかもしれないな。これについてはいずれまた。
・・・・・・・・・・・・・・
さて、胃ろうの話。
大井さんは、この論考(エッセイ)を、「認知症の親や連れ合いを持つ方々」や「これから認知症高齢者に胃ろうをつけることを考慮している医師」に読んでほしいという。
私の父は「認知症」ではないが認知する能力が落ちている。ちょうどいいタイミングでこれを読むことができてよかったと感謝している。このブログを読んでいる人にもきっとためになると思う。
まず、胃ろうとそれを取り巻く状況を簡単に紹介する。
胃ろうは、点滴、経鼻経管栄養法などいくつかある経管栄養法(AHN)の一つだが、寝たきり高齢者の延命対策のためのものではなかった。
現在行われている経皮内視鏡的胃ろう造成術(PEG)は、1979年、アメリカで摂食嚥下障害の子どものために開発された。局部麻酔で、慣れた医師なら十分ほど。患者への身体的負担が少なく、医療費も少額ですむ。しかし、もともと子どものように消化管の働きがきちんとあり、短期間で栄養状態が改善し、体力が回復する場合が想定されていた。嚥下障害のある高齢者でも、全身状態が改善するなら、もう一度自分の口で食べる喜びが望める人たちを想定していた。しかし実際には、高齢者の延命だけに役立てようとする例が予想を超えて増えたという。
高齢者の延命で胃ろうが普及した背景の一つには、日本の病院の医師、看護師などの圧倒的不足がある。先進国であるOECD経済協力開発機構)30カ国中、人口千人当りの医師数は平均3.1人に対して日本は2.1人で27位。病院のベッド百床当り医師数はアメリカ78.4人、イギリス76.8人に対して日本はわずか15.6人。看護師数はアメリカの5分の1にすぎない。(以上は2007年の数字)
人手の足りない医療現場が、手のかからない胃ろうを勧めるのは自然なことだった。
(つづく)