拉致報道15年―拉致と人権2

takase222012-02-10

いつの間に、食器棚の上に雛人形が。
お内裏様で高さ6〜7センチしかない豆雛を、ミャンマーの漆の器に入れただけだが、季節の移り変わりを感じさせてくれる。
それにしても月日のたつのがはやいこと。
・・・・・・
ある月刊誌に「金正日氏と日朝国交正常化」と題した文章が載っていた。
《本人としては、父金日成の生誕100年のその日までに強盛大国のための大門を開くという公約を果たしたい一心だったのだから、死はさぞ無念であったろう。日朝国交正常化という課題の実現を過去10年願ってきた日本人の一人として、私は、この間その課題の実現をおそらく誰よりものぞんでいたであろう隣国の指導者のこの死に対しては悲痛な感情を抱かずにはおれなかった。ついに日本の政府と国民は最大のチャンスを生かすことなく終わり、この10年は失われた10年となったのである。》
そして、2002年の「5人生存、8人死亡」、「特殊機関の一部が盲動主義、英雄主義に走って」行ったなどの金正日の拉致に関する説明についてはこう書く。
《国家としての公式説明としてみれば、通常ではありえないほどに立ち入って、驚くような率直な説明をし、謝罪している。金正日氏の政治的決断力と問題を解決しなければならないという強い意志が感じられる。》
金正日こそが誠意を持って拉致問題を解決しようとしたのに、「日本の政府と国民」がそれに応えなかったのがよくないというのである。
金賢姫は、大韓航空機爆破テロにあたって金正日の「親筆指示」、つまり署名入りの指令を受けていた。
拉致を「一部が盲動主義」でやったとは笑わせる。
莫大な国家予算を使って強大な秘密警察を作り上げ、人権のかけらもない社会にしたうえ、工作機関に命じて拉致を含む対外テロ工作を直接に指示してきたのは誰なのだ。拉致の根源には、国の中でも外でも人を人として扱わない体制がある。

それに「5人生存、8人死亡」で拉致は全部で13人という説明はウソだらけだ。
日本側が説明を要求したうち4人については、北朝鮮に入っていないとシラを切った。この4人には、曽我ひとみさんと一緒に拉致されたお母さん、ミヨシさんも入っている。ひとみさんは北朝鮮で一人にされたが、工作機関の担当者に「お母さんはどうしたのか」と聞いたところ、「一足先に佐渡に帰した」と聞かされ、ほんのちょっと安心したと振り返っている。工作機関が知らないわけがない。
これを「驚くような率直な説明」と持ち上げるところをみると、彼は、拉致被者は13人だけで、生きている人は誰もいないと信じているのだな。
月刊誌『世界』3月号に載っているこの文章を書いたのは、東大名誉教授の和田春樹氏
15年前、横田めぐみさんに関する情報が出てきて拉致問題に火がついたとき、「拉致などというのはウソだ」と火消しにかかったのがこの人だった。ターゲットはめぐみさん情報で、『世界』が和田氏に連載の場を提供して否定の論陣をはった。和田先生は変わってないなあ。
『世界』の2番バッターとして登場したのが、野田峯雄という人だ。北朝鮮のよる「拉致」は謀略だと主張。この人、大韓航空機爆破は韓国のやらせだなどと言っていた筋金入りの謀略論者で、論文が総連の新聞「朝鮮新報」に引用されたりしていた。
間違っても反省しない困った人たちである。
・・・・・・
さて前回の続き
拉致は、日本による朝鮮半島の植民地化と戦後の日朝の「不正常な関係」から生じたとする見方があった。
金正日が2002年に小泉首相に語った言葉の中にも、こうある。
「この(拉致の)背景には数十年の敵対関係があるけれども、誠にいまわしい出来事である」
だが、実は、北朝鮮が拉致していたのは日本人だけではなかった。
朝鮮戦争の後だけで500人の韓国人を拉致したほか、拉致被害者の国籍は、これまで分かっただけでも十カ国以上に及ぶ。
北朝鮮による拉致が世界各国に及んでいることが明らかになっていったのは、家族会、家族たちを支える市民団体そして私たちを含むメディアが、なかなか動いてくれない政府をあてにせず、地道に調査し事実を積み上げてきた成果だった。
人権問題にかんして、日本が果たした大きな国際貢献と言ってもよい。
さらに5人の被害者とジェンキンズさんを含む家族を取り返したことで、タイ人、ルーマニア人なども拉致されていた証言が(ジェンキンズさんから)得られた。
ジェンキンズさんたちの証言にもとづいて取材を進めると、マカオシンガポールを舞台にした拉致も判明した。
めぐみさんの夫の人物像については日本政府も本腰を入れ、最後は韓国でDNA鑑定まで敢行した結果、韓国の海水浴場から失踪した高校生の一人だったことを突き止めた。
手前味噌になるが、私たちは、レバノンから女性4人が1978年に北朝鮮に拉致されていたことをレバノン現地取材で、おそらく世界ではじめて確認している。
こうして拉致工作の全貌が次第に明らかになっていく。
まず、世界各地の北朝鮮の大使館が拉致工作の拠点として使われていた。「一部の盲動主義」などではなく、国家プロジェクトなのである。
また、拉致には様々な目的とパターンがあることが分かった。
例えば、レバノン女性4人は、北朝鮮に逃げ込んだ米兵4人(ジェンキンズさんを含む)の結婚相手として拉致された。
韓国人監督申相玉(シンサンオク)氏と女優の崔銀姫(チェウニ)氏の拉致は、金正日北朝鮮の映画水準を向上させたかったため。金正日は二人に、自らが指示して二人を拉致させたと告白している。
田口八重子さん、横田めぐみさんなどは、工作員の日本人化に使われた。
また、原敕晃(ただあき)さんは、工作員が日本人に成りすますための身分を盗むために拉致された。
拉致とは北朝鮮が、ほしいと思う人材をまるで道具のように調達する国家事業であり、国籍を選ばないのである。
中国人が拉致されているのも確実であり、日本政府は中国に「おたくの国民もやられてるんですよ。いいんですか」としっかりアピールすべきだと思う。
北朝鮮による拉致は、「植民地化」などとは全く関係のない次元の問題なのである。
(つづく)