内部文書にみる金正日の大嘘

今朝の東京新聞の一面トップに北朝鮮による拉致に関するスクープが載った。

北朝鮮拉致 国主導示す」
工作員養成の内部文書入手」
金正日総書記 説明覆る」
の見出しが躍る。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015111190070314.html

記事は、朝鮮半島の情報収集では定評のある城内康伸記者によるもの。
北朝鮮工作員養成機関「金正日政治軍事大学」の教育で使用する「金正日主義対外情報学」という題名の内部文書の上巻(356頁)を入手したという。
金正日政治軍事大学とは、労働党中央直属の対南工作員養成機関で、今も広大な敷地に多くの施設をもって運営されている。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20141118

入手したのは原本ではなく、コピーのようだが、亡命した元工作員にも当てて確認しているから、この文書の実在はまず確実だろう。
文書は冒頭で、「首領(金日成(キムイルソン)主席)が創始した対外情報理論を、金正日同志は深化発展させ、党が対外情報事業(活動)で指針とするべき理論的武器を準備した」と工作活動が、金正日の指導に基づくことを明記したうえで、拉致工作の重要性や拉致の方法などを詳細に記述。「拉致した人物が抵抗する場合、処断することもできる。その場合には痕跡を残さぬようにしなければならない」、「銃殺する方法、毒針で刺したり毒薬を飲ませる方法、刃物で刺したり殴打したりして殺す方法、所持品に爆薬を設置して殺す方法など処断の方法は、実にたくさんある」と、拉致対象者の殺害にまで触れているという。

この文書の存在は、2002年に金正日小泉首相との首脳会談で語った説明を完全に覆すものだ。
金正日「1970年代、80年代初めまで特殊機関の一部が妄想主義、英雄主義に走ってこういうこと(拉致)を行ってきた。私が承知するに至り、責任ある者は処罰された。これからは絶対にない」と釈明した。

しかし、今回の文書で、金正日の知らないうちに一部の跳ね上がりが拉致を行ったのではなく、拉致は指導者の指導理論にもとづき組織的に行われた、つまり国家事業として実行されたことがはっきりした。
拉致が国家事業であることは以前から分かっていたが―私の書いた本(講談社文庫)のタイトルは『拉致―北朝鮮の国家犯罪』だ―この文書はそれを裏付ける証拠である。

第二に、この文書が97年後半以降に作られ2011年まで教本として使われていたことから、拉致が「80年代初めまで」行われたという説明とは明らかに食い違う。
拉致教育は日朝平壌宣言以降も続けられており、金正日は大嘘をついていたわけだ。

このブログで、空から見た北朝鮮工作機関の写真を紹介したが、拉致被害者が滞在、生活していた施設が、30年前とほとんど同じ姿でいまも残っているということは、拉致を含む秘密工作が現在までずっと続いていることを示唆している。

http://d.hatena.ne.jp/takase22/20151027