トイレの世界標準4

トイレは清潔であってほしい。
これは快不快の感覚だけでなく、病気の感染源になるなど健康にも関わる問題だ。私はそれぞれの国のトイレの清潔度は、民度バロメーターの一つと思っている。
東南アジアでは、タイが清潔さで頭ひとつ抜けていると思う。田舎のトイレまでかなり清潔である。ほとんどの国の農村にある、穴があって足乗せ板が渡してある、いわゆる「落下式」は清潔度においてどこもほとんど差がないので、タイの清潔度の高さはひとえにタイ式水洗トイレの普及による。
また、イランのトイレはとても清潔で、かの国を見直したが、これは後で書く。
逆に、汚いので知られているのは中国、それにロシアだ。
中国では、雲南省のいなかで使ったトイレが忘れられない。
野原の中に、セメントでできた、断面がU字型の長い土管のようなものがあって、それが公衆トイレだった。長さは7〜8mで傾斜角10度くらいに傾いている。もちろん仕切りはない。便はU字の底にそのままどんどんたまるが、時々上から水を流して土管の下方に押し流す。傾いているのは便を流すためだった。押し流した先には10m四方くらいの大きな穴があって、そこは巨大な「便の山」である。壮観ですらあった。
これはもう15年も前の話だ。今はずいぶん変わっただろう。
ただし、これはちゃんと公衆トイレとして機能していた。いわばシステマチックな汚さで、現地で暮している人にとって「迷惑」なものではない。
これに対して、ロシアの方は、個人が勝手に汚していて、他人に大きな迷惑を与える。
三年前に亡くなった米原万里氏は『ロシアは今日も荒れ模様』に、ロシアが世界に誇る美術館のトイレが美や文化とは無縁な状態になっていると書いている。
《エルミタージュというと、レンブラントでも、印象派でもマチスでもなく、条件反射的にあのものすごいトイレの残像が甦る》
また、作家の椎名誠氏は、ロシアのトイレについて、《どうやったら人間がここまで便所を汚すことができるのだろうか、ということについて深く考え込みたくなるような光景》を、吐き気をもよおすほど詳細に描写している。(『ロシアにおけるニタリノフの便座について』)
洋式の特徴は、お尻を直接に便座につく点にあるが、これが問題だ。わざわざ「便座シート」なるものがあるのは、汚れやすい証拠である。使用者は一定レベルのエチケットを備えている必要がある。
ヨーロッパの多くの国々の公衆トイレで、腰を便座にかけることができる機会はそう多くない。いったん便座がよごれたら、加速度的に汚くなっていく。そもそも多くの公衆トイレで便座は壊されているか外れている。中腰のまま用を足すしかない。腰掛けるという最大の長所が生かせないのが実態である。
清潔さでいうと、和式やタイ式のように、しゃがみこみ式トイレに軍配を上げたい。
洋式は、家族など親しい人だけが使う家庭トイレとするのが自然だろう。また、病人や老人、障害者にとって便利であるから、病院、介護施設向けにはあっていいトイレである。
(つづく)