先日、ある幼稚園で、子どもたちに和式トイレの使い方を教える講習会をやっているという記事を読んだ。和式を見たことがない子どもも多いという。トイレの変化はそれほどすさまじい。
私の子どものころは、どの家も、いわゆる落下式の和式、それも全体が穴になっている全穴だった。便所紙は新聞紙かA4サイズに近いざらざらの黒っぽいちり紙。リヤカーに大きな桶を積んだ「おわいや」が各家を回り、糞尿を汲んでは、それを農家に売っていた。
そのうち、都市部では便器内の半分が穴の丸穴和式が見られるようになり、床面を一段高くして男子小便器を兼ねたものも出てきた。ざらざらかすべすべの違いはあっても、ちり紙は白くなった。「バキュームカー」が「おわいや」に替わって登場する。
田舎にいたせいか、洋式は高校2年でアメリカに行くまで使ったことがない。エチケット本に、洋式を使うさいは便座の上にしゃがまないように、と書いてあったことは記憶している。こんなことをすると、海外で日本人が笑われるからやってはいけないのだなとしっかり心に留めた。
落下式の洋式が現れ、そして和式も洋式も水洗になっていった。同時に、ちり紙はトイレットペーパーへと替わった。
そして今は、いわゆるウォシュレットが日本を席巻する。いま日本では普及率6割という。ウォシュレットはTOTOの商品名で、正しくは「温水洗浄便座」というらしい。日本に初めて来る外国人はほとんどがこの温水洗浄便座にびっくりする。しかも、これがデパートやビルの公共のトイレになっているのには感動する人も多い。
マドンナはじめ外国のスターが日本公演でウォシュレットを知り、気に入ってわざわざ輸入したなどという話も聞く。
ながくタイに滞在した私は、水でお尻を洗うことが衛生的であり爽快であることを体感している。体にもいい。タイにいる間に、辛いものをたんと食べていたのに、痔が治ってしまった。ウォシュレットはすぐに気に入り、数年前、うちもこれに替えた。
自分でも使っているのだが、考えてみると、これは世界標準にはできない。
たしかに衛生的である。しかし、大量の水を使い、トイレットペーパーという特殊な紙が必要で(それ以外の紙は詰まってしまう)、さらには電気を使う。と言うより、これは「電気器具」なのである。
ドイツ政府の環境アドバイザー、ミランダ・ジュラーズ氏が「日本では、トイレの暖房便座で家庭のエネルギー全体の4%を消費している」と批判している。(東京新聞10月8日)この数字が正しいのかどうか、検証していないが、かなりの電力を使うのは間違いない。
ウォシュレットは、電気も水も紙もふんだんにある恵まれた先進国でしか使えず、環境負荷があまりに大きいトイレであるといわざるを得ない。
(つづく)