金正雲についての誤報

takase222009-06-10

テレビ朝日がきょうの昼から夕方にかけて「世界的スクープ」として、「金正雲の最近の写真」を流した。
弊社は何人もがテレビの前で「オー」と歓声を上げながら観た。私たちも彼の写真を入手せんといま手を尽くしているところなので、先を越されたと残念に思い、またよくやったなと感心もした。たしかに、金正日にそっくりだ。
金正雲は、我々の知る限り、金正日の料理人、藤本健二氏が今年になって公表した11歳の写真しか映像がなく、情報が極めてかぎられている。写真の出所はどこなのか、どうやってこれを金正雲と確認したのだろうかと誰でも考える。この点についてテレビ朝日は触れなかった。
ただ、テレビ朝日はきのう、マカオでの金正男のインタビューを報じており、このとき、写真を当てたのではないかと推測した。身内が確認したとすれば強い根拠になる。
テレビ朝日では、辺真一氏や李英和氏ら専門家とロイヤルファミリーの亡命者、康明道氏、そしてもちろん藤本氏などに写真を見せてコメントをとっていた。写真を見せられただけだから、父親によく似ているという感想しか話すことはないのだが、これでお墨付きを得たという印象を与えていた。
ところが、これが全くの誤報らしい。
以下は、産経がネット配信した記事だ。
《【ソウル=水沼啓子テレビ朝日が10日、独自に入手した北朝鮮金正日総書記の三男、正雲氏(26)の近影として報道した写真をめぐり、韓国内でインターネット上に掲載された別の韓国人男性の写真との指摘が相次ぎ、韓国メディアが一斉に“誤報騒ぎ”を伝えている。韓国メディアによると、テレビ朝日が正雲氏として報道した写真の男性は、韓国内に住む建設業の男性(40)とされ、本人も「ネット上に掲載した写真」と話している。写真は韓国南西部の忠清南道舒川の農園で撮影され、男性は白いTシャツにサングラス姿。昨年6月と今年2月にネットに公開したという。》
「建設業の男性」の写真もすでにネットに出ている。どうやらテレビ朝日は騙されたようだ。
実はテレビで藤本氏は写真を見て「私は正雲氏が18歳の時に別れたが、当時とは顔の形が少し違いますね」と言った。疑っているニュアンスである。
彼は写真を見て本人ではないと思った。ところが番組の前、控え室で、「これから金正雲氏らしき写真をお見せしますが、否定しないでくださいね」と番組関係者に頼まれていたので「抑えた」発言をしたという。藤本氏は金正雲かどうかを確認するうえで最も重要な証人の一人であるはずだが、番組は彼を「誘導」したのである。
私もこの業界にながくいるから、避けられない誤報があることは分っているつもりだ。私自身がとんでもない誤報をやらかした経験もある。だから、誤報だからといって同業者を一方的に責めようとは思わない。しかし、この場合は、自ら誤報を呼び込んだと言われても仕方がないだろう。

一方、テレ朝の誤報を報じた産経新聞も朝刊で、同じく金正雲に関する誤った情報を流している。
《【ロンドン支局】北朝鮮金正日総書記の後継者と伝えられる三男、正雲氏(26)の“素顔”が徐々に明らかになってきた。8日付の英紙タイムズ(電子版)などは、スイス留学時代の元同級生が、ドイツ紙やスイス紙に「日本漫画が好きだった」などと語ったことを報じた。(略)正雲氏は1993年にスイス・ベルンのインターナショナルスクールに入学した。数学が得意で、英語もほどなく習得し、米国人の友人も多かった。(略)元同級生はドイツ紙ウェルト・アム・ゾンタークに「ユーモアのセンスがあって、誰とでも、北朝鮮と敵対する国家の出身者とさえも、うまく接していた」と語った。バスケットボールが好きで、マイケル・ジョーダン氏にあこがれていた。(略)在学中は「パク・チョル」という偽名を使っていた。》
この情報は、ヨーロッパの新聞発だが、兄の金正哲(キムジョンチョル)と取り違えた誤報である。金正哲については、ジン・ネットが4年前に取材し同級生や先生からたくさんの証言や写真を得ている。ここに紹介したのは運動会で走る金正哲の写真。http://www.jin-net.co.jp/sakuhin15.htm
この記事に出てくる「パク・チョル」とは、ベルンのインターナショナルスクールで金正哲が使っていた名前だっが。上記サイトの上段左端のアルバムにはChol Pak, N Korea と書かれてある。この元の記事にはインタビューされた人の名前も載っているが、我々の接触した金正哲の同級生だった。
ヨーロッパの北朝鮮報道は、ジョンウンもジョンチョルも区別がつかない水準なので、安易に乗っかってはいけないのだが、この取り違え情報が、今週はじめから日本の新聞やテレビでどんどん流れている。
日本のマスコミは、後継者さわぎで浮き足だっている。我々も注意しなくては。