「戦場から女優へ」―さっちゃんの使命

takase222009-06-09

先月13日のブログで紹介したイラン出身のタレント、サヘル・ローズhttp://d.hatena.ne.jp/takase22/20090513
彼女の『戦場から女優へ』(写真)を新宿紀伊国屋で探した。長門裕之『待ってくれ、洋子』の隣に平積みで置いてあった。けっこう売れているようだ。
すばらしい本だった。読みやすい文章で、出来事のスケールが大きく、さまざまなことを考えさせる。
本は《幼いころ、寝るときはいつもお父さんに抱っこしてもらって、毛布のなかに入りました。頬とホッペにチュッとキスをして、私を寝かせてくれる大きな顔のお父さん、いまもあなたを忘れることはありません》という書き出しで始まる。
サヘル・ローズは、本名も、本当の生年月日も知らない。それは彼女が幼いころに経験した戦争の惨禍のせいだった。
彼女が住んでいたイラク国境の村が、爆撃で全滅に近い被害を受けた。その報を受け、学生ボランティアで現場に来ていたのが、後にサヘルの「母」となる、テヘランでは知られた富豪のお嬢さんだった。爆撃から丸3日以上経って、生存者の可能性もなくなり、撤退しようとしたとき、お嬢さんは瓦礫のなかから小さな手が出ているのを見つけた。こうして3歳だったサヘルは、13人家族のなかで奇跡的に一人だけ助かる。孤児院に入ったサヘルを富豪のお嬢さんは養女にもらいうけるが、反対する親から勘当される。行き詰った彼女は、当時日本にいた婚約者を頼り、8歳のサヘルを連れて日本へ。ところが婚約者とはすぐに破局、公園でホームレスとなる・・・
事実は小説より奇なり。これを地で行く、波乱万丈の物語である。
異国でしかも極貧のなか、いじめに傷つきながらも懸命に努力していくサヘル。彼女と一緒に悲しみ喜びながら一気に読んでしまった。 
サヘルは最後にこう書く。
《神さま、私に母を与えてくれてありがとう。
私に「生きろ」と、ちからを授けてくれてありがとう。
人を愛する心、感謝の気持を教えてくれてありがとう。
神さま、私は生きていて、よかった。ほんとうに、よかった。》

普通の日本人の想像を超える困難を突き抜けて、まぶしいほどのポジティブな境地に至っている。それには理由がある。彼女は自分の使命を見つけたのである。
本を一貫して流れるのは、「自分は何のために生かされているのか」という人生の「使命」への問いである。なぜ、あの爆撃を一人だけ生き残り、なぜこうして日本で芸能界の仕事をしているのか。
そして、その答えはこうだ。
《たぶん私は、伝えるために生かされたのです》
戦争そして孤児たちの真実を世界に訴えるのが自分の使命だとサヘルは考える。彼女はたぶん本気である。
《現実に経験してきているからこそ語れる真実があると思う。》
《五十歳、八十歳になっても戦争の悲惨さを訴えていくつもり・・・》
大それた夢も持っている。
《私の最終目標は世界の孤児たちを救うこと。そして、どんなことでもいいので、祖国に貢献をしたいと願っています。そのまえに、ハリウッド映画に出演して、アカデミー賞をとりたい。こういうと、笑われます。(略)しかし夢は追い続けなければ実現しません。》
このブログの読者に学校の先生がいたら、子どもたちに薦めてほしいと思う。知らないどこかのえらいさんでなく、テレビに出ているタレントが著者だから、子どもたちも親しみやすいはずだ。