金正雲に後継指名?2

金正日の二男の金正哲と三男の金正雲はともにスイスでバスケットボールに入れ込んだ。その結果、98年ごろ、バスケットボールがほとんど知られていなかった北朝鮮で突如バスケット・ブームが起こる。ドラマやアニメにもバスケが登場、バスケ推進運動が始まって全国の小中学校の体育にも取り入れられることになった。スイスからナショナルチームが何度も招聘され、特権層しか入れない体育館でロイヤルファミリーに試合を見せたという。スイスチームが持っていた写真から判断すると、観戦しているのは金正日一家と幹部、喜び組だけだ。餓死者が300万人出ていたちょうどそのとき、金正日は溺愛する息子らのために、思いつきでこんな浪費をしていたのである。
一日も早く転換しなくてはならない北朝鮮全体主義体制の後継問題を、まるで普通の国の国王の交代劇のような感覚で扱うのはおかしいというもっともな批判がある。金正日ファミリーに10年以上仕えて「内輪」意識が強い料理人、藤本氏が「王子」「姫」と呼ぶのは仕方ないとしても、一部のワイドショーで金正雲を「若大将」などと呼ぶのはいかがなものか。
これまで、金正雲後継の情報は、いわゆるナントカ筋によれば、という形で伝えられてきた。しかし、今年春から注目すべき変化が現れていた。それは、ロイヤルファミリーの構成も金正日の子どもの名前も知らされていない北朝鮮の民衆の間で金正雲の名前が取りざたされてきたという事実だった。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090406
6月中旬に中朝国境に入った石丸次郎さんによれば、北朝鮮から出てきたばかりの人4人のうち3人が「金正雲が後継者に決まった」という話を聞いていたという。女性同盟などいろんな部門の会議で通達されているという。だとすれば、金正日自身が金正雲を後継者に指名したと考えるしかない。
石丸さんの取材でさらに気になったことがある。
内陸部で相当数の餓死者が出ているというのだ。
こういう情報はえてして「オオカミ少年」と見られがちで、また大げさな、と思われるかもしれないが、かなり信憑性がある。端境期になるから例年苦しい時期になるのだが、今年は異例の事態が起きているという。食糧の値段は上がっていないから食糧の絶対量が足りないということではない。問題は、民衆の収入が激減しているというのだ。
第一の理由は、市場での営業時間を一気に短縮して商売に統制を加えていること。「女性は自転車に乗るな」「市場でものを売れるのは50歳以上の女性に限る」などの民衆への統制は去年秋から始まっていたが、これが本格化したらしい。いま北朝鮮では配給はほとんどないからみな自力で稼ぐしかない。商売への統制は命にかかわる。
第二の理由は、「150日戦闘」という動員を強制され、商売の時間がさらに少なくなっているのだという。
石丸さんがインタビューしたほとんどの人が、民衆を食べさせることもできない今の体制に深い疑問を持ち、金正雲が指導者になっても従わないと言ったという。
金正雲が後継指名されたということと、そのまま金正雲体制が確立するかどうか、うまくいくかどうかは別の話である。