「ぼけ」と幸せ

takase222008-11-09

ある日、横田早紀江さんと話していて、テレビの話題になった。
「なんだかいつも笑っている番組ばかりですね。世の中、そんなに面白いことばかりなんでしょうか」。
こう言われて、テレビ業界でメシを食っている私は、答える言葉を失った。
民放の夜の時間帯といえば、どのチャンネルに合わせてもゲラゲラ笑っている声が聞える。今はどこもお笑い芸人が出るクイズばかり。しかも、出る顔ぶれも同じだ。これでは、私でもテレビを観る気が起らない。
番組に占めるバラエティ番組の多さは、世界的にも突出しているという。アメリカでさえプライムタイム(19時〜23時)で30%以下なのに、日本はアメリカの倍以上だという。
そこに冒険を試みる番組が出てきた。ウィークデーのゴールデン枠にドキュメンタリ番組で乗り込んできたのだ。
まずはTBSの「水曜ノンフィクション」。水曜夜9時放送。案内には「高品質のノンフィクション企画を中心に、必要ならばホットな話題やニュースに差し替えることも出来る、柔軟な発想に満ちた1時間の生放送番組」とある。すぐ後の時間に「久米宏のテレビってヤツは?!」(案内では「この番組では、稀代(きだい)のインタビュアーである久米宏が、“今”を代表する人や、ニュースが追わない盲点とも言える人々の声に耳を傾け「ニッポンのカタチ」を浮き彫りにしていく」とある)を続けて、かなりの冒険だったが、視聴率としてはともに惨敗している。
続いて、テレビ朝日が月曜の夜7時に「ドキュメンタリ宣言」という番組をはじめた。第一回目は今月3日放送で、「女優・南田洋子がテレビから忽然と姿を消した理由」。
私は録画で観たのだが、南田洋子認知症になり、芸名まで言えなくなっている。長門裕之が「きょうの洋子は、明日はいない」、「思い出を洋子の手の平に載せても、どんどんこぼれ落ちる」と嘆きつつ、かいがいしく介護につとめる。南田洋子が発する「アカイヨ!」という意味不明の言葉はトイレの合図。トイレの中の「おしっこ、しーしー」という声など、キワモノすれすれの露出もあり、普通はどんどんザッピングするうちの家族も、チャンネルを変えることができなかったそうだ。
視聴率を聞いて驚いた。22%超。これまでドキュメンタリ系でこれほどの高視聴率は記憶にない。
なぜ、これがそれほどの関心を集めたのか。
もちろん、南田洋子という大女優の知名度、そして彼女の衝撃的な変貌への同情をこめた興味がある。だが、その奥には、視聴者の「ぼけ」に対する大きな恐怖があったと思う。
では、我々はなぜ「ぼけ」を怖がるのだろうか。
ぼけることは、本当に不幸なのだろうか。
(つづく)