「報道番組『冬の時代』」

 先日、ジン・ネット廃業のお知らせをしたら、朝日新聞から取材を受けた。
 それが《報 道 番 組 「 冬 の 時 代 」 各 局 番 組 支 え た制 作 会 社 が 倒 産》という記事となって、昨夜、朝日新聞デジタルで配信された。
https://www.asahi.com/articles/ASN3D3WF4N35UTIL03L.html

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3月13日夕刊社会面にも掲載された

 以下は、ジン・ネットと私に関係する箇所。

 《民放の広告収入が減り、硬派な報道番組が「冬の時代」を迎えている。2月末には、映像ジャーナリズムに貢献してきた番組制作会社「ジン・ネット」(東京都千代田区)が資金繰りに行き詰まり、事実上倒産した。
 ジン・ネットは、日本電波ニュース社で特派員や報道部長を務めたジャーナリストの高世仁(たかせひとし)さん(67)が1998年に創業。北朝鮮拉致問題や不審船問題、韓国大統領選など朝鮮半島情勢を取材し、北朝鮮工作員の証言やレバノン人拉致などを特報した。イランやイラク、「イスラム国」など中東の紛争地や、国内の貧困問題などを取材し、主に民放テレビ局の報道番組で特集を放送してきた。
 売上高が年2億5千万円に迫った年もあったが、テレビ朝日の「ザ・スクープ」が2002年、「サンデー・プロジェクト」が10年に終わるなど、報道番組が減り、経営が危機に陥った。経済番組や人物ドキュメンタリーなどに幅を広げたが、19年の売上高は8千万円台に落ち込んだ。約1億円の負債を抱え、事業を続けられなくなったという。
 番組制作会社「オルタスジャパン」専務のジャーナリスト、吉岡攻(こう)さん(75)は「SNSの発達に伴ってテレビ局の広告収入が減り、費用も人手もかかるのに視聴率が取れない報道番組の発表の場が減らされている。テレビ局が制作費を削れば、番組制作会社の経営が厳しくなるのは必然」と解説する。
 高世さんあてに、ジン・ネットの事業終了を惜しむ声が相次いだ。在京民放局報道部門のベテランディレクターは「日本のテレビジャーナリズムを支えたジン・ネットの撤退は、業界全体の地盤沈下を象徴している。我々放送局側にも、大いに責任がある」。在京民放局報道関係の部長経験者は「テレビ局の弱体化が招いた結果に申し訳ない思い。放送局の『報道局』の存続すら危ぶまれる」と伝えてきたという。
 高世さんは「高校時代に水俣病の記録映画を見て、報道を志した。番組制作環境が厳しさを増す中、事業存続に努力したが、廃業せざるを得なくなり申し訳ない。関係者から反響が相次ぎ、現在のメディア状況に危機感を持つ人が多いこともわかった」と話した。》

 記事は、今は報道番組の「冬の時代」であるとしている。

 ジン・ネットの消滅を惜しんでもらうのはありがたいが、倒産で多くの人に不義理をしてしまう会社の社長としては、こうなったのは「テレビ業界のせい」などとは言えないし、実際、我々の、特に私の主体的な努力、能力が足りなかったのだと思う。
 もちろん経営が傾いた背景には、時代の変化がある。

 創設メンバーに日本電波ニュース社の海外特派員経験者が多かったこともあり、ジン・ネットは調査報道をウリにしていた。主な発表の場には、テレ朝の「サンプロ」、「ザ・スクープ」、TBS「報道特集」などの報道番組や、日テレの「今日の出来事」、TBS「ニュース23」などのニュース番組の特集枠などがあった。


 それが現在は、民放地上波の報道番組としては、TBS「報道特集」が最後の孤塁を守っているくらいで、ほぼ全滅。
 また民放の報道ドキュメンタリー番組では、日曜午後2時の「ザ・ノンフィクション」(フジTV)、経済専門の「ガイアの夜明け」(テレビ東京、木曜夜10時)などが比較的観やすい時間帯にあるが、50年の歴史をもつ主に日テレの系列局が制作する「NNNドキュメント」が日曜深夜1時すぎ、テレ朝のこれも伝統ある系列局のドキュメンタリー枠「テレメンタリー」は早朝4時半という、録画でしか観られない時間帯での放送だ。
 「Nドキュ」、「テレメン」いずれも貴重な硬派の報道ドキュメンタリー枠で、私たちもお世話になったが、視聴率に貢献しないと判断されれば、不利な時間帯に追いやられ、人員も予算も削られる運命にある。

 

 結局、こうしたテレビ界の移り変わりについていくことができなかった経営の失敗だった。恐竜が環境の変化に対応できずに滅亡したことを連想してしまう。

 制作会社の経営を圧迫する要因としては、記事の中に出てくるテレビ業界での「派遣」の問題も見逃せないが、これについてはまたあらためて書こう。

 

 #高世仁へのご連絡はtakase22@gmail.comまで