北朝鮮とリビア1

きょうはサンプロで、私が取材を担当した特集「北朝鮮リビア−《テロ支援国家》解除の決定的違い−」が放送された。
テロ国家として東西の横綱格の二国に対するアメリカの対応を比べると、今のアメリカの外交がいかにおかしなものかが見えてくる。実はこの特集の狙いは、北朝鮮でもリビアでもなくアメリカだ。アメリカがどんな国家であって、日本がどうつきあっていったらよいかを考える材料になればと思っている。
企画が立ち上がったのは初夏のこと。はじめは「テロ支援国家」指定が解除されるとどうなるのか?という疑問から出発した。では、実際に解除された国を取材しようということになった。テロといえばリビア。「テロ支援国家」指定をちょうど去年解除されたばかりで格好の取材対象だ。大使館に掛け合ったら、ちょうど9月1日の革命記念日に海外からの取材を受け入れるというので申しこんだ。
カダフィ大佐のインタビューは叶わなかったが、全体として旧ソ連などに比べればはるかに自由な取材ができた。取材してみると、リビアは「テロ支援国家」指定解除まで、国策の根本的な転換を行なってきたことを知って驚いた。
リビアは、三つのテロ事件への責任を認め、被害者と遺族に対して巨額の賠償金を支払い、テロとの決別宣言をしている。さらに、核、ミサイルを含む大量破壊兵器開発を放棄し、ウラン濃縮に関する資料・物資を引き渡し、それまで申告していなかった施設を含めてIAEAに査察させた。国際社会が賞賛した完全廃棄だった。
ブレア英首相が「カダフィ大佐の決断は歴史的で称賛に値する」と述べ、のちにライス国務長官もイランと北朝鮮にとってリビアは重要なモデルだと言ったほどだった。
かつてアメリカ、イスラエルとの武力闘争を呼号し、「アラブの狂犬」と恐れられた国とは思えない変身ぶりである。アメリカがリビアの「テロ支援国家」の指定を解除したのは、上記の措置をすべて終えた去年半ばのことだった。
これに対して、北朝鮮はどうか。
拉致事件について誠実な対応をしていないことはもちろん、外遊中の韓国大統領を狙った83年のラングーン爆破テロ、ソウルオリンピック阻止を目的にした87年の大韓航空機爆破事件とも関与を否定し、謝罪も賠償もしていない。
核実験まで行なった北朝鮮なのに、三つの核施設のみの「無能力化」と核計画の「申告」だけでアメリカは「テロ支援国家」指定を解除しようとしている。核弾頭、抽出済みのプルトニウム、ミサイルなどには手付かずのままだ。
こんな状態なのに、アメリカは北朝鮮を指定解除しようというのである。完全なダブルスタンダードといわれても仕方ないだろう。
それにしても、リビアの政策転換は驚くほど徹底したものだった。