北朝鮮とリビア5

takase222007-11-29

毎朝アサガオの花が咲いている。
アサガオといっても宿根の「琉球朝顔」で、初めて植えたのだが、この冷え込みでも咲いているのには驚く。大きな葉に隠れるように咲く小さな紫の花が可憐に見える。(写真)
さて、リビアの転換に続き、きょうはブッシュ政権の転換について。
「わたしは金正日が大嫌いだ!」ブッシュは指を振りまわしながら叫んだ。(ウッドワード『ブッシュの戦争』より)
ブッシュ大統領金正日嫌いは有名だ。ではなぜ対北朝鮮宥和政策に転換したのか?
NSC(国家安全保障会議)の前上級アジア部長、マイケル・グリーン氏や、同じく前アジア部長のビクター・チャ氏にインタビューすると、彼らはアメリカの転換を「戦略は同じだ。戦術的な変更にすぎない」と表現した。去年までの対北朝鮮政策を主導してきた彼らはこう正当化するしかないのだろうが、11月も末のこの時点に来てみるとリアリティが全くない。
そこで、強硬派ではない、いわゆる「関与派」のケネス・キノネス氏に聞いてみた。元国務省北朝鮮担当分析官で、クリントン政権時代、枠組み合意の実施のため北朝鮮との交渉・調整にあたった人である。彼は、今のヒル次官補らの交渉についてこう言う。
クリントン政権は、北朝鮮テロ支援国家のリストからの除去を約束しなかった。北朝鮮の行動によっては、リストからの除去を考慮するというに留まっていた。
ライスとヒルのチームは、明らかに焦り過ぎている。平壌に譲歩する姿勢が強すぎる。交渉の場において、相手に約束をしてはならない。相手が譲歩すれば、こちらもそれに見合った対応を考慮するとしておくのだ。しかし、現状は立場が完全に逆転している。平壌ヒル大使に、約束をしたのだから、それを履行して誠実さを示せよと要求し、ワシントンへ圧力をかけている。非常にまずい交渉だ」
試されているのは、北朝鮮ではなく、アメリカになってしまっている。立場が逆転したとはそういうことだ。
キノネス氏は、ブッシュ政権が「軟弱だ」とさんざん批判してきたクリントン政権下での対北朝鮮交渉を担った人だ。今の政策は、その彼らでさえ首を傾げるしろものなのである。
アメリカの変心の背景については、まず北朝鮮の核実験、議会選挙での敗北などの客観情勢の変化が指摘される。一方、ブッシュ政権の主観的要素としては、レガシー(遺産)づくりだという声が多い。つまり、任期切れの迫った大統領は、歴史に何で名を残すかに努力を集中するという。イラクで泥沼のブッシュとしては、何か外交で業績を作りたい。そこで北朝鮮の核問題が選ばれたというのだ。
はじめ6カ国協議は、5カ国が北朝鮮に対して一致して核放棄を迫るという触れ込みで始まった。ところが実質は、米朝が対等の立場で譲歩しあう仕組みである。それが「行動には行動」(action for action)という原則の意味だ。北朝鮮に何かをさせようとしたら、必ず見返りが必要なのだ。
テロ支援国家」解除を見返りとして明言したのは、今年2月の共同声明だった。
朝鮮民主主義人民共和国アメリカ合衆国は、未解決の二者間の問題を解決し、完全な外交関係を目指すための二者間の協議を開始する。アメリカ合衆国は、朝鮮民主主義人民共和国テロ支援国家指定を解除する作業を開始するとともに、朝鮮民主主義人民共和国に対する対敵通商法の適用を終了する作業を進める」
核問題を何とか動かしたいアメリカは、対北朝鮮譲歩に前のめりだ。そのため、北朝鮮に課せられる要求がどんどん下がってくる。
北朝鮮は「すべての核計画についての完全な申告の提出並びに黒鉛減速炉及び再処理工場を含むすべての既存の核施設の無能力化」をしなければならないはずだった。それが「無能力化」の対象は、「すべての既存の核施設」からヨンビョンの「3施設」となった。さらに「無能力化」の定義自体が何とも曖昧なものになってきた。
ヒル国務次官補は「無能力化」とは何かについてこう語っている。
【数年間稼働できなくすることだ】(9月14日)
【(再稼働に)1年以上はかかるものにしたい】(9月24日、PBSとのインタビュー)
【(再稼動に)数ヶ月という議論もあるが、我々としては12ヶ月程度と考えている】(9月29日)
わずか2週間で、「無能力化」の意味を、再稼動まで「数年」かかる状態から「1年」に短縮してしまったのだ。北朝鮮との合意の内容が問題なのではなく、合意すること自体が目的になっていることが分かる。
アメリカは年内に、北朝鮮を「テロ支援国家」の指定解除に向けた何らかの行動を起こすのではないかと見られる。16日の福田首相との首脳会談でも、ブッシュ大統領拉致問題を重視するとは言いながらも、拉致が解決しなければ北朝鮮に対するテロ支援国家の解除をしないという言質は与えていない。
そもそも「テロ支援国家」とは何なのか?