北朝鮮の核廃棄問題がどうなっているのか、非常に不透明なままに時間だけが経っていく。ただ、状況は相変らず北朝鮮側の意向に左右されている。核廃棄プロセスが進展しているとみなして「テロ支援国家」指定を早く解除したいというアメリカ国務省の立場もそのままだ。
問題となっているのは、北朝鮮による「すべての核計画の申告」だ。これについて、ヒル代表が示唆する発言をした。
《【アマースト(米マサチューセッツ州)31日共同】ヒル米国務次官補は三十日夜、北朝鮮が行う「すべての核計画申告」の焦点の一つ、抽出されたプルトニウムの量について「三十―四十キロぐらいになる」との見通しを示した。ヒル氏はこれまで推計量を「約五十キロ」としていたが、申告に盛り込まれる量はこれよりも少なくなるとの感触を北朝鮮側から得ていることを示唆した。アマースト大での講演で語った。
北朝鮮が昨年、米側に提供し、ウラン濃縮に必要な遠心分離機への転用が疑われていたアルミ管は「濃縮に使っていないことが明らかになった。ほかにアルミ管の調達に成功したという情報はない」と明言。「(北朝鮮は)ウラン濃縮能力を取得できていないという結論に達しつつある」とし、ウラン濃縮による核開発技術は現在持っていないとの認識を示した。
しかし「北朝鮮はこれまでにウラン濃縮計画があったと認めることを拒んでいる」とも指摘。申告でウラン濃縮疑惑に明確に答えるよう、あらためて求めた。》
このヒルという人、重大な交渉を担当する外交官なのに、内々の情報や交渉過程を、合意がまとまる前に、自分からどんどん発表していくという、不思議な行動様式の人だ。
彼の発言によると、北朝鮮は「抽出されたプルトニウムの量は30〜40キロ。ウラン濃縮には着手していなかった」とアメリカに説明しているようだ。
ただ、それだけではアメリカとしては困る、「ウラン濃縮は着手していなかったが『計画』はあった」はずだ。だから、そこは北朝鮮に認めてほしいとヒルは注文をつけている。その線ならアメリカは呑めると言うのだ。北朝鮮にとっては、非常に低いハードルで、作文の調整をするだけだ。そして、この「申請」さえクリアできれば、アメリカは「テロ支援国家」指定を解除すると公言している。近いうち、米朝間でウラで何やら動きがある気配が漂ってきた。
今月末には、平壌でアメリカの交響楽団が公演し、なんと世界に生中継されるという。
《【ニューヨーク25日時事】米名門オーケストラ、ニューヨーク・フィルハーモニックは25日までに、平壌で来月26日に行う公演を韓国の放送局MBCなどと提携して国際生中継すると発表した。米側から北朝鮮を訪れる初の本格的文化交流となる同公演は、世界的注目を集めることになりそうだ。
公演は東平壌大劇場で行われ、米国と北朝鮮の国歌のほか、ドボルザークの交響曲「新世界より」やガーシュウィンの「パリのアメリカ人」などが演奏される。金正日総書記も鑑賞するとの観測が浮上しており、米朝間の相互理解促進に貢献するのは確実だ。》
この公演は、アメリカが北朝鮮を「テロ支援国家」とはみなしていないことを世界に示し、金正日体制に正当性を与えることになる。強制収容所で苦しむたくさんの人民、いまだ所在も明かされぬ拉致被害者、栄養失調の北朝鮮の子どもたちを思うと、気分が悪くなる。「反吐が出そうだ」という表現はこういうときに使うのだろう。
21世紀になったというのに、ナチスドイツやポルポト政権と同列の「全体主義」国家に、世界が擦り寄っていくというこの現実。未来に対して恥ずかしいとは思わないのだろうか。