孤立の時代を迎える日本

こんな話を聞いた。韓国大使館、領事館の情報機関スタッフが、日本のジャーナリストや公務員に「日本人拉致被害者は全員亡くなっています」と言って回っているというのだ。
同じことを、ワシントンDCで、アメリ国務省の職員に対して行っているという話も複数の人から聞いた。こういう動きは10月中旬ごろから目だってきたという。
情報について確認中だが、今の情勢のなかで、こうしたことがあっても不思議ではない。
韓国は自国の拉致被害者についても何ら要求せず、金正日の言う線で事を運ぼうとしている。そして金正日は、日本人拉致被害者を返すつもりはない。
盧武鉉韓国大統領の北朝鮮訪問に特別随行員として同行した文正仁国際安保特命大使は8日、ソウル駐在の外国メディアと懇談し、南北首脳会談の場で金正日総書記が「もうこれ以上、拉致された日本人はいない」と語ったと明らかにした。文大使によると、盧大統領が福田康夫首相のメッセージを伝達した後、「日本人拉致問題」と直接的な表現を使って解決を促したのに対し、金総書記は解決済みの問題として話に応じなかった。一方、盧大統領が「日朝関係が改善されてこそ、南北協力に役立つ」と指摘すると、金総書記は「それは同意する」と述べたという。また、金総書記は韓国人拉致問題については「志願して北朝鮮側に渡り、我々も歓迎儀式をやって受け入れた」と主張し、韓国人拉致被害者はいないとの従来の立場を繰り返した。文大使は南北首脳会談に同席していないが、同席者から聞いた話として語った》(毎日新聞10月9日)
日本人拉致被害者全員死亡で問題を収束させるよう、韓国が北朝鮮の意を受けて動いているのか。「全員死亡」を公式には言えないので「ささやき戦術」に出ているのか。
日本から北朝鮮に調査団を出して、日朝共同で現地調査をするという案が時々出てくるが、「全員死亡」を確認する調査なら北朝鮮は大歓迎だろう。この場合北朝鮮は、日本の調査団を受け入れて拉致問題に前向きに対応したとして点数を稼ぎながら、「全員死亡」が確認されるという一石二鳥だ。
それにしても、韓国と北朝鮮の同調ぶりはどうだ。
《韓国と北朝鮮が今月初めの南北首脳会談開催以降、国連の場で協調するケースが目立っている。国連総会第3委員会(人権)でも、韓国は北朝鮮の人権状況の非難を控え、南北首脳会談の意義を強調した。核問題や拉致問題で実質的進展がほとんどないにもかかわらず、南北ともに、6か国協議や首脳会談の「成果」と支持を国際社会に訴えており、昨年10月の北朝鮮の核実験直後に示された「北朝鮮包囲網」は様変わりしつつある》(読売新聞10月28日)
こうして「平和」の名の下に「人権」が忘れ去られていく。
今や6か国協議では、日本包囲網と言ってもよい状況が作り出されている。いくら正論を吐いても煙たがられるばかりか、茶番劇に同調を求められている。日本は今後、これまで経験したことのない孤立を味わうことになるだろう。
だが、危機は同時にチャンスでもあるという言葉を忘れないようにしたい。
明日から、北朝鮮テロ支援国家指定解除に関する情勢を取材しにアメリカに出張する。